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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
3章

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58 「幕間」

別視点。

 俺は土屋 陽介。

 20歳の専門学生だ。趣味はアニメとゲームで、その二つさえあれば生きて行けるね。

 その日も家に帰って録画したアニメを見る為に急いで家に帰ろうとしていた。


 正直、学校はまったく楽しくないし友達もいないが、行っておかないと親がうるさいからな!

 そもそも専門学校に通っているのは就職が嫌なので社会に出るまでの時間を延ばすための時間稼ぎだ。

 終礼が終わったと同時に教室を飛び出し、駅まで走る。


 校舎から出ると雨が降っていたので傘をさして先を急ぐ。

 その時、俺の頭ははまっているネトゲの事でいっぱいだった。

 昨日、マナーが悪い奴に注意してやってたら噛み付いてきたので、フレンドと一緒に粘着してPKしてやったのでスカッしている。今日も粘着してやろうと心を躍らせていた。


 だからだろうか?


 駅の改札を抜けてホームへの階段を駆け上がっている時にズルっと足が滑る。

 立て直そうと腕が宙を彷徨うが何も掴めずに空を切る。

 一瞬の浮遊感と後頭部への衝撃。それが俺の最期に感じた物だった。


 




 …う…何だ…。

 

 俺、何をしてたんだっけ?

 目が覚める以前の事が思い出せない。

 …えー、学校行ってー授業受けてー雨が降っててー。


 おぉ、だんだん思い出してきたぞ。

 駅のホームで……あれ?頭打ってその後どうなった?

 ここはどこだ?病院?でも感じる感触は…土?


 身を起こして周囲を見回す。

 うぉ!?草でか!?木超でか!?

 俺の周りにはバカみたいなでかさの木や草が大量に生えていた。


 何だここ!?訳わからねえぞ。

 ってか何だ?体の調子…が?動きづらいぞどうなって…。

 そこで俺は自分の体の異常に気が付いた。


 手足がない。そして体が黒くて細長い。

 なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?ざっけんな!どう見てもキモいミミズじゃねーか。

 俺は手足を振り回して暴れたつもりだったが実際は紐みたいな体が跳ね回っただけだった。


 叫びたいがどういう訳か声も出ない。


 俺はしばらく暴れまわったが、何も起こらなかったので仕方なく行動する事にした。

 体をくねらせて移動を開始する。

 状況がさっぱり理解できないが、行動しないと何も始まらないのは分かった。


 …こういう場合、まずは人を探さないとな!


 基本だろ基本。

 あれ?でも、この姿で人と会っても大丈夫なのか?

 そんな事を考えていると後ろから草をかき分ける音が響く。


 俺はビクっと一瞬、硬直する。

 な、何だ?物音がした方を凝視すると、何かこちらに近づいてきた。

 人か?それとも状況を説明してくれる奴か?


 どちらでもなかった。

 草の向こうから現れたのは蜘蛛だった。しかもでかい。

 いや、俺が小さいのか。蜘蛛は感情を感じさせない目で俺を凝視している。 


 …これ、ヤバいんじゃ…。


 俺は身の危険を感じて。ジリジリと距離を取る。

 蜘蛛は俺に視線をロックしたまま身を縮めて跳んだ。

 当然、目標は俺。


 蜘蛛の目的を悟った俺は必死に逃げようとしたがこの体では満足に動けず蜘蛛にのしかかられた。

 至近距離で蜘蛛と見つめ合う。あまりのキモさと恐怖で思わず叫んだが、この体は声が出せない。

 蜘蛛の牙が俺の体に突き刺さる


 …ぎゃぁぁぁぁ!嫌だ嫌だ嫌だ。


 何故か痛みはなかったが体を喰いちぎられる感触だけはダイレクトに伝わってくる。

 体から黒い汁が噴き出し蜘蛛は美味そうにそれをすすっている。

 嫌だ嫌だ嫌だ。こんな訳の分からないままにこんな虫に食われるなんて。


 何とか抵抗しようと足掻いたが…無駄だった。

 心の中で俺は泣き叫びながら喰われて行く自分の体を見つめていたが、途中で意識が遠くなり…消えた。

 



 次に感じたのは気が狂うぐらいの飢餓感だ。

 自分が何をしているかが分からない、目の前が真っ赤になっている。

 そして我に返った俺はさっきの森の中で立っていた。


 …何だ…何が起こった。


 視点が高い。

 木や草が普通のサイズだ。

 

 「何が…あれ?声が出る」


 何度かあーあーと声を出してみたが問題なさそうだ。

 次に確認するのは自分の体で、ペタペタと…あれ?腕が…多い?

