870 「問質」
視点戻ります。
『その前に私の質問にも答えて貰うぞ!』
さっさと始めようと魔剣を構えたが、アザゼルの足元にいるブロスダンが怒鳴り散らしているので何だと視線を向ける。 見た所、無傷か。 ゴラカブ・ゴレブの付加効果もかかっていない所を見るとアザゼルと協力して光線を防ぎ切ったらしい。
ブロスダンは俺の態度で察したのか言葉を続けた。
『お前が私の――僕の故郷を滅ぼしたのは聞いている。 だが、何故だ。 何故、僕の父や母が死ななければならなかったんだ!?』
「お前の後ろにいる天使と一緒になって襲って来たからな。 粘着されても鬱陶しいから皆殺しにしただけだが?」
何を言い出すかと思えばそんな事か。
思った以上にどうでもいい質問だったので素直に答えるとブロスダンは驚いたかのように目を見開く。
『な!? だとしたら関係ない者達まで巻き込む必要はなかったはずだ!』
……何故?
思わず首を傾げる。 ブロスダンが何を言っているかがさっぱり理解できなかったからだ。
「いや、後腐れを無くすなら皆殺しにするだろう? ――それに半端な事をすると面倒な事になるのはお前自身が証明しているじゃないか」
こうしてお友達になったグリゴリと一緒に報復に来ている時点で発言に全く説得力がないな。 まぁ、報復に来ようが来まいが、見かけたら皆殺しにすると決めていたので本当に意味のない問答だった。
知らない相手でもなかったので一応は質問に答えたが、もういいな。 さっさと死ね。
魔剣を第二形態に変形させかけて――上に障壁を展開。
衝撃と同時に五枚展開した障壁が二枚を残して粉砕された。 アザゼルの仕業だ。
奴の周囲に浮かんでいる武器の一つを叩きつけて来たのだが、辺獄で展開した障壁をここまで抜いて来るならまともに喰らうのは危ないな。
かなりの速度、威力だが反応できない程じゃない。
障壁で完全に防げる以上、どうにでもなるだろう。 ただ、魔剣を使って能力を底上げしている事を考えると、油断できる相手でもないか。 脅威度だけで言えばブロスダンよりアザゼルの方が上と見るべきだな。
ならさっさと数を減らす方針でとも思ったがアザゼルはブロスダンの頭上へと移動。
『我が眷属よ。 あの者に慈悲は通じぬ。 よって我等の成すべき事は――』
『分かっています。 ロー、お前は生かしておけない。 僕達エルフの為にも、世界の為にも、死と恐怖を撒き散らす悪魔はここで滅ぼす!』
……何を言ってるんだこいつは?
いきなり世界を背負っているかのような意味不明な事を言い出したが、もう会話が成立しないのは理解出来たのでさっさと始末しよう。
魔剣の砲を発射。 闇色の光線は真っ直ぐにブロスダンへと飛んで行くが、アザゼルの周囲を飛んでいる武器が射線に割り込んで防ぐ。 光線が断ち割られている所を見ると威力でのごり押しでの突破は少し厳しいな。 遮るような防ぎ方ならそのまま抜けるまで喰らわせれば良さそうだが、これは難しいと考えた方がいい。
やはり近接じゃないと無理か。 サベージは嗾けてもすぐに死にそうだったので邪魔だから下がってろとだけ命令してそのまま斬り込む。
まずはアザゼルの斬撃を掻い潜ってと考えていたが、アザゼルとブロスダンの体が発光。
両者が重なるように接触。 同時に斬撃が飛んでくる。
障壁で防ぎつつ魔剣で防御。 斬撃は全ての障壁を貫通し、魔剣に接触。
勢いを殺しきれずに足が地面をこすりながら押し戻される。
驚いたな。 威力が大きく向上しているようだが……。
何をしたとブロスダン達の方へ視線を向けると、なるほどと納得した。
その理由はブロスダンの姿が大きく変化していたからだ。 アザゼルの巨大な姿は掻き消え、代わりにブロスダンの背には灰色の六枚羽に周囲を浮遊するスケールダウンした武器群、聖剣と胸には球体と化した魔剣。
