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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
4章

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85 「嘆息」

別視点

 短剣が僕――ハイディの首を目がけて振るわれる。

 僕は短剣に刻まれた櫛状の溝で受けて捻った。以前に購入した短剣だが、相手の武器を破壊するのに便利だ。

 パキと小さく音がして相手の短剣が折れる。

 相手が武器を失った事に動揺した隙を逃さず腰に差した投擲用のナイフを首に突き刺して喉を抉った。


 爆発する前に腹に蹴りを入れて距離を離す。

 相手は倒れたと同時に爆散。

 周囲を見ると聖騎士達が住民を取り囲むように円陣を組んでダーザインと交戦している。


 僕が駆け付けた時には既にこの状況だったので、そのまま聖騎士達を助ける為に乱入した。

 見た所、聖騎士と黒ローブは戦力的に拮抗しているが、住民を守りながらなので苦戦を強いられている。

 黒ローブ達もそれを知ってか住民を執拗に付け狙う。


 住民の悲鳴が上がりそれに気を取られた聖騎士が斬られているのが見えた。

 僕は内心で歯噛みして戦闘を続ける。

 

 「怯むな!民を守れ!我らに倒れる事は許されんぞ!」


 指揮を取っていた聖騎士が奮起を促すように叫ぶ。

 僕も目の前の敵を叩きのめしながら気合を入れ直す。

 街がこうなっている以上、増援は期待できない。


 なら、今の戦力で切り抜けるしかない。

 聖騎士達の数もまだ残っている。戦意は落ちていない。まだまだやれる。


 …まだ…。


 「ごふっ…」


 少し離れた所で戦っていた聖騎士が巨大な氷柱に貫かれていた。

 僕は咄嗟に空を見上げる。

 翼を持った黒い影が宙に浮いていた。数は4。


 いつかオラトリアムの屋敷で見た悪魔に雰囲気が似ているが、恐らく力は上だろう。

 そして何故か胸から人間の上半身が生えている。

 悪魔達は一斉にこちらに手を翳す。


 危険を感じた僕は咄嗟に飛んで距離を取る。

 次の瞬間には強力な魔法がそれぞれの悪魔から放たれた。

 炎の塊、氷柱、竜巻、大量の巨岩。


 反応の間に合った聖騎士達は咄嗟に防御魔法を使いながら回避したが、反応が出来なかった者はそのまま棒立ちに、回避を選ばなかった者は住民達の前に立ち、必死に守ろうと盾と魔法で防御陣を敷く。

 だが、抵抗も虚しく魔法は防御ごと住民の大半と聖騎士達を飲み込んだ。


 衝撃と轟音。

 僕も余波で倒れかける。


 「が…くそっ」

 「痛ぇ…痛ぇよぉ…」


 あちこちで悲鳴や呻き声が上がる。

 魔法が直撃した所は大きく陥没しており、そこにあった物はほとんど跡形も無かった。

 一撃。たった一撃で戦況が不利に傾いた。何て理不尽だ。

 

 「ぐ…そぉ。動ける者はあの化け物を抑えるぞ!戦闘が困難な者は生き残りを連れて逃げろ!」


 指揮を取っていた聖騎士は血を吐きながら立ち上がる。

 それに続いて生き残った聖騎士達が覚悟を決めた表情で敵の前に立つ。

 戦闘が困難になった聖騎士達が住民を庇いながらその場を離れようと動く。

 

 「君も行け!ここは我々だけで充分だ。少しの間だが連中を抑えて見せる!」


 聖騎士は僕にも逃げるように促す。


 「…でも…」

 「我々と違って君は冒険者だ!命は自分の為に使え!協力に感謝はするがこれ以上は無用だ!さぁ!行くんだ!」


 僕は少し迷った後、黙って首を振る。


 …できない。見捨てられない。


 それに…逃げた所で助かる保証もない以上、どうせやるならできるだけ足掻こう。

 聖騎士は少し息を呑んだ後…少し項垂れた。


 「…すまない」

 「いいんです」


 僕は聖騎士達の隣で武器を構える。

 悪魔達はゆっくりと地面に降り立つと下種な笑みを浮かべながらこちらに手を翳す。

 

 …とどめを刺す気か。


 僕は負けて堪るかと悪魔達を睨み付ける。

 アレに当たれば間違いなく死ぬだろう。僕が死んだら彼はどう思うかな?

