ロリコンの誘拐犯と拐われた女の子のグダグダな日々
拐ってみた。
歌ってみた、とか踊ってみた、というノリで女子中学生をひとり拐ってみた。
やってみて感じたことは、思ったほど罪悪感など感じてはいないということだった。
本当にただそれだけだった。ただ連れ去って車に乗せて家に帰っただけだった。
自分がどこかまともでは無いということはわずかながらも自覚はあった。
――あったけど、あっただけだった。
少しは自責の念とやらを感じるのかと期待してはいたものなのだが――
誘拐程度では特になんとも思わない。
ただ拾ってきただけ。道に落ちている空き缶を拾って持って帰るような、そんな気分。
おもしろいとも思わない。
楽しいとも思えない。
愉快だと笑うことも無く、罪悪に怯えることも無い。
犯罪だ、という事実は理解する。罪を犯している、というのは知識として理解している。
だから? それが? なんだというのか?
高揚も無く戦慄も無く、ラジオを聞き流しながらハンドルを握る。
少しばかり空しいだけ、でもそれはいつも感じていることと変わらない。
このくらいでは悪いこととは感じない、というのが自分の善悪に対する感情らしい。
罪悪感の基準というものがやはり世間とはズレがある。
助手席に座る女の子はおとなしい。無言のままに窓の外の風景を眺める。たまに私の顔を見たりする。
長い髪の可愛らしい女の子だ。
ただ、表情だけが人生に疲れた老人のようだ。
子供をひとり拐う。
それが法を犯しているということは理解している。
なので、これで誘拐犯として逮捕されて犯罪者になることも、べつにいいか。それぐらいにしか思うことは無い。
世の中とはそういうものだ。
誰もが罪を犯して生きている。
捕まったら運が悪いというだけだ。
冤罪大国日本では運が悪ければ無実の罪で犯罪者になれる。
平成の日本とはそういう国だ。
国連拷問禁止委員会が日本政府に留置場という名前の代用監獄の撤廃を要請しても、何も変わらない。
自白強要の為に、未だに取り調べでの録音も録画も許されてはいない。
容疑者イコール犯罪者の風潮の中、自称先進国の中では最も人権の軽い国が日本だ。
悪事を為すものがなかなか捕まらない。
代わりに無実の者が捕まり犯罪者となる。
悪事と言うならこれまで私がしてきたことこそ、赦されぬ悪徳ではないのか?
なんの抵抗もしないままついてくるこの子もどうかしてるとは思う。
そしてこの家に来てから五日目、未だに逃げ出さないこともどうかしてる。
そして誘拐した自分と誘拐された少女が何をしているのかというと。
「ふっふっふー。ケルピーの魔力で足止めされるがいい!」
「ふむ。その通行税は高くて払えないからバトルするしか無いか? では、バトルだ」
「今のゆうさんの戦力で勝てるかな?」
「どちらにしろ詰んでる感じだから、ここでバトルに勝てないと敗北確定だ。それならバトルだ」
昔のテレビゲームで和気藹々と対戦などしていた。二人でテレビゲームで遊んでいた。
なかなか楽しい。この楽しいと感じる気持ちというのは、かなり久しぶりの感覚だ。
いったい何年振りの感情なのだろうか?
