455 「経緯」
別視点。
四方顔。
チャリオルトという地に根を張りし一党。
遥かな昔からチャクラを感じ、技を修めて牙を磨く。 それのみを是として生きて来た者達だ。
その目的は世界を脅かす何かに対抗する事――らしい。
遥かな昔からそう伝えられているがその何かが現れたという記録は存在せず、信じている者は年々数が減り始めていた。
彼等の一生は御山で生まれ御山で死ぬ。
それが定められた理と昔から言い伝えられていた。
だが、どんな物でも月日の流れと共に風化する。 彼等は少しずつではあるが昔からの風習を忘れ、己の欲求のままに動き、決まりを曲解するようになっていった。
最初の綻びは人材の流出。
御山に縛られる一生、それに嫌気がさして外へと好奇心の赴くままに去る者。
自分の力が外でどこまで通用するかを試したいと旅立つ求道者。
理由は様々だが、共通するのは外に出たいという欲求。
外から隔離されていて、尚且つ娯楽が少ない環境と言うのは想像以上のストレスを彼等に与えていた。
結果、年々若い世代を中心に外に出て行く者が増加。 抜ける者は殺傷すると脅しをかけ、明確にルールに組み込んでいるにも拘らず減る事はなかった。
技術の流出を抑える為に離反者の始末を専門とした者達まで育成したのだが、それでも外を夢見る者は減るどころか増え続けた。
彼等は頭を悩ませた。 どうすれば人材の流出を抑える事が出来るのかを。
悩んだ結果が奴隷制度の導入。 平たく言えば奴隷を買ってガス抜き用の捌け口にしようと言う訳だ。
それは彼等からすれば中々の名案だったようで、人材の流出抑制に加え、子供を増やす事もできると諸手を挙げて賛成された。
さて、外に奴隷を大量に買いに行ってガス抜きに使おうという案は部分的には上手く行った。
人材の流出は確かに減った。 そう、減りはしたのだ。
だが、奴隷を買いに行くに当たってどうしても外へ人をやらねばならない。
その過程で、ある組織が奴隷を買いに外に出た一人の男に接触したのだ。
組織はチャリオルトの技術に興味を示したが、男は慎重だった。
この技術を外へ漏らす事は禁忌とされている。 もしも漏らした事が露呈すれば男は国から居場所を失う。
そう考えて持ち掛けられた話を断った。
組織はそれを聞くとあっさり引き下がり、代わりに男にある技術を伝えたのだ。
簡易ではあるが悪魔を召喚する為のノウハウと実行するに当たって必要な道具。
最後に「これがあれば強くなれるかもしれませんよ?」といい添えて。
組織の悪辣な点は選択肢を与えた事だった。
碌に外に出ない彼等に他人の思惑を推し量るような術はなく、そう言う事ならばと受け取ったのだ。
そうなれば後は早かった。
悪魔の召喚を試し、弱い低級悪魔の召喚を行い使役に成功。
少しずつ数をこなし安全性を確かめた頃、組織は再度男に接触。
予想通り誘惑に屈して試した事を確認すると、次の技術を伝えた。
悪魔との融合。 人間を触媒に悪魔をその身に降ろし人外の力を得る方法。
そうすればお手軽に強くなれますよと耳元で囁く。
最初の一件ですっかり彼等を信用した男は早速試そうと動き出したのだった。
いつの世も人を動かすのは好奇心と欲望。
四方顔の目的はチャクラを感じ、技を修めて牙を磨く。
だが、男達若い世代はそれを「単純に強くなる事」とはき違えていたのだ。
それも致命的に。
カンチャーナという女が居た。
母親は奴隷。 父親は候補が多すぎて誰か分からない。
奴隷の子は奴隷。 彼女は物心がついた時からそう在れと育てられてきた。
このチャリオルトには奴隷は女しか存在しない。
男が生まれた場合は必ず誰かの養子として引き取られるからだ。 その事で母親は常に彼女に詫びていた「男に産んであげられなくてごめんね」と。
