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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
3章

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62 「奴隷」

前回から視点変わらず。

 僕は手近に居る冒険者を鞘に納めたままのククリで殴りつける。

 殴られた冒険者は崩れ落ちる。後頭部への一撃は冒険者の意識を刈り取ったようだ。


 このやり方なら動きを封じられるのか。

 他の操られている冒険者の一部が僕に狙いを替える。

 

 「助けてくれ…」

 「止めてくれ…」


 口々に助けを求める冒険者達の攻撃を掻い潜って、膝を砕き、顎を打ち抜く。

 やはり動いている相手を狙うのは難しい。

 

 「おい…あの化け物、こっちに来ないぞ」

 「よし。俺達もやるぞ」

 

 魔物が彼と戦闘に入ってこっちに来なくなった事で無事な冒険者達が動けるようになったようだ。

 殴りつけたり威力を落とした魔法で動きを封じ、攻勢に転じた。

 その隙に僕は意識を失った冒険者に駆け寄って体を調べる。


 …確か首の後ろに何かしてたし原因があるならここか。


 首の後ろ…うなじの辺りを見ると何か牙のような物が刺さっている。

 これか?引き抜こうとしたが抜けない。

 仕方がないので短剣で抉り取った。


 「首だ!首の後ろに刺さってるのを引っこ抜け!」


 近くの冒険者達が僕のやった事を見て他へ指示を飛ばす。

 

 「くそっ!抜けねえ!」

 「なら殴って気絶させろ!」

 「おい!加減してくれ!痛みはあるんだぞ!」

 「面倒くせえ!手足圧し折っちまえ!」

 「勘弁してくれ!」


 あの様子なら大丈夫だろう。

 

  『――――。――!――――――!』

 

 魔物の悲鳴のような物が後ろから響く。

 僕が後ろを振り返ると、魔物が手足を失って全身に傷を負っていた。

 対する彼らは無傷だった。


 …え?もう追い詰めたの?


 驚きはしたけど彼なら何とかしそうな気はしていた。

 取りあえずこっちは何とかなったので「何とかなった」と言って手を振って置く。


 後ろで爆発音などが聞こえたから激しい戦闘が繰り広げられているのは予想が付いたが、ここまで一方的な事になっているとは思わなかった。

 少し間を置いて操られた人達が何人か現れる。


 増援?仲間を呼んだのか?


 とは言っても数人と言った所で大した数じゃない。

 見ている間に他の冒険者達が次々と取り押さえられている。

 視線を彼の方に戻すと、魔物に剣を突き立ててとどめを差している所だった。


 魔物は動かなくなると死体が崩れて跡形もなくなる。

 僕は目を見開く。死体が消えた?

 魔物と銘打ってはいても生き物であることには変わりはない。死ねば屍を晒すのは道理だ。

 

 何だったんだ?


 消えたので仕留めたかは疑問ではあるが、少なくとも脅威は去ったと考えていいのかな?

 僕は一先ず何とかなった事を素直に喜ぶことにした。




 「お疲れ。大将」


 俺は声をかけて来たペギーに適当に返事をして椅子に座る。

 ここはバイセール内の酒場だ。

 あの後、俺はギルドで報告。ハイディは宿の手配。ペギーにはここで席を取るように言っておいた。


 ちなみにサベージはギルドに預けて来た。

 職員に金を渡しておいたので料金分の面倒は見てくれるだろう。

 これから酒場に行くのを察して「え?俺は?」という顔をしていたが無視した。


 お前はその辺に落ちてた物を拾い食いしてただろうが。

 俺達が蜘蛛怪人を仕留めてからだいたい半日ぐらいが経過している。

 街の機能はほぼ回復していた。現在は死体の処理や建物、施設の修理を行っているようだ。


 ギルドにしつこく話を聞かれたので随分と時間がかかってしまった。

 当の蜘蛛怪人の死骸が跡形もないので仕留めた事まで疑われてしまい、自分で報告しに行った事を後悔したぐらいだ。ハイディかペギーに押し付ければよかったな。


 結局、生き残った複数の冒険者の証言で、認められはしたが長い時間拘束されてしまった。

 

