704 「狐群」
一合集落だったか。
立地的にも大変都合が良かったので、サベージやイフェアス達には退路を潰させ、俺はせっせとグロブスターを作成してばら撒いたと言う訳だ。
視線の先では文字通りの血祭が始まっていた。
変異に成功したレブナント達が手近な住民を襲い、失敗した奴は弾け飛んで成功した連中の餌になる。
こうしてみると中々興味深い事になっているな。
変異に成功した連中は細部は異なるが、どれも大型の四つ足獣――これは狐か何かか?
尻尾が妙に多いが形状は俺の知識にあるそれと酷似していた。
そう言えばさっき殺した連中も耳はそれっぽかったな。 ついでに言うのならここで祀られている守護獣とやらもでかい狐に似た生き物だった。
連中が後生大事にしている伝承とやらも中々に興味深かったが、今はいいだろう。
新たに生まれたレブナント達はこの土地の地元民を材料にしているだけあって、動きがいいな。
どうも個体ごとに尻尾の機能が違うのか、個体によっては尻尾の先端から炎や毒ガスのような物を噴射していたり、別の個体は尾を硬質化させて叩きつけたりしていた。
おいおい、殺しすぎるなよ。 寄生先が減る。
目的は殲滅ではあるが、戦力の調達も兼ねてるんだ。
集落のあちこちで悲鳴が上がるが、俺が魔法で音を消しているので他所に漏れる心配はない。
後は片付くまで集落の食糧庫でも漁るとしようか。
グロブスターを大量に生産したお陰で腹が減った。 食い終わる頃には掃除も終わっているだろう。
変異したり、変異した隣人に喰い殺されている住民を尻目に俺は村の倉庫へと足を向けた。
食糧庫にはそれなりの量が備蓄されていたので、あった分を全て平らげる。
食事が終わって外に出ると集落の制圧が終わっていた。
外では変異した元住民のレブナントが大量に動き回っている。
肉体の変化により、消耗したのか喰えそうな物を片端から貪っていた。
イフェアスに確認したが、逃げた奴は居ないようだ。 余ったグロブスターは――結構残ったな。
あぶれたり、変異に失敗したグロブスターが集まって指示を待っていた。
……まぁいい、次の集落で使えばいいか。
集落の位置関係とこの近辺の地理は頭に入っている。
得た知識から、交渉しに行った所で最初に応対に来た連中と似た対応となる事がほぼ確定した。
いちいち話をするのも面倒になったので、聖剣に関して――と言うよりここの連中は皆殺しにして奪ってしまった方が早いな。
方針を決めてしまえば後は気楽な物だ。 片端から集落を襲って住民を処理すればいいだけからな。
ちょうど足の付かない戦力を増やすつもりだったので、ついでにレブナントを増やすとしよう。
都合よくどれも似たような形状に変異してくれるので運用し易いのも良い。
取りあえず、次は近くの二合集落へ行くとしようか。
ンゴンガンギーニ。
モーザンティニボワール中央部に位置する山間部に生息している一族だ。
住民は狐の獣人が多く――と言うよりはほぼ全員がその種族だ。
さて、この連中は山に引き籠って何をやっていたのかと言うと聖剣と守護獣とやらの守護らしい。
聖剣は他所で散々情報を仕入れたので省くが、気になるのは守護獣とやらだ。
奪った知識によればここの連中の始祖らしく、姿を見た者は少なくとも俺の知った限りではいない。
どんな存在かと言うと壁画や伝承で伝えられている姿はでかい狐というのははっきりしている。
山ほどのでかさに複数の尻尾。 この辺は描いている壁画によって違うらしいが、六本だったり十本だったりするらしい。
……九本じゃないのか?
フィクションでは何か凄い狐と言えば尻尾は九本と良く目にするのだが……。
まぁ、はっきりしない物は考えても仕方ないな。
それでだ。 引き籠った連中は何をしたいのかと言えば、将来――例によっていつかは分からんが世界の危機が訪れるのでその時に備えて聖剣を守れと。
守護獣とやらはその危機に呼応して復活し、世界を守る一助となるらしい。
感想としては「またか」だな。 どいつもこいつも何がそんなに恐ろしいのか。
危機とやらの詳細が不明な以上、今一つどう危ないのか理解できんな。
辺獄が関係していると言うのは聞いたし、例の「在りし日の英雄」は確かに凄まじい強さだ。
だが、女王の反応を見る限り、連中がその危機とは考え難い。
……まぁ、心当たりがない訳ではない。
恐らくだが、あの闇の柱だ。 いきなり襲って来た木の枝の事もある。
タイミング的にも無関係とは考え難――いや、間違いなく関係あるだろう。
女王もそうだったが、魔剣が異様なまでに敵視している理由も気になる。
本音を言えばさっさと向かって片付けてしまいたい所だが、残念ながらそうもいかない。
理由は――今はいいか。
次は地形だが、この近辺は面白い形状をしている。 山岳地帯ではあるのだが、中央に巨大な山があってそれを囲む形で小さな山が連なるといった形になっている。
他と比べるとサイズ差がかなりあるので、地形としてはかなり不自然だった。
それが尚の事、連中の伝承とやらの信憑性を高める。
もしかして中央の山とやらは自然にできた物ではなく、その守護獣とやらが眠りにつくか封印されるかしてできた物ではないのかと考えられるからだ。
守護獣の存在に関しては特に眉唾とは思わない。
いないならいないで驚かないが、仮にいたとしても同様に驚かないだろう。
既にディープ・ワンやミドガルズオルムといった巨大生物を二匹も仕留めているのだ。
山のサイズを考えればその守護獣とやらは連中と同等か少し小さいぐらいだろう。
何もないならそれでもいいが、聖剣を奪う際に障害となるなら処分も視野に入れるべきか……。
それともう一つ、押さえておきたいものがあった。
懐からある物を取り出す。
さっきの爺さんが使って来た札だ。 所謂、符といった奴だな。
集落内をさらったが、大した枚数は手に入らなかったので気軽には試せないが、初めて見たので中々興味深い。
一度使うと燃えて消えるので使い捨てではあるが、この符の特徴は使用者が消耗しない点にある。
それだけなら魔石を使用した魔法道具と変わらないが、不思議な事にこの符からは魔力を感じないのだ。
魔力がないのに魔法が使える。 なら起動に必要な魔力はどこから調達するのか?
ついでに言うのならこの符、手触りから生き物の皮か何かが原料か?
これだけでは生体情報も読み取れないので、本当に皮なら大本の生き物が何なのかを知りたい所ではある。
奪った知識からは製法や原材料に関しては出てこなかったので、調べるにはこの土地の最奥にある集落――祭壇の類が存在する重要区画に行く必要がある。
聖剣を取りに行くだけのつもりだったのだが、思った以上の拾い物かもしれんな。
俺はそう考えながら山奥へと足を進めた。
誤字報告いつもありがとうございます。