女子中学生を誘拐してその女子中学生と一緒にテレビゲームで遊ぶというのは、どうやら楽しいことのようだ。
そう考えるあたり自分はかなり終わっている。終わっていてもそれが続くことを苦痛だと考えていたものだが、更にそこから一歩踏み出せば、――更に1歩踏み外せば、そこに楽しいこともあるのだ、ということを知ることができた。
誘拐もやってみなければ解らないということか。
何故人は罪を犯すのか。
それはそこに楽しさがあるから。
愉悦が、快楽があるから、か。
これも世界の真理の一面だろうか。
子供を誘拐することで得られた奇妙な楽しさと不思議な安らぎ――自分の心は落ち着いていて、感じるのは穏やかさに似た奇妙な安堵。
女の子を誘拐してこれはこれでなかなか良いものだ、と考えるあたり、終わってる上に度し難いものがある。赦しがたいものがある。
自分が誘拐犯なので、この女の子からはゆうさんと呼ばれてる。女の子は現在、世間からは行方不明で未発見なのでみいちゃんと自分は呼んでいる。
名前なんてものはどうでもいい。呼び名を知っていればそれでいい。
家族ぐるみの付き合いをするつもりは無いから、相手の名字を知ったところで意味が無い。
ゲーム画面ではルーレットを回して進むスゴロクのようなゲームで、自分とみいちゃんの分身が、それぞれ呼び出した魔獣が激しい戦いを繰り広げている。テレビ画面の中で。
「では、ダークエルフにアイテム『クレイモア』で」
「こっちはケルピーに『クラッシャー』でその『クレイモア』破壊ね」
「また負けた」
バトルに負けて最大値まで強化された土地の通行税で破産した。これで3戦連敗。最初は自分が勝っていたのに最近はみいちゃんに勝てなくなった。
ふむ、みいちゃんはなかなかに賢い。いや、こういうのは若い子の方が上手いものなのだろうか。
みいちゃんは得意気に笑う。
「ふふん。ゆうさんが私のこのケルピーデッキに勝つには新しくデッキを組み直すしか無いんじゃ無い?」
「それならばカード集めするからCPU相手にタッグ戦でもするか?」
「いいよー。でもその前になにか飲みたい」
「紅茶でいいか?」
ケトルに水を入れてお湯を沸かす。茶葉の入ってる缶を開ける。
みいちゃんはいつの間にかゲームが強くなってた。自分専用のデッキも作ってバランス調整も終わってる。
ふむ、あのケルピーデッキに勝つにはどうしようか。
足止め効果に加えてケルピーを強化する手段が多い。
土地を強化するまで時間はかかるが育てきれば打ち崩すのが難しい。
育てるのを邪魔するために序盤戦で有効な軽いクリーチャーで速攻が有効か。
いや、考えるべきはゲームの勝ち方じゃ無くて誘拐のあとどうするか、のはずなんだが。
何故、誘拐犯と拐われた女の子がのんきに仲良くゲームとかしてるんだか。
仲良くゲーム。
仲良くなったのだろうか?
まぁ、自分も身代金とかが目的では無いし。同じ家に住むなら、仲良く暮らせる方がそれはそれでいい。
みいちゃんの家族は探してるのかもしれないが、テレビのニュースでもみいちゃんの誘拐事件は報道されてない。
今日で誘拐してから5日目か。誘拐した最初の日からみいちゃんはなんだか楽しそうにしてたものだが。
おとなしそうに見えたのは最初だけ。うきうきしてるというか、わくわくしてるというか、みいちゃんの方からいろいろ話しかけてくる。
羊羮を切ってフォークを出して皿に乗せる。人に紅茶を入れるのもずいぶんと久しぶりだ。
いや、この家に私以外の者がいるのは何年ぶりのことだろうか。
キッチンから居間に戻るとみいちゃんは大の字に寝転んでいた。スカートが捲れて灰色のパンツが見える。はしたない。
「みいちゃん、パンツが見えている」
「見たくない?」
みいちゃんは寝転んだままスカートの端を持ってパタパタさせる。誘うような目で自分を見る。
