474 「決定」
別視点。
異邦人達との話を終えて、僕――ハイディは城塞聖堂から出て、大聖堂へと向かう。
次は聖堂騎士達との話し合いだ。
内容はマーベリック枢機卿から打診されたバラルフラーム侵攻に関しての相談。
ユルシュルへの打診は既に済ませているので近日中に調査が入るだろう。
「どれぐらい集まりそうですか?」
「えーっと、確かユルシュ……じゃなくてゼナイド聖堂騎士、グロンダン聖堂騎士、エルンスト聖堂騎士――」
「後はクリステラさんですね」
答えてくれたエイデンさんが大きく頷く。
エルマンさんは今、オラトリアムだから王都近辺で動いているのはこれで全員か。
他は国内に散っているので話が終わり次第、各自に魔石で連絡を入れる予定だ。
クリステラさんとグレゴアさんはあの場に居たので事情に関しては承知済みなので、説明の必要がない。
昨日の別れ際の反応から恐らく彼女は受ける方向に傾いている。
何となく予感があった。 恐らく、僕達はマーベリック枢機卿の話を受けてバラルフラームへ行く事になると。
会議場へ着くと皆は先に来ていて各々席に付いていた。
「ごめんなさい。 遅くなってしまいましたね」
「いやいや、聖女殿。 我々が先に来ていただけですよ」
グレゴアさんがそう言って笑顔で迎えてくれた。
クリステラさんも小さく笑みを浮かべて頷き、ゼナイドさんはまだ僕に対して思う所があるのか会釈のみ。 マネシアさんはぎこちない笑みを浮かべて会釈。
僕も小さく挨拶を返して席に着き、エイデンさんとリリーゼさんが左右に付く。
「忙しい所、集まって貰ってありがとうございます。 用件は――」
「その話でしたら既に私とグロンダン聖堂騎士で話しておきました」
「あ、そうなんですか? なら、前置きは飛ばして本題に入りましょうか」
クリステラさんが事前に話をしてくれていたようだ。
手間が省けてよかったよ。 早速、話を始めよう。
「先日、グノーシスからの来客がありました。 相手はマーベリック枢機卿で内容はグノーシスと協力してバラルフラームへの侵攻。 皆さんはどう思いますか?」
質問する対象は昨日、その場に居なかったゼナイドさんとマネシアさんだ。
グレゴアさんとクリステラさんはもう結論が出ているようで口を挟まない。
「……わ、私は今決めるのは早計かと。 せめて、ユルシュルへ打診した調査の結果が明らかになるまでは保留すべきかと……」
マネシアさんはぼそぼそとか細い声でそう言った。
初めて会った時から彼女はこの調子だ。 常に何かに怯えているといった印象を受ける。
エルマンさんやクリステラさん曰く、以前はもっと決断力と行動力を兼ね備えた優秀な聖堂騎士だったという話だけど、ゲリーべという街で起こった事件の所為で人が変わったようにふさぎ込んでしまったらしい。
クリステラさんもその場に居たのでその悍ましさと痛ましさは良く分かると言っていた。
彼女にしては珍しく表情を歪めていたのが印象深い。
見ていないし報告という形でしか知らない僕には想像もできない恐ろしい事が起こったのだろう。
「私は賛成です。 辺獄種の氾濫など起こればその被害は先の王都で起こった事件に匹敵する被害となるでしょう。 それを防ぐ意味でもこちらから打って出るべきです!」
反面、ゼナイドさんは目に溢れんばかりの感情を乗せて侵攻を主張する。
彼女らしいなと内心で苦笑。 良くも悪くも彼女は真っ直ぐだ。
僕個人としては彼女のこういう所は好ましく思う。 だけど――
「僕も本音を言えばゼナイドさんの意見に賛成です」
「なら――」
「ただ、マーベリック枢機卿の話が本当なら向こうは想像を絶する危険が待ち受けています。 大量の死者が出るのを覚悟しなければなりません。 行くにしても覚悟のある者だけで臨みたいと思います」
正直な話をしよう。 僕は早い段階で行く事を決めていた。
王都の一件は気が付けば終わっていたので当事者意識は薄い。 だけど、被害の規模と戦いの爪痕、それに死んだ人々の亡骸を見ればこんな事を許してはいけないと強く思う。
