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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
3章

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51/1442

50 「試合」

50回目です。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。

 「闘技場に集まった皆さん!今夜もよく来てくれた!」


 上半身裸の筋肉でできたおっさんが声を張り上げている。

 この広さの闘技場全体に聞こえるほどの声を出すとは大したものだ。


 「こういうの初めてだからドキドキするね!」

 

 隣の席に座っているハイディはキラキラした目で俺の方を見ている。


 時刻は夜。

 闘技場の準備も終わりいよいよ夜の部が開始だ。

 進行役のおっさんが声を張り上げて闘技場と試合の簡単な説明をしている。


 「さぁ!今夜も我らが闘技場の守護神に挑む挑戦者が現れた!」


 観客が沸き立つ。

 うーむ。俺もわーとかきゃーとか言った方がいいんだろうか?

 隣のハイディはわーわー言っている。


 「何と今夜は2名もいるぜ!命知らず達の入場だ―!」


 男が2人現れた。両方とも鍛え抜かれた体と使い込んだ武器を手に確かな足取りで歩いている。

 

 「こいつらは青2級冒険者パーティー「ハイドとゲドン」だ!この辺りじゃまだ売れてないが、この戦いで箔を付けてギルドに凱旋すると息巻いているぞ!」


 おおー!と会場が更に沸き立つ。

 ハイドとゲドンてまんまかよ。名前もうちょっと何とかならなかったのか?

 どっちがどっちか知らんがハイドとゲドンはガッツポーズを取ってアピールしている。


 「対するは我が闘技場の守護神ダスティーとペギーだ!」


 反対側から闘技場の選手が2人出て…何だあいつら?

 片方は特に何もない。浅黒い肌の細身の女だ。軽そうな皮の鎧と武器は…拳にメリケンサックみたいなのを着けている。名前から察するにあいつがペギーか。


 …で問題はもう1人だ。

 

 装備は隣の女と同じ皮の鎧だ。

 だが、見た目が普通じゃない。生身の部分が植物の蔦で覆われていて見えない。

 辛うじて顔のある場所に蔦の隙間から目らしき物がみえるぐらいだ。


 これが本当の植物人間って奴か?

 いや、そもそも人間なのか?


 「ダスティーに驚いている奴もいるだろうから説明するぜ!こいつは数年前、このストラタ南東の迷宮「夢現(ゆめうつつ)宿主(しゅくしゅ)」。その攻略に参加した冒険者パーティーの生き残りだ!」


 …ダンジョンの生き残り…ねぇ。


 「その時に負った傷が原因で体がこうなっちまった!だが、ダスティーは不屈の精神でそれを克服し、更なる力を手に入れたぁ!その力は試合が始まってからのお楽しみだぁ!」


 また歓声が上がる。


 挑戦者の2人がそれぞれ戦斧を構える。

 闘技場側の2人も戦闘の体勢を取る。


 「連中も痺れを切らしているみたいだしそろそろ試合開始と行こうか!」


 進行役のおっさんは早足で下がる。


 「最後に確認するぞ!決着は相手の降参、死亡、審判も兼ねている俺が戦闘不能と判断した場合に決まる!死にたくないなら早めに降参しな!」


 十分距離を取った所で手を振り上げて…。


 「始め!」


 …下ろす。


 瞬間、挑戦者の2人は同時に女に斬りかかった。

 あぁ、弱い方から先に潰そうって事か。いい手だな。

 格好良くはないけど。


 女――ペギーはボクサーのような軽いステップで2人の攻撃を掻い潜ると一撃ずつ脇腹に鋭いフックを叩き込んだ。2人は体をくの字に曲げて顔が下がった所で右、左の順で下からアッパーカット。

 巨体が崩れ落ちる。


 …うわ。完璧に入ったな。意識飛んだんじゃないのか?