 両手両足に加えて別で動かせるものがある。


 何だか毛むくじゃらの虫の足みたいなのが視界に…ってか視界も妙に広いな。

 自分の体に何が起こっているのかうっすらと察しは付いていたが、確認したかった。

 しばらく森の中を彷徨うと小さな泉が見えてきたので、俺は走り寄って水面を覗き込む。

 

 「…ははマジかよ」


 そこに写っていたのは見慣れた自分の顔ではなく蜘蛛の化け物だった。

 一言で言うなら人間と蜘蛛を足して2で割ったような姿だ。

 巨大化した蜘蛛の体に人間の手足が追加で生えている。


 「…んだよコレ…何だよこれはぁぁぁぁぁ!!」


 俺は思わず叫んだが誰も答えてくれなかった。




 前向きに考えればこの訳の分からない状況で、この体はありがたいのかもしれない。

 俺はこの体でできる事をいろいろと試してみたが、糸も出せるし身体能力も高い。

 恐らくだが戦闘能力もかなりの物だろう。


 一通り試し終えた俺は比較的大きな木に登って周囲を確認する事にした。

 今の俺ならこんな木でも楽勝で登れる。

 木のてっぺんから周囲を見渡してみたが…。


 「何だここ?」


 どうみても森のど真ん中だった。遠くの方に小さく街が見えるが、見慣れない建物が見える。

 少なくとも日本の街並みじゃない。

 あれ?ここってもしかして…異世界…か?


 もしかして、俺って死んで転生したのか?

 状況から考えると有り得る話だ。派手に階段から落ちたし死んでいてもおかしくない。

 これは…来たんじゃないか俺の時代が!


 異世界転生無双キターぁぁぁぁ!

 これは夢のハーレム生活まで行けるんじゃないか?


 よし!って事はまずはステータスのチェックだ!

 開け!ステータス!

 ………あれ?何も起こらないぞ?


 タップする方か?手を振り回して画面を出そうとするが何も起こらない。

 くそっ!鑑定スキルがないからか?それともレベル不足?

 とにかく、今はステータスを参照できないみたいだな。


 って事はまずはレベル上げだな。

 体の使い方には慣れて来たし、行けるだろ。

 俺は木々を飛び移りながら移動する。


 某アメコミのヒーローみたいに糸を使って飛び回る事も余裕だ。

 取りあえず街に向かうか。

 

 


 

 「ひゃっほーぉぉぉ俺tueeeeeeeee!」


 街へ向かう途中にゴブリンみたいな…っていうかどう見てもゴブリンと出くわしたので戦ってみたが、すっげー雑魚だった。

 動きとか見え見えで見てから回避余裕でした。

 

 攻撃力も中々だ。俺の背中から伸びている本来の蜘蛛の足で一撃だ。

 柔らかい腹をぶち抜かれたゴブリンはゴボゴボ血を吐きながらくたばった。

 カスが!弱いんだよ!


 それから俺は適当にゴブリンを殺しまくってレベリングを続けたが、今一つ強くなった気がしない。

 それに…この体は異様なほど腹が減るので、食料の調達は必須だった

 最初は木の実や野苺みたいな物を食っていたが、全然足しにならなかったので仕方なく、殺したゴブリンやゴブリンが連れていた犬みたいな奴の肉を喰った。


 最初は何とか火を起こそうと頑張っては見たが上手く行かずに、結局空腹に耐えきれずに生で行った。

 味は…まぁ、酷かったけど何とか喰えたよ。

 この体は腹さえ減ってなければ最高なんだが、食事を切らすと本当に苦しい。


 数日間、そんな感じで過ごしつつ遠くに見えた街を目指して移動していた。

 進んでいると何か聞えて来た。金属音?急いで音がした方へ向かう。

 そこは少し開けた場所で、鎧を着た男が数人がゴブリンと戦っていた。


 俺は近くの木の上で様子を見る事にした。

 男達は連携を取りつつゴブリンと戦っているが、俺からしたらまだまだだな。

 腰が入ってねーな。こう、なんつーか気合が足りてないぞ。


 しばらく戦いを見ていたがだんだん飽きてきたので助けてやることにした。

 ゴブリン共のど真ん中に飛び込んで蜘蛛足を駆使して瞬殺してやった。

 ったくこんな雑魚に苦戦してんじゃねーよ。


 「――。――!――!」


 後ろから怒鳴り声が聞こえて来た。

 振り返ると助けてやった連中が俺に剣を向けている。

 

