735 「呆考」
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視点戻ります。
様子でも見に行こうかと考えていたが、砦を出たと同時に片付いたとの連絡が入ったので戻って適当な部屋で寛ぐ。
サベージは砦の中に落ちている死体を貪っている最中なので近くには居ない。
センテゴリフンクスでの戦闘もほぼ片が付いたので外は随分と静かになった。
今、俺がいる部屋は最上階にある一室で、誰かの私室だったのか家具も上等な物が多く、ソファーも柔らかい。
ぼんやりとソファーに背を預けて天井を眺めながら考える。
収穫と言う点では微妙だったが、やるべき事はできただろう。
あの時、俺と女王を襲ったであろう枝の原因である闇の柱の排除。 もう少し手こずるかとも思ったが、前情報通りに純粋な魔力の塊だったので魔剣があれば処理は難しくなかった。
結局、正体に関しては分からず終いだったが、辺獄と関係があるのは間違いないだろう。
幸いにも始末した聖堂騎士の記憶からフシャクシャスラでの戦闘に関する詳細は引き出せたので、あそこで何があったのかは大雑把だが把握が出来た。 見た限りでは随分な激戦だったようだな。
死んだ数も桁違いだったらしいが、その辺は俺の知った事ではない。
この結果はグノーシスにとっても予想外だったらしく、追加で増援を送り込もうとする程度にはリカバリを図りたい案件だったようだ。
ファティマが睨んでいた通り、連中にとっては辺獄はそこまで重要ではなかったようで、本命は聖剣の入手とこのヴェンヴァローカ。 要するに過剰とも呼べる物量は対聖剣使いを想定し、ヴェンヴァローカを橋頭保としてこの大陸の北方であるモーザンティニボワールへの侵攻を企んでいたようだ。
当然ながら狙いは国盗りではなく聖剣アドナイ・メレクだろう。
恐らく何処かへ飛んで行ったので所在は不明。 妙な奴の手に渡る前に確保しておきたいので、現在捜索中だが未だに発見には至っていない。
……それにしても理解に苦しむな。
連中が何故、聖剣にここまで執着するのかにだ。
確かに強力な武器ではあるが、誰でも扱える訳でもない以上は操れない人間に使われると面倒事になるだろう。 並行して魔剣も集めてはいるようだが、フシャクシャスラへの対応を見る限りは執着が薄い印象を受ける。
……まぁ、それも当てが外れたようだがな。
この地に存在した「在りし日の英雄」はかなり頑張ったらしく、投入された連中の大半を仕留めてくれたようだ。 結果として聖剣の奪取は失敗。 ここの聖剣魔剣は消えてなくなり、アイオーンの聖女は逃走。 とどめに橋頭保を築く計画も頓挫と予定していた計画の全てが失敗した形になっている。
お陰でこちらも色々とやり易かったので、非常に都合が良かったが――
首を動かして腰の魔剣に視線を移す。
フシャクシャスラでの戦いで最も興味深かったのは聖剣と魔剣の接触による崩壊と闇の柱の発生だ。
接触するとあれが出て来るのは理解したが、解せない点もある。
オフルマズドの時に何も起こらなかったのはどういうことだ?
聞けばグノーシスの連中は聖剣や魔剣に数字を振っているようだが、それと何か関係があるのだろうか?
消滅したのはどちらもこの地に存在した聖剣魔剣だ。
恐らくだが、あれの発生にはいくつかの条件があると見ていいだろう。
可能であれば枢機卿から詳細を吐かせたかったが全員くたばった以上は仕方がないな。
取りあえず今後、聖剣を相手にする際は注意が必要だろう。
後は権能か。
新しく手に入れた「憂鬱」の権能だが、思った以上に使い勝手が悪いな。
あくまで集中力を乱す――と言うよりはテンションを下げるだけの代物だ。
権能使いにはそれなりに効果があったが、完全ではなかった。
周囲に影響を及ぼすタイプの発動は阻害できたが、自己に作用する分には不安定にさせる程度と見るべきか。 権能を完全に無効化できると言うのならもう少し評価を上げたが、これでは微妙以上の感想が出てこないな。
期待したほどではなかったが失望はない。 元々、約束を果たすついでに手に入れた物だ。
使えただけでも良しとしようか。
……後はここで仕留めた連中か。
妙に枢機卿が多かったが、少し数が合わないのが引っかかった。
仕入れた記憶を確認する限りでは、今回ヴェンヴァローカに派遣された枢機卿は全部で十二人。
フシャクシャスラ戦で五人が死亡。 俺がこの砦で仕留めたのが五人。 サブリナが仕留めたのが一人で合計十一人。
マクリアンとか言う第十の枢機卿が一人足りないのだ。
仕留めたという報告は上がっていない。 一応、この砦を家探しさせているが、これは取り逃がしたと判断するべきだろうな。 転移魔石か騒ぎが始まった時点で逃げたかのどちらかだろう。 転移魔石に関しては使って逃げられるとどうにもならんからな。 ただ、後者であるなら南は固めていたので、逃げた先は北と言う事になる。
獣人嫌いのグノーシスの枢機卿が獣人の国でまともに活動できるのか甚だ疑問だが、捜索はさせているので運が良ければ見つかるだろう。
……逃がしたのは痛いがこちらの素性に関しては分からんだろうし、機会があれば仕留めればいいだろう。
残りの懸念としては闇の柱――と言うよりはあの空に開いた亀裂。 アレについては分からず終いだった事だ。
分かった事と言えば雨漏りみたいに黒い何かを垂れ流し、落ちて来た物はマネキン擬きに変異して襲って来ると言った所か。 聞けばアレの上位互換が存在するらしく、放置するのは危険との事だが手応えがまるでなかったので今の所は雑魚としか認識できんな。
魔剣の怒り具合を見ると例の枝と無関係ではないだろう。 つまりは俺の敵という事だ。
正体を調べて必ず始末すると決めているが、焦って探す気もないので旅を続けながら探すとしよう。
グノーシス、聖剣と魔剣、辺獄と発生した空の亀裂。
小さく息を吐く。 それにしても面倒事と言うのは片付けた端から増えるのはどういう事だろうか?
今後の行動にも影響が出るので、鬱陶しく絡まれるのは避けたい物だがな。
さて、何はともあれヴェンヴァローカでやれる事は終わったので、戦後の処理を済ませた後は一度オラトリアムに戻る必要がある。
ヴェルテクスとの約束もあるが、いくつか片付けておきたい事もあるので何にせよ戻る事になるだろう。
……それにしても……。
この大陸についた当初は気ままに旅を続けようなんて考えていたのに、気が付けば新しい厄介事を抱え込む羽目になるとは……。
思わず首を捻る。 一体何がいけなかったのだろうか? もしかして魔剣が何かを引き寄せている?
色々と考えてはみたがさっぱり分からなかった。
取りあえず砦の掃除が一段落したら飯にでもするか。
誤字報告いつもありがとうございます。
今回で二十一章本編は終了となります。 次回から別視点を挟んで二十二章へ移行となります。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。