 呆れるかな?それとも悲しんで…くれるかな?そう考えて僕は内心で苦笑する。

 何でだろう…何故か無性に彼の声が聞きたかった。


 …僕は彼に……。

 

 魔法が放たれようとした瞬間、空から巨大な何かが飛んできて悪魔に激突した。

 悪魔達は耐えきれずに吹き飛ぶ。

 

 「なっ!?」

 「え!?」


 いきなりな展開に僕だけではなく聖騎士達も声を上げる。

 一体何が…。

 飛んで来た物はゆっくりと起き上がると僕の方へ振り返った。


 「サベージ?」

 

 いつも僕達を乗せてくれる地竜のサベージだった。

 サベージは僕の方を一瞥するとゆっくりと近づき、背中を向ける。

 もしかして乗れと言ってるかい?


 「ダメだよ。僕だけ逃げる訳には行かないんだ」 


 サベージは僕の方をじっと見ると…ふぅと息を吐く。

 何だか溜息を吐いたように見えたけど気のせいだろうか。

 その後、軽く空を仰ぐと悪魔達に向かって咆哮を上げる。 

 

 次の瞬間、地面が爆発した。

 サベージは地面を踏み砕いて、凄まじい速さで悪魔達に肉薄すると手近な一体を尻尾の一振りで吹き飛ばす。悪魔の体が折れ曲がりながら宙に舞う。

 他の悪魔が迎撃の魔法を放つ。炎がサベージを飲み込もうとするが上に跳んで回避。

 

 残りの2体が氷柱と竜巻を放つが、サベージは空中を蹴って躱す(・・・・・・・・)

 

 「なっ!?」

 

 隣の聖騎士が驚きの声を上げる。

 恐らく僕も全く同じ反応をしていただろう。


 空中でサベージは縦に回転して尻尾を一閃。振った先に居た悪魔の腕が、届いていないにも関わらず切断される。

 

 …一体何が。


 よく見るとサベージの尻尾の表面が金属のような光沢と刀剣のような鋭さを持つ物に変わっており、それが刃のようになって悪魔を切り裂いたのは分かるが…アレは何だ?

 尻尾が等間隔に分裂して伸び、それが骨のような物で連結されていた。

 

 あれは知識でしか知らないが、鞭と剣を組み合わせた蛇腹剣と言う奴なのか? 

 それを生身で?

 再び宙を蹴って強引に着地。それと同時にサベージは更に尾を横薙ぎに一閃。

 

 悪魔達は飛んで躱したが、斬撃の範囲内にいた黒ローブ達は躱しきれずに両断された。   

 恐ろしい斬撃速度だ。鞭並の速度と攻撃範囲に剣を凌駕する切れ味。

 あれは初見で見切るのは無理だ。黒ローブ達は斬られた事に気が付かなかったかもしれない。


 サベージが振り抜いた所で悪魔が魔法を撃ちこむ。

 巨岩が大量に降ってくるが体を更に回転させて岩を両断。冗談みたいな切れ味だ。  

 攻撃をしのぎきった所で尻尾が縮み、澄んだ金属音がして元の長さに戻る。


 他の悪魔が更に魔法を撃ちこもうとするのに合わせて仰け反りながら顔を向けた。

 魔法が放たれる前にサベージは何かを吐き出す。

 水で出来た球?<水球>?でもあの色は何だ。


 サベージが吐き出した水球は毒々しいと言っていいほど明るい黄色だった。

 魔法を放つ直前の悪魔の胴体に命中。


 「ギャアアアアアアアアアアアア!?」


 凄まじい悲鳴が上がり悪魔の胴体が凄まじい刺激臭と共に溶け落ちた。

 僕は咄嗟に口と鼻を抑える。酷い臭いだ。


 …でも、この臭いどこかで…。


 覚えがあるが思い出せなかった。

 

 「な、何なんだあいつは…」


 聖騎士がかすれた声で呟く。

 正直、僕も驚きが隠せなかった。

 地竜と言う魔物の強さは聞いていたがここまでとは…。

 

 …彼は一体どこでサベージを見つけたんだ?いや、それ以前にどうやって手懐けたんだ?


