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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
23章

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813 「術前」

 一通りの話を終えた後に解散。 各々、仕事に戻って行った。

 俺は首途と二人で研究所内を無言で歩く。

 向かう先は研究所の地下にある一角――主に改造種の作成に使用しているラボだ。

 

 今は負傷者の収容などに使用している。

 

 「設計図の方は?」

 「とっくにできとる。 ヴェル坊が自分で作りよったわ」

 「本人の意識は?」

 「ちょっと前に戻った」


 そうか。 ならさっさと始めるとしよう。

 事前に取り決めは行っていたので後は約束通り実行するだけだ。

 

 「……なぁ、兄ちゃん。 何でヴェル坊の奴、こんな真似しようとしとるんやろうなぁ」

 

 不意に首途がそんな事を言い出した。

 質問の意味を考えたが――さっぱり分からないとしか言いようがないな。

 記憶を読み取ればその辺は分かるだろうが、今の俺には何とも言えん。


 「良く分からんが、奴なりに何か考えがあったんじゃないか?」

 「そう、か。 そうかもしれへんな」


 ヴェルテクスに関しては親子だけあって首途にも何か思う所があるのかもしれない。

 

 ……まぁ、俺には関係のない事だし、やる事を済ませたら後は当人同士で片を付けてくれ。


 魔導外骨格の修理を行っている区画を抜けて負傷者の治療を順に行っている区画に入る。

 そこでは治癒魔法を使える者があちこちで魔法で負傷者の傷を癒していた。

 ヴェルテクスは奥の部屋だったか――


 「ロートフェルト様!」


 不意に目の前に誰かが飛び出して来た。 何だと視線を落とすとそこに居たのはゴブリンだ。

 治療を終えたばかりなのか片腕を吊っていた。

 プレートがぶら下がっている所を見るとパイロットというのは分かるが、色は――プラチナ?


 最上位か。 確か数が少ないと聞いていたが……。

 足を止めて何だと見返すと、ゴブリンはその場に跪く。


 「俺――いえ、自分はニコラスといいます。 無礼だとは理解しています! ですが! どうか、どうか自分に戦う力をお授け下さい!」

 

 言っている事の意図が良く分からなかったので、内心で首を捻る。


 「お前はパイロットだろう? 俺が仮に強化を施したとしても強さに反映されるとは思えんが?」

 

 本人がいくら強くなっても戦うのは機体だ。 強化しても意味がないな。 それともパイロットを廃業したいとかなのだろうか? だったら面倒なので、グロブスターを使って変異させればいい。

 ニコラスは懐から紐に繋がれたプレートを取り出す。

 数は三枚。 察するに同乗していた仲間の物か?


 「仲間を喪った今の自分ではサイコウォードを戦わせるどころか満足に立たせてすらやれません! どうか、どうか自分にアイツと一緒にもう一度戦える力を!」

 「兄ちゃん、サイコウォードは四人乗りや。 こいつ等はプラチナの中でも腕利きのチームやってんけど……」


 一人を残して全滅か。 特に記憶や技能を吸い出した覚えがないので、復元は無理だろうな。

 なるほど、ここに来てようやくニコラスの言いたい事を理解した。

 

 「ふむ、つまりは一人でサイコウォードを操れる体にして欲しいと?」

 

 ニコラスはその通りですと頷き、お願いしますと平伏。

 珍しい頼み事だ。 強化ではなく用途に沿った改造か。

 俺が首途を振り返ると頷きで返される。


 「サイコウォードは現在改修中や、こいつの腕やったら必ず兄ちゃんの役に立つはずや」

 

 少し考えるが、確かサイコウォードは前回の戦闘でもかなりの戦果を上げていたと聞く。

 なら、強化しておくのは悪い話じゃないな。 どうせこれから奥に籠る事になるしついでにやればいいか。

 

 「分かった。 なら、設計を任せても?」

 「おう、推したからにはその辺は任せといてや。 話が決まったんならほれ、立たんかい。 行くぞ」

 

