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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
16章

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525 「説法」

別視点(ハイディ)

 「お疲れさまでした聖女様」

 「お疲れ様」


 会議室を後にした僕――ハイディに護衛のエイデンさんとリリーゼさんが声をかけてくれたので、ありがとうと返す。

 例のバラルフラームの一件からそれなりに時間が経過し、アイオーン教団も色々と落ち着いてきていた。

 

 封印された魔剣は現在、聖剣と一緒に僕の腰に収まっている。

 危険なのであれから持ち歩いてはいるが使用はしていない。

 本来ならグノーシスに預けるべきなのだろうけど、かなりの犠牲が出たグノーシスはアープアーバンを越えるのが難しいという事なので暫定的に僕が預かる事となってしまった。


 エルマンさんもそれに賛成のようで、彼曰く他の人間には危険すぎて触れさせられないとの事。

 それは僕も同感だ。 聖剣と一緒にしておくと魔剣から力を吸い取って抑えてくれるので、封印と併せて完全に無力化する事が出来る。


 それに気付く前は時折、カタカタと不吉に揺れて鞘から抜け出そうとしていたので、正直かなり怖かった。

 

 ……夜中とか部屋の片隅で鳴られてるとちょっと……ね。


 それが毎晩だ。

 いい加減に何とかしないとと思い聖剣と一緒にする事で何とかならないかと思いついて枕の下に突っ込むとそれ以来大人しくなった。


 そして肝心の処分の件だが、少し前から彼等は本国と連絡を取っており、魔剣の回収に関しての指示を仰ぐとの事だった。

 聞けば、南の方で大きな事件があったとかで、こちらに来る事が難しいらしい。

 その為、生き残った彼等は一時的ではあるがアイオーン教団での預かりとなる。


 あの後、バラルフラームから帰還した僕達には慌ただしい戦後作業が待っていた。

 まず、かなりの死者が出たのでその遺族への報告と補償、そして彼等が抜けた穴を埋める為にも人員配置の見直し。


 元々、業務に支障が出ない程度に留めて招集をしたが、影響が全くないと言う事はない。

 人が一人いなくなればその空白を埋める事は必要だ。

 それが終わればまたいつもの日常が始まる。


 アイオーン教団として治安の回復と維持。 新しい信徒の獲得とやる事は山積みだ。

 ただ、そんな日々にも変化があった。 オラトリアムの支援により拠点の復興に目途が立った事だ。

 ムスリム霊山、オールディア――オラトリアムから近い順に資金や資材の支援を行うと言う事で、既に手が入っており、驚く程の速さで復興が進んでいる。


 お陰で僕達は大忙しだ。

 人が居ないので指示を出せる人間が少ないから、特にエルマンさんはあちこち飛び回っており、僕やクリステラさん達聖堂騎士の皆も色々と動いている。


 だからといって組織運営――要は布教活動も怠ってはいけないとかで、現状かなり手が足りない状況だ。

 その為にオールディアの神学園を再興して後進の育成は急務と主張したのはグレゴアさんだった。

 僕もその意見には賛成だったので他の復興計画と並行して進めている。


 グレゴアさんはそう言った事が好きなのか、言い出したからには責任を持つと早々にオールディアに向かい、学ぶ事はどこでもできると有志を募って現在、再建中の跡地の一角を使用して学生の募集を行い復興活動に従事する代わりに学費の免除を行うと入学試験を廃止して門戸を大きく開いているようだ。


 少し前に魔石を使用して話したけど、グレゴアさんは鍛えがいがあると嬉しそうだった。

 それにしても――

 オラトリアムの資金力はすさまじいと聞いていたけど予想以上だ。


 復興作業の際に投じられた金額を見ただけでもそこらの領をしばらく養えるほどの物だった。

 しかもそれだけの金額を放り込んでいるにも拘らず、欠片も余裕を失っていない。

 つまりオラトリアムにとって大した事のない額と言う事だ。


 本当に一体どうなっているのだろう?

 機会があれば一度見てみたい物だけど、今は難しい。

 それに他に気を払うべき事柄がある。 グノーシスだ。


 バラルフラームでの一件。 マーベリック枢機卿の思惑とは別で参加していたジョゼさん。

 クリステラさんに聞いた話だけど、彼女は剣の才能はあったけど聖堂騎士の水準に届くような腕ではないとの事。


 なら何故彼女が聖堂騎士としてあの戦いに参加できたのか。

 エルマンさんから審問官という教団の裏の仕事に携わる部署が関係していると聞いたけど、詳細は不明らしい。

 そもそも何をやっているかがはっきりと分からない部署で、王都での一件の後にウルスラグナに居た者達は一斉に姿を消したらしく調べる事もできなかった。


 結局の所、ジョゼさんの行動が審問官の意向による物なのかそれを無視した独断なのかもわからずに終わってしまい、グノーシスの思惑がどこにあるか計りかねている。

 今となってはの話だけど、少なくともマーベリック枢機卿には他意はなく、純粋に辺獄の脅威をどうにかしたかったのだろうと言う事だけは良く分かった。


 そうでもなければ命を捨ててまで僕達を助けてくれなかった筈だ。

 

 ……分からないことが多すぎる。


 うんうんと悩んでは見た物の答えは出そうに――

 

 「わわわ」


 不意に鎧の肩部分を左右から掴まれて思いっきり揺すられた。

 完全に不意打ちだったので変な声が出てしまったじゃないか!

 何だと振り返るとエイデンさんとリリーゼさんがそれぞれ苦笑と呆れを浮かべてじっと見ている。


 「聖女様ー、何を考えているかはあえて聞きませんけど、その様子なら考えても無駄っぽいのでちょっと落ち着きましょうね」

 「まぁ、姉さんの言い方はあれだけど、溜めこむのはよくないので、取りあえず吐き出すか目の前の事へ集中して紛らわしてはどうですか?」

 「あはは、そうだね。 どうも最近色々あって考えちゃうな」


 僕は笑って二人に同意する。

 いけない、考えすぎだ。 落ち着く意味でも直近の事に意識を向けた。

 

 ……とは言っても今日は大聖堂で信者向けや新規入信者向けの説明会を何回かして終わりだ。


 時間に余裕があれば異邦人の皆に挨拶をしておきたい。

 

 

 説明会と言ってもそんなに難しい事じゃない。

 アイオーン教団の理念と現在やっている復興作業や、入信者への利益等を説明して、時折入る質問に答えて行くといった内容だ。


 最後に聖剣を抜いて見せて終わりと言うのが流れとなる。

 僕は散々見ているから何も感じないけど、聖剣の輝きは皆の心の琴線に触れるのか、見た人達は感極まったように祈りを捧げたりしている。


 正直、これって詐欺じゃないのかと内心で訝しむけど、エルマンさん曰く教団の象徴なんだから問題ないとの事。

 とにかく勿体ぶりつつも最低一回は光らせとけと言われたので、話の最後にやっているけど……。


 ……騙している訳じゃないんだけど何だかなぁ……。


 そんな事を考えつつその日は日が暮れる前までそれを続けることになった。

 

誤字報告いつもありがとうございます。


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