531 「制止」
10/24 本日で投稿を始めて三年目となります。
ここまで続けて来れたのは読んでくれている皆さんのお陰です。
本当にありがとうございました。
四年目も頑張って行こうと思いますので、まだまだ拙い所も多いこの作品をよろしくお願いします。
オフルマズド。 正式名称は選定真国オフルマズド。
ヴァーサリイ大陸最南端に存在するその国家は他の大国として名を知られているウルスラグナ王国、アラブロストル=ディモクラティアと比較すれば規模としてはかなり見劣りするだろう。
だが、国力と言う点では前述の二国にも決して引けを取らない。
そして特筆すべきは大国として名を馳せているにも拘らず、都市国家と言う点にあるだろう。
オフルマズドは巨大な外壁に囲まれた、たった一つの都市しか存在しない。
その為、遠くからだと小高い場所に存在する巨大な要塞に見えるようだ。
周囲は念入りに掃除され、何もない広大な平原が広がっており、守るに易く攻めるに難しい地形となっている。
外部からでは周囲に存在する外壁に阻まれ、内部の様子は一切不明。
結果、大国ではあるにも拘らず、内部の詳細が驚く程、他国に伝わらない国となっていた。
兵の精強さは長い期間、大きな戦がなかったので周辺国家には伝わっていないが、建国以来無敗を誇る難攻不落の要塞としての風評もあり、悪意を以って迂闊に近づく者は存在しない。
交易の類だが輸入はするが輸出は一切しないので国の特産も不明。
仕入れる品目も大陸内ではタイタン鋼など、国内で製造が不可能な鉱物や魔石に限られている。
それ以外は海を通して他所の大陸と行っており、取引先で有力なのはグノーシスの本国として有名なクロノカイロスや隣のリブリアム大陸のどちらかか、もしくは両方だろう。 基本的には海を挟んでの交易が主だ。
さて、交易を行う上で多少は内部の様子はある程度広まるのではないか?
そう考えられていたが、事実は違っていた。
確かに門は通してくれるが、その先には全く同じ巨大な壁に囲まれた門が存在する。
つまりは門と門の間までしか部外者は侵入を許されない。
そこで全ての引き渡しと清算を済ませ、部外者の退去を確認したと同時に仕入れた物を内部へと搬入するのだ。 その間に荷物は徹底的に調べられ、紛れ込んでいる者が居れば即座に処理されてしまう。
その為、大陸内の他の国家とは国交を一切持たない国として謎のヴェールに包まれている。
それが選定真国オフルマズドだ。
「……なるほど。 いくら調べても情報が出てこない訳だ」
「えぇ、現状で調べられるのはここまでです。 報告にある通り、外部からの干渉には信じられないほどに強く、情報が驚く程でて来ません」
俺はファティマから受け取った報告書にざっと目を通し、オフルマズドの概要について簡単にだが理解した。
情報の遮断に関してはアラブロストルにあった国立魔導研究所も大概だったが、ここはそれ以上だな。
国を囲んでいる外壁は何らかの装置を設置しているのか、空からでも内部の状況が窺い知れず、スクヴェイダーによる空中からの偵察も効果がなかった。 恐らく物理的にも効果のある魔法障壁の類だろうと推察される。
洗脳して情報収集しようにも内部の情報を知っている人間が内部にしかいない以上、あまり意味がない。
確かに面倒な場所だ。
あの後、俺は首途の研究所でひたすら改造種の製造や首途の作った玩具で遊んだりしていたが、しばらく経ったある日にファティマに呼び出され、偵察の結果が出たと報告を受けたのだが……。
……正直、何もわからないと言う事しか分からんな。
なるほどな。 戦力の拡充を急ぐわけだ。
ここを調べたければ正面から門を蹴破る必要がある。
そうなればオフルマズドとの戦闘は避けられない。 テュケとの関係が怪しまれている以上、怪しい装備も揃えているだろうし、戦力も今まで攻めた場所とは比較にならない規模だろう。
加えて内部の詳細が不明なのでどこをどう攻めればいいかすら分からない。
仮に突破したとしても手探りで広大な国を戦いながら家探しする事を強いられるといった難易度の高い侵攻を要求される。
目当てがテュケだとしてもどこにいるか分からない以上、入るのならオフルマズドを完全に滅ぼすという前提が必須となる訳だ。
なるほどなるほど。 これは俺でも分かるぐらい厳しいな。
「……はっきりと申し上げます。 現状でオフルマズドに仕掛けるのはお勧めできません」
「まぁ、お前の言う通り、危険ではあるな」
「せめて相手の戦力や内部の情報があれば何かしらの策を講じる事も出来ますが、それすら叶わない以上、強引に踏み込むともなれば正面からの全面戦争です。 それも相手のフィールドで。 我がオラトリアムの兵は精強ではありますが無敵ではありません。 仮に勝利したとしてもどれだけの犠牲が出るか……」
そうだな。 お前の言う通りだ。
挑めばただでは済まないだろうな。 それはよく理解できた。
「……で? いつ攻めるんだ?」
「……」
ファティマが絶句。
「前から言っていただろう? テュケは潰す。 その邪魔になるのならオフルマズドも潰す。 シンプルな話だ」
それにヴェルテクスとアスピザル、アブドーラとも約束している以上、行かないという選択肢はない。
加えていい加減、あの鬱陶しい組織をのさばらせておくのも不快だしな。
ここ等で完全に憂いをこの世から消し去りたい。
「…………はぁ、やはりこうなりましたか。 正直、思いとどまって頂ければとも思いましたが、分かりました。 明日に主だった者を招集して方針を話し、本格的に戦の準備を始めます。 やるからには万全の布陣で臨みますので相応に時間を頂く事になりますが構いませんね」
「あぁ、こっちも改造種の製造で少し時間が欲しかったんだ。 作った奴の詳細は後で纏めて報告する」
「分かりました。 では、明日にでも皆を集めて会議を行いますので、必ず出席を」
俺はあぁと頷いて席を立った。
屋敷を後にして外で待たせていたサベージに跨り、首途の研究所へと戻る。
移動しながらぼんやりと考える。 さて、どれぐらいの戦力があれば国を滅ぼせるのだろうかと。
アラブロストルから技術の吸い出しは行っているだろうから魔導外骨格と銃杖は間違いなく使って来るだろう。
それはタイタン鋼を大量に仕入れている事からも明らかだ。
加えて一国である以上、戦力も百や千ではなく、万といった規模になるだろうな。
そうなると質は勿論だが量も必要となるか。
流石に一人では無理だろうし、突っ込むにしても何かしら考えた方がいいかもしれんな。
……まぁ、その辺は首途の所で作っている改造種があればある程度の解消は可能か。
俺はそんな事を考えながら流れる景色を眺めていた。
誤字報告いつもありがとうございます。
 




