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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
15章

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476/1442

475 「合流」

続き。

 決まれば後は動くだけだ。 

 アイオーン教団全体にバラルフラーム侵攻の打診を行い、参加者を募る。

 流石に組織として充分に立て直しているとは言えない状況で人員を用意するのは難しかったが、それでも参加を約束してくれた聖騎士や聖殿騎士が次々と現れたのは純粋に嬉しかった。


 国中から集まって来たのは聖騎士、聖殿騎士を合わせて六千人。

 グノーシスと併せると全部で一万近くの大軍勢になる。

 後はユルシュルからの返事待ちだけど――


 殆ど待つ必要がなかった。

 数日で返事が返って来たのだ。 バラルフラームへ調査隊を送ったけど誰一人帰ってこなかったという最悪に近い返事だったが、ユルシュルへの軍勢での通行許可を得られた。


 条件として彼等の兵も同行させるように言われたのが少し気になるけど、素直に戦力が増えたと喜ぼう。

 マーベリック枢機卿にも説明は済ませていたけど……。

 彼は僕達が協力すると言うと目尻に涙をためてほっとした表情で良かったと言っていた。


 それだけに分からなかった。

 エルマンさんに聞いたけど、第八助祭枢機卿という肩書はウルスラグナでの責任者の一人という位置づけだ。

 つまり彼はこの国のグノーシスの闇を知りつつもそれに加担していた側の筈なのに……。


 裏で人を死なせ続けていたのにここに来て世界と民を救いたいと真剣な眼差しで語る。

 僕には分からなかった。

 だから、機会があれば彼の考えを聞いてみたいと感じる。 何を思ってあんなことに加担したのか、何を思って民の命を使ったのかを。


 ……移動中に話を聞けるのだろうか……。


 


 出発は各地の準備が済み次第すぐだった。

 合流はユルシュル領の領都。 いや、今は騎士国の首都とでもいうべき場所だ。

 エルマンさんは首尾よくオラトリアムから援助を受ける事が出来たようで食料等に関しては充分に賄える量らしい。

  

 戦力も同様に現地で集合となる。 

 ただ、聖堂騎士だけは僕を含めてもそう数を揃えられなかった。

 元々少なかった事もあって復興中の場所や治安などの問題で動かせなかったのだ。


 結局、僕とクリステラさん、エルマンさん、ゼナイドさん、グレゴアさんの五人となった。

 マネシアさんは王都に残し、非常時に備えて貰う。

 本来なら異邦人の人達にも協力を頼もうとしたのだけどマーベリック枢機卿に止めるように言われてしまった。 彼曰く、辺獄の地は異邦人に取って害になるので無理に連れて行ってもすぐに死ぬとの事。


 だからグノーシス側も異邦人を連れて来れなかったと彼は言っていた。

 その為、彼等にはマネシアさんと一緒に留守を守って貰う事になる。

 彼女はゲリーべでの戦闘で心を病んでしまっているので、どちらにせよ戦闘に参加させるのは難しい。


 それでも彼女は聖堂騎士だ。

 実務や治安維持などを行う能力が衰えた訳じゃないので、充分に留守を任せる事が出来る。

 だから――


 「――そろそろ見えてきましたね」


 不意に一緒に歩いていたエイデンさんの言葉で僕は意識を視線の先に移す。

 そこには騎士国と王国を区切る国境が見えて来た。

 


 ウルスラグナ騎士国。 

 統一が成った後にはユルシュル騎士国となる予定らしいそこはウルスラグナ中央の東部から南にかけてを領土としている大勢力だ。

 ユルシュル領はそこの南東の端に存在している。


 国が割れた当初は近隣の領も次々と我こそは王だと名乗りを上げたらしく、あちこちで血で血を洗う戦いの果てにユルシュルが勝ち残り、騎士国が誕生したと言う訳だ。

 エルマンさん曰く、彼等は基本的に武力での支配を是としており、話し合いの体裁は取るが結局は「力が強い者こそ正義」と考える傾向にあるそうだ。


 その証拠に彼等は武力で相手を叩きのめしてから交渉の席を持って領土を拡大していった。

 

 ……確かに手放しで信用するのは難しいかもしれない。


 そう考えて視線を少し離れた場所にいるゼナイドさんへ向ける。

 彼女はユルシュルの娘だ。 父親の行いに関してどう思っているのだろうか?