 疑問が湧くが、それ以上に目の前の光景から目が離せなかった。

 その後もサベージは凄まじいまでの強さで黒ローブを血祭りに上げていく。 

 残った悪魔達は謎の液体を浴びた悪魔や現在進行形で減っている仲間を見て、顔を引きつらせる。


 謎の液体を浴びた者は一部を残して完全に溶けている。アレを喰らったら悪魔と言えど無事に済まない

 それを尻目にサベージは黒ローブ達を次々と仕留めている。

 爪で引き裂き、尾で打ち払い、謎の液体で溶かす。


 黒ローブ達は包囲して仕留めようとしたが、どうやっているのか空中を跳ね回るサベージを捉える事が出来ずに死者だけを増やしていく。

 サベージは生き残っている黒ローブの頭を鷲掴みにすると一番近くに居る悪魔に投げつける。

 

 悪魔は魔法で跳ね返そうとするが、発動前に尾を伸ばして空中で投げた黒ローブを両断。

 それと同時に爆散して黒い霧が悪魔の前に広がる。

 悪魔は咄嗟に後ろへ飛んで躱すが、その頃にはサベージは空中を蹴って悪魔の上から躍りかかる。

 

 口を大きく開けて悪魔の胴体に張り付いている人間の首を喰い千切った。

 食い千切られた悪魔は自分の胴体を不思議そうに眺めて溶け崩れた。

 サベージはぺっと喰いちぎった頭を吐き捨てる。


 吐き出された頭は地面に落ちる前に爆散。

 明らかに手馴れた動きだ。

 死んだら爆発して黒い霧をまき散らす特性を攻撃に利用している時点でサベージの知能の高さが窺える。


 残った2体の悪魔は胸に埋まっている人間の顔を恐怖に引き攣らせながら、空中で遠巻きにサベージの様子を窺っている。気が付けば黒ローブ達は全滅しており他に敵は残っていない。

 サベージは軽く鼻を鳴らす。その直後に僕達の体を何かが通り抜けた。


 …これは…魔法?


 「これは<熱探>(フレイム・ソナー)なのか?」


 隣の聖騎士が呆然と呟く。

 

 その魔法には覚えがあった。確か効果範囲内の熱を調べる魔法のはずだけど…。

 探知系の魔法は使える人間は多いが、使いこなせる人間は極端に少ない。

 何故かと言うと、情報を手に入れてもそれを判別できないからだ。

 

 例を挙げると<熱探>を使用した場合、効果範囲内の熱を放つ物を感じ取れるらしいが、それが何なのか判別するのが難しいらしい。

 似たような能力を持った魔物はそれで獲物を探すらしいが…地竜ってそんな事も出来るのか。


 改めて地竜という魔物の凄まじさを再認識した。

 サベージは何故か何もいない方向を一瞥すると、もう一度鼻を鳴らして悪魔達に飛びかかる。

 残った悪魔達は応戦したが、結果は分かり切っていた。


 全ての敵を仕留めたサベージは僕の前までのそのそと歩いて来る。

 近づいてくるサベージに周囲の聖騎士達は思わず距離を取った。

 聖騎士達の反応を意に介さずにサベージは僕に背中を向ける。


 背中は「片付けたから乗れ」と言っているようだ。

 乗りはするけど自分だけ安全な場所へ行く気はない。


 「サベージ。聞いてくれ。僕は彼らと協力して皆を逃がしたい。お願いだ。手を貸してくれないか?」


 サベージはゆっくりと振り返り、僕へ視線を向ける。

 上から見下ろす視線は冷たい。

 僕は背筋にうすら寒い物を感じる。


 サベージの視線は何となく彼を彷彿とさせるが、決定的に違う点があった。

 彼の視線も時折ぞっとするほど冷たいが、サベージの視線は無機質だ。

 何の感情も感じさせない瞳。種族が違うと言うだけでは説明が付かないほどの熱量の無さ。


 恐らくだが、サベージは僕と言う人間に何の価値も見出していないのだろう。

 なら何でと言った疑問が持ち上がるが、すぐに察した。

 サベージが本当の意味で従うのは彼だけだ。僕を助けに来たのも彼の指示だろう。


 それでも僕は彼らを見捨てる事はしたくない。

 僕はサベージの目を見ながら言う。


 「僕は彼らと行く。手を貸したくないなら彼にそう伝えてくれないか?」


 これは譲れない。

 サベージはじっと僕の目を見た後、考えるように目を閉じる。

 少しの間そうした後、ふうと長く息を吐き、僕をそっと掴むと背に乗せてのそのそと逃げた住人達の方へ歩き出した。聖騎士達も慌てて僕達を追いかける。


 僕はサベージの首筋を撫でながら「ありがとう」と言うとサベージは軽く息を吐くだけで特に反応しなかった。



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― 新着の感想 ―
サベージ、、お前そんな強かったんか、、 尻尾が蛇腹剣みたいになるとか浪漫あるな〜
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