903 「持越」
「勿論、今すぐといった話ではありません。 将来的にという話ですが、現状では世界の終末に関してはあまりにも情報が少なすぎます。 それを得る為にもグノーシスに仕掛ける事は必須といっていいでしょう」
……どちらにせよグノーシスとはそう遠くない内に戦り合う予定だったので、それに関しては別に構わないが……。
「それは良いんだけどさ。 グノーシスがその終末の詳細を知っているかもしれないって根拠は? いや、聖剣、魔剣を集めているって話だし、状況的にも知ってるって可能性は高いよ? たださ、もし知らなかった場合、結構な骨折り損になるんじゃない?」
「今回ばかりはそいつと同意見だ。 個別の戦力という点ではグリゴリよりは格下だろうが、規模の桁が違う。 リスクを冒させるなら明確なリターンを提示しろ。 「手に入るかもしれません」じゃ話にならねぇぞ」
珍しくアスピザルとヴェルテクスが同時に難色を示す。
確かに連中の言う事ももっともだ。 グノーシスを潰したとしても欲しい情報を持っている保証がない。
世界の滅びに対しての対策と言う意味では無意味に終わるかもしれん。
……まぁ、俺としてはグノーシスは将来的に襲って来る事が目に見えているので消すつもりだったからどちらでもいいがな。
「……皆さんは途中からこの世界に飛ばされて来た事もあって、違和感に気が付いていないかもしれませんが。 この世界の技術はどこかおかしい。 特に魔法関係です」
うん? 何を言ってるんだこいつは?
唐突に話題を変えたエゼルベルトに俺は内心で首を傾げる。
アスピザル達も同様なのか不思議そうな表情を浮かべていたが、ヴェルテクスだけは僅かに眉を顰めていた。
「それともう一点、グノーシスの歴史をご存知ですか?」
脈絡なくそんな事を並べられても「何を言ってるんだこいつ?」と言った感想しか出てこないぞ。
「それで? 魔法技術とグノーシスとかいう宗教団体の歴史が何の関係があるんや?」
首途の口調は若干ではあるが投げ遣りだ。 恐らく世界の滅びにそこまでの興味がないからだろう。
その為、エゼルベルトの言葉を特に咀嚼せずにそのままさっさと説明しろと言わんばかりに返す。
「グノーシスは世界で最も古く、そして最も大きな組織です」
そうだな。 大陸丸ごと本拠というスケールに世界各国への影響力と総合的に見ても文句なしに世界最大の組織と言えるだろう。
「その歴史を紐解けば、世界中のどの国よりも古く、そして数多の大国の建国に関わっています」
「――つまり、連中は世界に普及している技術の根幹を齎したって所か?」
エゼルベルトの言葉を引き取ったのはヴェルテクスだ。
「あのクソ教団の歴史は魔法関係の研究をしていれば嫌でも目に付くからな。 少なくともウルスラグナの建国にはかなり深い部分で噛んでいるのは確かだろう。 ウルスラグナの建国に関する文献を漁っても、初代国王――要は後の王家になる連中を擁立し、国の礎を築いたと言うのは有名な話だ」
「建国に力を貸した代わりに国内での一定以上の発言権を得たと言った所か?」
「他は知らねぇが、ウルスラグナに限って言えばそうなるな」
建国に絡んでいるのは知識として知ってはいたが、そこまで深くかかわっているとは知らなかった。
「リブリアム大陸でも似たような物だぞ! 南部のアタルアーダルが似た経緯で建国している!」
同調するように珍獣がそんな事を言っていたが、誰も何も反応しなかった。
珍獣はややしょんぼりした顔で静かになり、柘植達が慰めるように肩を叩く。
「ポジドミット大陸でも似たような物ですね。 具体的に彼等が各国の代表にどのような援助を行ったのか? それは技術供与です」
「それが魔法関係の技術だと?」
流石にそこまで聞けば察しが付くな。
「はい、ですが、問題はグノーシスは魔法技術の根幹になる物をどこで入手したかです。 ――結論を先に言ってしまうと、彼等は既に終末――携挙を経験し、世界の滅びを何らかの形で乗り越えていると僕は考えています」
それを聞いてアスピザルが小さく笑う。
「はは、そう来たか。 つまりグノーシスは「強くてニューゲーム」をリアルでやってるって事でしょ? それが本当なら僕達転生者より、それっぽい事やってるね」
世界が滅んだ後、誰も居なくなった世界で好き勝手に勢力を拡大して今に至ると?
確かにそれが本当なら少なくとも世界の滅びに関しては知らない訳がない。
付け加えるなら連中の言う携挙って奴も、新しい世界がどうのとかいった内容だったと記憶している。
技術も持ち越していると考えるならまぁ、筋は通るのか?
各国の建国に口を出せている点を見てもグノーシスの動きが怪しい――というよりはスムーズ過ぎる。
エゼルベルトの話もそれなりに時間をかけて調べた結果らしく、根拠もしっかりと述べていたので、否定もし辛いな。
……だが、腑に落ちない事もある。
在りし日の英雄と辺獄の領域だ。
仮にグノーシスの連中が携挙による終末をやり過ごしたとしたら、連中も同様に崩壊前の世界に存在した者達という可能性が高い。 グノーシスに対する異様なまでの敵意も見捨てて自分達だけ逃げたと解釈すれば分からなくもない。
「お前の話は理解できなくもない。 だが、持ち越したにしては連中の技術レベルはお粗末すぎないか?」
「そうやなぁ。 確かに魔法一つとっても応用できとらん。 技術ゆうても何かガワだけ持ってたっちゅう感じやなぁ……」
少なくとも英雄が使っている技術や技能は俺達が使っている物よりも高い。
特にチャクラや魔導書関係に関しては隔絶していると言っていいレベルだ。
それは戦闘能力にも顕著に現れている。 俺は今までに三人の――もしかしたら四人かもしれないが、英雄を見て来たが、はっきり言って誰と戦っても勝てる気がしない。
あの連中の戦闘能力は異次元と言っていい。
そんな連中を輩出している世界の連中があの程度の実力とは考え難いのもまた事実だ。
要するにグノーシス教団の戦力水準が前回から持ち越している割には低すぎるのが引っかかる。
「……それに関しては今の僕には分かりません。 あくまで状況や歴史から見た考察なので……」
「うーん。 技術の持越しに関しては何かの制限があると考えれば説明できなくもないけど、釈然としない部分は多いかな?」
流石にそこまでは説明できなかったのかエゼルベルトの歯切れが悪くなる。
「まぁ、グノーシスの連中が何か知っている可能性が高いと言う事は良く分かった」
「……はい、少なくともクロノカイロスの王たる法王か教団のトップである教皇は間違いなく何かを知っている筈です。 侵攻とは言いましたが、正確にはどちらかを拉致できれば情報を引き出せるので、正面から戦う必要は……」
「その辺は後で考えるとしよう」
話は一通り済んだので今日の所はここまでだな。
「もう、侵攻ってワードが出た時点で嫌な予感しかしないよ……」
最後にアスピザルがそんな事を言って本日の話は終了となった。
誤字報告いつもありがとうございます。




