502 「使感」
結局、中央区まで行かないと厩舎付きの宿が見つからなかった。
意外と需要がないのだろうか?
サベージを宿に預けて俺は街の散策を始める。
ごちゃごちゃしている街並みと同じで人の流れもまた多く、混沌とした印象を受けた。
とにかく人が多いのだ。
これだけの人混みならスリをやっても気付かれん事が多いだろうな。
横行する訳だ。
まぁ、俺としては街の知識をわざわざ持って来てくれるので寧ろありがたい位だ。
宿から出ても相変わらず気配はついて来る。 ただ、数が減っていた。
単純に出遅れたのか諦めたのかは知らんが。 面倒が減るのは良い事だ。
適当に人の気配がなさそうな道を選んで入る。 経験上、この手の輩は大きく分けて二種類に分類される。具体的に言うと、先ずは人混みで仕掛けて対象に気付かせずに盗む輩。
そしてもう一種類は――
「よぉ、こんな所でどうしたんだ?」
「道に迷ったのかよ? 良かったら案内してやろうか? 勿論、有料だがな!」
――見れば分かる通り、面倒な手順をすっ飛ばして痛めつけた後に身ぐるみを剥ぐ輩だな。
まぁ、楽だし俺もやってるから非難する気はないがな。
手馴れているらしく、しっかりと前と後ろを抑えて逃げ場を潰している。
数は五人。 この路地で立ち回る分には邪魔にならない人数だな。
念の為、魔法で索敵するとこいつら以外にも数人引っかかったが、こちらを見れる位置じゃないな。
恐らくは終わった所を出待ちしていると言った感じか。
なら、こいつ等は全員始末しても問題ないな。
……折角だし試し撃ちの的になってくれ。
「オラ、金を出しな?」
「おいおい、怒鳴りつけんなよこいつきっとビビってんだぜ!」
俺は小さく息を吐いて左腕をゆっくりと突き上げる。
体内のナーディとチャクラに意識を割く。
「あ? 何やってんだこいつ?」
「訳わかんねえ事やってないでさっさと金と荷物を――」
手を開いて閉じる。 それだけで済んだ。
無数の見えない斬撃が連中に降り注ぎ、一瞬で細切れの肉塊に変えた。
取り囲んでいた五人は何が起こったのか理解できなかったのか、小馬鹿にした表情のまま細切れの肉片に変わり、路地に散らばる。 散った肉片の断片は焼けており、煙が僅かに立ち昇る。
死体は左腕を伸ばして無数の百足に食わせる。
百足が散らばった死体を貪っているのを見ながら技の使用感を確認。
ハリシャも使っていた<拝火>と<舌>の合わせ技だが、俺が使うと命中精度に難があるか。 複数で相手が雑魚なら問題ないが、一定以上の敵にはあっさり躱されそうだな。 いい所といえば、傷口が焼けるので出血がなく周りが汚れないぐらいか。
……やはり応用はまだまだハードルが高いな。
死体の処理が済んだ所で次は出待ちしている連中だ。
居場所は路地から出て少し離れた所だ。 出て来るのを待っているようなのでこちらに来て貰おう。
俺は<茫漠>で姿を消した後、堂々と路地から出ると肉眼で標的を確認。
手近な奴から順番に姿を消したまま真っ直ぐに近づいて、建物に寄りかかっている奴の耳に指を突っ込んで根を植え付ける。
順番に洗脳を施して処理を済ませた後、路地に連れて行き事情を確認。
この街は政府と言う物が明確にないので、怪しい勢力が育ちやすいそうだ。
所謂、裏社会的な存在だな。
とは言っても中々熾烈な生存競争を生き抜かなければならないので、犯罪で楽に稼げると言う訳でもなさそうだ。 簡単に言えば治安があまりよろしくないと。
まぁ、無秩序状態なら人が寄り付かなくなりかねないのでその辺のバランスは取れているようだ。
具体的に言えばグノーシスだ。 街の有力者がお布施をたっぷり払っているお得意様なので、結構な数の聖騎士や聖殿騎士が治安維持に乗り出しており、やり過ぎた連中は即座に潰されるらしい。
その為、街の秩序をある程度保ちつつ色々とやらかしていると。
さて、連中の仕事は具体的に何かと言うと、表向きは傭兵の真似事などを行うが、初めて街に来るようなお上りさんを見かけるとこうしてマークする。
それで簡単そうな相手なら身ぐるみを剥ぐと。
返り討ちにするか逃げ切るかすると対処が変わって来る。
前者なら舐めやがってと報復に戦力を送り込み、それすらを返り討ちにすると手を出すのはリスキーと考えて手を引く。 後者なら執拗に狙うか接触して街のルールをレクチャーしてくれるらしい。
……ちなみに授業料にそれなりの額を取られるが。
ちなみに俺はどうなるかと言えば。
さっきの連中を皆殺しにしたので報復にもう一回襲撃があるらしい。
面倒臭いし、こっちから出向くか。
ちょうど場所を知っている奴もいる事だ。 後々の事を考えると一つぐらいは押さえておいた方がいいか。
この街の裏社会で最も幅を利かせている組織は全部で三つ存在する。
北区と西と東の一部を縄張りとしている「バンスカー」という組織で、北を抑えている事を活かしてアラブロストルとの非合法な品物をやり取りする裏取引等で収益を上げているようだ。 主に商品の売買に通じているらしい。
後は縄張り内の店の警護。
まぁ、嫌がらせをされたり面倒な客が来ればガラの悪い輩がどこからともなく湧いてきて追い払ってくれるようだ。
当然の話だが、見返りとして定期的に金銭を要求しているらしい。
数も多いからそれだけで組織の維持はどうにかなっているようだ。
さっき始末した連中はそこの下っ端で、話を付けに行くのはこいつ等になる。
次に西から東にかけてを縄張りとしている「ジョロゾー」。
表向きは傭兵団と人材斡旋を営んでいる。
主にダンジョンへ潜る連中相手に商売をしている訳だな。
案内人や荷物持ち、場合によっては護衛もこなすようだ。 その為、この土地では最もダンジョンの内情に詳しいと言ってもいいだろう。 冒険者ギルドとは別口の為競合相手になるので折り合いは良くないようだ。
最後は東から南にかけてを縄張りとしている「メースト」。
こちらは主にやっているのは夜逃げなどの斡旋だ。
エンティミマスという場所は特性上、脛に傷を持つ者が多い。 そう言う連中がこの土地にいられなくなった場合、他所の国へ逃げる際に手を貸してくれるらしい。 場合によっては偽の身分証などを用意してくれる証文偽造なども行っているようだ。
個人的に一番興味があるのはダンジョン関係に強いジョロゾーだが、捕まえた連中はバンスカーと規模の小さい組織の連中だったので繋がりのある人間は居なかった。
さて、取りあえず追加が来る前にバンスカーの連中と話をするとしようか。
誤字報告いつもありがとうございます。
 