「見たいといえば見たい。しかしこのシチュエーションで見えてしまうというのは、どうにも風情が違うような気がする」
「こだわりがあるの?」
「男がみんなパンツが見えたら嬉しいという生き物という訳では無いんだよ。場面と状況、お互いの関係性などいろいろある。ラッキースケベと痴漢冤罪は紙一重だ」
テーブルに紅茶と羊羮を置く。
「過去に同級生がひとり、見たくも無い相手のパンツが偶然見えてしまって、その後学校を卒業するまで陰で女子に『パンツ大好き』『パンツはぁはぁ君』と呼ばれた男がいた」
みいちゃんは起き上がって嬉しそうに羊羮を見る。
「その『パンツ大好き君』はその後どうなったの?」
「女という生き物が嫌いになって、同性愛者になって、自分に付き合ってくれないか、と告白してきたので、傷つけないように断るのも難しくなって、会わないように逃げてるうちに疎縁になってしまった」
学生時代の小さな事件がひとりの少年の性癖を変えた。――そして彼はホモになった。
『俺は女のパンツなんて見たくも無い。向こうが勝手に俺の視界に小汚ないものを入れておいてなんて言い草だ』そう憎々しげに語った彼は今はどこで何をしているのだろうか。
「あー、こんなにのんびりできて、甘いものを食べさせて貰えるとは思わなかった。もう家に帰りたくないなー」
「みいちゃんは家族に嫌われた年寄りのようなことを言う。中学生はそんなに忙しい?」
「うん。ずっと忙しい毎日だったよ。ここに来るまでは。こんなにのんびりと過ごすのは初めてかも」
フォークを刺した羊羮を頬張ってみいちゃんはニコニコと笑う。「美味しい、甘い」目を細めて満足そうにニコニコと。
「学校が終わったらすぐにレッスン、バレエ、ボイトレ、ピアノ。くたくたに疲れて帰って晩御飯作って食べるのはいつも九時過ぎ。晩ご飯食べたら宿題して予習して、ママが仕事から帰ってきたら今日の復習で自宅でレッスン。太っちゃダメだからって甘いもの禁止。休みの日はオーディションに宣伝活動。ゆっくり休んでゴロゴロしたいってずっと思ってた」
「今の中学生は忙しい?」
「小学生のころからずっと忙しい。それで学校で居眠りばっかりしてて怒られてる」
「みいちゃんは芸能人になりたいのか?」
「私はアイドルとかどうでもいい。だけどママが私をアイドルにしたいって」
「あぁ、そういうビジネスがあるか。親がアイドルとか芸能界に憧れてて、挫折して、自分の代わりに自分の子供を芸能界に、と憧れる親。その親を煽ってお稽古やらレッスンでビジネスしてるのが、養成所とかモデルの事務所とか」
「ママはそこに踊らされてるの。お金も相当つぎ込んで『こんなにレッスンとお稽古をしてるのに目が出ないのはあなたにやる気が無いからよ!』っていつも怒られてる」
はぁ、と疲れた顔でため息ついて紅茶を飲むみいちゃん。
「本気でアイドルになりたいなんて思えないけれど、ママのために頑張ってきたのに。小学生でデビューできないまま中学生になっちゃったから、ママにはもう失望されてるの。出遅れてるって」
「アイドルになれなければ中学生で失望。ずいぶんとハードルの高い教育方針だ」
「弟が優秀で見込み有りそうで、今はママは弟に夢中なの。私はもう、いない方がいいの」
みいちゃんは少し淋しそうに話す。
家庭の事情なんてそれぞれだが、それがみいちゃんが初めて会ったときの表情の理由か。
綺麗な顔立ち、長い黒髪の可愛い女の子。
それが人生に疲れて生きるのに飽きた表情でぼんやりとしていた。ドライフラワーのように綺麗で乾いた、潤いの無い表情。
それが気になって声をかけた理由。
「オーディションの受けが良くなるようにって、プロデューサーのちんちん舐めたりしてたんだけどね」
「は?」
「なんて言うの? フェラチオ? 枕営業?」
「みいちゃん、何歳?」
「13歳」
