581 「密着」
八件目のレビューを頂きました。 ありがとうございます!
視点戻ります。
驚いたな。
俺は目の前に現れた魔剣に対して、内心で小さく目を見開いた。
首途に解放するように頼んだが、まさかこうなるとは予想外だ。
魔剣には意思の様なものがあるのは理解していたので、解放してやると怒り狂ってオフルマズドに対して嫌がらせの一つでもしてくれれば――具体的にはこの城を辺獄に引きずり込んでくれればいいなと期待していたが、まさか直接来るとはな。
魔剣は障壁のような物を展開して押し寄せる鉛を弾いていた。
わざわざ俺の目の前に現れたと言う事は――まぁ、使えって事だよな。
正直、この手の剣は一本でも迷惑なんだが、背に腹は代えられんか。
諦めて左手で飛んで来た魔剣の柄を掴む。
瞬間、魔力がごっそりと持って行かれる。 戦闘に必要な魔力を俺とゴラカブ・ゴレブから吸い取ったようだ。 それと同時にこの魔剣の使い方が頭に入って来た。
魔剣フォカロル・ルキフグス。
その能力はこの状況では大変都合のいい代物だったので、そのまま真っ直ぐに突っ込む。
大量の鉛が降り注ぐが無視。 鉛は俺に当たる前に不可視の壁に弾かれて消し飛んだ。
これが魔剣フォカロル・ルキフグスの能力――それは障壁の構築。
それだけのシンプルな物だが、その障壁が中々に性質が悪い。
障壁の特性を弄る事が出来るようで、攻撃を反射したり消滅させたりできるようだ。
自らに害を成す障害の全てを拒絶する盾と言う訳か。
鬱陶しい鉛の塊は俺の展開した障壁に接触したと同時に消滅。
反射に比べて消滅は障壁の一部を削るので燃費は悪いが、いちいち鉛の処理に手間をかけずに間合いを潰せるのは大きい。
それにこの剣は奴の扱う聖剣にとっては天敵に近いだろう。
さっきから観察していたが、奴の攻撃手段は鉛を飛ばすだけで搦め手は使ってこない。
あったらとっくに使っているだろうし、手札はほぼ出し切っていると見ていいだろう。
対抗手段がなかったので防戦一方だったが、二本目の魔剣が手に入り、距離を潰す手段が手に入った以上は仕留められそうだ。
一気に踏み込む。 アムシャ・スプンタは迎え撃つように聖剣を振るうが、展開した障壁に接触。
――かかった。
それと同時に障壁は形を変え、空間の歪みのような物が聖剣に絡みつく。
「ぐっ!? これは――」
アムシャ・スプンタが動揺したように声を漏らす。
聖剣が空間に固定されたように動かないようで何とか引き剥がそうともがいている。
防ぐだけではなく、障壁はこういう使い方もできるので中々に便利だ。
……とは言っても精々数秒の足止めが限界ではあるが、間合いを離そうとしている奴相手ならこれで充分だ。
――それに。
こっちには魔剣が二本、そしてどちらも怒り狂っており、奴を仕留める事に大変協力的だ。
障壁の表面から黒い炎が噴き出し、聖剣を伝ってアムシャ・スプンタの体を焼く。
奴は炎に気が付いて咄嗟に離れようとしたが障壁が聖剣に喰らいついて離れない。
「ぬ、ぐうううう」
力任せに拘束を剥がしたが、発生した炎が奴の体を焼き、悲鳴が上がる。
流石にこの炎による激痛は耐えきれるものではなかったらしく苦痛に顔を歪ませていた。
聖剣が発光、炎を吹き散らす。 そのまま振るって間合いを離そうとしているが、逃がす訳がないだろうが。 動きさえ止めてしまえば鬱陶しく躱されないのでやりようはある。
左の魔剣で斬撃、障壁が破壊された事により自由になった聖剣に受け止められるが問題ない。
左腕を伸ばしてアムシャ・スプンタの体を絡め取る。
とにかく動きを封じる事に集中し、躱せない状況を作る。 そして当たりさえすれば転生者であろうと殺す事は難しくない。
右の魔剣を第一形態に変形させチャクラでエンチャント。 憎悪を象った黒い炎が魔剣の描く円環を染め上げる。
さっさと死ね。
準備が出来た所で、即座に突きこむ。
「ぬぅ、おぉぉぉぉぉぉ!!」
アムシャ・スプンタが咆哮を上げるが無駄だ。 諦めてくたば――なに?
