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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
13章

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424 「開戦」

視点戻ります。

 研究所――正確にはアラブロストル=ディモクラティア国立魔導研究所とか言う国の名を冠した御大層な名前の巨大施設が丸ごと土砂と入れ替わった事を確認した俺はその場を後にする。

 <飛行>と<茫漠>を使えば余程勘のいい奴か、何らかの探知手段を持っていないと捕捉されないので便利な物だ。


 現在は三区を抜けてドゥリスコスの待つ十六区へ向かっている。

 言われた通りに設置しただけだったが転移魔石とやらは大した物だった。

 あれだけの物が距離を無視して転移するのだから魔法って奴は侮れない。


 今頃、国立魔導研究所とやらはオラトリアムの勢力圏内に転移して襲撃を受けている真っ最中だろう。

 首途謹製のスレンダーマン達の実戦テストの相手にすると言っていたから結果は推して知るべしと言った所か。

 連中は首途と俺で持てる技術の全てを注ぎ込んで作った改造種だ。


 その戦闘力はオラトリアムの中でも上位に位置するだろう。

 中でもゲリーベでサブリナが持って帰って来た聖堂騎士――イフェアスは別格だ。

 作成の際、専用装備も生体パーツとして融合させた上、他の量産型と違い体内のパーツも上質な物を利用している。


 ファティマはいい顔をしなかったが、例の実験と並行して行った首途のお遊びとはいえ、結果が伴っている以上は少なくとも俺からは文句を付ける気はないな。

 何の気なしに懐に手を突っ込んで硬い感触に触れる。


 ソッピースが持って帰って来た転移魔石だ。 複製どころか小型化にまで成功したとは大した物だな。

 こいつを使えば一瞬でオラトリアムに戻る事が出来る。

 ファティマが可能であれば一度戻って欲しいような事を言っていたがどうした物か。


 現状、オラトリアムに用事がない以上、戻る必要性を全く感じない。

 無理に用事を作ると言うのなら首途に魔剣を見せてザ・コアとの分離を試みる事ぐらいか。

 ふむと考える。 この手から離れない鬱陶しい剣だがオラトリアムに戻る事とどちらが面倒かと考えて……。


 ……まぁいいか。

 

 結局、今のままでいいかという結論に落ち着いたのでファティマにオラトリアムへ戻るのはまたの機会にすると<交信>で伝える。

 状況が落ち着くまではドゥリスコスの所でのんびりしていればいい。


 次は……まぁ、予定通りチャリオルトにでも向かうとするとしよう。

 半世紀前から変わってなければトラストの知識が多少は役に立つだろうし、あの妙な技術に触れるいい機会だ。

 俺はこの後の予定をぼんやりと立てながら目的地に向けて飛行を続けた。


 

 

 その後は取り立てて騒ぐような事はなかった。

 強いてあげるなら、今まで国が結構な予算をつぎ込んで建設、維持して来た研究所が丸ごと消滅したので国中が騒然となり、区長達は他国に付け入る隙を与えない為に即座に緘口令を敷いたぐらいか。

 上手く行ったかは怪しいがな。


 少なくとも俺は積極的に他所に情報をばら撒く気はなかったので、精々頑張って隠すと良いんじゃないかと他人事のように考えていた。

 さて、その施設は最終的にどうなったのかと言うと、転移の翌日にファティマから結果の報告が届き、細かい報告を聞く事になったが、まぁ、分かり切っていた内容だな。


 施設に被害を出さない為に時間をかけて丁寧に制圧したようでほぼ無傷で手に入れる事に成功したらしい。

 少しアクシデントがあったが誤差の範囲に収まったようだ。

 そっちの詳細は聞いていなかったが、随分と腹に据えかねているのか珍しくファティマの声に怒りが滲んでいた。


 ……何があったのやら。


 特に興味はなかったので世の中そう上手く行ってばかりとはいかんなという程度の感想しか出なかった。

 職員の一部を捕縛、設備や資材を丸ごと手中に収めたので戦果としては上々といった所らしい。

 尋問を行った結果、テュケとの関係はあったようだが薄いようだ。


 施設を起こした際に先行投資として技術供与を受けていたのでその代償として定期的に研究成果を提出すると言った契約を結んでいたらしい。

 それを聞いてなるほどと納得した。 連中が不完全な転移魔石や銃杖を所持していた理由が分かったからだ。


 まぁ、上手い手ではあるな。 最初に骨子となる技術だけ渡して後は任せて成果だけ掠め取る。

 性質の悪い取り立て屋みたいな連中だなとは思ったが、初期の発想が出て来ずに芽が出ないといったケースは多いのでアラブロストルの連中にとって代償はでかいがそれに見合うリターンもあったと言う訳だ。


 そうなるとアラブロストルがテュケの本拠であるという可能性が消える事になる。

 なら消去法で連中の本拠として怪しい所は最南端の大国家オフルマズドと言う事になるが……。

 まぁ、今のところ何とも言えんか。 もしかしたら大陸の外に本拠を置いているという可能性もあるしな。


 俺としてはやる事は変わらん。 居れば潰すし、居なければ適当に見て回るだけだ。

 活動基盤を支える組織も手に入ったし、今後の動きにも幅が出るだろう。

 これでファティマにうるさい事言われずに済むし、多少派手にやっても面倒事やフォローはドゥリスコスに押し付けられる。


 アラブロストルでの成果は上々と言った所だろうな。

 そんな事を考えていたが――


 「ローさん! 大変です!」


 ――面倒事と言うのは思わぬ所から噴出するのだと言う事を俺は理解できていなかったようだ。


 ある日の事だった。

 騒ぎから二ヶ月と言った所か、ぼちぼち落ち着いて来たので国を出る準備でも始めようかと考えているとドゥリスコスが血相を変えて部屋に飛び込んで来たのだ。


 俺は内心でやや呆れる。

 急ぎの用事なら<交信>を使えよと思ったからだ。

 それと同時に内心で眉を顰める。 こいつがここまで慌てると言う事は相当な事が起こったのだろうと言う事が予想できたからだ。


 ……ただ、具体的な内容に全く心当たりがなかったのだが。


 ドゥリスコスは全力で走って来たのか息を荒げている。

 呼吸が整うのを待って俺が話すように促すと事情を話し始めた。


 「戦争です。 隣国チャリオルトがいきなり攻めてきました」


 …………何? 

 

 正直、意外過ぎてドゥリスコスが何を行っているのか理解できなかった。

 数瞬の間を置いて理解したが、血相を変えるほどの事なのか?

 そもそもアラブロストルの連中はその為に魔導外骨格を国境付近に配備して喧嘩を売って来るのを待っていたのではないのか?


 寧ろ馬鹿が網にかかったと喜ぶ場面ではないのか?


 「……それが……魔導外骨格部隊は容易く突破されて既に国内への侵攻を許してしまっている状態なのです」


 ……なるほど。


 「それは深刻な事態だな」


 俺はそんなコメントしかできなかった。

 この国が不味いのは分かったがそれって俺に関係あるのだろうか?

 ドゥリスコスの慌てている理由が今一つ分からずに首を傾げる事しかできなかった。

 

誤字報告いつもありがとうございます。


今回で十三章本編終了となります。 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

この後、別視点を挟んで十四章へと移行します。


そろそろストックが厳しくなってきました。

その為、十四章辺りから投稿頻度が落ちると思いますので、申し訳ありませんがご了承ください。

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