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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
3章

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57 「帰還」

 俺はバカでかい種を担いで街の外へ出る。

 途中、色々な奴にじろじろ見られたが…まぁ、些細な問題だ。

 出る際も、門番に凄い顔をされたが無視した。


 人がいなくなったのを確認してサベージを呼び出す。

 しばらくするとサベージがのそのそと歩いてきた。

 種を持たせてサベージに跨る。


 サベージは種を持たされて嫌そうにしているが知らんな。

 近くの林に入り、適当な所で停止。サベージに周辺を見張らせて種を置く。

 さて、何故しんどい思いをしてまでこんなデカブツを持ってきたのかと言うと闘技場で見たダスティーを思い出したからだ。


 あいつは植物の部分を完全に操っていた。

 なら俺にも似たような事ができるはずだ。

 そして目の前の種はその大本である巨大ラフレシアの種だ。

 

 『根』を伸ばす。…硬いな。

 表面を魔法で剥がして接続。種と同化して支配下に置く。

 記憶の類は皆無なので使い方を模索する必要がある。


 幸いにもお手本はダンジョンで散々見た。

 腕を変化させる。


 …こんな感じか?


 腕がハエトリグサに変化した。試しに動かしてみる。

 口をパクパクと動かしてみた。ワ・レ・ワ・レ・ハ・ウ・チュ・ウ・ジ・ン・ダ。

 ………何をやってるんだ俺は。


 他にも瓢箪等の植物に変化させてみたが…問題なさそうだ。さて、貰う物も貰ったし種はもう用済みだな。


 とは言え処分は勿体ないか。

 少し考えて…思いついた。種の中に『根』の塊を仕込んで同化を解く。

 『根』で制御すれば何かに使えるか?


 …とは言ってもここで育てる訳にはいかんし…。


 そうだ。ファティマに押し付けよう。

 我ながら名案だ。こういう時こそあの女の出番だろう。


 早速、連絡を取る事にした。


 ――ファティ…。


 ――何でしょう!ロートフェルト様!


 だから早いって…。


 ――頼みがある。


 ――何なりとお申し付けください。


 俺は種とダンジョンについて簡単に説明した。

 ファティマは時折、相槌を打ち気になる事があれば聞いてきた。

 彼女はとても聞き上手だ。普段のふざけた言動さえなければいい女なんだろうが…。


 ――さすがです。できればその活躍の場に立ち会いとうございました。あぁ、想像しただけで……申し訳ありません。ちょっと下着を替えてきていいですか?

 

 これだよ。昔はもう少し取り繕ってたぞ。

 

 ――そういうのはいい。ここからが本題だが…。


 ――種の面倒を見ろ…と言う事ですね?


 ――……。

 

 先に言われて言葉に詰まる。

 俺の反応に満足したのかファティマが小さく笑う。


 ――その通りだ。近々、そちらに届けさせる。


 ――分かりました。


 ついでに送った連中の事も聞いてみるか。


 ――そういえば、そっちに送った連中はどうだ?


 ――ええ、中々の働きです。食費だけで馬車馬のように働いてくれるのでとても重宝しています。


 そ、そうか。

 

 ――問題ないならいい。


 聞くこと聞いたし交信を切ろうとしたが、それを察したのか遮られる。


 ――こちらからも少しお願いがあるのですが…。


 何だ?


 ――この後ですがティラーニに寄っていただけませんか?


 ティラーニ?西の隣領か。

 確か…奴隷市場で有名だったな。


 ――そうです。そこで奴隷を買ってきて欲しいのです。


 奴隷?何でまた。


 ――最近、人手が足りないので労働力が追加で必要になりました。捨て値の奴隷を大量購入した後、修理してこちらに送って頂けないでしょうか?


 なるほど。話は分かったが修理って…。

 俺も似たようなこと考えてはいるが実際言われると微妙な気持ちになるな。

 死にかけや病気持ちは比較的安いらしいし、店側としても売れなくなる前に捌いてしまいたいのだろう。

 金と輸送は…パトリックにやらせるか。


 ――分かった。人数はどれぐらい必要だ?


 ――そうですね…多い分にはいくらでも構いませんが、最低でも10人は欲しいです。


 了解したと返事をして、ファティマとの交信を切った。

 次はパトリックか…。交信の対象を切り替える。

 

 ――パトリック。


 ――おお。ロー様。本日はお日柄も良く…。


 そういうのいいから。

 何でどいつもこいつも前置きが長いんだよ。


 ――頼みがある。


 ――なんなりと。


 経緯を話すとすぐさま輸送の段取りを組むそうだ。

 ファティマもそうだけど、こういう話を振るとすぐに対応するんだよな。

 有能なのは良い事だ。


 ――…では、その種と購入した奴隷をオラトリアムのファティマ様の下へ運べばいいのですね。まずは種の方ですが、こちらから人を遣りましょう。場所は…。


 ――いや、必要ない。ストラタまで直接行く。あいつの足なら明日にはそっちに着くだろう。着いた時の受け取りを頼む。


 ――分かりました。では、街の外で馬車を待機させておきます。奴隷の方は事前に馬車をティラーニへ先行させておきます。ペギーを付けますので輸送の際は彼女にご一報を。


 ――分かった。では、よろしく頼む。


 俺は交信を切るとサベージを呼んだ。

 