その歳でフェラチオとか枕営業とか可愛く言われるとは。自分が知らないだけでその業界では当たり前のことかも知れないが。
みいちゃんは長い黒髪をかきあげて小首を傾げていたずらっぽくニヤッと笑う。その仕草はどこで憶えたのか大人っぽく見える。
「なんで驚いてるの? 芸能界と言えばヤクザに麻薬に枕営業でしょ?」
「そういうのも伝統なんだろうか」
「ゆうさんはやらしいことするのが目的なのかも知れないけれど、ゴメンね、処女じゃ無くて」
「ん、なんて返していいのか解らないが、みいちゃんは将来は何になりたいのか?」
「はぐらかしてる? ゆうさんは私とエッチいことをしたいんじゃ無いの? それでここまで連れて来たんじゃ無いの?」
「なんでそう思う? 一緒に遊ばないかって誘っただけなのに」
「身代金目的の誘拐じゃ無いし。私の家族に脅迫の電話や手紙を送ったりして無いし。この家にひとりで住んでてお金に困ってるようには見えないし。そしてたまに私をやらしい目で見てる」
「でも未だ手を出したことは無いだろう?」
みいちゃんは眉間に皺を寄せて悩む顔をする。演技っぽいというかわざとらしい表情だ。
「そこが解らないとこなんだけど。縛ったりしてないし、閉じ込めてる訳でも無い。出て行こうと思えばいつでもこの家の玄関から出て行ける。私を拐ってゆうさんが本当は何をしたいのかが解らない」
「自分が本当は何をしたいのか、か。哲学的な問いかけだ。自分が本当は何をしたいのか、それを知っている人間はいったいどれだけいるんだろうか?」
「ゆうさん、気取って誤魔化してる? ゆうさんもロリコンなんでしょ?」
「簡単に決めつけてレッテル貼りするのは良くない。それではみいちゃんは本当は何をしたくて自分について来たっていうんだ?」
「私は逃げたかっただけ。家族とか学校とか大人とか、いろんなものと関係の無いどこかに逃げたかった。ただそれだけ」
「子供らしい反抗心か、自律心の芽生えというところか?」
「大人が喜びそうな子供らしい振る舞いをするのに疲れちゃったの。だからいい子としては失格」
「いい子を演じるのに疲れたのか」
テーブルに肘をついて手の上に顎を乗せるみいちゃん。
思い出すように遠い目をすると、なんだか老けて見える。
「ママの目を盗んでパパとエッチしてたのが、ママに感づかれたみたい。ママは私をパパの浮気相手を見るような目で見るの。ママが弟にかまってばっかりでパパを蔑ろにしてたのにね。パパも私と楽しくエッチしてたのに、今さら罪悪感でも感じてるのか家に帰って来なくなったし。来月から仕事で単身赴任するっていうし。そうなると私はパパのいないあの家にママといるのが息苦しいの。弟もママにべったりだから私を出来損ないを見るような目で見るわ」
「なるほど、家族と同じ家に住むというのはいろいろと問題もあるということなのか」
娘と夫の関係に嫉妬する母親。妻の目を盗んで娘と関係する父親。母親の期待に応えようとしながら父親を身体で慰める娘と。
家族愛が豊かに過ぎるのだろうか。
理想の家族関係などというものは、現実には存在しない架空のドラマということか。
「ゆうさんはこの家にひとりで住んでるの? 家族は?」
「家族は昔はいたが、今はいない。みいちゃんはこれからどうしたい?」
「どうもしたくない。なんにもしたく無い。なんにもなりたくない。私が頑張って何かしたら回りの皆が不幸になるだけなんだもの。だからもう、何もしたくないし、何かしようなんて思えない。何も考えたくないし、何にもなりたく無い」
「これもピーターパン症候群というのか、モラトリアムというのか」
自分がみいちゃんに声をかけたのは、一緒に遊ばないかってつい言ってしまったのは。
みいちゃんが自分と同じようなことを考えていたからだったのか? 誘ったつもりが実はみいちゃんに誘われてしまったのだろうか?
