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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
4章

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77 「足踏」

別視点

 俺――リックは昨日と同じぐらいの時間に教会で皆が集まるのを待っていた。

 周囲には既に集まっていた聖騎士や聖殿騎士が情報を交換している。

 教官は…まだ、来ていないようだ。


 しばらくするとレフィーアやガーバスが現れた。

 ガーバスは眠そうに目を擦っている。


 「よぉ、リックおはようさん」

 「おはようリック」

 「おはよう2人とも」


 俺達は挨拶もそこそこに今日回る箇所について話していると、教官が慌てて入って来た。


 「すまない。遅くなった」


 よほど慌てていたのか額に汗がにじんでいる。

 教官は周囲を見回した後、俺達の方へ近づくと小声で話し始めた。


 「君達には悪いが私は少し用事が出来た。後から行くので先に捜索を始めてくれ」


 地図を取り出し、今日の捜索範囲を俺達に説明すると「すまないが頼む」と言って俺に通信用の魔石を押し付けると早々に教会から出て行ってしまった。

 取り残された俺達は揃って首を傾げる。


 「教官どうしたんだ?」

 「…さぁ…」

 

 様子がおかしかったけどどうしたんだろう?

 気にはなるが俺は切り替えていくことにした。


 「こんな時期に抜けるんだ、大事な用なんだろう教官も俺達を信じて任せてくれたみたいだし頑張ろう」


 2人は苦笑して頷く。

 さぁ、出発だ。今日こそ奴らの拠点を見つけてやる。

 




 「やっぱりだめか…」


 僕――ハイディは街を歩いていた。

 土地勘のある聖騎士達でさえ見つけられてないんだ。

 余所者の僕が見つけるのは無理があったのかな…。


 あの後、遺跡の見学を終えた日から彼が宿に戻って来なくなった。

 最初は用事があると言っていたし、彼の実力ならそう心配する事はないと思っていが、丸一日経っても彼は戻って来ない。


 宿に伝言を預けてはいたので無事ではあるのだろうけど…心配だ。

 彼はもしかしてダーザインの事を調べてるんじゃないだろうか?

 僕が狙われた以上、この街を出ても狙われるかもしれないそう考えたんじゃないのだろうか?


 そう考えると居ても立っても居られなかった。

 僕は宿から出て、自分でも動く事にした。

 実際、宿に居たからと言って安全とは限らないし、場合によっては宿に居る人たちを巻き込んでしまうかもしれない。


 それなら、街で動いても宿に閉じこもっているよりは外に居た方がいくらかましだ。

 街に出た僕はまず、情報を集める事にした。最初に向かったのは冒険者ギルドだ。

 職員や冒険者に話を聞いてみたら何人か被害者の知り合いや身内に心当たりがあるとの事。


 何とか頼み込んで被害者に会わせて貰おうとしたが、大半の人物が不在で空回りが続く。

 それでも何人かと話が出来たのだが、これと言って有益な話が聞けず、内心で歯噛みする。

 …とは言っても収穫がなかった訳じゃない。


 共通しているのは犯行は全て街中で行われている事と必ず目撃者がいる事。

 なら少なくともダーザインは街中に潜伏していると言う事になる。

 霧みたいにいきなり現れた訳じゃないのならどこかに隠れているのだろう。


 なら、探すべきは街中だ。

 だが、引っかかる事もある。

 何故、目撃者を残すような事をしているのだろうか?


 今までの話を聞くと敢えて誰かの前で攫っているような印象を受ける。

 目撃者を残す事に意味がある?

 歩きながら思考を進める。


 攫う事だけが目的じゃない?

 なら、目撃者にも何か利用目的がある?

 だとしたら尋ねた人達が不在の理由は何かされたから?


 それだと僕が人気のない所で襲われた理由が説明できない。

 

 …僕は別の目的で襲った?


 被害者と自分に何か違いがあるのかとも考えたが、特に何も思い浮かばない。

 ならこれは脇に置いて街中に絞って調べるべきだろう。

 恐らく彼もかなりの所まで迫っているはずだ。


 行き会ったら彼は良い顔はしないだろうが、僕だってやればできる所を見せてやろうじゃないか。

 それに…仲間なんだから抱え込まずに頼って欲しいよ。

 成果を出して彼にそう言ってやるんだ。


 …それに…彼が動いた理由は…。


 僕は考えを形にせずに歩調を強めて別の方向へ思考を向ける。

 街中で隠れられる所といえば…空き家?有り得ない。

 もしそうならとっくに誰かに見つかっているはずだ。

 

 そうなっていない以上は何かしら仕掛けがある筈だ。

 住民に扮している?有り得なくはない…か?

 他の住民が気が付かない訳がない。だが、元々ここの住人だった(・・・・・・・・・・)場合は?


 そうだとすると、僕が調べまわっている事が向こうに知られてしまっている可能性が高い。

 だとしたら望む所だ。奴等は動けなくなると爆発して死ぬ。

 なら、最初から殺す気で行く。捕らえようなんて気は起こさない。


 襲われた所を中心に探せば何か見つかるはずだ。

 思いとは裏腹に襲われる気配はない。平和な街の風景だ。

 どこに隠れる?


 考えろ。条件は大人数で使えて人目に付かない…いや、見つからない場所か。

 本当に住人だった場合は家に帰るだけだろうが、全員がそうでない可能性もある。

 そんな奴らを家に置くのか?ただでさえここは余所者が目立つ。


 …元々ここの住人だった?


