705 「登山」
現在、五合集落を襲撃中で、レブナントの数もかなり増えたな。
二から四を潰している間に増えすぎて殲滅に時間がかからなくなってしまった。
ここの集落の名称なのだが、一合、五合から分かる通り、頂上から遠い程数が小さくなる。
全部で十二の集落があるが、数が増える程、奥まった場所にあると言う訳だな。
ベレンガリアも三つ目の集落――三合集落までしか行った事がないと言っていたので、この先の情報は事前に得られなかったが、ここの連中からは記憶が奪えるので何の問題もない。
巨大な狐の群れが元同族を襲ったり、同類に変異したりと中々に迫力のある光景だが、流石に五回目となると少し飽きて来たな。
暇だったので変異の失敗する物と成功する物の傾向を調べていたのだが、まず子供。
これは高確率で失敗する。 成功する個体もいるには居るが、極端に少ないな。
一応、差は何なのかと調べてみると身分だ。
ここは連中にとって神域との事なので身分の高い物は自然と神職の者が上の立場となる。
有り体に言うと神職の子供は変異しやすく、そうでない子供は失敗しやすい。
大人は基本的に大半は成功するが、全員ではない。
ざっと見た感じだが、成功率は七~八割と言った所か。
こちらも子供同様、身分が低くなればなるほど失敗しやすいように見える。
何故かは今一つ不明だが、変異後の姿が似ている事と関係があるのだろうか?
基本的にグロブスターの変異は方向性が本人依存なので、神職等の階級が上の奴ほどイメージが固まり易いのかもしれんな。
ちらりと集落の様子を見ると、狐型のレブナントがそれぞれ異なった尾を振り回して虐殺の限りを尽くし、顔見知りだった者の死体を貪る。
逃げ惑う者もグロブスターに寄生されて変異するか変異に失敗して破裂すると、行く末も中々バラエティーに富んでいるな。
俺は背の高い建物の上に陣取って食糧庫にあった木の実を食いながら高みの見物だ。
……この野苺みたいな奴、結構美味いな。
隣のサベージが物欲しそうな目をするので分けてやりながら次々と口に放り込む。
イフェアスは部下を連れて退路を押さえているのでここにはいない。
この様子では出番なしで終わりそうではあるが、逃げられる心配がないので安心して見ていられる。
どうもレブナント共は鼻も利くらしく、動く物が居なくなればひくひくと鼻を動かして貪欲に獲物を探し、見つけたら我先にと喰らいつくのだ。 ここまで来ると狐と言うよりは猟犬だな。
普通の生き物の生態を当て嵌めるのは違う気もするが――言うこと聞くし、まぁいいか。
だが、それとは別の問題が出て来たな。
増えすぎたのでそろそろ餌が足りなくなりそうなのが問題だが、これはどうした物か。
変異した後のレブナントは消耗が激しいので多少なりとも喰わせる必要があるからな。
取りあえず、総数は――五百行くか行かないかと言った所か。
これぐらい居れば充分だろう。
生体情報は抜いているので複製はそう難しくないから、これ以上は無理に増やす必要もないな。
よし、グロブスターは余った分を使い切って終わりにするか。
後は上にいる連中を皆殺しにして聖剣を頂くとしよう。
そう決めた俺は次へ向かうべくサベージに跨る。
空を見上げるとそろそろ日が暮れそうだ。 夕日が落ちかけており、辺りは少し薄暗くなっている。
こっちに到着したのが昼過ぎぐらいだった事を考えると、中々のペースで来ているな。
明日中にはソドニーイェベリに戻りたいので、朝になるまでには決着を付けるとしようか。
レブナント達の空腹は狂暴性を大きく引き上げ、続く六合集落から十一合集落までを瞬く間に殲滅して見せた。
七合集落辺りで異変に気付いた連中が迎撃しようと防備を整えていたが、流石にあのでかい狐共を止める事は難しかったらしい。
バリケードのような物も設置してあったが物の数秒で破壊すると、あっという間に雪崩れ込む。
空腹のレブナント達が嬉々として住民を喰い始めるのを見て、この手の連中はある程度は空腹にしておいた方が戦力としては扱いやすいのだろうかとどうでもいい事を考えながら集落が滅ぶ様を見つめていた。
取りあえず食糧庫を空にした後、次へと向かう。
それにしても歯応えがない。 チャリオルトと雰囲気が似ており、チャクラの様な変わった技術も扱っていたので一応は警戒していたのだがこうもあっさりと片付くのなら気にしすぎと言う事だろうか?
まぁいい、どちらにしてもやる事は変わらない。
さっさと先へ行くとしよう。 七合集落より奥は斜面が急になっており、道が険しくなっていた。
一応は最低限の舗装はされているが、明らかに人通りが少ない。
舗装部分は定期的に整備しているのか綺麗だが、通行の痕跡も少なすぎる。
それもその筈だ。 この先の八合集落より奥は侵入に許可が居る。
まぁ、手近の八合集落は七合集落で許可を得る必要があるらしいが、もう許可を出す奴がこの世にいないので問題ないだろう。 さっきレブナントの餌になったからな。
流石に侵入に手続きを要するだけあって周りの雰囲気が違う。
石段や灯篭っぽい照明器具の様な代物まである。 本当に神域とやらなのかは知らんが、雰囲気だけは出ているな。 周りを見ながら俺はのんびりと進む。
そろそろ地形的に逃げるのが難しい場所になって来た所で、イフェアスが先行するから後ろからゆっくり来て欲しいと言い出した。
特に断る理由もないので素直に頷いてサベージに適当に流させて後を追う。
レブナントも全て連れて行ったので、俺の周りには奴が置いて行った部下だけだ。
……始まったか。
先の方で戦闘の物と思われる轟音と衝撃が響き渡る。
住民の物と思われる悲鳴も音の合間に響くので、この様子だと到着する頃には終わってそうだな。
しばらくして八合集落に到着すると、予想通り片が付いていた。
イフェアスに確認したが防衛戦力的な連中が配備されていたらしく、ここまでの連中よりはマシな抵抗をしていたようだ。 まぁ、結果を見ればどの程度かの察しはつく、はっきり言って他の連中に毛が生えた程度しか差がなかったらしい。 要は雑魚だったと。
念の為、見ておきたかったので次の九合集落での戦闘は確認したが、確かに戦士階級といった風体の者達が居はしたが――確かに大した事ないな。
例の符を操ってはいたが、レブナントに全然効いていない。
動きも悪くはないが、あくまで他と比べればだ。 はっきり言って誤差レベルだな。
符の方を観察するが、威力も微妙だ。
使い方によっては便利な代物だとは思うが、こいつ等では駄目そうだな。
蹂躙される九合集落を眺めながら俺は連中に対する興味を失いつつあった。
誤字報告いつもありがとうございます。