 「んじゃぁ。お嬢さんが来る前にやる事やっとく?」

 「そうだな」

 

 今の内に買い物を済ませておくか。

 

 「お前も来い」

 「あいよ」


 席を立って店から出る。

 

 「営業している店はありそうか?」

 「どうだろ?ただ、全部は動いてないと思うから選り好みはできないと思うけどね」


 その辺りは気にならんな。数さえ揃えばいい。

 

 「問題ない。行くぞ」


 取りあえず比較的大きな店に入る。

 中は武器屋等の普通の店舗のようにカウンターがあり、その前に椅子が並び、周囲には体格のいい男が何人か武器を見せびらかすように抜き身で控えている。


 何とも分かりやすい警備員だ。

 俺達はカウンターの前の椅子に座る。

 少しすると店の……店主か?小太りのおっさんが奥から出て来た。


 「いらっしゃいませ。本日はどのような奴隷をお求めですか?」

 「労働力になりそうな奴とそいつらの面倒を見れそうな奴。できれば数がいる」


 店主は目を細める。

 

 「では、体力のある男と身の回りを世話できる女できれば数がいる…と」

 

 店主は紙束を取り出しペラペラと捲り出す。

 

 「そうですね…お急ぎですか?」

 「あぁ、すぐに必要だ。用意できる分でいい。無理なら他を当たる」

 

 店主の眉が微かに動く。

 吹っかけられてもたまらんので、あえて突き放すように言う。

 

 「すぐに用意できる分は男は13人、女は25人まで用意できます。こちらが詳細の目録になります」


 紙束から数枚抜いてこちらに渡す。

 俺は受け取った紙束に目を通す。

 ふむ、奴隷の簡単なプロフィールが書いてあり、年齢、体格、性格、保有技能、経歴…最後に値段が記載されている。


 それを見て、俺は何とも微妙な気持ちになった。

 この数字がこいつ等の命の値段か。

 えっと…やはり値段にバラつきがあるな。


 男の方は…元騎士、戦闘に自信あり。他は商店経営経験者、盗賊、色々居るな。

 やはり戦闘に長けた奴は値段が高い。 

 話を聞いた限りだと単純な肉体労働みたいだから、体力だけあれば…まぁ、無くても改造するから構わんがな。


 女の方は…あぁ、なるほど範囲が広いから人数が多いのか。

 男と同じように戦士職と…こっちは世話役に主婦…後は元娼婦が多いな。

 値段は…歳食ってる奴はやっぱり安いな。

 

 「ちなみに他はどんなのがあるんだ?」

 「こちらはお客様の条件に見合わない奴隷ですが…」

 「いいから」


 店主は首を傾げながら紙束の残りを寄越してくれた。

 どれどれ…うわ高っ。何だこれ。

 文字通り桁が違う値段が並んでいた。

 

 ってか何でこんなに高いんだ。ほとんど女だな。

 なになに。エルフで処女…あぁなるほど、そう言う奴か。

 エルフ無駄に高いな。非処女でも眩暈がしそうな値段だ。


 男は…リザードマンとか居るな。この手の奴は珍しいらしいし高い訳だ。

 他は…おや?

 残りに目を通すと別の意味で桁が違う数字が並んでいた。


 安い。それこそダース単位でエルフ1人と釣り合うよう値段だ。

 完全に捨て値だな。えっと詳細は…胸の病、要は肺炎か何かか?

