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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
21章

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713 「夜宴」

別視点。

 『はい、皆さんこんばんは! 今夜も楽しいオララジナイトのお時間です。 メインパーソナリティーは毎度おなじみ瓢箪山 重一郎がシュドラス城放送局からお送りします』


 時刻は深夜。 ほぼ恒例のラジオ番組が始まり、ラジオから流れる瓢箪山の軽快な語りで幕が上がる。

 

 「いやー、もうこっちめっちゃ忙しゅうて敵わんで」

 「さっき下、見たけどすっげーなぁアンタん所、ってか下手すりゃ俺より稼いでんじゃねぇのか?」


 場所は首途研究所内部――首途の居住スペースだ。

 いるのは異形達。 転生者用の巨大なグラスにこれまた同様に転生者用に度数を上げている酒がなみなみと注がれていた。


 首途 勝造はグラスの酒を一気に飲み干すと笑いながら苦労話をする。

 それに相槌を打っているのはカブトムシに似た異形の転生者――獣人国トルクルゥーサルブ国王、日枝 顕宗だ。 彼は大枚を叩いて転移魔石を個人用に購入し、偶にだがこうして首途の家に遊びにきているのだ。


 「実際、首途さんの所、オラトリアムで一番稼いでると思うっすけどね」


 そう言っているのはアルマジロに似た姿の転生者――石切 丈逸だ。

 同郷と言う事でこの面子に加え、アスピザルや夜ノ森で偶に集まってこうして飲んでいる。

 今回は都合がついたのがこの三人だったので、ラジオを聞きながらこうして話をしていた。


 『はい、では最初のお便りコーナーから行ってみましょうか! えっと、最初のお便りはラジオネーム『ただの修道女』さんからのお便りです。 ありがとうございます。 えっと――『いつも楽しく拝聴させて頂いております。 番組への要望などが欲しいと言う事でこうして文をしたためました。 どうでしょう!? ロートフェルト教会を大々的に宣伝して、教義を広く皆に伝え、ゆくゆくは世界に――』あ、すいません。 反応に困るので上を通して貰ってもいいですか? 勝手な事を言うとちょっと命の危険が――ひっ!? いや、無理でしょ!? 俺も一回しか会った事ないから良く分からないんすよ! どうやって信奉しろって――あ、ごめんなさい、土下座しますんでお姉さんに変な報告しないで下さい。 信奉できるように努力しますんでマジ勘弁してください』


 「そう言えば最近、ラジオ夜にもやるようになったんだなぁ」

 「おう、最初はへったクソなMCやったけど、最近はサマになってきたんかおもろなってきたで」

 「……いや、俺としては瓢箪山がもう気の毒でたまらねえですよ」


 三人が囲んでいる鍋ではぐつぐつとおでんが煮えていた。

 パクパクと食いながら話を続ける。


 「ってかこれ毎晩やってんのか? いいよなーオラトリアム。 俺の所でもラジオやってくれねーかなぁ」

 「いや、夜は週に二、三回ぐらいやな。何やったら今度一台都合したろか? まぁ、ファティマの姉ちゃんの許可が下りたらやけどな」

 「え? マジで? 金払うから頼むよ。 こっちに比べてウチ娯楽少ねーから退屈で退屈でしょうがねーんだ」

 「あ、じゃあこっちにも頼んますよ。 食堂にもあるんですけど個人用に欲しいっすわ」

 

 『はい、ではお便りコーナーはここまでにして次はお天気コーナーに入ります。 今晩から明日の昼までの天気ですが――』


 「そう言えば石切君って何やってんの?」


 日枝はゴボウを齧りながら石切に話を振る。 


 「あ、俺っすか、ダーザイン食堂で雑用やってますよ。 力仕事がメインですね。 ぶっちゃけ、給料安いけど気楽なんで楽しいっすよ」


 石切は卵を美味そうに咀嚼しながら返事をする。

 

 「ってかウチ人手が足りんから今度臨時でバイトに入らへんか? 手が全然足りんのや」

 「ボスの許可が出たらいいですけど、そっちってそんなに人手足りませんでしたっけ?」

 

 首途はジャガイモを齧りながら頷く。


 「そろそろ街灯の設置が始まるから、力自慢が欲しくてなぁ」

 「街灯? マジかよ。 それ路上に設置するタイプか?」

 「そうやな。 あちこちに建てまくるからめっちゃ明るなるぞ~」

 「あ、助かりますわー。 正直、夜に出歩くとき真っ暗だから足元怖いんですよ」

 「何だよー。 オラトリアムいいよなぁ、俺の所とえらく差が付いてるなぁ」

 