どうやら合体――というよりは憑依か。
いい手ではあるな。 聖剣は辺獄では力を失う以上、魔剣を持っているアザゼルと融合すれば魔力に関しては問題なくなるので性能を十全に発揮できると言う訳だ。
ブロスダンと一体化して周囲に浮いていた武器も体格に合わせたサイズに縮んだが、数が段違いに増えたな。 五、六本だったのが五十本ぐらいになった。
剣に始まり槍、斧や良く分からん形状をした刀剣類が見本市のように並んでいる。
『報いを受けろ!』
ブロスダンがそう言うと聖剣を片手に斬りかかって来る。
奴が動くと同時に周囲に浮いている武器群も追従する形で向かって来た。
俺は応じるように魔剣を第一形態に変形。 刃が分離して回転しながら螺旋を描く。
間合いに入った所で魔剣で刺突。 ブロスダンは聖剣を盾にするように前に出してこちらの攻撃を掻い潜ろうとするが、左腕を一閃。
不可視の百足がブロスダンへと襲いかかるが、位置が悪いな。 奴は俺の右側に移動したので当て辛い。
若干、遠回りに放ったが後頭部に喰らいつこうとした所で、奴の周囲に浮かんでいる剣が百足を切断。
同時に俺にも斧や槍が飛んでくる。 魔剣による障壁を仕掛けて来る攻撃の数だけ展開。
防ぐのではなく弾く性質を備えた障壁は攻撃に接触したと同時に砕けるが、その際に発生した衝撃波により突っ込んで来た槍や斧を跳ね返す。
……周囲に浮かんでいる武器に関してはこれでどうにかなるか。
弾く障壁は燃費が悪いのだが、辺獄である以上何の問題もないな。
ただ、数が多いので捌くのが面倒だ。 前方から十本、上から五本。 左右から十本。
そしてそれを掻い潜るようにブロスダンが斬りかかる。 周囲の武器で意識を散らして本命の聖剣で斬りかかるか、上手い手だ。 ただ、剣の腕は大した事ないので動き自体は速いだけで読みやすいな。
正直、手数で誤魔化しているだけで聖剣使いとしてはアムシャ・スプンタや弘原海と比べると雑魚と言っていいレベルのお粗末さだ。
……それでもアザゼルのお陰で脅威度はかなり高くなってはいるが。
半端に高威力の攻撃では俺を仕留められないと判断して、ブロスダンと一体化して落とされるのを防ぎつつ手数を増やす。
聖剣もそうだが、魔剣も持っているだけで使い手は非常にしぶとくなる。
その為、下手に防がれるような攻撃は繰り出さず、威力が落ちたとしても確実に削れる攻撃をするのは理に適っていると言えるだろう。
後、他に気になるのは武具類の軌道だろうか?
飛んでいると言うよりは振っているような感じがする。 もしかしたら操っていると言うよりは見えない腕か何かで掴んで振り回しているのかもしれないな。
……まぁ、見えない所を見ると防ぐ分には大して変わらんが……。
それともう一点。 正直、話に聞くのと実際に見るのとでは違うとよく分かった事がある。
ブロスダンの聖剣の能力だ。 聖剣アドナイ・ツァバオトと言ったか。
なるほど、あのクリステラが手を焼く訳だ。
こちらの繰り出した攻撃を悉く防いでくる。 当たると感じた攻撃も的確に凌いでいる所を見ると結果に干渉してくる能力と言うのは本当のようだな。
明らかに視線の動きがおかしい。 こちらの攻撃に対して反応しておらず、適当に振っているようにしか見えないからだ。
聖剣で強化されているとはいえ攻撃自体は単調なので躱すのは難しくないが、こちらの攻撃がさっぱり当たらんな。
飽和攻撃が有効と言うのは聞いているが、アザゼルが居るお陰で防がれてしまう。
今の所、負ける気はしないが勝てるヴィジョンも浮かばないと言った困った状況になってしまった。
……取りあえず、様子を見つつ隙を伺うとするか。
誤字報告いつもありがとうございます。