奴の肉体が一気に膨張。 解放を使用したか。 同時に空いた手で魔剣の刺突を止める。
腕が回転に巻き込まれて瞬時に挽き肉にな――らないだと?
魔剣は確実に奴の腕を磨り潰しているが、同時に凄まじい勢いで再生しているのだ。
だが、傷は治っても炎による魔剣の呪いはその身を蝕む。
この瞬間にも奴は凄まじい激痛に襲われている筈だ。
アムシャ・スプンタは強引に左腕を引き千切って拘束から逃れようとしているがやらせるわけないだろうが。
距離を離されて削りに徹されれば俺が負けかねんからな。 今回、間合いに入れたのはフォカロル・ルキフグスの能力を見せていなかったと言う点が大きい。 つまりここで距離を取られるとそのまま逃げられる可能性が高い。 一度でも離されれば少なくとも今後、奴は俺を間合いに入れるような真似は絶対にしないだろう。
再度障壁を展開。 範囲は俺と奴を包むようにだ。
下がろうとしたアムシャ・スプンタは障壁に阻まれて下がれない。
さぁ、逃げ場はなくなった。 ご自慢の予知だか予測だかもこの距離なら来るのが分かってても躱せんだろう。 そして聖剣は魔剣で抑えられる。
顔面に衝撃。 頭突きが飛んで来た。
まぁ、両腕が塞がっている以上、そうなるよな。
もう一度来るが、俺は口から毒液を噴射。 顔面にぶっかけてやった。
悲鳴が上がり奴の顔面から煙が上がる。 同時に腹から骨を変形させたスパイクを大量に生やして奴に突き刺す。 当然ながらタイタン鋼で出来ているのでその辺の槍より頑丈で良く刺さる。
ミドガルズオルムを喰っておいて本当に良かった。
「お、ごぁ……」
苦痛の呻きが漏れる。
顔面の修復が終わった瞬間を見計らって再度、毒液を吐きかけ。 突き刺したスパイクから様々な生物の毒をブレンドしたカクテルを大量に流し込む。 傷口から溶けた肉が血に混じって流れ出て来た。
今頃、奴の体内では臓器や骨がチーズみたいに溶けているだろう。
おや? 突き刺したスパイクから黒い炎が立ち上って奴の傷口を焼く。 魔剣の仕業か。
体内を溶かされながら焼かれるとはな。 とても痛そうだ。
アムシャ・スプンタの口からはもはや悲鳴と呼ぶには語弊のある意味を成さない音の塊が零れる。
何とか聖剣を振り回そうとしているが魔剣で鍔ぜり合うようにして抑え込んでおり、動かせない。
咄嗟に引こうとしたが、脇腹から追加で生やした腕に掴まれてそれも敵わない。
口から毒液を顔面に吐きかけ続けて視界を潰し、体内は再生が追いつかないレベルで滅茶苦茶にされ、残った腕は摩り潰されながら焼かれ続けている。
苦し紛れに蹴りを放つが更に追加で腕を生やして受け止め、軸足を踏みつけてザ・ケイヴを――しまった、消し飛んでたな。 仕方がないので踵部分の骨を加工して杭のように飛び出させ突き刺して固定。
そのまま地面に縫い付けてやった。
……それにしてもしぶといな。
普通ならダース単位で死んでいる筈だが、聖剣の力と転生者の頑丈さが合わさるとここまで死なないのか。
「オフルマズドは! あの方の思いは! こんな、こんな所で絶えてよい物では――」
何か言っているが無視。 叫ぶ元気があるとは大した物だ。
アムシャ・スプンタは俺の毒液を物ともせずに口を大きく開いて俺の首筋に喰らいつく。
驚いた。 まだ、噛み付く元気があるのか。
俺は骨格を操作。 さっきから奴の腹を抉っているスパイクと同じ物を追加で生やして、奴の口の中から脳天までを串刺しにしてやった。
「――か――」
何か言いかけていたがもう無理だろう。
刺したスパイクを操作。 脳に食い込んだ部分がウニか何かのように針が全体に広がるように弄る。
アムシャ・スプンタは顔中から針を生やし、ついでに魔剣の炎で顔面を焼かれ――ついに力尽きた。
――様――お許しを――。
最後に誰かの名前を言っていたが、よく聞き取れなかった。
まぁ、俺には欠片も関係がなさそうだしいいか。 死亡した事により聖剣の再生効果は意味を成さず、その体は消滅した。
「――ふぅ」
思わず安堵の息を吐く。
それにしても手強い相手だった。 運もあったが、もう一度やって勝てる気がしないな。
誤字報告いつもありがとうございます。
 




