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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
20章

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660 「消沈」

新しいレビューを頂きました! ありがとうございます。


続き。

 面倒なキタマとの話が付いたので、残りはミナミへの伝達になる。 

 彼女はさっきまで買い出しに出ていたので、そろそろ戻ってきている頃だろうと案内された先に居た。

 当初は随分と頭が固い女だとは思っていたが、今では見る影もない。


 全身鎧を身に纏っていても分かる程に力なく落ちた肩、消え失せた覇気。

 惰性で生きていると言っても過言ではないぐらいにその動きからは精彩を欠いていた。

 

 ……これは本当に大丈夫なのか?


 「三波さん!」


 名前を呼ばれたミナミはゆるゆるとこちらを振り返る。 

 ほ、本当に送り出しても問題ないのかコイツは? さっきのキタマとは別の意味で心配になるな。

 カサイは小さく溜息を吐いて彼女に近寄る。


 「新しい仕事を頼みたい。 行けるか?」


 キタマの時と打って変わってその声音は優しい。 明らかにどう扱って良い物かと困っている感じだな。

 完全に腫れ物扱いだ。 ミナミは無言で聞く体勢を取る。


 「……何だ?」


 絞り出された声は驚く程にか細い。


 「隣の大陸で聖女の護衛だ。 聞いた話だがアンデッドの群れが派手に暴れているらしい。 詳しい話は返事を聞いてからになるが――どうだ?」

 「……分かった。 今の私に何が出来るかは分からんが精々、盾ぐらいにはなるだろう」


 無駄に頑丈だしなと自嘲気味に笑う。

 カサイはどう反応した物かと微妙な感じに手を持ち上げかけて下ろしていた。


 「よし、もう少ししたら北間が戻って来るからその時に詳しい話をするぞ」


 ミナミを連れてそのまま応接室へ。

 しばらくすると巡回を終えたキタマが戻って来た。

 揃った所でカサイが本題に入る。 ジャスミナから聞き出した情報の共有はもう済んでいるので、頭に入っているようだし任せても問題ないだろう。 俺は後ろで聞いていればいいか。

 

 「まずは基本的な説明から始める。 さっきも説明した通り、今回の仕事は聖女の護衛。 行先は隣のリブリアム大陸中央部にあるヴェンヴァローカという国だ」


 机の上にジャスミナに書かせた簡単な地図を広げる。


 「これはざっくりとした物だから、参考程度に留めておいてくれ。 次に経緯の説明に入る。 お前等は現場に出ていたから前に聖女を筆頭に聖堂騎士がアンデッド退治に出た一件は聞いているな? 要は向こうでもそれが起こっているらしい。 本来なら現地の連中に任せておけば良い話だが、どうも旗色が悪いらしく聖女――というよりは聖剣の力が必要らしい」


 二人は黙って聞いている。 二人とも宿舎内なので兜を外しており素顔が露わになっているが、カサイ同様さっぱり表情が分からんな。

 

 「詳しい動きは現地に行ってからになるが、基本的にお前等の役目は聖女を辺獄の領域って所まで送り届けるまでの護衛だ。 聖女の目的はそこにある魔剣ってのを守っている「在りし日の英雄」って言う化け物の始末だそうだ」


 そう、ジャスミナの依頼は辺獄の領域に端を発する騒動の解決。

 何を以って解決とするか? 答えは魔剣の回収だ。 その際の障害になるであろう辺獄種の突破と「在りし日の英雄」の撃破。 その二点に収束する。


 マーベリックの話が本当なら異邦人は辺獄へはいけないとの事だが、入るまでの露払いぐらいはできるだろう。 その点はしっかりと説明しているのでカサイの補足が入る。


 「ここで注意して欲しいのが、俺達転生者は辺獄には入れない。 詳細は不明だが、入ってしまうと何か不味い事が起こるらしい。 その為、絶対に足を踏み入れる真似だけはするな」


