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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
4章

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66/1442

65 「学園」

別視点。

 日が昇り一日が始まる。

 俺――リックは借りている自室で目を覚ました。

 身を起こして軽く体を捻って解す。


 完全に目が覚めた所でベッドから出て着替える。

 その後、支給された軽鎧を身に着け、同じく支給された剣を腰に差して準備完了。

 部屋から出て階下へ降りる。


 「おはようリック今日も早いね」


 降りた先ではここの大家兼店主のアンジーさんが店の開店準備をしていた。

 

 「おはようございますアンジーさん」


 ここは『懐古亭』1階部分は昼は食事処、夜は酒場。

 2階部分は下宿として貸し出されており、俺はここの一室を借りて住まわせてもらっている。

 部屋代は驚くほど安く、俺みたいな稼ぎの少ない『学生』が何とか生活できているのは彼女のお陰だろう。

 

 俺の肩書は『神学生』。

 この街、ノルディア領の中心『オールディア』。

 そこにあるグノーシス神学園。その学生だ。


 神学園はグノーシスの聖騎士、または神官になる為の登竜門だ。

 そこでは剣、魔法等の戦闘技能に加え、算術や歴史などの勉強も教えてくれる。

 それも無料で!だが、学園に入るには高難易度の試験に挑まなくてはならない。


 合格できるのは全体の約2割。

 その中で上位の成績を修めれば、何と生活費まで支給してくれるのだ!

 つまり、学園で上位の成績を維持すればお金が貰えて将来は聖騎士になれると言う素晴らしい将来が待っているのだ。


 聖騎士は家柄や実績が求められる国の騎士団とは違って、学園にさえ入ってしまえば道が誰にでも開かれるので、俺のような経験も実績も無い若造が出世の可能性がある。

 それを夢見てノルディアを目指し、この国に3つしかない学園の試験へと挑んだのだ。


 結果は滑り込みではあったが合格。

 受験者数120人中合格者は18人で、俺の順位は16位だった。

 試験内容は座学と魔法戦闘、直接戦闘の3種目。


 その3種の合計点が一定以上だと合格となる。

 魔法を捨てて座学に全てを賭けて挑み、何とか合格を勝ち取れた。

 そして、合格は出来たが生活費を何とかしなければならなかった時に、声をかけてくれたのがアンジーさんだった。


 格安で下宿先を提供する代わりとして、夜に店の手伝いをする事。

 この『懐古亭』は夜は酒場として営業しているが、酒場と言う店の性質上、乱暴な客が多いので抑えてくれる男手が欲しかったとの事。


 俺の場合は学生と言う身分が保証されているので、信用できるとはアンジーさんの言。

 数年前に旦那さんを亡くして、俺が来るまで店は娘と2人で切り盛りしていたので、信用できる働き手が欲しかったようだ。


 「あ、リックーおはよー」

 「おはよう。サニア」


 噂をすれば出て来たな。

 彼女はサニア。アンジーさんの娘で、ここの看板娘だ。

 薄い赤の髪と幼さが残った顔はとても可愛い。


 「こんな早くから学園なんていつも大変ね」

 

 外を見るとようやく日が昇って明るくなったと言った所だろう。

 

 「そうでもないさ。サニアだって店の手伝いでこんな時間に起きてるじゃないか」


 俺は「えらいえらい」と言いながらサニアの頭をなでる。

 サニアは顔を赤くしながら「や、やめてよね」と言って手をやんわりとどける。

 彼女の反応に癒された俺はそろそろ出る事にした。


 「じゃあ、俺行くから」

 「うん。勉強頑張りなさいよー!」

 「いってらっしゃい。無茶はしちゃダメよ?」

 

 俺は行ってきますと言って、外へと飛び出した。

 



