617 「採掘」
別視点
吐いた息が白く染まって空に消えました。
私――ファティマはすっかり冬ですねと考えながら通路を歩きます。
周りには護衛に最近採用した三人の聖堂騎士を伴い、通路を抜けた先は少し前から順調に稼働している採掘都市――名称をリソスフェアとしました――に出ました。
周囲ではゴブリンやオーク、トロール等の亜人種にレブナント達が警邏として巡回しているのが見えます。
ここはキルギフォール大渓谷の周囲に作られた街で、埋蔵されている魔石を下から引き上げてオラトリアムへと輸送する役割を担っている。
採掘は激務なので、危険手当として給金には色を付けています。
その為、ここでの勤務を志願する者は多く、人手には困らないそうですね。
目的地は街のやや南寄りにある巨大な屋敷です。
門番には事前に行く事は伝えているのでそのまま通されて中へ。
「ようこそお越しくださいましたお姉さま」
そのまま応接室へと通されると既にメイヴィスが待っていました。
促されるままソファーに腰を下ろし、護衛の三人は後ろに移動。
私が座ったのを確認するとメイヴィスは向かいに腰を下ろしました。
「本日は視察と言う事ですが、どこまで回りますか?」
「今日は時間もありますし、下も含めてすべて見て回る予定です」
構いませんねと付け足すとメイヴィスは笑みで頷く。
「分かりました。 では、上から順に見て回りましょう。 こちらへ」
メイヴィスの案内に従って屋敷を後に。
そのまま、街の各所を見て回ります。
採掘都市リソスフェア。 キルギフォール大渓谷を囲むように建造された街で、主な役目は渓谷に埋蔵されている魔石の引き上げ、及び加工。 後は獣人に販売する魔法道具の作成も行っています。
流しても問題ない簡単な構造な物に留めていますが、売れ行きは好調のようですね。
獣人は魔法に対する適性はそう高くありませんが、魔力量だけならそれなりに高いので扱うだけなら問題はありません。
その為、簡単な物でも飛ぶように売れるようですね。
販売用の店舗も用意しているので、街を行き交う人の中には獣人も数多く見られます。
立ち入りに関しては制限をかけているので一部の商人しか入れませんが、取引の件数が多いのでそれなり以上に出入りがあるようですね。
近場から回るので、まずは娯楽施設や宿舎、食事処等を順番に見て回ります。
人間は少ないので目に付くのは殆どが亜人種ですが、特に問題もないようですね。
問題を起こせばどうなるかは徹底的に刷り込んでいるので、揉め事レベルの小競り合いはあっても業務などに支障が出る事はありません。
「定期的に増員も頂いていますので採掘量も少しずつではありますが、増加しており、最近敷設した転移用の施設のお陰で輸送の手間が大幅に減った事で効率も上がっております」
そう、警備面での問題もある程度解決したので、転移魔石を用いた輸送施設を敷設させました。
万が一を考えてオラトリアムに直通ではありませんが、物資の集積場を経由してこちらへと送られます。
お陰で輸送のコストカットもできて良い事ばかりですね。
街並みを一通り見て回った後はこの街一番の目玉――採掘場です。
そこには首途が魔導外骨格を応用して作ったらしい、ある物が複数存在していました。
巨大な塔とその上に存在する釣竿のような機械。
タワークレーンと言う代物らしいですね。 作成にとんでもない費用が掛かりましたが、それに見合った働きをしていると言えるでしょう。
私が見ている前でクレーンの一つが下へと垂らしたワイヤーを巻き取り、引き上げているのが見えます。
少しすると先端が見えてきました。 そこには数メートルの立方体にカットされた魔石が縛られており、作業員の誘導でゆっくりと地面に降ろされているのが見えました。
何の加工もされていない純粋で透明な魔石。
これをウルスラグナでいくつか売れば城すら建てられるでしょう。 それ程の価値のある物です。
「このタワークレーン「ブラッド・ダイヤモンド」を導入してからは作業効率が桁違いになりました」
メイヴィスの口調には性能に対する感心が色濃く出ています。
正式名称は「魔力駆動大型起重機ブラッド・ダイヤモンド」地底の魔石を効率よく地上へと運ぶ為に首途に開発を依頼したのですが、僅か数日で図面と必要材料、費用、運用方法などを纏めた資料を用意して来たので驚く程早く導入できたという背景もありました。
首途 勝造。 ロートフェルト様と何故か仲が良いあの転生者。
半端な仕事をすれば文句の一つも言ってやろうと思っていましたが、一切ミスをしないので有能と認めざるを得ません。
それにしてもロートフェルト様にあんなにべたべたして羨ま――不敬な男ですが、評価せざるを得ません。 私ですら一緒に入った事がないのにロートフェルト様と入浴するなんてけしから――不敬な男ですが、このオラトリアムに必要な人材である事も否定しません。
……ですが、ですが……あぁ、妬ましい……妬ましい……。
何故、私が出来ない事をあの男は簡単に許されているのでしょうか。
くっ! どうにかして私も――
「あ、あの? お姉さま?」
「ごめんなさい。 少し考え事をしていました」
いけない。 顔には出ていませんでしたが、少し周りが疎かになっていましたね。
「一先ずですが、リソスフェアは一通り見て回りましたが、下はどうしますか? 時間もあるようですし少し休憩を入れますか?」
メイヴィスの言葉にちらりと空模様を確認。
早い時間に出たので、日が落ちるまでに多少は余裕がありますね。
かと言って時間をかけ過ぎるのも良くないでしょう。
「降りましょう。 問題ありませんか?」
今日は急ぎの案件はありませんが、予定は早めに消化しておくべきでしょう。
「分かりました。 ではすぐに昇降機の手配をします」
大地に刻まれた亀裂の近くに敷設された巨大な昇降機に乗り下へ。
これは物資と人員の輸送の為の物なので、かなり巨大です。 少し長い降下時間を経て地下に存在する目的地へ。
「これは――」
思わず声が漏れました。 報告は受けていたのでどう言った物かは知っていましたが、実物を目にすると違いますね。
大渓谷に蜘蛛の巣のように広がっているのは街。 これこそが地下に存在する第二の都市。
名称はアセノスフェア。 上部のリソスフェアは吊り上げと加工を担い、地下に存在する下部のアセノスフェアは魔石の切り出しの中継を担う。
街の形状は大森林にある樹上に建造されたエルフの都市を参考に建造したので、建物の配置などは少し似通っています。
土台には強度の高い建材を惜しみなく投入しましたが、タイタン鋼の導入により安定した土台とする事にも成功しました。
所々に巨大な穴が開いており上のリソスフェアから垂れているブラッド・ダイヤモンドのワイヤーが更に下へと伸びているのが見えます。
「現在、直接の切り出しを行っている掘削拠点――メソスフェアで工員が順調に魔石を上に送り出しています」
このアセノスフェアの下からワイヤーで吊り下げられている三つ目の拠点であり、工員が直接の切り出しを行っているのがメソスフェア。 魔石を適度な大きさにカットして垂れ下がっているブラッド・ダイヤモンドのワイヤーに括り付ける作業を行っています。
魔石はパンゲア由来の作物と同等以上の収益を上げており、我がオラトリアムにとって重要な資金源と言えるでしょう。
メイヴィスに任せておけば問題はないのでしょうが、視察は必要なのでこうして足を運んでいるのですが――
……ロートフェルト様。
近くに居るのに時間を共にできないのがもどかしいですね。
私は内心で小さく溜息を吐きました。
誤字報告いつもありがとうございます。