 さすがは青の冒険者。意識は保っているようだ。何とか立ち上がろうとしている。

 ペギーの口が微かに動く。距離のせいで何を言っているかは不明だが恐らくは挑発の類だろう。

 その証拠に2人は視線に殺意を込めて立ち上がる。


 ペギーは薄く笑うと、後ろで突っ立っていたダスティーの方へ向き直ると親指で2人を差す。

 ダスティーは無言で前に出る。

 その間に2人は持ち直したようで取り落とした武器を拾って構えた。


 …俺ならここで降参するな。


 どう見ても2人に勝ち目はない。これ以上…と言うよりはあのダスティーを相手にすると命を取られそうな雰囲気だ。

 ペギーって女は観客を意識している。1人でも片付く所をわざわざ手加減したのは、試合がすぐに終わらせるのを避ける為だろう。


 完全に遊ばれてる。

 あの2人はそれを理解してるのかしていないのかは知らんが怒りで、判断力が落ちているのは確かだな。

 さて、あのペギーって女の強さは分かったが、ダスティーの戦いにも興味がある。

 あのナリで何を繰り出すのやら。


 ダスティーの腕に絡みついている蔦が何本も伸びる。

 伸ばした蔦を束ねると鞭のように振るう。2人は咄嗟に戦斧で鞭を防ぐ。

 鞭の攻撃は止まらずに受け止めた戦斧から何度も硬質な音が響く。


 よく見ると蔦の表面には棘のようなものが隙間なく生えている。

 あんなもので打たれたら堪ったものではないだろう。

 受けている2人もそれを理解しているのか防ぐ姿に必死さを感じる。


 俺は内心でダメだなと思った。ダスティーはわざと斧を狙っている。

 2人は気づいてないっぽいが、試合を長引かせるためにやっているのだろう。

 それにしても…さっきからダスティーは何をやっているんだ?


 「あれ?…何だろう?」


 ハイディも目を凝らしながら首を傾げている。気が付いたか。

 ダスティーの体から薄くだが煙のような物が漏れている。

 まさか花粉?とか言わないだろうな?


 定番だと毒の類だが…。

 効きが悪いのか2人は元気に鞭を防いでいる。毒じゃないのか?

 攻防に観客が飽きかけた所でダスティーが動きを変えた。


 片方の斧に当てた瞬間、鞭が解けて斧と腕に絡みつく。

 蔦が絡みついた腕から血が噴き出す。男の口がパクパク動いているが声が出ていない。

 痛みのあまり声が出ない?いや、出せないのか。


 そこであの煙の意味を悟った。麻痺か、しかも声だけ出せないようにする。

 降参させない気か。えげつないな。

 ダスティーはもう片方の手の蔦を伸ばして束ねると槍のようにして突き刺した。


 蔦は男の腹を貫通する。男は大きく痙攣した後に動かなくなった。

 残りの男は何かを言おうとしたが声が出ない事に気が付いて背を向けて走り出す。

 ダスティーは腕を振って突き刺した男を投げ捨てると蔦を引っ込めて、逃げた男に手を翳すと…。


 ぽんと何かがすっぽ抜けた音がして男の頭が砕け散った。

 何だ?何か飛ばしたのか?察するに種か何かか?

 頭を失った男が1歩2歩と歩いて倒れる。


 闘技場が静寂に包まれ、進行が2人の死体に歩み寄って死を確認すると声を張り上げる。


 「終了ー!手に汗握る攻防の末にこの戦いを制したのは我らが闘技場の守護神ペギーとダスティーだぁ!!」


 場が大歓声に包まれる。

 面白い戦いだったが、途中からは完全に茶番だったな。

 その後、進行が勝者と敗者の健闘を称えるような事を言ってお開きとなった。


 俺達も闘技場を後にすると近所の酒場で食事を取る。

 多少混んではいたが問題なく座れた。


 「凄い戦いだったね」


 注文した料理が来るなり、ハイディはやや興奮気味に語る。

 思いっきり人が死んでいたが、覚悟して戦った結果だからだろうか?特に気にした様子はない。

 

