585 「報告」
続き。
オフルマズド殲滅戦についての中間報告。
我がオラトリアムはオフルマズドへの攻撃を行う事を決定。
だが、あの地は大陸最南端に難攻不落の要塞として存在しており、攻略は困難と予想される。
その理由はオフルマズドを囲んでいる外壁とそこから発生する障壁の存在だ。
後に判明するが、その障壁は聖剣による無尽蔵の魔力に支えられ、あらゆる物の通行を許さない絶対とも言える障壁。
加えて内部の様子も隠すので、情報が一切集められないという状況であった。
地理情報が一切不明という状況が今回の作戦遂行での最大のボトルネックだったが、ロートフェルト様によるある機転で解決する事となる。
その内容は魔剣を用いて辺獄を経由しての内部の侵入。 それにより、懸念事項であった内部の状況が明らかになった。
情報収集はモスマンによる長期に渡る偵察行動と住民からの記憶の吸い出しで行うが、前者は成果が上がり、後者は不首尾に終わった。
理由は国民全員に施された情報漏洩防止措置にある。 ダーザインも採用していたそれよりも強化されており、思考だけでなく特定の行動――恐らくは第三者による捕縛等によって情報が引き出される状態にあると判断された場合に起動するように改造され、詳細は不明だが赤子にまで適用していた所を見ると何らかの方法で行動を管理していた可能性がある。
結果、情報を引き出せずに死亡させてしまう事となった。 撹乱の為、死体を偽装して残すという手段を用いる。
内部の知識を入手する事は叶わなかったが、偵察により地形情報の入手には成功した。 これにより、攻略の難易度が大きく下がったのだ。
建物の位置関係や地形さえ分かれば、地形を想定した訓練も行える。
特に侵攻部隊には魔法で再現したオフルマズドの地形での走破訓練を長期に渡り行ったので、実戦でも無駄のない動きが可能となったのだ。
侵入手段の確立と地形の把握、建物の位置関係。
この三つで攻める為の材料は揃ったと言える。
作戦はいくつかの段階によって行う。
第一段階――ロートフェルト様を筆頭に可能な限り優れた手勢を以って奇襲。
同行したハリシャとイフェアスがそれぞれ実働を担う。
ハリシャが率いた手勢は陽動と撹乱。 彼女は城の周囲で派手に暴れ敵戦力を誘引。
同時に防衛力である魔導外骨格の排除。 その間に本命のイフェアス隊がオフルマズド北側にある内門の開放。 味方の引き入れを行う。
敵の予想外の装備に苦戦しつつも目的を完遂。 イフェアス・アル・ヴィングの上げた戦果は大なりと言える。
開門に成功した後は第二段階――門からのフューリーを主軸とした主力が雪崩れ込み、使用可能になった転移魔石を用いての増援の召喚。
後はその機動力を活かし、転移魔石を用いて戦力――第二陣、第三陣を次々と送り込む。
そうなってしまえば後は各自、指定された目標を撃破しつつ済んだ者は遅れている場所の支援や遊撃となる。 尚、その際に優先的に排除する目標には戦闘力が高い者を送り込む。
優先排除対象はグノーシス教団及びテュケの拠点、オフルマズドの兵が詰めている兵舎の中で巨大な物を優先的に標的とした。
特にグノーシス教団には高い確率で枢機卿という存在がおり、中でも司教枢機卿は脅威度が高いと思われ、排除には強力な戦力で挑む事が推奨される。
そして最大の目標であるテュケも多数の転生者を擁していると考えられたので同様の戦力を送り込む事となった。
前者にはサブリナを筆頭とし、ディラン、アレックス両名に加え、首途氏から受領したサイコウォードを投入。
後者にはテュケに対する私怨を募らせた面子を中心に編成。 アブドーラを筆頭に亜人種の長たちと元ダーザインにヴェルテクス、万全を期してトラストも加えた隙の無い布陣だった。
そして第三段階は周囲の制圧を終えた後に王城を包囲する――筈だったが……。
ロートフェルト様の独断専こ――(修正済み)英断によって攻撃を開始。
王城内で聖剣を所持していた国王らしき存在を撃破。 途中、詳細不明の衝撃波のような物が発生したが、原因などは現在不明。 ロートフェルト様が落ち着き次第、聞き取りの予定。 並行して同行した首途氏からの聞き取りも予定している。
戦闘の詳細などは次回の最終報告に記載予定だが、現在は戦闘が終了し被害などの確認を行ってる最中となっており、こちらも次回報告にて詳細を記す予定。
結果としては王城にてオフルマズドの国王、及び将らしき者を撃破。
グノーシス教団自治区にて枢機卿二名の撃破及び、聖堂騎士三名を始め関係者百数十名の捕縛。
テュケの拠点にて転生者一名を除き処分を完了。
国中に散った残敵もライリーを筆頭に足の速い部隊が掃討中であり、駆逐も時間の問題と思われる。
ただ、最重要排除対象である蜻蛉の転生者と何故か生存していたアメリアの逃走を許してしまい、目下捜索中。
現在、ローラー作戦にて残敵の掃討と並行して行い、発見次第処分予定。
――以上。
作成者メイヴィス・マギー・ライアード。
「――ご苦労様でした。 向こうも落ち着いている事ですし少し休んでから仕事に戻ってください」
「いえ、現場で頑張っている皆を想えば、私の苦労など大した物ではありません。 では、私はやる事がありますのでこれで失礼しますね」
メイヴィスが私――ファティマに小さく頷いて退出するのを見送った後、小さく息を吐いて椅子に背を預けます。
結果こそ上首尾に終わりましたが、危ない部分も多く、反省点もそれなり以上に多い結果でした。
後は目下最大の問題であるアメリアでしょう。 まさか、あの状況で生きているとは予想外でした。
そして当初の標的であった蜻蛉にも逃げられるとは――。
面倒なと内心で苛立ちを募らせます。 オフルマズドを滅ぼせたとしても肝心のテュケに逃げられては意味がないではありませんか。
こればかりは少しアスピザルに言っておかなければならないでしょう。
流石に責任を取れとまでは言いませんが、何らかの処分は必要になりそうですね。
後はヴェルテクスが引き上げたというテュケの資料関係の精査と――
「……まだまだやる事が多いですね」
戦と言うのは終わっても――いや、終わってからの方が大変かもしれませんね。
様々な処理に確認作業、問題点の洗い出しや調査。
これはしばらくは忙しくなりそうですと考えながら私は部下に連絡を取りました。
誤字報告いつもありがとうございます。
 