そしてバラルフラームから辺獄種があふれ出せば被害はこんな物では済まない。
だから僕は最悪、一人でも――
「あたしは従者なんで付き合いますよ聖女様?」
「まぁ、姉さんだけが聖女様の供回りなのは心配なので付いて行きますが」
エイデンさんとリリーゼさんは僕の考えを読んだかのように笑顔でそう言って頷く。
「私は最初から行くと決めていますので、覚悟を問う必要はありません」
「これでも辺獄帰り。 聖女殿、このグレゴア。 お役に立てると思いますぞ?」
クリステラさんとグレゴアさんも当然のように参加を表明。
それを見たマネシアさんの表情が目に見えて青ざめる。
「あ、いえ、マネシアさん? 志願者のみで固めるつもりだし、無理なら……」
「……いえ。 ただ、さっきも言った通り、調査を済ませてから行くべきです」
マネシアさんはぼそぼそとそう言うと黙ってしまった。
場に気まずい沈黙が落ちる。
「……え、えーっと、話も纏まったので、後は他の聖堂騎士の方や各教会への打診をお願いしてもいいですか?」
「うむ。 では各所への伝達はこちらで行っておこう」
「では私は王都内で志願者を募るとしましょうか」
決まるや否やクリステラさんとグレゴアさんは即座に席を立つと挨拶もそこそこに部屋を飛び出して行ってしまった。
うーん。 あの二人は即断即決を地で行くなぁ……。
僕も余り人の事は言えないけど、急ぎ過ぎると少し不安だし先にエルマンさんに報告しておこうかな。
そう考えてその場はお開きとなった。
――あぁ、そうだろうな。 まぁ、そんな気はしてた。
僕の話を聞いたエルマンさんは何故か平坦な口調で開口一番そう言った。
――どっちにしろ放置はできん問題だし、連中の話がどこまで本当か分からん以上、マネシアの言っていた通り調査をしっかりして裏を取れ。 分かっているだろうが、連れて行く連中の命が懸かっている。
――はい、そこを怠る事はあり得ません。
そこは言い切った。
僕はついてきてくれる皆に恥じるような行いは絶対にしないと決めている。
――……そこは余計な心配か。 まぁ、決まったのなら俺はオラトリアムに食料や資材の援助を頼めるか交渉しておく。 ちょうどこの後、グノーシスとの会談内容を報告する用事があったからな。
――分かりました。 お願いします。
――それと、聞いておきたいが連中はどれだけ戦力を連れて来たんだ?
――聖堂騎士が六名。 聖殿騎士が千八百。 聖騎士が三千と聞いています。
――よくもまぁ、それだけの数でアープアーバンを越えて来れた物だ。
――少なくない脱落者が出たとは聞いています。
――だろうな。
アープアーバン未開領域。
ウルスラグナ南方に広がる広大な土地で強大な魔物が多数生息する魔境だ。
彼等はそこを越えてここまで来た。 少なくとも簡単にできる事じゃない。
――正直、連中が最低限の護衛だけしか連れて来ていないと言うのなら俺はまず信じなかった。 だが、危険を冒してまでそれだけの人数を連れて来たと言う所に連中の本気が窺える。
そう、僕達が彼等の話を信じる方に傾いている最大の理由はそれだ。
アープアーバンで犠牲を出してまで戦力をウルスラグナに入れた。 流石に僕達を騙す為だけに聖騎士の命を無駄に散らすなんて事があるのだろうか? 少なくとも僕は考え難いと思っている。
――えぇ、だからこそ僕達は行くつもりです。
――後は組織運営に支障が出ない程度に志願者を募ってって所か。 ……はぁ……分かった。 こっちで話を付けたら俺もそっちに合流するから先走った真似をするなよ。
――分かりました。 エルマンさんが来てくれるなら心強いです。
――……そりゃよかったな。 ユルシュルの報告が来たらこっちにも教えてくれ。
――はい。 真っ先に伝えます。
その後、数点の打ち合わせをして会話を終える。
行く事は決まった。 なら後は動き出すだけだ。
明日に備える為に僕は早足に行動を開始した。
誤字報告いつもありがとうございます。




