702 「山近」
今回に限ってはただの移動なので、観光の必要はない。
その為、サベージに本気を出させての移動となる。
イフェアス達には勝手について来いと言っておいたので、付いて来れるだろうし来れないなら後から来るだろう。
本気を出したサベージの移動速度は中々の物で、空中を蹴っての移動はあらゆる障害物を無視する。
かなりのスピードが出るので前面に魔法で強めの障壁を展開して、抵抗の類をやり過ごす。
特に風景を楽しむ気もないので視線は前方へ固定。
情報が少ない地域ではあるが、全くない訳ではない。
一応は、ベレンガリアから知っている限りの事は聞き出したので外で得られる情報は手に入れてはいる。
ンゴンガンギーニ。
このモーザンティニボワール内部では変わった立ち位置の部族だ。
国の中央にある山岳地帯は霊山や霊峰と言った獣人共にとっては信仰に近い敬うべき対象らしく、そこの管理をしている連中は神職――要は巫女や宮司と言った意味合いを持つ役職に当たるようだ。
その為、特別な用がない限り立ち入りは制限されているらしい。
聞いた話なので実際どうかは知らんが、大した魔物も生息しておらず資源類が埋蔵されていると言う事もないので資産としての価値も薄い為、手を出す事にメリットがないといった事も不可侵が守られている理由の一つだそうだ。
……まぁ、いかにもと言った場所だな。
聖剣が安置されるには手頃な場所と言える。
人も寄り付かないので、奪いに来る輩も居ない上に内部は魔法か何かは知らんが認識を狂わせる仕掛けがあるらしく案内なしでは奥まで辿り着けないとかなんとか。
ベレンガリアは研究目的で一度入れて貰った事があると言っていたが、聖剣の置いてある場所までは通されなかったとの事。
ちなみにガイドなしで入ると散々迷った挙句、同じ場所をぐるぐると回らされ、死ぬまで山中を歩き回る事になるとか。
こっちは洗脳した獣人共の知識だが、噂レベルなので信頼性には欠けるが参考にはなった。
ベレンガリアの話とも矛盾しないので、何らかの仕掛けが施されているのは間違いないだろう。
……見えて来たな。
基本的にこの国は平坦なので視線は通り易い。 その為、でかい山などは距離があればすぐに見つける事が出来る。
情報通りいくつかの山が連なっており、その中心に一際でかい山があった。 大体、一日ぐらいの距離か。
霧のような靄で覆われており、シルエットでしか分からないが輪郭が見えるので大きさは分かる。
雰囲気に覚えがあるなと記憶を探ると直ぐに思い出した。
チャリオルトだ。 全体的にあそこと感じが似ているなといった印象を受ける。
間違いなく霧に見えるだけで全くの別物なのだろうなと言うのは容易に想像がつく。
あの時はカンチャーナとかいう色欲の権能使いの所為で酷い目に遭ったが、今回はすんなりと済めばいいなと考えながら山の麓へと降り立った。
到着した所で振り返ると遠くにイフェアス達が見える。 いつの間にか引き離していたらしい。
あの距離なら数分もかからんか。
万が一にも聖剣使いが居た場合は最悪、撤退も視野に入れなければならないので状況次第だが、連中には盾になって貰おう。
ベレンガリアの話にはおかしな点はなかったので聖剣使いがいないという話を信じはしたが、俺は奴自身を信用していない。
もしかしたら奴が知らないだけで選定が済んでいる可能性もあるしな。
空から行ってもいいが、チャリオルトの時はそれで酷い目に遭ったので最初は素直に下から行くとしよう。 面倒になったら飛べばいいかと考えてイフェアス達を連れて山へと足を踏み入れる。
取りあえずあのでかい山を目指せばいいか。
サベージに歩かせつつ、イフェアス達は囲むように周囲を警戒。
俺も魔法で索敵したが、特に何も引っかからない。
魔剣は――特に反応しないな。 聖剣が嫌いみたいだから近くによれば何か反応するかとも期待したがそれもなし。
しばらく歩いたが今の所は特に問題なく進めている。
変化があったのは少し大きめの起伏を越えた所だろうか? サベージとイフェアスも異変に気が付いたのか足を止める。
「……警戒を。 恐らく同じ道を何度も通らされています」
イフェアスの言葉に俺は視線を地面に落とす。
……確かに同じ場所を歩かされているな。
理由は足跡だ。 背後にあるのは当然だが、先にもあるのは明らかにおかしい。
サベージの足跡は特徴的なので似た別の足跡と言う事はあり得ない。 何らかの手段で化かされているのは明らかだ。
経験上、怪しいのはさっきから立ち込めている霧かその辺の木に何らかの細工を施されていると言った所か?
なら対処はそう難しくないな。 前にいる連中をどかした後、魔剣を第二形態へ。
狙いは適当に前でいいだろう。 明確に何を壊せばいいのか不明な以上、目に付いた物を消せばいいか。
発射。 闇色の光線は木々を薙ぎ払い前方が瞬く間に焼け野原になった。
霧も消し飛び、ついでに視界も開けたので道も間違えようがなくなったな。
よし、行くとしようか。
霧は魔法的な物ではあったが、権能の類ではないのか触れても特に気分は悪くならない。
サベージやイフェアス達も特に体調に変化はなさそうだ。
視界も開けて大変歩き易くていいな。 木に細工していたのか霧を発生させる何かを仕込んでいたのかは知らんがさっきの攻撃で消えたようなので、同じ場所を歩いている感じはしない。
問題ないのなら次から何かして来たら視界に入った物を全て消せば問題ないな。
イフェアスが何故か何か言いたげにこちらを見ていたが、何も言ってこないので無視して先へ。
しばらく進むと明らかに人の手が入っていそうな道に出る。
……何か出て来るならそろそろか。
正直、隠れる気もないのでさっさと来てくれたほうが面倒がなくていい。
聖剣の正確な場所とかも知りたいし、色々と教えてくれる親切な奴が現れてくれると話が早いのだが……。
サベージが足を止め、イフェアス達が無言で戦闘態勢を取る。
やっと出て来たか。
カラカラと硬質な足音が複数――これは下駄か何かか?
現れたのは複数の獣人。 先頭は年寄りで他は大柄な男と小柄な女が数名。
服装は巫女や宮司が身に着けるような独特な衣装。
なるほど。 神職と言うのは間違いないようだな。 非常にそれっぽい。
「何用か? ここは神聖な領域。 いたずらに足を踏み入れてよい場所ではないぞ」
「ここに聖剣があると聞いてな。 貰いに来た」
聞かれたので素直に目的を伝えると、連中の目つきが途端に険しくなった。
誤字報告いつもありがとうございます。