 首途は涙声でありがとうございますと連呼するニコラスを連れて設計室へと向かっていった。

 一人になった俺はそのまま奥の部屋へ。

 中に入ると顔色の悪いヴェルテクスがベッドで半身を起こしていた。


 「……来たか。 約束だ、さっさと始めるぞ」


 そう言うとヴェルテクスはさっさと立ち上がり、部屋を出ようとするがかなりふらついているな。

 俺は無言で肩を貸してヴェルテクスを引き摺るように手術室へ向かう。

 ヴェルテクスが俺に求めたのは改造種への転生。 要は人間を辞めたいという事だ。

 

 元々、改造後に使うつもりで作った特別製の魔導書を強引に使用してこの有様らしい。

 しばらくは無言で歩いていたが首途が気にしていた事を思い出し、ふと気になって尋ねた。


 「どうして自分を改造しようなんて気を起こした? お前は俺を信用している訳じゃないんだろう?」


 首途が気にするのはこいつの意図が掴み切れないからだろう。

 ヴェルテクスは実力者ではあるが、強さにそこまでの執着はない。 それに俺に体を弄らせる事がどういった意味を持ち、どれだけのリスクが伴うのかも理解している筈だ。


 首途の手前、明確に反発はしないが最低限の警戒は常にしているといった印象だったのだが……。

 

 「……お前には早い段階で体を弄らせるつもりだった。 正直、他で済むのならそれでもいいと思ったが、改造を受けた方が手っ取り早いと思ったからだ」

 

 それは分かったが微妙に答えになっていないな。

 俺は改造を受ける気になった理由を聞いているんだが?


 「……俺が本当に欲しかったのは長生きできる体だ。 人間のままでは限界が直ぐに来る上に、劣化が早い」

 

 ……分からん話でもないな。


 確かに人間のままだと出来る事や寿命には限界がある。

 その辺をどうにかしたいなら体を弄って上限を取り払うのは理に適っていると言えるだろう。

 

 「で? 長生きしたい理由というのは? まさか死ぬのが怖いとか言うんじゃないだろうな?」

 

 人生を儚むにはちょっと早すぎるんじゃないか?

 ヴェルテクスは少し黙った後――


 「この話を爺にしないと誓え。 そうすれば話してやる」


 ――そう前置きをした。


 「いいだろう」


 単なる好奇心だし、元々ここだけの話にするつもりだったので即答する。

 

 「……ガキは親より後にくたばる物だ」


 ……?


 言っている事が理解できなかったので首を傾げるがヴェルテクスは構わずに続ける。


 「俺は元々、爺に拾われたクチだ。 あいつにはデカい借りがある。 ……一度だけこんな話をした事があった。 当時の俺は物を知らないガキで、爺に言ったよ「拾って貰った借りを返したい」と。 そしたら爺は「息子として儂を看取ってくれ」と返して俺は頷いた。 当人からすれば酒の席のほんの冗談だったんだろうが、馬鹿なガキはその約束をいつまでも覚えていたってだけの話だ」

 

 今一つ良く分からんが首途の為と言う事は理解できた。

 これで満足かと言うヴェルテクスに俺は頷きで答える。


 「それで? お前の改造は例の図面通りでいいんだな」

 「あぁ、最低限、あの魔導書を素面で扱えるようになっておきたい。 ……デカい借りが出来ちまったしな」


 ヴェルテクスはあの天使は俺が始末すると低く呟いた。

 やる気があるのは大変いいな。 話している内に手術室に到着したのでさっさと始めるとしよう。

 俺はヴェルテクスに肩を貸したまま手術室の扉を開けた。


誤字報告いつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ヴェルテクス・・・ 首途の耳に入ったら号泣しそうだなあ
[一言] 強化イベントその1、その2。 相手の強さをみると、強化イベントはまだありそうですがみんなどれぐらい強化されるのか楽しみです。
[一言] ヴェルテクス、首途のためにそこまで……。(´;ω;`) じゃあ、前から心配されてるし友達も作ろうか!!その後は「孫の顔が見たい」とか続きそうだけどw ニコラス以外3人は助からなかったんです…
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