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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
13章

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431/1442

430 「白状」

続き。

 「エルマンさん。 いえ、エルマン聖堂騎士。 説明をお願いします」


 その場に居る全員の視線が俺に集まる。

 どうしてこうなったのかさっぱり理解できない。

 今回の会議は方針を決める為の言わば茶番のはずだったのに、いつの間に裁判紛いの尋問にすり替わったんだ?


 一瞬、適当に煙に巻いて逃げるという魅力的な選択肢が脳裏に瞬いたが隣にクリステラが居る以上、不可能だなと悟っていたので、もう正直に全てを吐き出すしかなかった。


 「…………ゼナイドの嬢ちゃんの顔に泥を塗るような形になって申し訳ないが、街で流れている噂は真実を含んでいる」


 俺が絞り出すようにそう言うと場が動揺で更にざわつく。

 

 「な!? ど、どう言う事ですかエルマン聖堂騎士! 教団が、あなたは教団が人体実験に手を染めて無辜の民の命をいたずらに奪っていたと、そう言うのですか!?」 

 「その通りだ」


 事実なので言い切った。

 ゼナイドは驚愕に目を見開く。 その表情は子供のように泣き出しそうなほど歪んでいる。

 俺は重い溜息を吐いて話を続けた。 動かされたようで面白くないが、この流れでは話さない方が後々にしこりを残してしまう。


 「まず、俺の知っている限り、教団が人体実験やっているという噂。 これは事実だ。 少なくともこの王都の地下――要は城塞聖堂の下に研究施設があった。 保管してあった資料を見るに結構な数の人間が人体実験の犠牲になったと見ていい。 研究の内容は天使についてで、どうも完全な形で天使を召喚し、使役できないか試みていたようだな」


 何度か調べに入った際に残された実験の記録を見たが、目を覆いたくなるような内容で、人間に番号を付けて失敗だの不適合だのと注釈を付けている連中がまともな聖職者とはとてもじゃないが思わないな。

 

 「もう一点。 こっちは俺が直接見た訳じゃないが、ゲリーベのマルグリット孤児院」


 俺がそう言うと座っていた聖堂騎士の一人がびくりと怯えるように身を震わせる。

 マネシア・リズ・エルンスト聖堂騎士――確かゲリーベに居たんだったか。

 例の騒動で心を病んだと聞いていたが本当のようだな。 その表情には暗い陰が落ちている。

  

 「あそこがどうなったかはここに居るほぼ全員が知っていると思うが、裏の事情は知らん奴の方が多いだろうし、もう隠しても仕方ないからはっきり言うぞ、あそこは子供を使って人体実験をやらかしていた。 しかも責任者の修道女サブリナが自ら主導して行っていた。 あそこまで堂々とやらかしている以上、独断と言う事はあり得ない。 つまり枢機卿も承知済みの教団が認めた行いと言う訳だ」

 「しょ、証拠は! 証拠はあるのですか!?」


 認められないのかゼナイドは噛みつくようにそう言って来る事に対して俺は力なく首を振る。


 「実際にクリステラが目の当たりにしているのと、その際に実験で殺されそうになった子供を保護している。 ゲリーベの街がああなっているので現状、調べるのは難しいが奪還が成れば資料や証拠の類は腐る程、出て来るだろうぜ」

 「そ、そんな……」


 ゼナイドは間違いであって欲しいのか縋るような眼差しでクリステラを見るが、黙って首を振られる。 それを見て絶望的表情を浮かべ、力が抜けたのかすとんとそのまま椅子に腰を下ろす。

 

 「エルマン殿。 では、街に流れている噂の全てが事実だと?」


 そう発言したのはグレゴア・ドミンゴ・グロンダン聖堂騎士。

 巌のような大男で、力の抜けたゼナイドを一瞥していたが真っ直ぐに俺の方へと視線を向ける。

 

 「そこまでは言っていないが、重要な部分――特に非道な行いとされている部分は事実を多分に含んでいる。 ……恐らくだが、噂を流した奴はその辺も見越していたんだろうよ。 実際、ここ王都の地下には実験施設って動かぬ証拠がある以上、仮に他が嘘だったとしても噂に信憑性が出て来る」

 「……分かり易い真実が含まれている以上、他が嘘だったとしても民が信じてしまう土壌を作り上げたと言う訳か……身から出た錆とは言え悪辣な……」


 グレゴアの言う事も分からなくもない。

 正直、俺も頭を抱えたくなる気持ちでいっぱいだ。

 最悪と言って良い頃合いに噂を流布した連中は明らかに狙ってやっている。


 そしてその効果は正しく発揮されているだろう。

 はっきり言ってこの国でのグノーシス教団はもうほぼ詰んでいる。

 恐らく現状を知れば本国も切り捨てる選択をする可能性が高い。


 人体実験に加担していない、敬虔な信者達を見捨てて知らん顔をする。

 そう考えると教団の上と本国に対して反吐が出そうになるが、それは今考える事じゃない。

 教団はまだこの国に必要だ。 王家がまともに機能していない以上、治安を維持するという意味でも聖騎士は大きな力となる。 だが、それを民に受け入れさせるにはどうすれば――


 「これで皆さんは現状を理解できたと思います。 その上で僕達は必要な事を行っていかなければなりません」


 話が途切れた所でこの状況を作った張本人がそんな事を言い出した。

 何を言い出すんだこの女はと内心でやや苛つきながらも俺はそちらに視線を向ける。


 「……そりゃ、ここにいる全員がよーく理解している事だ。 わざわざ引っ掻き回したのは何か言いたい事があったからだろう? そいつを聞かせて貰えないか?」


 我ながら思った以上に嫌な感じの物言いになってしまった。

 俺も相当苛ついてるなと自嘲する。

 聖女様は小さく息を吐くとややあって話し始めた。


 「まず、これだけは信じてください。 僕は協力する事を決めた以上、教団の現状を他人事で済ませる気はありません」


 身内になるからはっきりと物を言ったと?

 まぁ、分からんでもない話だな。

 少し話しただけだが、この聖女様の性格を考えれば何となくだが理解できる。


 要は全員に腹を割って話せと言いたいのだろう。

 だから一番触れ辛い話題を真っ先に切り出した。

 頭では何となく理解できるが気を揉まされるこっちの身にもなって欲しい物だ。


 胃が痛くて堪らないぜ。

 聖女様の言葉に場が沈黙する。 妙に良く通る声だから自然と耳を傾けてしまうな。

 ちらりと聖剣を一瞥。 あれの力かと一瞬思ったが、ないなと内心で否定。


 恐らく彼女自身が持つ才覚なのだろう。

 さて、いきなり台本を投げ捨てていると言う事はここで自分の考えをぶちまける気なのは間違いない。

 何を言い出すのやらと期待半分不安半分で推移を見守る。


 「その上で僕は提案します。 皆さん、グノーシス教団を捨てる覚悟はありますか?」


 ……何だって?


誤字報告いつもありがとうございます。

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