563 「同郷」
続き。
「ほー、同類かい。 こんな所で油売っててええんか? 今頃、そっちの拠点にウチの連中がカチコンどるぞ?」
「あらそうなの? でも、アメリアちゃんを筆頭にこっちの人達は色々凄いのよ~? おじさんのお仲間がどんなものか知らないけど返り討ちに遭ってなければいいわね」
首途の言葉に十枝内は特に動揺もせずに返す。
国内全域が戦場になっている以上、テュケの拠点が襲われていない訳がないからだ。
つまり国内に安全な場所などない。 ならば自分の守りたいアールと一緒に行動しようと考えたのは彼女なりのエゴだったが、結果的に拠点襲撃から逃れる事が出来たのは幸運だったのかもしれない。
「……アメリア? そっちのボスとちゃうんか? 死んだって聞いとったが生きとったんかい」
それを聞いて十枝内の雰囲気が変わる。
「なに? もしかしてウルスラグナの関係者? ――いえ、多分だけどアメリアちゃんをあんなにした奴の仲間って事かしら?」
「どうなったかは知らんが儂の連れはぶち殺したったって言うとったぞ?」
首途が鼻で笑い、対する十枝内は沈黙。
「そう言う事、なら貴方達はここで潰しとかないと不味いって事ね」
「何言うとんねん。 潰されんのはお前等やろ?」
動いたのは同時だった。
十枝内は全身の触手を硬質化して首途へと伸ばし、首途は迎撃するように腕を伸ばす。
両者とも似た攻撃だが手数が違った。 首途の腕は十枝内の触手に絡め取られ拘束。
残りが本体に殺到しようとするが、サベージが割り込むように尾を縦に一閃。
十枝内の触手が全て切断される。
同時に首途が腕を引き戻しつつ突っ込む。 距離を置くと不利と悟ったのか接近戦に持ち込むつもりのようだ。
対する十枝内は遠距離なら優位に立てると判断。 バックステップで距離を取りつつ即座に切断された触手を再生させて繰り出す。
徹底して距離を詰めさせない立ち回りだ。
「はっ! アホが!」
触手が首途に絡みつこうとした瞬間、その手の中にいきなり武器が現れた。
量産型ザ・コア。 変形機能をオミットしており、第一形態で固定されているが、性能はオリジナルとそう大差ない代物だ。
ザ・コアは触手を即座に絡め取り十枝内を逆に引き込む。
「な、なによそれっ!」
本体に接触する前に十枝内は触手を自切。 完全に引きこめなかったが、充分に間合いは詰められた。
首途が腕を一閃。 十枝内の脇腹を抉る。
彼の腕はヒューマン・センチピードのオリジナルだけあって、その威力は十枝内が身を以って知る事となった。 鎧の脇腹部分を粉砕し十枝内の生身の部分を抉る。
「が、は」
彼女は小さく息を漏らして吹き飛び、硬い床を何度も転がって停止。
「と、トシナイさん!」
思わずアールが駆け寄るが十枝内はやんわりと手で制する。
「わ、私は大丈夫よ。 だから下がってなさい」
「ほー、中々頑丈やんけ。 やっぱ兄ちゃんに倣ってこいつで磨り潰した方が早そうやな」
首途はザ・コアを回転させながら構える。
十枝内は内心で不味いと冷や汗をかいていた。 目の前の男は明らかに戦い慣れており、自分達転生者の相手も視野に入れているとしか思えない立ち回りだ。 その証拠に同郷の人間相手に欠片も躊躇がなく、完全に殺しに来ている。
同時に自分の不利も悟っていた。
テュケの構成員たる使徒――転生者は魔物や人間との戦闘経験はそれなりに積んでおり、殺生に関しての抵抗感を殺す訓練を受けているので戦闘行為自体に忌避感はない。
だが、今まで戦った相手は基本的に格下ばかりで、命の危険を感じるような相手と戦ったという経験が皆無だった。 要は同格以上との戦闘経験が訓練以外ではほとんどないので彼女を筆頭に苦戦するという経験が極めて少なかったのだ。 その為、同格以上の相手である首途に対して、どう攻めればいいかの考えが浮かばずに焦りだけが先行していた。
本能は撤退して仲間と合流し、複数で当たれと囁く。 だが、彼女には近くで震えているアールを見捨てるような真似はできない。 担いで逃げると言う事も考えたが、自分一人ならともかく彼を抱えたまま地竜――サベージから逃げ切るのは不可能と考えていた。
地竜との遭遇自体は初めてだったが、一目でも見れば足が早い魔物である事は明白だ。
つまり、この場を切り抜けるには目の前の敵を撃破する事が必須となる。
幸いにも両者は十枝内を標的として定めているので自分がここで踏ん張っている限りアールに危険はないだろうと判断。 そして勝利の為に彼女に取れる手はそう多くなかった。
対する首途は目の前のイソギンチャクみたいな女――十枝内に関してはそこまで脅威ではないと考えていた。 攻撃手段は主に触手を用いた拘束と刺突。
どちらもザ・コアだけで対処可能で、それ以外に攻撃手段がないのならまず負けないだろうとほぼ勝ちを確信していた。
そもそも腰が引けているので戦いに関する心構えの時点で雑魚と目の前にいる十枝内を首途はそう断じた。 首途は作戦に参加するに当たって、戦闘訓練を受けている。
模擬戦も何度も行い。 実戦に必要な戦闘勘を磨いた。
はっきりいってオラトリアムという場所は魔窟と言っても言い過ぎではない場所で、転生者だからといって勝てる程、甘い相手はそう多くない。
それなりに腕っぷしには自信のあった首途だったが、訓練で手合わせして何度も地面を舐めさせられ、自分の甘さを認識した。 参加する為には強くなる必要があると考えた彼は戦闘訓練に加え、戦い方の幅を広げる為に編み出したのは転移魔石を用いた武器の呼び出しだ。
今回呼び出したザ・コアに始まり、他の武器も瞬時に呼び出せるように転移魔石を装備に組み込み、しっかりと扱えるように何度も練習した。
最終的にハリシャや夜ノ森相手に対等以上に戦えるレベルにまで昇華された彼の戦闘能力は、オラトリアムの中でも上位に位置する。
もう少し食い下がってくるようであれば他の武器も試せそうだが、あの様子だと恐らくは――
十枝内の体が大きく膨張して触手も一本一本が太くなっていく。
どうやら切り札である解放を使用したようだ。
「やっぱりそう来たか。 アホが、そんなんに頼っとるからお前等は雑魚やねん」
そう呟く首途の口調は呆れが多分に含まれていた。
あまりにも予想を裏切らない展開に彼はやや白けた気持ちになり、脳裏に仕留める方法をいくつか考える。 そして中でも最も手っ取り早い手段を選択。
近くのサベージに小さく目配せをすると意図をくみ取ったサベージは小さく頷いた。
さっさと仕留めてこの奥を調べよう。
そう考えて首途は目の前の敵に意識を集中した。
誤字報告いつもありがとうございます。




