672 「組立」
続き。
反攻の段取りが決まったので後は出発するだけだ。
エイデンさんとリリーゼさんはいつでも出られる状態だったようで、準備はすぐに整った。
キタマさんも同様だけど、ミナミさんだけは少し挨拶したい相手が居ると少しの間だけどこかへ行っていたみたいだけど……どうしたのかな?
これは後で聞いた話だけど、どうもここに来て直ぐに仲良くなった男の子がいるらしくて偶に会っていたみたいだ。
最近、ちょっと元気になったのはその男の子のお陰だったのかな?
少なくとも彼女にとってはいい変化なので、それは歓迎するべき事だろう。
済ませて戻って来た彼女は表情こそ兜に隠れていたけどすっきりとした感じだった。
向かうべき場所は八つ目――センテゴリフンクスからは三つ目の砦。
グノーシス教団の軍勢は既に向かっているので、そうかからずに到着となるだろう。
僕達は先鋒を務める事になるので、時間に余裕があるとはいえ少し急いだ方がいい。
人数が少ないので身軽に動けるから早い内に先頭に追い付けるだろう。
教団側も全員向かう訳ではなく、主力は最も数の多い第六――アタルアーダルから来た人達が担う。
第九、第十は本国所属の聖騎士が多く、彼等は後方で後詰めを担当。
ヴァーサリイ大陸から来た人達は別動隊として動くとの事。
詳細を聞いたけど、いざという時の為の保険とだけ教えられた。
ただ、聖堂騎士の大半は主力として先鋒に参加するので、主な戦力はこちらに注ぎ込むようだ。
枢機卿は第六と肩書きについている三人はこちらに来るようで、第九、第十はセンテゴリフンクスで指揮を執り、残りは別動隊に組み込まれるようだ。
場所はそう離れていないので特に何事も起こらずに八つ目の砦に到着。
石材と鋼材を魔法で組み合わせて迅速に堅牢かつ巨大に築いた砦となっているとの事。
実際、通った門も全て頑丈そうな鋼材でできているようだ。
到着した後は少しの間、自由時間になったので連れてきた皆には食事などの休憩に行って貰い、その間に僕は空いた時間を使って砦に建てられている櫓に上って遠くを見ると、先の方から獣人らしき一団がこちらに向かっていた。 同時にグノーシス教団やヴェンヴァローカの兵達が事前に打ち合わせた通りに布陣していくのが見える。
こうして俯瞰してみるとバラルフラームを攻めた時とは比べ物にならない規模だ。
それだけにグノーシス教団の反応が理解できない。
何故こうなる前に手を打たなかったのかと疑問が消えないのだ。
……今、気にする事じゃないか。
僕は内心で首を振って余計な考えを追い出して視線を更に先へと向ける。
遠くには真っ白な霧。 話には聞いていたけど、凄まじい範囲だ。
広すぎて近くの山が隠れてしまって山頂が僅かに見えるだけとなっている。
辺獄種は制圧した場所を覆っており、霧に乗じて襲って来るらしい。
現状の確認も済んだので櫓を下りると、ヤドヴィガさんが小さく手を上げて近づいて来る。
僕は小さく会釈で返す。
「どうだった?」
何をとは聞かない。 分かり切っているからだ。
「話には聞いていましたが、実際に目の当たりにすると凄い光景ですね」
あれが単なる自然現象であるならもう少し新鮮な気持ちで見れたかもしれないけど、正体を知ってからだと恐怖に近い物を感じる。
それに――
「あぁ、見てないけどヤバいってのは伝わって来るよ。 聖剣もさっきから危ないって警告してきている」
――ヤドヴィガさんの言う通り、僕の聖剣もさっきから危険だと警告し続けている。
感じからバラルフラームの時以上だ。 それだけ向こうが危険だと言う事だろう。
「……勝てると思うかい?」
「分かりません。 本音を言うとぼ――私も確実に勝てるとは言い切れないので……」
思わず言葉が尻すぼみになる。
「だよねぇ……。 いや、すまないね。 どうも、不安になっちまって、さ」
普段は快活で不安な事は笑い飛ばす彼女だけど、今回ばかりはそうもいかないようだ。
僕は小さく首を振る。 こんな状況だ、誰だって不安になるだろう。
少し重い空気が僕達の間を漂うが、ヤドヴィガさんはちょっと慌てたように取り繕った笑みを浮かべる。
「あ、いや、本当にすまないね。 そうだ! グノーシスの連中が砦の外で何かを組んでいるみたいなんだけど、何か知っているかい?」
急な話題の切り替えについて行けずに僕はおや?と首を傾げる。
何だろう? 特に聞いていなかったけど、秘密兵器か何かだろうか?
心当たりがなかったので首を振る。
気になったので彼女と一緒に砦の外に出ると、確かにグノーシスの聖騎士達が何かを組み立てていた。
形状は教団の象徴の紋章を象った柱に無数の魔石が複雑な文様を描くように埋め込まれているのが見える。
……祭壇?
最初に抱いた印象はそれだった。
組み立て作業を行っている聖騎士達を指示しているのはこの場に似つかわしくない少女だ。
枢機卿が纏っている上等な法衣に綺麗な金髪を綺麗に結い上げられていた。
その姿には見覚えがあり、顔合わせの時に会った事はあるけど言葉は交わしていない。
名前は確か――
「あら、聖剣の担い手のお二人ですか? 貴女方が前線に向かうのは少し後と聞いていましたが?」
気付いた彼女が不思議そうにこちらを見つめていた。
「あ、いや、そっちで何か組み立てているのが見えて気になってね」
「ごめんなさい。 邪魔をしてしまいましたか?」
手を止めてしまった事にヤドヴィガさんは少しバツが悪いといった表情をし、僕も気を遣わせちゃったかなと少し後悔した。
彼女はいいえと首を振る。
「問題ありませんよ。 私の仕事は組み上がった後の確認なので実は暇だったので、良かったら話相手になってくれませんか?」
少女は小さく笑みを浮かべ、少しはっとした表情になる。
「顔は合わせていましたが名乗っては居ませんでしたね。 グノーシス教団第六司教枢機卿ヘオドラ・キルヒ・オーラム・カーカンドルです。 テオドリックはああ言っていましたが、この戦いが終わるまでは私達は志を同じくする同胞。 仲良くしましょう?」
彼女――カーカンドル枢機卿は改めて名乗ると笑みを浮かべる。
それは歳相応の可愛らしい物だった。
誤字報告いつもありがとうございます。