 一体何が起こるのかは皆目見当もつかないが、グノーシス側が戦力になる筈の異邦人を連れて来ていなかった時点でその話の信憑性は高い。

 なら、行かせなければいいだろうと言いたい所だが、あの領域の戦いでは聖堂騎士ですら上位の者でもないと足手纏いになる。 俺は論外、辛うじてグレゴア辺りなら援護ぐらいはできるだろうが、残った連中では厳しいと考えていた。


 仮に行かせた所で聖女の相手をしながらついでにやられるのが目に見えている。

 バラルフラームで信じられないぐらいあっさりと聖堂騎士達が殺されるのを見れば尚更だ。

 本来なら行かせる事自体に反対なのだが、本人が行く気になっている以上はどうにもならない。

 

 エイデンとリリーゼも世話役という名目で送り込むが、いざとなれば聖女を連れて逃げろと言い含めてある。 そうなれば例の転移魔石とやらも盗み出させる必要があるか。

 場所が場所なので分かり易い逃走手段がそれしかないのが厳しいな。 最悪、船で戻らせる事も覚悟しなければならん――あ、痛ててて、胃が、胃が!


 そっと腹に手を当てて治癒魔法で癒す。

 一応、前払いの報酬として転移魔石とやらの製法を供出させて、今は解析に回しているがすぐに用意するのは難しいとの結論に達した。


 理由は作成に当たって式を刻む魔石に求められる品質が極めて高いからだ。

 ジャスミナが所持していた物が小さい理由も同じで、あの大きさの物しか用意できなかったのだろう。

 

 魔石――魔力を溜める事の出来る石で魔法の発動媒体として広く普及している代物だ。

 当然ながら石と言って一括りにできる物じゃない。

 品質という物が存在し、それによって刻める魔法の質が大きく変化する。


 さて、その品質を左右する物は何か? 答えは不純物の有無だ。

 魔石の入手経路は複数あるが最も多いのは鉱山からの発掘となる。

 良質の魔石が採れる鉱山は数が少なく、そこですら大半の埋蔵魔石に微量の不純物が混ざっていると聞く。


 その為、転移魔石を作成するには不純物が混ざった部分を削ぎ落す必要が出て来る。

 結果、大した大きさにならない。

 そして転移魔石は一度に転移できる空間は大きさに比例するので、ジャスミナが持っていた物では数名がやっとと言う訳だ。


 こちらでも何とか作成したい所ではあるが、この水準の魔石となると調達が難しい。

 手に入らない事はないが、出回っている物は既に使用されているので作成には使えん。

 そうなると持っていそうなのは――オラトリアムか。


 あそこの尋常じゃない資金力を以ってすればいくらでも――。


 ……いや、確か連中魔石関係も扱っていたな。


 そう考えると連中は自前の鉱山でも持っているのかもしれない。

 ティアドラス山脈の山々の中に魔石が埋蔵されている山があるのかもしれん。

 一番手っ取り早いのはあそこから仕入れる事になるが、どうした物かねぇ……。


 無難なのは素直に情報を吐く事だが、あそこに転移の技術をくれてやるのはいくらなんでも危険すぎる。


 ……そうなるとあそこに頼らず、秘密裏に魔石を仕入れる方が良いか。


 オラトリアムとファティマの事を考えるだけで胃が悲鳴を上げる。

 激痛と不快感を全身にまき散らす胃を魔法で宥めながら、俺はこっそりと溜息を吐いた。

誤字報告いつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] エルマンさんカサイと一緒に飲みに行って元気だして…
[気になる点] そういえば今気づいたんですけど転生者組って〝トウ〟ドウ カ〝サイ〟〝ミナミ〟〝キタ〟マで東西南北になってるんですね〜 [一言] 頑張ってください
[気になる点] この時期ってローは何してるんでしたっけ? [一言] 転生者たちに不安しか感じない(>_<) 特にキタマ…
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