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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
26章

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963 「思悩」

別視点エルマン

 これで良かったのだろうか?

 俺――エルマンはふと時間が空くとそんな事ばかり考えてしまう。

 視線の先にはモンセラートとイヴォン、クリステラ。 信じられない事に少し前まで寝たきりだったにもかかわらず今では何事もなかったかのように走り回っている。


 ……訳が分からない。


 あれだけ血眼になって治療法を探していたあの時間は何だったのかと思える程にオラトリアムの連中はあっさりとモンセラートを治療して見せたのだ。

 あれからそれなりに時間は経過したが、今の所はモンセラートの体調にはまったくと言っていい程、問題が起こっていない。 寧ろ、寝込む前より調子が良いぐらいだ。


 これはここに来た時点でかなり消耗していた事もあるだろう。 それも完全に回復した事により、調子がいいように見えるのだろう。

 そう考えると今までどれだけグノーシスと俺達があの娘を酷使して来た事と、あの小さな体でどれだけの苦しみに耐えて来たのかがよく分かる。


 本来ならこれで良かったのだと思えるのかもしれないが、問題は救い主がそんな心優しい連中じゃない事にある。

 オラトリアム。 ファティマと連れの男。

 ファティマだけでもきついのにあの男は一体何なんだ? もう何者という表現は使わない。

 

 ……何故ならとてもじゃないが人間に見えないからだ。


 魔法道具で姿を誤魔化していても分かる異常性。 正直、正体を隠してくれてありがたいとすら思っていたぐらいだ。 あの偽装を剥ぎ取った後に何が見えるかなんて想像もしたくない。

 しかもふざけた事にクリステラの話では封印されていない魔剣を最低でも三本以上持っているとの事だ。


 この時点で俺の理解を越えた存在――もはや狂気の塊としか形容のしようがない。

 会話した事を思い出しただけで吐き気がする。 アレに比べればファティマはなんてまともなんだと思えてしまう。 何故なら辛うじてではあるが理解できる存在だからだ。


 物事を冷静、冷徹に判断する徹底した合理で動く女。 部分的には見習うべきだとすら思えるその在り方は俺の頭でも理解できる――まぁ、理解できるからこそ恐ろしいが……。

 だが、あの男は違う。 何を考えているのかさっぱり分からない。


 ……いや、正確には言っている事は理解できるが、そこから感情や思考が読み取れない、か。


 結局、あの男の言葉は字面以上の意図が一切読み取れなかった。

 感情の揺らぎが読み取れない上、恐ろしくて探りを入れる事すら不可能だ。

 俺は基本的に感情ではなく理屈で物事を考える。 だが、感情は判断の妨げになるとは理解しているが、人として最も大事な物は感情であるとも考えていた。


 仮に感情を排した判断を貫徹すれば間違いなく俺は早々にモンセラートを見限る判断をしただろう。

 

 ……今まで力を貸してくれた娘に対してそんな判断をするのが合理的?


 だったら俺はその判断にクソ喰らえだと吼えるだろう。

 合理性は人を動かす上で重要な要素ではある。 だが、感情無くして人は人たりえない。

 だからこそ俺は感情を軽視するような真似はしない――そう考えていたのだ。


 根底にそんな考えがあるからこそ。 俺はあの男を受け入れられない。 いや、受け付けないと言い替えてもいい。 平坦な口調に感情の起伏を感じない反応。 アレに比べればファティマですら感情豊かと言えるだろう。 ただただ、気持ち悪く、そしてあんな生き物が人間と同等に口を利いている事がひたすらに恐ろしかった。


 そして理屈ではなく感情で理解してしまったのだ。

 あいつ(・・・)だと。 間違いなくオラトリアムを支配しているのはあの男だ。

 理性がその判断は早計だと囁く。 恐ろしさを脇に置いたとして、明らかに腹芸には向いていない話運びを考えると精々、戦闘能力で地位を獲得した幹部というのが妥当な所だろう。 普通に考えればそんな結論になるのだが、こればかりは理屈ではなかった。


 ファティマだけでなく魔剣まで飼い馴らす化け物。 そしてオラトリアムの真の支配者。

 クリステラにも所感を聞いたが不気味と言った感想と、霊山で戦った存在に雰囲気が似ているとの事だったが魔剣の気配が強すぎて分からないと口にしていた。


 正直、霊山に現れた存在と同一の可能性はなくはないが、ここまで来るとはっきりさせてもあまり意味がない。

 そもそもロートフェルトは組織の頂点にしては無難すぎるといった印象だったので、あの男がそうだとしたら納得が行く。

 そしてそんな連中が次に行うのはクロノカイロスへの侵攻。


 わざわざ危険を冒してクリステラを引き込んだ以上、かなり本腰を入れている事は容易く想像がつく。

 情報の漏洩などの観点から信用できない外部組織の戦力を起用する以上、使い道は露払いだろう。

 クロノカイロスは立地の問題で侵攻が難しいというのもあるが、戦力構成や地形等、手に入り難い情報が非常に多い。

 

 その点を踏まえると恐らくだが、オラトリアムはクロノカイロスの情報の入手を断念し、力技での攻略を予定していると考えられる。

 何が出て来るか分からないのだ。 手探りで進むなら打てる手としては単純に強い戦力を揃える事。

 その条件ならクリステラは選択肢としては最適解だろう。 最悪、死んだとしても全く問題がないからな。


 場合によっては終わった後にクリステラを始末して聖剣を奪おうと目論む可能性も――

 

 ……いや、考え難い。


 奴は言った「欲しいのは聖剣使いの戦闘能力」そして「グノーシスの後に控えている戦い」があると。 つまり欲しいのはあくまで戦力で聖剣自体をそこまで重視していないとも取れる。 そもそも聖剣が欲しいなら取り上げる手段はいくらでもあるのだ。

 やらない時点でクリステラを始末する意味合いは薄い。 それにこれは俺の勘だが、聖剣を扱える奴を選定する段階で躓いているという可能性もある。


 間違いなくオラトリアムは聖剣を確保している筈だ。 もしかすると正規の手順で運用できる人員を見つけられず、苦肉の策として既に使い手が存在する聖剣を引き入れて運用したいと考えたのかもしれない。 様々な可能性が脳裏に浮かんでは消える。

 色々と考えてしまうが、相手がファティマなら的中とは行かなくとも的は外していないかもしれないといった手応えは感じるのにあの男だとさっぱりだった。


 もしかしたら俺がこうやって思い悩む事すら計算の――いや、そうじゃないと思いたい。

 

 ……あぁ、畜生。 さっぱり分からない。


 もう何も考えていないとでも割り切って言葉を字面通りに受け取るべきかもしれないな。

 俺はそんな事を考えながら目の前で戯れる三人の姿を見て、今はこれでいいかと溜息を吐いた。

 

誤字報告いつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無理難題を前にした時、無駄だと分かっても思考の海原に漕ぎ出してしまいますよね…(共感
[一言] おめでとうエルマン。君は真実に辿り着いたのだ。 よくある言い回しだけど、エルマンに「考えるな、感じるんだ」という言葉を贈りたい……!(*´∀`) エルマンがとうとうオラトリアムの真の支配者…
[一言] 魔剣は飼い慣らしてるというか無視してるというか… またエルマンの胃痛が加速していきますね。そのうち毛根も…
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