 学園に着いた俺はその荘厳な建物を見て気を引き締める。

 敷地内に大小の教会が並び、その奥に一際大きな建物が見えた。

 教会の佇まいをそのままに学び舎として作り上げた芸術品だ。


 俺は中に入り自分の教室を目指す。

 教室内には先に来ている奴がすでに数名おり、各々勉強したり机に突っ伏して眠っていたりしていた。


 「おっすリック!今日も早いな」


 その内の1人が軽い調子で声をかけて来た。

 親友のガーバスだ。


 「お前には負けるよ」


 俺は苦笑しながら荷物を机の上に置いてから自分の…ガーバスの隣の席に着く。

 

 「今日の授業何だっけ?」

 「朝はいつも通り体力作りと模擬戦。昼からは魔法の構築訓練だ」

 「うわー。俺、魔法の陣構築、苦手なんだよな…」


 ガーバスは頭を抱える。

 こいつは直接戦闘はかなりの腕だが、魔法関係はからっきしだ。

 

 「対魔法実習の方が気楽なんだよ」

 

 ガーバスは体を俺の方へ向ける。


 「なぁなぁ、昨日仕入れた話なんけどよ!」

 「今度は何だ?」

 「何日か前の話なんだがな。バイセールって所、知ってるか?」


 バイセール?どこだっけ?


 「あー…ティラーニっつたら解るか?」

 「………」

 「お前な、正式に騎士になったらあちこち回らされるんだから多少は覚えとけよ」

 「うるさい。有名所は網羅している。…でどこだ?」

 「ディロード挟んで西にある領だよ」


 ガーバスは「流石にディロードは知ってるよな?」と付け加えた。

 馬鹿にするな。隣だろ?それぐらい知ってるぞ。

 確か闘技場と迷宮で有名な所だろ?

 

 「…で?そのティラーニとやらで何があったんだ?」

 「新種の魔物が出たんだとさ」

 「新種?」


 それは穏やかじゃないな。

 新種と言う事はどれだけ危険かすら分からない。

 俺ももしかしたら将来出くわすかもしれないし魔物の情報は意識して集めている。


 「あぁ、しかもその新種なんだがな。驚くなよ?バイセールのど真ん中で暴れたらしいぜ」

 「街のって事か?」

 「あぁ、街のど真ん中だ」


 俺は一瞬「冗談だろう?」と思ったが、ガーバスの様子からすると嘘は言ってないのだろう。

 

 「数は?」

 「一匹って聞いてるな」

 「何…それで被害はどれぐらい出たんだ?」

 「その辺ははっきりしてないんだけどな。10や20じゃ利かなかったらしいぞ」

 「それ、かなりの大事じゃないのか?」


 魔物が単独で街を襲う?

 普通に考えると有り得ない話だ。

 逆の立場で考えると分かるが、魔物の群れに1人で飛び込むような物で危険を通り越して自殺行為としか思えない。


 魔物は確かに大半は知能が低い。

 だが、それを補うべく本能と言う物が存在する。

 それによって危険から命を守り、生き抜いていると。


 天敵である人間の街をそれも単独で襲うなんて話は聞いたことがない。

 それこそ何者かに操られてそう仕向けられた…か?

 

 「お前はどう思う?」

 

 俺は考えていたことをそのまま言う。

 ガーバスは俺の意見に何度か頷く。

 

 「操られてたってのは面白い発想だな。実際、数は少ないが魔物使い(ビースト・テイマー)なんて名乗って魔物を使役している奴もいるぐらいだしな。それにだ、面白いのはここから何だよ」

 「何が?」

 「その魔物なんだがな。翌日には討伐されたんだよ」


 翌日?随分と時間がかかったな。


 「…でだ、討伐したのは黄2級のパーティーだったんだと」

 「黄?随分と階級の低い奴にやられたんだな」

 「そう思うだろ?その連中な、どうも地竜を手懐けて使役しているらしいんだ」

 「…はい?」

 

 地竜?それってあれだろ?どっかの草原地帯に生息している、足の速い肉食の魔物だろ?

 自分達以外の喰えそうな奴見かけたら即襲ってくるって話の?