 日枝は少し酔いが回っているのかひたすらゴボウを齧って文句を言う。


 「あーゴボウ美味ぇ。 そう言えば街灯だけど、魔力どうすんの? 電池みたいに交換式? だったら維持するの面倒臭くね?」


 首途はそれを聞いて楽し気に笑う。


 「がはは、聞いて驚きぃ! 何と供給式や」

 「マジかよ。 じゃあ設置したらそれでオッケーなのか?」

 「おぅよ。 壊れん限り半永久的に動くぞ」

 「は? 何だよそりゃズリぃぞ! 何? 電線か何か引くの?」

 「まぁ、こっちは機密事項になるから詳細は言えんが、ちょっと無尽蔵に魔力を吐き出す玩具を手に入れてな。 そいつを利用して魔力を使い放題や!」

 

 『――以上となります。 あくまで予報なのでその点にご注意を。 ではそろそろ演奏コーナーに入ります。 曲のリクエストも頂いているのでその辺を中心に行っときたいと思います。 聞いてください曲名は――』


 「はー、来るたびに何か変わってるの凄ぇわ。 取り残されてる感でるなぁ。 あ、そう言えばローの奴は最近どうしてるんだ?」

 「兄ちゃんか? 隣の大陸で何かトラブっとるらしくてな、忙しそうにしとるで」

 「あ、それなら俺も知ってますよ。 ウチのボスが何か呼ばれてたみたいなんで……」

 「ウチのヴェル坊がえらく張り切りよってなぁ。 手を貸す条件に何か兄ちゃんに条件だしとったけど、何を企んどるのやら」

 「つーか、あいつあんな小舟で海越えて隣の大陸にいったのかよ」

 

 船で出発するローを見送った日枝からすれば、サベージに引かせるとは言えあんな小舟で海を渡るなんて自殺行為だと思ったが、あっさりと越えてしまったらしい。

 彼もローが死ぬとは思えなかったので心配はしていなかったが、目の当たりにするとやはり驚いてしまう。


 「お陰でこっちは大忙しやで。 妙な代物も仕入れたとかで解析の依頼も来とってなぁ」

 「向こうのトラブルって結構不味い感じなんですか?」

 「いや、そこまでは聞いてへんから分からん。 まぁ、兄ちゃんの事やし上手い事やりよるやろ」


 『はい、そろそろ時間が来たので本日の放送はここで終了となります。 番組への要望、感想、お便りなどは朝礼、昼礼、夕礼時に担当の者が投函ボックスを持っているので、そちらにお願いします。 全部は発表できませんが可能な限り目を通しますのでよろしくお願いします。 はい、では本日はこれで! お相手は瓢箪山 重一郎でした! またねー』


 いつの間にかラジオも放送時間が終了しており、時間もかなり遅くなっていた。

 日枝はいくつかのおでんを口に放り込んで咀嚼しながら立ち上がる。


 「――っと悪い、そろそろ時間だし帰るわ」

 「おう、また来いや」

 「日枝さんお疲れです」

 「例のラジオの件、許可が出たら頼むぜ」

 「おう、言い出しっぺやし、安く売ったるわ」


 日枝はそりゃ助かると言って転移魔石で帰って行った。

 代わりに魔石を埋め込まれた小さな石像のような物が現れる。 首途は石像を拾うと近くの棚に置いて再び酒とおでんを味わう。


 「じゃあ俺もこれ喰ったら引き上げますね。 例のバイトの件、ボスに聞いとくんで日当と業務内容を後で纏めといてください」

 「おう、頼りにしとるぞ」

 「ははは、こっちも楽しませて貰ってるんで頑張らせて貰いますよ」


 その後、二人は残ったおでんと酒を空にして解散となった。

 客が帰った後、後片付けをした首途は窓から外を見る。

 もう夜明けが近いのか空が白んできていた。


 「さて、仕事に戻ろか」


 そう言って彼は自室を後にした。

誤字報告いつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最近読み始めましたが、凄く惹き込まれる世界観です クオリティ高くて更新頻度が高いのは最高すぎます [一言] これからも頑張ってください!
[良い点] 男達の飲み会編。 次回はスズムシさんも入れてあげて……。彼、絶対愚痴吐きたいだろうから……。 日枝さんもどっかの主人公ばりにフットワーク軽い。転移魔石があるからって近所の飲み屋に行く感覚…
[良い点] 世界の存亡とは関係ない日常 主人公のパラサイト能力無くなっても転生者は日枝の王国に移住すればいいだけだから、それほど困りそうにもないな オラトリアム側は首途が取りまとめそうだし
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