544 「陽動」
続き。
最後の一人の兵士が面頬越しに恐怖に表情を歪めたと同時にその首が高々と宙を舞った。
「これで全部ですか。 もっと斬りたいのですが、仕事もあるので我慢するとしましょう。 ではイフェアス殿にスレンダーマンの皆さん、手筈通りにお願いします」
兵士を皆殺しにした女――ハリシャは物足りないと言った表情で一緒に来た黒の全身鎧――イフェアス達スレンダーマン達にそう言うと彼等は頷きで応え、足のローラーを使用しての高速移動で目的を果たしに行く。
「機甲部隊の皆さんは手筈通り、半数は散って撹乱と優先目標施設の破壊を。 残りは私と共に陽動を行います」
ハリシャの指示で彼女と共にいた魔導外骨格の半数がその場を去り、残りの半数が足音を立てながら周囲の建物を破壊し始める。
彼女の役目はこの国の中心付近――最も注目の集まる場所での陽動だ。
リミットはスレンダーマン達が目的を達成するまで。
それさえ済めば遊撃として好きなだけ斬り殺しても良いと主であるローから許可を貰っている。
「素晴らしい。 早く、早く自由に動き回りたい物ですね」
味方以外ならいくらでも斬り殺しても良いそうなので、今日は彼女にとって人生最高の日になると予感していた。
ここ――オフルマズドに居る人間を片端から撫で斬りにして行く様を想像して彼女はぞくぞくと身を震わせる。
「差し当たってはこれからこちらに来るであろう者達で無聊を慰めるとしましょう」
遠くから向かって来る複数の足音を聞きながらハリシャは刀を構えた。
国の中心部――それも王城から比較的近い位置なので、陽動と分かっていても無視できず、オフルマズドの兵達はその挑発に乗らざるを得なかった。
陽動部隊から離れ個別に動き回っている者達は、目に付く建物を破壊しながら突き進んでいく。
目標はこの国にある魔導外骨格の生産工場及び、格納施設。
目的はその破壊となる。
向かうのも同じ魔導外骨格だが、こちらはオラトリアムが独自に開発した機種だった。
そしてその姿も既存の物とは大きく異なる。
最大の違いは下半身だろう。 人の物ではなく、蜘蛛を思わせる細長い足が八本。
上半身は人型で腕には大型化した銃杖と腰には伸縮式の槍がマウントされており、必要に応じて使い分ける。 報告した兵士が化け物と形容するのも無理のない見た目だった。
開発した首途という男は魔導外骨格の弱点である視野の狭さと動きの鈍重さを前者は乗員を増やす事で補い、後者を補った結果がこの形状だ。
複数の足は地形を選ばない高い走破性と安定性を両立させ、出せる速度も大きく向上し、足はタイタン鋼で構成されている為、それ自体が武器となる。
操縦は下半身と上半身で完全に分かれており、下半身が移動の全てを引き受け、上半身が攻撃の全てを引き受ける事になるので、操縦者には息の合った連携が求められ、操縦の難度は高い。
名称は「魔導外骨格 Type:アラクノフォビア」
今回の作戦に投入した二種類の量産機の内一種だ。
十数機のアラクノフォビアは多脚を駆使して疾走しつつ槍で手近な建物を破壊しながら進む。
その動きに迷いはない。
何故なら事前に地図を貰っている上、この市街地を模した場所での走破訓練は百数十時間以上行っているので、しくじる訳がないと操縦しているゴブリン達は迷いなく機体を操る。
真っ直ぐに市街地を突っ切った先には開けた場所に、接近に気付いた全身鎧の兵士達。
迎え撃とうと待ち構えていたが、アラクノフォビア達は敵の姿を認めると全機が一斉に銃杖を構え発射。 銃に内蔵された魔石が即座に<照準>を起動。