 それを手懐ける?


 「冗談だろ?」

 「いや、本当らしい。男女2人が地竜に乗って街に入ったのを何人も見ている」

 「どんな魔法を使ったのやら…つまりは使役した地竜に仕留めさせたって事か?」

 

 ガーバスは眉を顰めて押し黙る。


 「どうした?」

 「そうかもしれないが、俺は別の事を考えている」

 「…と言うと?」

 「俺が考えるにその冒険者はどうやってかは知らんが魔物を操れるわけだ」

 「そうだな」

 「ならその襲って来た新種を操ってたとしたらどうだ?」

 

 おいおい、それは…。


 「自作自演(マッチポンプ)って言いたいのか?」

 「あぁ、低級の冒険者が手っ取り早く評価を上げるのにはいい手じゃないか?」

 「…だとしたら許せないな」

 「怪しいのは確かだろ?」


 もし見かけたら気を付ける事にしよう。

 

 「それにしても流石だな冒険者。その話もギルドで仕入れたのか?」

 「あぁ、こいつがあると何かと便利なんでな。お前も取ったらどうだ」


 ガーバスは首から下げた青いプレートを見せる。

 

 「生活費も馬鹿にならないからな。正式に聖騎士になったら続けられないが、そこそこ稼げるから何かと便利なんだよ」

 「俺は店の手伝いがあるからな」

 「あー。そうだったな。サニアちゃんだっけ?あの子可愛いからなー。アンジーさんもかなりの美人だし、俺もあやかりたいもんだぜ」

 「馬鹿、そんなんじゃないよ。いつも世話になっているから恩返しするのは当然だろ?」

 

 アンジーさんも美人だと思うしサニアは可愛いけどそんな下心は一切ない。

 

 「お前、ただでさえ羨ましい…と、来たか」

 

 後ろから足音がして、肩が軽く叩かれる。

 

 「おはよー。リック、ついでにガーバス」

 「おはようレフィーア」

 「おはようさん。ってか俺はついでかよ」

 

 声をかけてきたのはレフィーア。

 俺達と同期で入った美少女だ。長い金の髪と勝気そうな瞳は青。

 隣の席になった縁でよく話すようになり仲良くなった友人だ。


 「なんの話?面白い話だったら私も仲間に入れなさいよ」

 

 ガーバスは苦笑。

 

 「残念ながらレフィーアお嬢さんのお眼鏡にかなうかは微妙な話だよ」

 

 俺はガーバスに聞いた話を簡単にレフィーアに聞かせた。


 「何そいつら。魔物嗾けて、自分で退治して点数稼ぎとか最低ね」


 レフィーアは鼻息を荒くする。

 

 「ま、そうと決まった訳じゃないから何とも言えんがな」

 「でも、怪しいのは確かでしょ?そもそも都合よく街に現れた時点で黒よ黒」

 

 ガーバスは再び苦笑。


 「一応、距離はあるがそう遠い所の話じゃないし、そんな連中がいたら注意しろって話だ。後、こっちが本命の話なんだが」

 「何だ?まだあったのか?」

 

 ガーバスは表情を引き締める。


 「ここ、オールディアで起こっている話だ。まだ、そこまで表沙汰にはなってないんだが、行方不明になっている人が結構いるらしい」

 「行方不明?家出とかじゃないのか?」


 俺が聞き返すとガーバスは頷いて続ける。


 「女子供を中心にここ数日前から何人かいなくなっているらしい」

 「何人かと言う事は今の所数は多くないって所かしら?」

 「あぁ、今の所は数人だが、それと合わせてきな臭い話があるんだ」

 「と言うと?」

 「ダーザインだ」


少しの間視点そのままです。

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― 新着の感想 ―
[一言] マッチポンプねぇ……可能性としてはありうる話だけどもいささか決めつけが激しくて短絡的だな まあ、別に教育を受けているわけでもない一般戦闘職ならこんなもんか
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