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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
18章

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604/1442

603 「四区」

続き。

 アラブロストル=ディモクラティア第四区。

 可能性としては薄いが遺跡から先に調べると言う事で先に向かう事になった。

 この国は面白い構造をしており、外縁、内縁、中央と三重の円のように区を配置して括っているようだ。


 私達が向かう第四区と第五区は中央に含まれる。

 ただ、本当の中央部である第一から第三区には用がないので向かう事はないだろう。

 グノーシス教団の自治区だけあって他の区とは趣が違い、教団の特色とも呼べるような物が出ていた。

 

 建物の建築方式や配置、行き交う人も聖職者や聖騎士が多い。

 雰囲気としてはゲリーべやオールディアとよく似ている。

 ただ、区内には私達以外の部外者が少ないので、傍から見ればかなり浮いて見えるかもしれない。


 マネシアも同じ事を考えているのかやや居心地が悪そうだ。

 

 「第五区の調査は明日以降になると思うから、私は宿を探しておくわ」

 「分かりました。 では、私は遺跡に入れないかの確認を」


 お互いに役割分担を済ませた私達は分かれて別行動を取る。

 マネシアは宿を、私は遺跡にそれぞれ向かう。

 一人なった私は早足に街の中央を目指す。 この第四区は街が二つしかない狭い区画だ。


 その為、大した広さではないので遺跡のような規模の大きな建造物は探すまでもなくすぐに見つかる。

 

 「これが遺跡ですか……」

 

 小さく呟き、視界に入ったその建造物を見上げる。

 遺跡というのでもう少しくたびれた建造物を想像していたが、思っていた物と随分と違う。

 円柱のような形状をしており、恐らく以前は塔のような形状をしていたのだろう。


 その証拠に上部には折れたような跡があった。

 人の出入りがそれなりにあったので、入る事はできそうだ。

 大きさから大した広さでもなさそうなので、一度中を見ておこうと近づく。


 「中を見たいのですが構いませんか?」


 出入りを管理している聖騎士に確認を取ると、どうぞと言われたので遠慮なく中へ入る。

 中は完全に空洞になっており、これと言って変わったものがある訳でもなさそうだ。

 元々そこまでの広さではなかったのでそう時間もかからずに一通り見る事が出来た。


 特に隠し通路や何かしらの仕掛けがあった跡もなし、本当に古い建造物といった感じだ。

 他の見学者はグノーシス教団の関係者が大半だったが、教団とは無関係な者も何名かいた。

 興味深そうに壁や床の模様を眺めている者もいれば、私と同じように隠し通路や仕掛けの類を探るような動きをする者も居た。 少し引っかかったが、特に意識する程の事でもなかったので出口へと向かう。


 ……やはり聖剣は第五区に移されていると見て間違いないか。


 少なくともこの遺跡の内部には存在しないようだ。

 外に出る際に警備の聖騎士に尋ねる事にした。


 「少しお聞きしたいのですが、聖剣はこちらに安置されていないのですか?」

 「はい、現在は第五区に建てられた神殿にて安置されております」


 渋られるかとも思ったが、教えてくれるとは思わなかったので少し驚いた。


 「見学は可能ですか?」

 「いえ、神殿は一部の関係者以外の立ち入りは禁止されていますが、祭事等の特別な日には限定的に解放されています」


 ……なるほど。


 私は礼を言ってその場を後にした。

 聖剣がないのであれば第四区には用はない。 マネシアに報告して明日にでも第五区を目指すとしよう。 

 

 「……早く片付いた事ですし、少し見て回るとしましょうか」


 折角なのでイヴォンや聖女ハイデヴューネへの土産話の種でも集めておこう。

 そう考えた私は少し遠回りをする事にした。

 


 

 「やはりそちらは空振りだったようね」

 「遺跡は空で、聖剣は第五区にあるようです」


 街を一通り回った後、マネシアに連絡して宿で合流。

 彼女も宿で軽く聞いたらしいが、私と同様に聖剣は第五区にあるという話を聞けたようだ。

 聖剣の所在はこの界隈では知れ渡っているらしく、誰に聞いても同じ答えが返って来るらしい。


 「……そうなるとその神殿に忍び込む必要がありそうですね」

 「祭事の時だけ限定的に開放するとの事らしいし、待ってもいられないわね……」


 あまり気は進まないが、忍び込む必要がある。

 マネシアは可能な限り面倒事は避けたいといった様子だったが、流石に次の祭事の時まで待っていられないので選択肢としては侵入一択だ。

 その神殿を見て見ない事には何とも言えないが入るだけならそう難しくないだろう。


 後はその聖剣に触れるか否かを確認するだけだ。

 