 それが引っかかる。

 ならいつからだ?数年前?数十年?それともこの街が出来てからか?

 もし、この街の起こりの時点で住人だった場合は?


 何か仕掛けをしてあったとしても不思議じゃない。

 そうなると最も怪しいのは遺跡だ。なんせアレがあるからこの街が出来たんだ。

 そして聖騎士の膝元で怪しまれない広大な空間。


 …条件に合うな。


 少し調べてみよう。

 僕は遺跡に足を向けた。







 「くそっ!」


 俺――リックは苛立ちと共に廃屋の壁を蹴りつける。

 もう何軒調べたのか分からなくなるぐらいの廃屋を見たが成果はなし。

 俺じゃなくても毒づきたくなるだろう。


 「気持ちは分かるが落ち着けって」


 ガーバスが宥めるように声をかけて来る。

 他の部屋を見ていたレフィーアが戻って来たが力なく首を振る。

 

 「ダメね。ここも空」

 「何で見つからない!」


 これだけやっても見つからないと言う事はこの辺りには居ないんじゃないのか?

 こうしている俺は無駄に時間を使っているんじゃないのか?

 そんな思いが頭の中でグルグル回っている。

 

 街外れなのは間違いないんだ。

 サニアを攫った連中は外れの方へ向かった。それは間違いない。

 なら何で見つからない。俺は頭を掻き毟った後、近くに放置されている椅子に座る。


 「なぁ、ガーバス。何で見つからないと思う」 


 ガーバスは軽く息を吐いて近くの壁に背を預ける。

 

 「……確かに連中は街外れに向かった。少なくともこの辺に居るはずだ。なのに何でか俺達はこうしてハズレを掴まされ続けてる。少なくとも何か仕掛けているんだろうな」


 ガリガリと頭を掻く。


 「何か見落としてるんだろうが、それが何なのか俺には分からん。ただ、何か(・・)が俺達の邪魔をしている」


 ガーバスは「俺に言えるのはこの辺だな」と言って締めた。

 俺はレフィーアに視線を向ける。彼女は腕を組む。


 「私からは何とも…ただ、まだ見ていない箇所があるからこの辺に居ないって思うのは気が早いんじゃない?」


 レフィーアの意見はともかくガーバスの言葉が気にかかった。


 ――捜査が進まない理由に何か思い当たる事はないか?

 

 そう、あのローと言う男の言葉が脳裏をよぎる。

 ガーバスの言う邪魔とローの言う理由は同じ物じゃないのか…。

 ならローは…ダーザインの敵…なのか?


 あの男は怪しい。ダーザインじゃないと言い切れない。

 だが、何かを知っている。または気が付いている可能性は高い。

 

 「ローだ」

 「ロー?」

 「……あー。あの冒険者か?何でそこでそいつが出てくる?」

 「この街に居たんだが…ダーザインと何か係わりがあるらしい」

 「ちょと待って。話が分からない。初めから説明して」

 

 そういえば2人はあの時居なかったな。

 俺は昨夜の事を2人に掻い摘んで説明した。

 ローを見つけた所からダーザインに襲われた事から学園で教官との話、その後あの男の疑惑。

 

 全て話し終えた所で黙って聞いていた2人は…。


 「こんな時期にわざわざこんな所に来てるってだけで怪しすぎる。…露骨すぎる気もするが…な」

 「何でそんな胡散臭い奴をそのまま帰したのよ?」


 …と思い思いの感想を漏らす。


 「ま、話は分かった。で?どうする?そのローとか言う奴を締めあげるのか?」

 「でも私達の割り当て、まだ残ってるけど?」

 

 ガーバスは視線で「お前が決めろ」と伝えて来る。

 レフィーアも口を閉じる。彼女も同じようだ。

 俺は考える。


 俺達の目的はサニアの救出だ。だが、教官から言われたのはこの近辺の捜索だが…その教官は不在だ。

 そして「頼む」と言って任された。ならある程度の事は俺達の裁量に任されたとも判断できる。

 正直、ここで探しても無駄のような気がする。


 なら、少しでも可能性の高い方を選ぶべきだろう。

 ローを捕まえて知っている事を聞き出す。


 「街に戻ろう」


 レフィーアは頷き、ガーバスは口の端に笑みを浮かべる。


 「居場所に当てはあるか?」


 それなら問題ない。


 「奴が使っている宿に行こう。場所は分かる」

 

 俺達は街へ戻ると急いで宿へ向かった。

 …が。


 「…いなかったな」

 

 奴は不在だった。

 

 「厩舎に地竜がいたから街からは出ていないはずだ」

 「どうする?探す?」

 

 決まっている。

 

 「探そう。奴はかなり体格がいいから目立つはずだ」

 

 どこから探そうか思いを巡らせ…響く悲鳴に思考が断ち切られた。

 

 「何だ?」

 

 ガーバスが眉を顰める。

 俺が悲鳴の聞こえた方に視線を向けた時にはレフィーアは既に走り出していた。

 慌てて俺はその背を追い、ガーバスもそれに続く。


 俺の脳裏には何故か亀裂が広がっていくような光景が浮かんでは消えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] うんうん、リックはちゃんと考えてるね だけど主人公にはあんまり関わるべきではないよ、手がかりは持ってるけどナチュラルに危険人物だからね
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