発射された弾丸と言うよりは砲弾としか言えないサイズのそれが次々と着弾して爆散。
密集していた兵士達が吹き飛ぶ。
息のある者もいたが無視して、アラクノフォビア達は生産工場を囲んでいる柵を飛び越え、内部へと侵入。 そのまま、銃杖を連射して手当たり次第に建物を破壊していく。 オフルマズドにとっての不幸は生産施設と格納施設を併設していた事だろう。 結果、襲撃戦力が一点に集まる事となった
兵士の詰所、生産施設、格納庫、目に付いた物は片端から打ち抜いて行くが、燃え盛る建物から複数の重たい足音。
機転の利く者達が咄嗟の判断で乗り込んだらしい。
炎を割って現れたのはオフルマズドで生産された機体だ。
白を基調として所々に青の装飾が施され、背にはマント、胸にはオフルマズドのエンブレム。
装備は長剣や槍、ハルバード等、多種多様ではあるが近接武器が主だった。
「一体何なんだこいつ等は!?」
「知らんが敵だ! 俺達の国でこれだけの事をやってくれたのだ、ただで帰す訳にはいかん! ここで撃退するぞ!」
現れた魔導外骨格から聞こえる声は戸惑いつつも口調には怒りが滲んでいる。
「貴様等! 何者だ!」
魔導外骨格はアラクノフォビアへ誰何の言葉を投げかけるが返答は銃撃だった。
咄嗟に盾を持った機体が割り込み、弾を防ぐ。
凄まじい金属音と同時に受けた機体が反動を抑えきれずに尻餅をつく。
「大丈夫か!?」
僚機がすぐに助け起こす。
盾持ちの機体はややふらつきながらも立ち上がり盾を一瞥し――息を呑む。
受けた部分が大きく陥没していたからだ。
「あ、あぁ、だが凄まじい威力だ。 まともに喰らっては危ない」
「来るぞ! 銃杖に気を付けろ!」
アラクノフォビア達が一斉に攻撃体勢に入ったのを見て、警告を飛ばす。
異形ではあるが彼等は相手も同じ魔導外骨格であると即座に看破、やりようはあると各々武器を構える。
彼等はこの国の防衛を司る者達だ。 侵略者の撃退こそが本領。
今こそ、自分達の力を見せつける時なのだと奮起する。
敵は確かに手強いだろう。 だが、自分達とて厳しい訓練を潜り抜けて来た猛者揃い。
苦戦はしても負けると言う事はあり得ない!
彼等は武器を手にアラクノフォビア達へと突撃していった。
結果だけを先に言うのなら戦いの――いや、戦いにすらならなかった。
オフルマズドの魔導外骨格はアラクノフォビア達のスピードにまるでついて行けず、武器を振るっても掠りもしない。
ならばと遠距離攻撃の魔法を撃ち込んだがこちらも当てる以前に捕捉すらできていない。
対するアラクノフォビア達はスピードで撹乱、手始めに盾持ちを銃杖の集中砲火で叩き潰し、後は遠距離攻撃持ち、近接持ちの順に撃破されて行った。
オフルマズドの防衛戦力の要になると期待されていた魔導外骨格は碌に反撃できないまま、性能差だけでなく操縦技術でも圧倒され次々と撃破されていき、無残な屍を晒す。
「な、馬鹿な!? 何だこの動きは何故こうも一方的に――がっ!?」
隙が出来た機体を優先的に狙うように訓練を受けた彼等の操作に淀みはない。
多脚なのを活かし、上から圧し掛かって足で突き刺し行動不能にして槍で首の関節を突き刺して中をかき回して搭乗者を仕留める。
動かなくなった事を確認して次へ。
早々に遠距離攻撃持ちが全て潰されたのでオフルマズド側は闇雲に武器を振り回すだけとなった。
そうしているうちに一機、また一機と撃破され――ついに最後の一体が大破。
工場が爆散して完全に使い物にならなくなったのはそれから数分後の事だった。
誤字報告いつもありがとうございます。