 他は自傷癖あり、定期的に自殺を試みる、年齢が行き過ぎている、体に欠損がある等々。


 あぁ…この辺はよく聞く話だな。

 定番だと訳あり美少女が混じってて俺が買ったら大化けしてヒロインっぽくなるとかあるんだろうが………このリストを見る限りじゃそんなチョロい女はいなさそうだな。


 ざっと目を通して、最後の一枚を見る。


 「なんだこれは?」


 思わず声が漏れた。

 値段がない。…と言うか逆に金を払うとまで書いてあるぞ。

 俺は店主に説明しろと視線を送る。


 店主は額から汗を流す。

 

 「えっとですね。これらの商品は私共の方でも処分に困っているものでして…。正直、檻に繋いで死ぬのを待っている有様でして」

 

 店主は「処分して頂ければ報酬をお支払いします」付け加えた。

 俺は詳細に目を通す。


 蛇女(ラミア)

 非常に狂暴で、近寄った人間は手あたり次第に喰い散らかす。

 知能は低く、意思の疎通は不可能。


 「数年前にとある金持ちの依頼で大枚叩いて捕らえたのですが…その、引き渡し時に依頼人が「味見」をしようとしてですね…」

 「……」

 「結局、売れ残ってしまい、処分もままならない状態でして…」

 

 処分するにも高ランクの冒険者を雇わないとどうにもならず、そんな高額な報酬を吐き出すぐらいなら文字通り飼い殺しにした方がましだが、スペースを取られるのも困るのでできれば処分したい…と色々困っているようだ。仕入れに結構な金を使ったのに結局売れない所か、赤字を作り続けている不良債権だ。


 さぞかし邪魔だろうな。

 話によると弱ってはいるがいつ死ぬか怪しいそうだ。


 「そうか。ならこいつを引き取る代わりにこの死にかけてる連中全員を無料(タダ)でくれ」


 どうせ支配下に置いた上で修理するんだ。

 数がいれば少々質が悪くても文句は言わんだろう。

 

 店主は苦い顔をする。

 

 「……あの、話を聞いてましたか?あの化け物は…」

 「取りあえず見せてくれないか?」

 「はっきり言いましょう。あんたと似たような事言ってくたばった奴は掃いて捨てるほどいるんだ。人の忠告を…」

 「俺は見せろと言ってるんだが?」


 店主は拳を振り上げかけて…下ろす。

 

 「…分かりました。こちらへどうぞ」

 

 好きにしろと言わんばかりに奥へ案内してくれた。

 案内された奥の部屋は…言っては悪いがペットショップに似ている。

 檻が大量に並んでおり、中に奴隷が押し込まれていた。


 まぁ、何と言うかどいつもこいつも目が死んでいる。

 人生に絶望している目だ。

 俺は店主の後ろを歩きながらぼんやりと檻を眺めている。


 大量の檻の前を通り過ぎて階段を下りる。

 下りた先からはすえた臭いのする空気が流れてきた。

 店主は布で鼻を覆っている。


 「酷い臭いだねぇ」


 ペギーはそれだけ言って肩をすくめた。

 地下はどうも廃棄予定や価値の低い奴隷を放り込んであるようで、衛生状態は上と比べて随分と酷い。

 中に居る連中も死にかけているのが多く、好き好んで居たい場所じゃないな。


 「この中です」


 奥の一際大きな扉の前で足を止める。

 扉にはでかい魔石が5つも嵌まっており、恐らくこれが中に居る奴を外に出さない仕掛けだろう。

 俺は軽く息を吐く。


 「確認するが、中の蛇女を大人しくさせればいいんだろう?」

 「ええ。殺すか連れて帰って頂ければ…」

 「分かった。開けてくれ」

 「大将、アタイは?」

 「ここにいろ。俺1人でいい」

  

 ――蛇女は馬車に乗ると思うか?


 会話を交信に切り替える。


 ――あー。ちょっと無理かも…。


 ――金はどうだ?


 ――エルフやリザードマンは厳しいけどおすすめ奴隷は全部買える。


 ――それなら問題ないな。


 愛玩用の高級奴隷なんぞ要らん。

 

 ――パトリックに連絡…そう言えばお前らは俺以外とも交信は…。


 ――できるよ。ただ、会った事のある同類じゃないとダメみたいだけどね。 


 ――なら追加の馬車と輸送人員の手配を頼む。


 ――あいよ。


 「開きました。どうぞ…」


 話している間に店主が準備を終えたようだ。

 さて、やるか。


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