465 「王子」
続き。
こうして僕は随分と厄介な立場になってしまった。
そして彼等は僕にある要請をしたのだ。
内容は暫定的ではあるが教団の旗頭になって欲しいというものだった。
国内のグノーシス教団はもう聖剣の伝説と言った形のない物に縋らなければならない程に逼迫していたようだ。
信徒、及び聖騎士、聖職者の激減。 各地で起こる暴動に殺される関係者。
そして、真相を知る者は残らず国内にいないか死亡しており、何もわからない。
これは後で知った話だけど結局の所、巷で噂されている人体実験などの非道な行いは部分的に事実ではあったらしく、否定もできないと。 仮に出来たとしてもこうなってしまっている以上、誰も信じない。
噂を誰がどんな目的で流したのかは分からないし、分かった所で意味がない。
話を一通り聞いた僕はさんざん悩んだ結果――請ける事にした。
理由はそんな立派な物じゃない。 この国を荒れたままにしておけば、多くの人が死ぬだろう。
そうなると――脳裏に今まで会った様々な人の顔が瞬く。
彼等に累が及ぶだろう。 教団に協力すればそれを止める一助となれるかもしれない。
それに……聖剣が手元にあり、それをグノーシス教団に知られてしまった。
今でこそまともな対応だが、僕の出方次第では敵に回る可能性も出て来る。
聖剣は教団にとって重要な意味を持つらしい。
それに引き剥がす手段が所持者の死亡と言うのが本当なら聖剣を欲しがる勢力に命を狙われかねない。
なら、グノーシス教団を味方につけておくのは僕にとっても悪い話じゃないはずだ。
……もっとも彼等の思惑通りに動く気はないけどね。
担がれるだけの旗頭になる気はない。
だから準備が整った後に集会で自分の考えをぶちまけた。
当然ながらその間に下調べは怠っていない。 時間はあったので、教団の内部に関してはかなり深い所まで調べられた。 それを加味した上での僕の判断は――
――教団は残し、グノーシスと袂を分かつ事だった。
非道な実験に怪しい資金の流れ、胡散臭い事が多すぎる。
仮にここから立て直したとしても教団の本国から偉い人が来ればまた同様の事が起こるだろう。
それは許されないし、聖女としての肩書を僕に与えると言うのなら許さない。
だからこそ僕はアイオーン教団の発足を提案した。
それさえ成れば、後は信用を回復する為にやれる事をやるだけだ。
こうなる前――オラトリアムの領主だった事を思い出す。
一人で抱え込む事は論外だ。 何事も協力してくれる仲間が必要で、それは多ければ多いほどいい。
だけど、強要してはいけない。 自分の意思で決めた上で踏み出さなければならないと僕は思う。
思えばあの時の僕には何もかもが足りていなかった。
意思も覚悟も視野も知識も――だけど、今の僕は……今の僕なら以前とは違った結果を出せると信じたい。 そしてそれを成せたのなら僕はきっと胸を張ってローの前に立てる。
――そんな気がする。
だから僕は聖女として頑張ってみるよ。
……ところで「聖女」って呼び方はどうにかならないかなぁ……ちょっと恥ずかしいんだけど……。
「さーて、これから会う相手の事は分かってるな」
場所は変わってウルスラグナの王城前。
隣にはエルマンさん後ろには護衛のエイデンさんとリリーゼさんの二人。
「え、えぇ……まぁ……」
エルマンさんの言葉を聞いて兜越しに頷く。
正直、気が重い。 この後会うのは死んでしまった前ウルスラグナ王の息子――王子達だ。
王子という肩書の通り、まだ次の王が決まっていない。
その為、この国の頂点が定まっていない状態なのだ。
こうして近況を伝えるという名目で会いに行って、やんわりとさっさと決めろと催促していると言うのはエルマンさんの言だ。
「本来なら俺だけで済む話だったんだが、例の坊ちゃん達が噂の聖女様をご所望でな。 機嫌を取っておくと言う意味でも適当に耳障りの良い話でもしてやってくれ。 ……後、言っておくが絶対に、絶対に余計な事は言うなよ」
エルマンさんはそう言うと返事も待たずに何故かお腹の辺りをそっと押さえると城門へと向かった。
王子や王女の存在は知ってはいたけど滅多に表に出てこないのでどう言った人物なのかは良く知らなかった。 知っているのは全部で十人居て仲がいいって事ぐらいかな。
エルマンさん曰く、温厚を通り越して日和っているらしいけど……。
上階まで通され、途中でエイデンさんとリリーゼさんの二人と別れ、エルマンさんと奥へ向かう。
どうも城内まで侵入されていたらしく、修繕作業を行っている魔法使いの姿が所々で見られた。
珍しかったので辺りを見回していると肘で小突かれた。
「あんまりキョロキョロすんな」
「あ、すいません」
エルマンさんの窘める声に小声で謝罪して視線だけで周囲を窺う。
兜だとちょっと見難いからついつい大きな動きで周りを見てしまうなぁ……。
案内の近衛騎士について行き、玉座の間へと通された。
聞けばここもかなり破壊されていたと聞いていたけど、その痕跡は見当たらないぐらい立派な造りだった。 真っ赤な絨毯に左右に並ぶ近衛騎士達。 そして脇に控える公官と玉座に座っている男。
しっかり鍛えているのか体格は良く、背も高い。
その傍らには男女が二人ずついた。 身なりから彼と同様の王子と王女だろう。
エルマンさんが跪いて礼を取ったので僕も慌ててそれに倣った。
「え、えーっと、よ、よく来て、来てくれた! わ、私こそがウルスラグナ王国第一王子ダリウル・コーナノア・ウルスラグナだ」
……えーっと?
どうしよう。 これは何か言った方がいいのだろうか?
ダリウル王子は明らかにこういう場での発言に慣れていないようだった。
声が変に高くなったり低くなったりつっかえたりしており、緊張しているのが一目でわかる。
「兄上、頑張れ頑張れ」 「兄上ならできる」
「兄上、大丈夫。 やれてますわ」 「兄上、いけるいける」
…………。
本人たちはこっそり声をかけているつもりなんだろうけど、この部屋って静かで声が良く通るから丸聞こえなんだけどなぁ……。
ちらりとエルマンさんを見ると俯くふりをして盛大に溜息を吐いていた。
周囲の近衛騎士達は兜の所為で表情が読めないが公官達は諦観の混ざった遠い目をしていたり、顔を手で覆っていたりしているのだけど……これはもしかして日常茶飯事なのだろうか?
正直、彼等に対してちょっと好感は持てたけど、王として不味いんじゃないのかな。
そんな事を考えながら僕は彼等の次の言葉を待った。
誤字報告いつもありがとうございます。