 

 






 「……ふぅ」


 数日ぶりの日の光に僕――ハイディは目を細めた。

 

 「おう!何とか生きて出られたな。色々と助かったぜねーちゃん」


 一緒にここまで来た冒険者のおじさんに肩を叩かれる。


 「正直、あそこでねーちゃんが戻ろうって言ってくれなかったら俺達死んでたかもな」

 「いえ…」

 「ま、依頼は中途半端に終わっちまったが、命あっての物種だ。縁があったらまた会おうぜ!」


 おじさんとは簡単な挨拶をして別れた。

 僕も宿に戻ろう。今回は本当に疲れたよ。

 今回請けたクエストは迷宮の探索で、攻略ではなく何か価値のある物を手に入れると言った内容だった。


 今回は成功報酬ではなく前金が先に支払われ、成功時に残りが支払われる形になっている。

 額も高額だったので心許ない財布がかなり潤った。

 そこそこ稼いではいたのだけれど、ウィリードで装備を新調したのが財布にかなり響いていたので、最近の食費などは少し切り詰めていた。


 その点彼は不思議な事にお金に困っている所を見た事がない。

 支払いの時、こっそり財布を覗いてみたりしているのだが、定期的に増えているのだ。

 どうやって稼いでいるんだろう?


 …ともあれ。路銀が心配だったので高額の迷宮関係の依頼を請けた。

 実は枠は無制限だったが、彼は迷宮に興味がなさそうだったのでわざわざ危険な所まで付き合わせるのもどうかと思い、結局ごまかして1人で行く事にした。


 当日、依頼主と同じように仕事を請けた仲間との顔合わせを済ませて簡単な打ち合わせをして終了。

 その翌日に出発となった。

 内部は暗く松明や照明の類は手放せない。最初に見た印象はとにかく緑。

 

 視界一面が植物で覆われており、この迷宮の異様さを際立たせていた。

 迷宮と言うからには人造物を連想するが、ここにはそういった人の手が入った痕跡がなく、本当に迷宮なんだろうかと小さな疑問が湧き上がる。


 どちらかと言うと生き物のような生々しさを感じるのだ。

 そんな事を考えながら僕達は奥へ奥へと進んでいった。

 最初の半日ほどは何も起こらず、雑談も交えながら和やかに進んだ。


 同行している依頼人は武器商人として一山当ててそこそこ裕福になったので今度は名誉が欲しいと、よくわからない事を言っていた。

 迷宮で何か持って帰れば名誉に繋がるんだろうか?


 その後も商売の成功談や武勇伝を延々と語り始めたのは正直参ったよ。

 同行していた他の冒険者も少し嫌な顔をしているのが分かった。

 僕も正直、面白いとは感じなかった。内容があまり伝わって来ないので単なる自慢話にしか聞こえない。


 依頼人の話を聞き流しつつ進んでいるとアレが出てきた。

 最初は何か小さい物が動いていると思ったけど、明かりの届く位置まで近づいてた所で頬が引き攣る。

 それは切断された人間の腕だった。


 どういう訳か切断面から植物の蔦のような物が飛び出していてそれが腕を動かしているようだった。

 それにつられるように暗闇から次々と這い出してきた。

 切断された足、頭部、下半身、上半身。


 人間の一部がそれぞれ植物に寄生されて操られている。

 彼らはここで死んだのだろう。そして死後もこの迷宮を彷徨っているのだ。

 そして一番異様なのは手足が揃った死体で、何が起こったのか胴体がほぼ植物になっている。


 一部が人間のままなので恐らくは胴体に巨大な穴を空けられて殺されたのだろう。

 その死に様がこの迷宮の恐ろしさを物語っていた。

 他の冒険者達も程度の違いはあった物の驚いてはいたがすぐに立て直す。


 「辺獄種(アンデッド)動死体(ゾンビ)って奴か?分からんが敵なのは間違いないな。やるぞ!」

 

 僕を含めた全員が武器を構えて斬りかかる。

 

 「くそ!何だこいつ等!?刃が通らないぞ!」

 「なら魔法!魔法だ!メイジは居ないのか!?」

 「居ねえよ!見りゃ分かるだろ!」

 

 え!?居ないの!?

 僕は思わず依頼人を見る。


 「仕方がないだろう!確保できなかったんだよ!」


 周りを見ても、まともに使えそうな人は…いそうにない。

 僕がやるしかないようだ。

 手近に居る敵に<火球Ⅱ>を叩き込む。動きが遅いので当てるのは難しくない。


 命中して燃えあが…らない。何で!?