 僕は必要であれば自分で話してくれるだろうと思っていたし、家庭の事情に踏み込むのは違うと思って触れる事が出来なかった。

 

 エルマンさんが以前に一度聞いた事があったらしいけど、余りいい反応は帰って来なかったらしい。

 恐らく彼女に取っては余り触れられたくない事なのだろう。

 なら意識しない方がいい、僕達が必要なのはゼナイドさん個人であり、ユルシュルの娘じゃない。


 そう考えて彼女から視線を切って遠くへと移すと――

 

 「……あ、もう来てくれたんだ」 


 遠くに大量の馬車が見えて来た。

 恐らくはあれがエルマンさんが手配してくれた物資の輸送隊だろう。

 目を凝らすと先頭に見えるその姿に僕は少し安心した。



 「……さて、首尾よく合流できたのはいいが本番はこの先になるな」

 

 合流した夜、野営の準備を終えた僕等は早速、今後の細かい打ち合わせを行う事になった。 

 今、僕達がいるのは僕専用に用意された天幕の中で、集まっているのは僕の他にエルマンさん、クリステラさん、グレゴアさん、ゼナイドさんの五人にマーベリック枢機卿とその護衛の聖堂騎士が三名。


 殆どが前と同じ面子だったので余計な挨拶は省略して、初対面の人同士の簡単な自己紹介だけに留めた。


 「一応、俺が話を進める形で問題ないか?」


 前置きが済んだ所で早速、エルマンさんが話を切り出した。

 彼の言葉はマーベリック枢機卿達に向けられた物だ。

 

 「えぇ、構いません。 我々は助力を乞う立場、国内での影響力を考えるのならアイオーン教団が主導で行うべきでしょう」


 マーベリック枢機卿は異論はないとばかりに先を促す。

 後ろに控えている三人も特に口を挟まない。 ただ、ペネロペ聖堂騎士だけは面白くなさそうに表情を歪めていたが誰も反応――あ、ゼナイドさんがちょっとむっとした表情を浮かべてる。


 いちいち反応していたら話が進まないので他は完全に無視していた。

 

 「……取りあえず確認になるが、この後はこのまま南下してユルシュル領へと向かう。 本命のバラルフラームへはまずは向こうに面を通してからになる」

 「別に無視してもいいのでは? 我々の役目はあくまでバラルフラームへ向かう事、事前に話をしているので父――いえ、ユルシュルの領主に話を通す必要はないのでは?」


 そう言ったのはゼナイドさんだ。

 

 「……気持ちは分からんでもないが、先方にも一度顔を出すようにうるさく言われてるんでな。 それに仮にも連中の国土だから無言で素通りは不味いだろうが」

 

 エルマンさんはゼナイドさんの話を流して話を続ける。


 「確か向こうからも戦力を出すと言った話だが――はっきり言おう、余り信用しない方がいい。 どれだけ用意してくるかは知らんが、少し前にオラトリアムと戦り合って派手に負けたお陰でそこまで数は割けんはずだ」

 「お言葉ですが、先の戦いで少なくない被害を被ったとは言えここは彼等の膝元、多少の無理は利くのでは?」

 

 質問をぶつけたのはマーベリック枢機卿だ。

 エルマンさんはそれを聞いて首を振る。


 「まぁ、そうかもしれんが俺はそれはないと踏んでいる。 さっきも言ったがこの騎士国という場所は周囲の領を武力で併呑してできた国だ。 話し合いと言った体裁は取っているが結局の所、殴り倒して奪っているから、あちこちで不満が溜まっている。 下手に隙を見せると反乱を起こされるぐらいにはな」

 「なるほど、それで戦力を温存しておくと言った事が必要なのですね」

 「……あぁ、俺の読みでは精々千と少し――多くても二千はいかんだろうな」


 エルマンさんは来る途中の村や街で情報収集を行っていたが、お世辞にも評判は良くなかったようだ。 

 ユルシュルという人物は武や帥には長けていたようだが、内政という点では褒められた物じゃないらしい。


 「はっきり言って、最終的に殴って恭順させれば後はどうにでもなるといった考えが透けて見えるな」


 そう言ってエルマンさんは肩を竦める。


 「ま、随分な野心家のようだし、こっちに援軍出すのもお目付け役というよりは辺獄に何か使えそうな物があるんじゃないかと踏んで掠め取ろうとしてるんじゃないかと俺は思うがな」

 「エルマンさん。 それ以上は――」

 「……悪い。 邪推が過ぎたな」


 僕が窘めるように名前を呼ぶと彼は察したのか少しバツが悪いと言った表情を浮かべて謝罪する。

 彼は行動や結果から人の考えや性格を読み取ろうとするけど、あくまで予測だ。

 仮にほぼ間違いないとしても最終的に自分の目で見て確認すべきだと僕は思う。


 「ま、今の段階ではユルシュルに関してはそんな所だな。 後はバラルフラーム近辺の地図が手に入ったので布陣する際の打ち合わせでもするとしようか?」


 エルマンさんが用意した机に地図を広げ、その場の全員が注目する。

 

 「まずは――」


 地図に視線を落としながらこれから起こる危険に不安を感じつつ僕は目の前の事に集中した。

 


誤字報告いつもありがとうございます。

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