「ゆうさんが私を誘拐したんだから、ゆうさんは私を好きにすればいいのに」
「自棄になってるのか? 自分を大切にした方がいいんじゃないか、みいちゃん」
「ゆうさん。自分でも信じていない薄っぺらいこと言っても説得力無いよ?」
「まったくだ。でもみいちゃんがこれからどうしたいか決めるまでは、ここで好きに過ごしたらいい」
みいちゃんは、はー、とため息ついてテーブルに頬をつける。
「ゆうさんが服も買ってくれてご飯もつくってくれて、私のこと大切に扱ってくれるから私もどうしていいか解らないのに。いっそ縛り付けて無理矢理レイプしたりするなら、私もここを逃げ出そうとか考えるかもしれないのに。今はこの暮らしの居心地が良くてぜんぜん帰りたくない。まったくロリコンのくせに、イエスロリータノータッチの精神とか言うの?」
「まるで自分が無理矢理欲望を果たそうとして、みいちゃんに乱暴した方がいいような言われ方をされている」
「欲求に忠実なのって生物としてはまともだと思うの。死んだ方がマシだなぁ、そろそろ死にたいなぁって、毎日考えながら暗く生きるよりは。ねぇ、本当に私とエッチしないの? パパ相手に練習したから私、フェラチオは上手だと思うよ?」
フェラチオが上手だとアピールする女子中学生が我が家にいた。いや、我が家に誘拐してきたのは自分なのだが。
今時の中学生がどんな性教育を受けているかも知らないが。
私はゲーム機のコントローラーを手にとって。
「とりあえずは新しいデッキを作るためにカード集めを。CPU相手にタッグ戦といこう」
「本当にゆうさんは何がしたくて私を誘拐したの?」
「みいちゃんのような可愛い子と一緒にゲームがしたかった、ということなんだろうか?」
私が何を望んでいるのか、か。
私の望みは叶わなかった。この日本ではまともに医者を続けることなどできなかった。
病院の利益を上げる為に、CTの画像を加工して、健康な人をガン患者に仕立てあげるのが現代の最先端医療だ。
抗ガン剤は金になる。そして日本では異常な程にガン患者の数が増えている。
これを当たり前の医療だというのだから、この国の医療は終わっている。
放射線治療が有効なガンの治療を、やたらと手術するのも日本だけだ。
手術すればガンは転移しやすい。
転移の可能性で患者を脅して抗ガン剤に浸ける。
その抗ガン剤だって健康保険の適用範囲の約半分は欧米で効果無しとされたものだ。
傷を癒し、心を癒す医者になりたかった。
私が治した人と、私が関わってガン患者に仕立て上げて抗ガン剤浸けにした人。
どちらの数が多かったのだろうか?
みいちゃんはまた、はー、とため息ついて、紅茶を飲み干してからゲーム機のコントローラーを手に取った。
「仕方ないから付き合ってあげる」
苦笑するみいちゃんは少し楽しそうだった。その笑顔は演技には見えない。
ふたりでゲームをする。このゲームではストーリーを進めるか、CPUに勝てば新しいカードが手にはいる。
ゲームをしながらみいちゃんが話す。
「ゆうさん」
「なんだい?」
「なんで私を助けたの?」
「助けたつもりは無い。可愛いみいちゃんを誘拐しただけだ」
「ゆうさんが私を誘拐しなかったらね、私、線路に飛び込むつもりだったから」
「ふうん、みいちゃんは自殺するつもりだったのか」
みいちゃんがゲームの画面から目を離して、私を半目で見る。
「ゆうさんってさー」
「なんだい?」
みいちゃんは、はー、と溜め息をつく。みいちゃんはよく疲れたように溜め息をつく。
「ゆうさんが手を掴まなかったら、私はあのまま死ねたっていうのに。それを邪魔してくれて」
「そうだったのか、それは知らなかった」
ふたりでゲームをする。ゲーム画面ではCPUのキャラがみいちゃんのケルピーと戦っている。
「ここに来てからは、なんだか死ぬ気も無くなったし、何故か死ぬのが怖くなってきたし。死んだら楽になるって思ってたのに」
「死んだ方がマシということが多いのが現実というものだろう」
「ゆうさん」
「なんだい?」
「ありがとう、ね」
横目で見るとみいちゃんはもうゲーム画面に集中してる。
「よーし! ケルピーで最大通行料ゲット! このまま周回ゴールで勝ち!」
明るく笑うみいちゃんは楽しそうだ。
義父と同じ医者になったら、それは健康な人を病人にして殺す仕事だった。
嫌になって仕事を辞めて、女の子をひとり誘拐したらありがとうと言われた。
世の中とはそういうものなのか。
このくだらない世界では子供を助けるためには、法を犯さないとならないのか。
まぁ、人を不幸にするだけの法律などどうでもいいか。
みいちゃんが笑って過ごせるのなら、それでいい。