 「では、明日にでも――」

 「いえ、それは少し待って」


 早速、行動しようとする私にマネシアは待ったをかける。

 

 「クリステラ、第五区に着いたら貴女には神殿の確認と街の散策をお願いしたいの。 その間に私は大陸南部の情報を集めるわ。 成否はどうあれ、神殿への侵入が露見すれば情報収集が出来なくなるから、実行に移す前に調べられる事は調べておきたいわ」

 「……分かりました。 では私は神殿の下見と第五区の散策を行います」


 何が起こるかもわからない以上、時間があるのなら地形や建物の配置などは覚えておいても損はないだろう。

 最悪、聖剣を抱えてグノーシス教団の追撃を振り切る必要が出て来るので、しっかりと道を覚えておくべきだ。

 そうと決まれば明日に備えて早く休むべきと考えて話を切り上げようとしたが、マネシアからまだ話があるようだったので、黙って先を促す。


 「クリステラ。 第五区もそうだけど、この第四区はグノーシス教団の自治区。 ここにいる者は大半が教団の関係者で占められてるのは分かる?」

 

 その通りだ。 散々聞いた話で、私自身もそれは正しく認識しているつもりだ。


 「――その為、部外者は酷く目立つ。 私達もそうだけど、どうも妙な者達がこの近辺で出入りをしている話を聞いたのだけど何か心当たりはあるかしら?」


 部外者? そう聞いて、ややあって思い出す。

 そう言えば遺跡に妙な者達が居たなと。


 「……確かに遺跡にも居ましたね。 何名か見かけましたが、恐らく殆どが同じ集団に属していると思います」

 

 分かり辛かったが視線の交わし方や動きが他人のそれではなかった。

 

 「その集団が何をしていたか分かる?」

 「……私と同じように遺跡の床や壁を見ていました。 視線の動かし方が、隠し通路や仕掛けを探すような動きだったので少し印象に残ったぐらいですね」


 マネシアは随分とその集団が気になるようだが――確かにと思い直す。

 妙だ。 まるで何かを探すような動きだった。

 実際、視線の動きが私と同じだった事を考えると――そこでふと思い浮かぶ。


 「まさかその集団も聖剣を狙っていると?」

 「断定はできないわ。 ただ、少し聞いてみたのだけれど、この時期にこれだけの数の部外者がここを訪れる事は珍しいと言われたのよ」

 

 他にも聖剣を狙っている勢力が居る?

 だとしたら少し急ぐ必要があるのではないのだろうか?


 「怪しくはありますが、断定はできない所が悩ましいわね。 神殿の監視は行うけど、事を起こすのは予定通りに情報収集の後よ」

 

 私の心を読んだかのようなマネシアの言葉に頷く。

 情報を集める事は目的の一つだ。 疎かにはできない事は理解しているので、異論はない。

 ただ――


 「もし、その集団が聖剣の奪取を目論んでいるとしたら?」

 「奪わせた所を横取りするわ。 運が良ければ彼等が聖剣強奪の罪を背負ってくれるので、こちらとしては助かるわね」


 聖堂騎士とは思えない物言いに私は思わず言葉に詰まる。

 マネシアは苦笑。


 「強奪が前提よ。 似たような事をする者が居れば利用するべきじゃない?」

 「……そう、ですね」


 釈然としない物を感じたが、アイオーン教団の為に延いては聖女ハイデヴューネの負担を減らす為の行動。 少々の汚名を被る覚悟はあったが、他人に被せるのは違う気がする。

 そう考えていたがマネシアは首を振った。


 「貴女の考えは真っ直ぐでとても好ましく思うわ。 だけど、正直なだけでは罷り通らない事もあるの。 だから、何かを選ぶときは何を優先するべきかを考えるべきよ」

 

 彼女の言っている事は理解しているが、どうにも呑み込めなかったので結局曖昧な笑みを浮かべる事しかできなかった。

 ただ、何を優先するべきか。 それはとても大事な事だろうとは思えた。

 

誤字報告いつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、見える…… 下見と散策が目的なのに、クリステラの脳筋が発動して聖剣強奪まで突き進むのが…… また罪もない胃袋が昇天してしまうのか……?
[一言] 最近のクリステラ視点だと聖女の名前がよく出ますね。 彼女にとっての大事な存在になりつつあるように感じますし、どこかの主人公さんと行動原理は似ていてもこういった面ではやはり人間らしくなっている…
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