919 「得物」
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その後もいくつか質問を重ねたが「違う」とか「分からない」といった中身のない返答ばかりだったので、辺獄や魔剣関係はこれで打ち止めだろう。
これ以上は実のある情報を引き出せそうにないので、俺は次の質問へ移る事にした。
「以前にお前は言ったな。 俺は俺だった物の否定だと。 少し前にその理由とやらが何となくだが分かって来た。 だが、空白を埋める事に関してはあまり収穫がなかったな」
残り三つのどれにしようかと迷ったが、内二つは関連しているので纏めて聞くべきだろう。
正直、どれもさっさと片付けたい案件ではあったが、以前から放置しっぱなしでもあったのでこちらを優先した。
「前回、いろいろ言われた事――特に俺が発生した経緯に関しては何となくだが掴めはした。 だが、生きて行く目的に関しては何も掴めなかった」
他は割と的を射てはいたが、これに関してさっぱりだったのは奴の私見だったからだろう。
まぁ、電波由来ではないと言う事も理解してはいたので、話が違うとは言わない。
あの時もそうだったが、精々占いの上位互換程度とでも思っておけば的外れだったとしても特に失望もしないからな。
ただ、あれから時間も経っているし、改めて聞けば別の答えが出て来るのではないかと尋ねてみたのだ。
……感覚としてはおみくじでも引くような物だ。
当たるも八卦当たらぬも八卦だったか? まぁ、裏を返せば俺の自分探しとやらはここまでしなければならない程に取っ掛かりがない状態とも言える。
「確か生命の樹とやらには忌避されるが、死の樹には愛される?だったか?」
聞く限り前者はこの世界、後者は辺獄の根幹を成しているという話だったな。
仮にそうだとすれば俺に聖剣が寄り付かない理由にも納得が行く。
逆に後者には愛されるという点は腰の魔剣のうるささを考えるならやや懐疑的ではあるが……。
……愛するとか言う割にはやたらと粘着質なのはどうにかならん物か?
五本中三本は中身が破壊されているので、扱う分には問題ないが残りの二本は非常にうるさい。
まぁ、代わりに強力な固有能力が扱えるが――いや、ゴラカブ・ゴレブは別に強力でもないか。
正直、デメリットに釣り合っている感じはしないが、今のところは我慢できるのでよしとしよう。
「……というか愛されるの定義が良く分からん。 その愛とやらは俺に何か益を齎してくれるのか?」
粘着されるのが愛だというのなら迷惑なので勘弁して欲しい所ではある。
――あなたを求める。 非常に強く。
「……具体的には?」
求めると言われても具体的な所を教えて貰いたい物だな。
――あなたの魂は大きい。 その為、死の樹はその枝で絡め取ろうとする。
「ふむ」
つまりは栄養価が高いから喰いたがっていると?
そういう話なら納得はできるな。 死の樹とやらが辺獄の根幹を成すというのであれば、餌として求める理由にも説明が付くな。 エゼルベルトの話ではわざわざ転生者を呼び寄せているかもしれないって事だからな。
異世界人を定期的に呼び出す程度には好物という事を考えればあながち間違ってはいないだろう。
要するに好物の中でも俺は一際目を引くから喰いたいと。 こうして並べると納得はできるが、大きな突っ込み所があるな。
「……その辺を踏まえるとお前は俺にわざわざ辺獄に喰われて来いと言った事になるんだが、その辺はどう思う?」
どう考えても自分探しどころか俺に死んで来いと促したような物じゃないか。
――…………え? あ、いえ、そんなつもりは……。
矛盾を指摘すると明らかに今気付いたといった調子で動揺する筥崎。 多少は呆れはしたが、特に怒りは感じない。
持っている情報を知識として昇華できていない以上、私見が混ざるとこうなるのは何となくだが分かる。
……それに――
死んだ所でそれはそれで良かったのかもしれない。 俺の無意識の目的は終わりを探す事だ。
ただ、それを意識的に行えないので、遠回しではあるが俺の意識、無意識両方の目的に沿っているとも言える。 俺がザリタルチュで何かを掴めれば前者の目的が果たされ、仮に飛蝗に敗北したとしても後者の目的が達成されるからだ。
その為、結果的にではあるがアドバイスとしては的確だったと言わざるを得ない。
……まぁ、どちらも半端に終わったので正解だったかは微妙な所だが。
ザリタルチュでの戦いで得た物はうるさい魔剣ぐらいだった。
その後も大陸を縦断してあちこちで絡んで来る連中を処理したり、鬱陶しい連中を処分したりしていたが、これと言って得る物はなかったな。
いや、一応はあったか。 得た物はオフルマズドで手に入れたうるさいが使える魔剣だけだった。
ヴァーサリイ大陸では見る物もなくなってきたので、別の大陸に望みを掛けてリブリアム大陸へと向かう。 上陸したモーザンティニボワールでも特に感じる物もなく、得た物といえば特にうるさくない魔剣ぐらいか。
……後は厄介な約束をしてしまったが、それは別の話だ。
その後は大陸中央部の厄介事の処理と取り逃がしたエルフとグリゴリが襲って来たので返り討ちにしたぐらいだ。
お陰で最後のポジドミット大陸へ向かう予定が前倒しにはなったが、そうなってしまった物は仕方がない。
その戦いで得た物は何だ? 特にうるさくない魔剣が二本だ。
思い返してみるとこれまでの旅で魔剣しか得ていないのではないのかと首を傾げてしまう。
何故か欲しくもないのに次から次へと寄って来るのはどう言う訳だ? さっぱり分からない。
結局、俺の手元には魔剣が五本。 総数が十――いや、一本減っているから九か。
そう考えると半数以上がここに固まっていると言えると思い、ふと気になった事が浮かんだ。
聖剣は滅びを遅らせるとか言っていたな。 なら魔剣が担うのは何だ?
――滅びを促す事。
質問をぶつけるとこれまたシンプルな返答が返って来た。
やはり魔剣関係はこれ以上は無理か。 小さく嘆息。
「……で? 結局、俺はどうやれば目的に近づけるんだ?」
何だかんだダラダラと話を続けたが、分かりやすい答えが一つも返ってこないな。
――……分からない。
筥崎の返答にまぁ、そんな物かと納得する。 何か分かれば儲けもの程度の気持ちだったので、特に失望はしない。
取りあえず、次に向かう予定のクロノカイロスで何かが掴めるかもしれないと期待するとしよう。
そう考えて俺は切り替えて次の質問へと移る事にした。
こちらは出来ればマシな答えが返って来る事を期待したいが……。
誤字報告いつもありがとうございます。
 