 「おい!何で燃えねえんだよ!」

 「いや、表面が焦げてるぞ。何発か喰らわせればやれる」


 僕は何度も<火球>を叩きこむ。3発、4発、5発目で燃え上がるとふらふら歩いて倒れた。

 

 「…ぐ」


 眩暈がして膝を付く。一気に魔法を使いすぎた。

 

 「おい!大丈夫か」

 

 他の冒険者が駆け寄ってくる。


 「俺らもやるぞ!女ばかりにやらせてんじゃねぇぞ!」


 数人で地面に引き倒し、松明用の油をかけて火をつけると瞬く間に燃え上がる。

 

 「よし!小物は捕まえて火にくべちまえ!」


 腕や足だけで動いている敵は捕まえて火の中に放り込む。

 火から逃れて出てこようとする敵は蹴って火の中に叩き返す。

 しばらくすると完全に燃え尽きたのか敵は全て動かなくなった。


 「…やったか…ふう。何だったんだ?」


 冒険者たちが各々息を吐く。

  

 「本当に辺獄種なのか?」


 辺獄種。

 人や魔物の死体が何かの要因で再び起き上がり動き出した存在。

 話ではよく聞くが、実際に目にしたという例はそう多くない。

 

 死体を放置すれば必ず発生する訳ではないので、何か特殊な条件や魔法の類が必要らしい。

 もっとも有名な噂は「辺獄の境界」と呼ばれる森とも谷とも呼ばれる場所で、その先は死にきれない死者の楽園となっており足を踏み入れれば戻って来られない…何て話を何度か聞いたことがある。


 話を戻そう。

 目の前で消し炭になった敵は辺獄種とは少し違う気がする。

 他の冒険者達も気にはなっているがどちらにせよ判断できるものでもないので棚上げだ。


 その後も何度か植物に取り付かれた亡者達に襲われた。

 最初の要領で焼き殺していたが、次第に油の量が心許なくなり僕の胸に段々焦りにも似た感情が湧き上がってくる。

 

 そしてついに犠牲者が出てしまった。

 下手に油を節約しようとしたのが裏目に出てしまい、数人が組み付かれて首の骨を折られたり、手足を引き千切られたりしていた。


 そこからは坂道を転がるようだった。

 敵と遭遇する度に人数が1人また1人と減っていく。

 入ってから2日ほど過ぎた頃だろうか?


 風景に変化があった。分かれ道だ。

 その時点で人数は半分近くまで減っていて、僕はこれ以上進むのは無理だと判断した。

 依頼人にその事を伝えてはみたが、反応は良くない。


 なんの収穫もないんだ。ある意味では当然の反応だろう。

 でも、これ以上は危険だ。人数も減って、頼みの綱の油も量が心許ない。

 これ以上使うと照明に使う分が無くなってしまう。


 …と説明したのだが結局、聞き入れて貰えずに解雇されてしまった。

 その後、僕と同じ意見を言って解雇された冒険者達と戻る事にしたが、依頼人に油を全て取り上げられてしまう。


 仕方がないので僕が魔法で明かりを作って帰る事になった。

 出発前に上を何かが通ったような気がしたけど…。気のせいかな?

 僕は他の冒険者達と引き上げる事になったが、帰りは驚くほど何も起こらなかった。


 

 途中、冒険者パーティーとすれ違い情報と松明を交換したお陰で魔法を使う必要もなくなり、随分と楽な移動になり……結局、何も起こらずに無事迷宮から生還。

 入り口を守っている騎士が無事に帰って来た事を随分と喜んでくれた。


 帰ってくる人は本当に少ないらしいが、少し前にもう1人出てきた人がいたらしい。

 何でも巨大な岩のような物を持って帰って来て随分と驚いたと言っていた。

 内心で首を傾げた。岩?そんな物あっただろうか?


 それに少し前?僕達より後に入ったのか?1人って言うのも妙だ。

 引っかかる事が多々あったが、疲れていたので考える事も億劫だった。

 他の冒険者達も同じように疲れていたので挨拶もそこそこに解散して…今に至る。


 僕は疲れた体を引きずって宿に戻ると、彼が待っていた。


 「…無事だったか」

 「ただいま。何とか無事だったよ」


 彼は「そうか」とだけ言ってそれっきり黙ってしまう。

 僕も疲れていたので、そのままベッドに倒れ込んで眠った。



 


 翌日。

 疲れも取れて元気が出たので彼と今後の話をする事にした。

 近くの酒場で食事を取っている途中、水を向ける。


 「これからどうするんだい?」

 

 彼は少し考える様な仕草をする。


 「隣のティラーニに向かう。お前の方に問題がなければ今日にでも向かおうと思うが?」

 

 僕の方は依頼も終わって特に予定もない。前金だけだが、路銀は手に入った。

 それにしてもティラーニ?あまりいい話を聞かない所だったような…。


 「えっと…?ティラーニって…」

 「奴隷市場で有名だな」


 彼は何て事の無い口調でそう言う。

 奴隷?


 「…奴隷…買うの?」


 声が固くなる。

 

 「依頼があってな」


 彼が言うには代理で奴隷を購入する事になってティラーニへ行く必要が出たとの事。

 何だか面倒そうな口調で言っている所を見ると、不本意なのかもしれない。

 彼は軽く溜息を吐くと食事の残りを口に流し込んで、立ち上がる。


 「準備が出来たら出発する」

 

 彼の言葉に僕は頷いた。 

 


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