 「あぁ。…とは言っても序盤の時点で勝負は見えていたがな」

 「そうだね。あのペギーって人だけでも充分だったね」

 「だろうな。お前ならあの2人相手にどう攻める?」


 ハイディは出された料理に口を付けながら考えると…。


 「2対2を前提とするならやっぱりあの2人と同じで片方を落とす事を狙っていくと思う。特にあのダスティーって人はかなり危ないよ。…でも見た所、動き自体はそう早くないから火系統の魔法を中心に攻めて効果が薄いようなら風系統で削りつつ様子を見る…かな?」


 ふむふむ。


 「じゃあペギーって女はどうだ?」

 「うーん。彼女かなり動きが速いし動きが独特だった。捕えるのは難しいんじゃないかな?何も考えずに行くと一方的にやられそうだから。風で砂を巻き上げて視界を奪うか、水で地面を泥濘(ぬかるみ)にして動きを悪くする事に集中すると思う」


 それか飛び道具かな。と付け足した。

 君はどう思う?と返されたので俺は自分の意見を言う。

 話していると中々盛り上がり食事も、いい感じで進んだ。


 食事を済ませると特に用事はないので宿へ戻る。


 俺はハイディを先に部屋へ戻らせると念の為にサベージの様子を見に厩舎へ足を向けた。

 中を覗いてみたが静かな物で、サベージも目を閉じて蹲ったままだ。

 あのガキ共は諦めてくれたようだな。


 …確認も済ませたし俺も宿に戻るか。

 

 「あの…すいません」


 宿に入ろうとすると見知らぬおばさんに声をかけられた。


 「何か?」

 「ウチの子を知りませんか?特徴は…」


 話を聞けばおばさんの息子が昼間から行方が分からないらしい。

 特徴は……サベージを小突いていたクソガキだった。

 取り合えず「知らない」と言ってお引き取り願い、姿が消えたのを確認した後、急いで厩舎に戻って中に入る。


 「サベージ起きろ」


 声をかけるとサベージはゆっくりと目を開ける。

 

 「昼間にお前を小突き回してたガキ共を知らないか?」


 嫌な予感がする。

 サベージは口をカパっと開けてげっぷをした。

 この野郎やりやがったな。


 念の為、周囲を確認する。痕跡が残っているなら消して置かないと…。

 サベージはグアと軽く鳴くと交信で痕跡は消したと送って来た。

 マジか?俺が疑いの眼差しを向けるとサベージは<水球>を発動させる。


 大き目の<水球>が空中でクルクル回りながら浮かぶ。

 

 …あぁ、それで洗い流したのか。


 バレてないみたいだし、まぁいいか。

 俺は宿に戻る事にした。

 

 



 部屋に戻るともぬけの殻だった。

 おや?戻っている物かと思ったが…まぁいいか。

 横になろうかとベッドに近づくと紙切れが置いてあることに気が付いた。


 俺は首を傾げながら紙を開く。内容に俺は眉を吊り上げる。

 

 『女は預かった。

 返して欲しければ地竜を連れて街の北東にある廃砦に急いで来い。

 遅れた場合は女の命はない』


 誰の置き手紙か一発で解る内容だな。

 それにしてもハイディの奴、攫われたのか?本当に要らん手間をかける奴だな。

 部屋の様子を見る限り争った形跡はない。


 可能性としてはハイディを瞬殺したか騙して連れ出したのどちらかだろう。

 普通に考えれば後者だろうな。

 まぁ、闘技場に出てたダスティーやペギーレベルの連中が複数なら行けるだろうが、あの成金に用意できるとは思えなかった。


 …どうした物か。


 見捨ててもいいが、これで終わるとも思えない。

 ちょうど人目に付かない所に居てくれるんだ、皆殺しにしよう。

 取りあえず行ってみるか。


 面倒だが、さっさと済ませよう。

 

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― 新着の感想 ―
サベージ君いい性格してるよ 大人しくて眠そうな恐竜ってかわいい…
[良い点] やりやがったな!で笑ってしまった! 軽すぎる笑 [一言] いい意味で色々な物が軽く描かれていてサクサク読み進められる。 そして尚且つおもしろい! 読み始めて少しですがこの世界観が大好き…
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