最初はカンチャーナ自身にはその謝罪の意味が分からなかった。
だが、時間と共に段々と理解して来た。 そして母親の謝罪の意味も。
奴隷の仕事は清掃や食事の準備などの雑用と昼間はそこまで難しくも苦でもない内容だった。
――問題は夜だ。
この人権なんて明確なルールがないこの世界で所有物である奴隷には何をしてもいいと考える者が現れるのは自明の理だろう。 そして何をされるのかも。
奴隷に期待されている事は二点。 捌け口となって男達――特に若年層のガス抜きを行う事。
そしてもう一点は子を増やす事だ。
これは単純に後継を増やすという意味でも重要な役目であり、高齢の者達からは特に期待されている。
カンチャーナは四方顔の期待を裏切る形で生まれた女児だ。
彼女に期待されている事はさっさと成長して次を産み出す事のみ。
当然ながらこの国は奴隷の子には生き辛い環境だった。 理由は簡単。 虐めだ。
空気は伝染する。 大人たちの奴隷に対する態度は子供にも感染し「こいつには何をしてもいい」といった暗黙のルールを形成した。
カンチャーナは訳が分からなかった。
何故、同じ奴隷の子である男の子まで自分に石を投げるのだろうかと。
性別。 男か女か、それだけの差で人生に格差が生まれたのだ。
何故と理不尽を呪いながらも、彼女と同じ境遇の少女達と身を寄せて耐える事しかできなかった。
それでも時間は流れ少女から女になったカンチャーナは母親と同じく男達の相手をする事になる。
不幸中の幸いか、奴隷を導入した当初はやり過ぎて殺してしまうと言った事件が多発したので、殺す事を禁じるルールが定められた。
その為、死ぬような目には遭わず、過剰な暴行を受ける事がなかったのは彼女に取っては不幸中の幸いだったのかもしれない。
だが、それでも生活に耐え切れず逃げ出す者や自ら命を絶つ者も多くはないが存在した。
そんな中、カンチャーナの心は静かに死んでいき、体もそれに引っ張られたのかどんどん弱って行く。
結果、病に侵された。 一応、治療を施されはしたが延命が精一杯で、恐らく放っておけば死んでいた筈だったが……。
ある日の事だった。
悪魔召喚の触媒を探していたある男達はちょうどいいとばかりに死にかけていたカンチャーナに目を付けた。 母親は既にこの世を去っており、家族もいない彼女は誰にも看取られる事もなく死を待つだけだった所も彼等が触媒に選んだ理由だ。
何故なら死んだ所で誰も気にしないし、迷惑も掛からない。 どうせ奴隷だと彼等は身動きが取れない彼女を運び出して儀式の準備を行い実行。
本来ならその儀式は彼等の想定内の結果で終わるはずだった。
彼等が得た技術や道具では精々、低級の悪魔を呼び出し中途半端に融合した存在が出来上がる。
だが、そこに誤算が二つ。 それは彼等に物は試しにと技術を与えた者達ですら予想が出来ない事だった。
まず、儀式を行った場所だった。 そこは龍穴に近い場所で、周囲には高い濃度の魔力が噴き出していた事。
それにより、必要過多の魔力が充填された事により暴走し、更に幸運な事に失敗せずに召喚の規模が拡大すると言った結果が発生。
もう一つの誤算。 それは――
彼女と呼び出されたそれとの最大級と言って良いレベルの相性の良さだった。
それは彼女の魂と驚く程に馴染み、溶け合って一つとなる。
瞬間、カンチャーナと言う存在は別の何かへと変質した。
儀式の完了を以って彼女は自らに与えられた『権能』を解放。
瞬く間に四方顔の中心である本堂を制圧。
この奇襲に本堂にいた精鋭たちは対応できず、次々と彼女の権能の影響下に入る。
運よく抵抗に成功した者は事態の解決に動き出したが時は既に遅かった。
彼女の権能それは――
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