 「おいおい。落ち着けって。こんなナリしてるけど一応人間…」


 声をかけて落ち着かせてやろうとしたら斬りかかられた。

 蜘蛛足で受け止める。

 は?おいおい。助けてやったのにそりゃないだろ?


 ムカついたから斬りかかって来た奴を蜘蛛足で喉をぶち抜いて殺してやった。

 

 「こうなりたくなかったら俺の話聞け」


 残った連中が武器を構えながらジリジリと下がっている。

 おいおい。話聞けっつてんだろ。


 「――!――!」


 何言ってんだこいつら?

 ヤバい、言葉が理解できない。


 「――。――。-。-。-。――!」


 リーダーっぽい男が叫ぶと同時に全員が一斉に散り散りに逃げ出した。

 

 「ちょ。待てって!」


 俺は逃げた奴らを追いかけた。

 取りあえずリーダーっぽい奴に狙いを絞る。俺から逃げられると思うなよ。

 数秒で追いつき取り押さえる。


 「――!――!」

 

 何やら喚いているが言ってる事がさっぱり理解できない。

 ナイフで俺を刺そうとしてくるのでウザいから殺してしまった。

 その後も何人か捕まえたが、どいつもこいつも俺を殺そうとするから殺してやった。


 殺した数と見かけた連中の数が合わない。結局、何人か逃がしてしまったようだ。

 取りこぼしが出たのは仕方ない。でも、言葉が通じないのは拙いかもしれないな。

 それにしてもさっきの連中、雑魚かったな。ゴブリンよりましってレベルとか人間大丈夫かよ。


 いや、もしかして俺が強すぎるのかな?

 やっぱり定番の無双系主人公になっちまったのか俺?

 それだったら深く考えずに行ったら良いんじゃないか?


 戦闘もこなしたしチュートリアルは終わりだろ。

 流れとしては次はヒロインかな?

 定番だとどっかで困っているか、襲われているか…後は奴隷として売られているかな?


 取りあえず街まで行けばなにかしらイベントが起こるだろ。

 俺は適当にゴブリンや獣を狩って経験値を稼ぎながら街へと向かい、数日後には街が見える位置まで来れた。

 

 敵も雑魚過ぎて話にならねえし、楽勝過ぎるぜ。

 さて、街はどんな物かな…。

 

 遠くから見た時もそんな感じはしたが、中世っぽい街並みだ。

 やっぱり異世界と言ったらコレだよな!

 鎧と剣を持った奴、魔法使いっぽいローブを来た奴。


 いいねいいね。

 さーて、俺はどうしてやろうかな。

 このまま入っても襲われるし入るのは拙いか。


 いや、俺のステータスと能力からすると、逆に突っ込んで人間殺しまくった方がいいのか?

 それとも善行を積んで信頼を勝ち取ってハーレムルート!…ふっ、アリだな。

 方針を考えながら街を眺めていると…妙な物が見えた。


 …何だアレ?


 鉄格子付の檻とその周囲に人だかり。

 檻の前に居る小太りのおっさんが何やら叫んでいる。

 何やってんだ?


 しばらくすると大柄な男が、前に進み出て来る。

 小太りは頷くと檻を開けて中から…女の子?

 大柄な男は女の子の手を引くと、女の子は嫌がって暴れるが頬を張られると大人しくなった。


 おいおいおいおい。

 何て酷い事をしやがる!よし!助けよう!


 俺は街へ飛び込んだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 精神が蜘蛛に近づいてこうなったのか、こいつの性格か
[良い点] 主人公が基地外 [気になる点] 主人公の境遇的にイカれててもしゃーないけど、こいつは普通に人を殺してて草 サイコパスなのか、ゲーム感覚なのか、普通の一般人は人形の生き物を殺すのもキツいのに…
[一言] 蜘蛛だけど、何?
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