表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
13章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

422/1442

421 「興奮」

別視点。

 

――時間は襲撃直前まで遡る。


「く、くひ、くひひひひひ」


 笑いが止まらない。

 いくら堪えても歓喜の感情があふれて止まらない。

 嬉しくて嬉しくてどうにかなりそうだと異形の男――首途 勝造は身を震わせていた。


 ここはライアードの外れにある小高い丘。 位置的にはオラトリアムとの境界に近い。

 眼下には大量の土砂(・・)と入れ替わりに現れた施設。

 目的はその制圧だ。 可能な限り施設に傷は付けず、技術者は最低数名は生け捕りにせよと彼は指示されていた。


 首途に逆らう気は毛頭ない。

 そもそも今回の襲撃の先陣を切らせて貰う条件としてこの場の指揮官に従う事を約束していた。

 初めに襲撃の話を聞いた時、首途は意地でも参戦すると心に決めていたのだ。 その為、ファティマに土下座してでも許可を貰うつもりだった。


 その理由は周囲に布陣した彼の最高傑作とその配下達の性能を示すこれ以上ない舞台だからだ。

 この機会を逃せば次はいつになるか分からない。

 そう考えていた彼は必死に頼み込んだ。


 結果、首尾よく先陣という望み通りの美味しいポジションを得て彼は上機嫌だった。

 首途は思う。 この瞬間をどれほど夢見たかと。

 彼は子供の頃から特撮番組が大好きだった。


 その視線が向かう先はヒーローではなく醜悪な怪人。

 週に一度、違う怪人が現れる度に心が躍った。

 次回予告を見て次はどんな活躍をしてくれるのかと心待ちにした。


 思った。 自分も作ってみたいと。

 あんな化け物を作って全てを破壊したいと。

 彼は醜悪な異形の姿の中に子供心に真の美しさを見たのだ。 


 だが、歳を重ねるにつれてその欲求は薄まり続けた。

 正確には現実と折り合いをつけたというべきだろうか。

 別の趣味を見つけ、学校を卒業し、就職した。


 日常と言う日々に押し流される記憶と感情。

 それでも在りし日の渇望だけは心の最奥でくすぶり続けた。

 自覚はあったがガキの頃からの詰まらん夢だと目を逸らしていたある日、彼は唐突に死んだ。


 そして気が付けば訳の分からない異世界と変質した肉体。

 最初は生き抜く術を身に着ける事と日々をやり過ごす事で必死だったが、生活の基盤を得て技術を学び細々と武器を作り生意気な子供を引き取って育てたりもした。


 この世界では銃刀法違反なんて面倒な法がない以上、危険な物も作り放題だ。

 正直な話、首途は当初、特に何かを狙ってあの武器群を作っていた訳ではない。

 自然とそうなっていたのだ。 自身の美意識に従って思うまま作った武器達は美しかった。


 作れば作る程、心が温かくなって行くが、何故か引っかかるように完全には満たされない。

 彼は考えた。 武器には使う場所が必要だと。 だが、そんな機会はそうそう現れなかった。

 たまに家に忍び込んで来る間抜け相手に使っていたが、多少はまぎれるが満たされない。 


 作っても作っても駄目だった。

 殺しても殺しても何かが足りない。 やはり武器は本来の使い方をしないと輝かないのだ。

 子であるヴェルテクスに期待したが彼は魔法を主とする後衛で、作成した武器に対する適性は驚くほど低かった。


 やはり無理なのかと首途が諦めかけた矢先のことだった。

 あの男が現れたのは。 ローと名乗る冒険者。

 最初は同郷で懐かしい感じのするだけの男だったが、その男は違った。


 何故なら首途の作った武器を愛用(・・)してくれた最初の男だからだ。

 当初は社交辞令かもと思ったがこの移動に時間のかかる世界でわざわざ、依頼をしに足を運ぶほどに入れ込んでくれた。


 自分の最も大事な物を認めてくれたようで、首途はそれが心底嬉しかったのだ。

 ローはそれだけではなく、彼自身の本当の願望を見透かしたかのように理想の環境を与えた。

 そう、彼が本当に作りたかったのは武器ではなく怪人(・・)だ。 

 

 似たような物を作れはしたが、あれは駄目だと彼は考える。

 指示には従うし、面倒だが数も揃えられるが駄目なのだ。

 ただの魔物では満たされなかった。

 

 やはり()の部分が欠片でも残っていなければ満足のいく物はできない。

 怪物ではいけない。 怪人でなければならないのだ。

 無理だろうと彼は考えていたが、ある日唐突に夢の叶う瞬間が現れた。


 ――そして叶った。


 ならば次に求めるのは作った作品の輝きだ。

 首途は見たかった。

 自分の持てる技術や能力の全てを費やした異形がどれほどの力を発揮するのかを。


 そしてどれだけ残虐に人を殺せるかを。 破壊をまき散らせるのかを。

 首途は生み出された者達を振り返る。

 全員が殺意に眼をギラつかせ、静かに指示を待っていた。


 人の形をしているが明らかに人ではない彼等こそ首途の夢と情熱の結晶。

 種族名は「ザ・スレンダーマン」 総勢百と一体。

 首途の持てる全ての技術とオラトリアムの協力を得て作成した最高傑作だ。


 「首途殿。 分かっているとは思いますが……」

 「何度も言わんでも分かっとる。 施設は可能な限り無傷で制圧。 位の高いスタッフは最低三名の捕縛やろ?」


 首途に釘を刺したのは彼の傍に控えている女性だ。

 長い髪を縦ロールにした美しい容姿の女で顔つきだけを見ればファティマに似ている。

 グアダルーペ・シメナ・ライアード。


 ファティマの妹と言う事になっている女だ。

 確かファティマのコピーと聞いていたが、そんな事は首途には心底どうでも良かった。

 お目付け役として傍に置くだけで目の前の施設に居る連中を殺しまくっていいのだ。


 いくらでも居てくれと歓迎するし、出せと言われれば彼は躊躇いなく茶を出すだろう。

 

 「聞かれる前に言うとくぞ。 用意しといた妨害装置は事前に設置済みや。 テストは事前に済ませとるから問題ないやろ。 壊されん限り連中は助けを呼べん」


 もっとも呼べた所でここがどこか分からない以上、どうにもならないが。


 「結構、では存分に。 ただ、失敗した場合は後詰めのサブリナ殿とディラン殿の部隊が引き継ぎます」

 「分かっとるわ。 あんな施設程度、問題なく落とせる」 


 グアダルーペは言うべき事は言ったのかそれで口を閉じる。

 首途はそれを見て小さく頷き、配下達に声をかけた。


 「敵の装備は頭に入っとるな! 銃杖は見てから<照準>で跳ね返せ。 例のパワードスーツは関節潰すか、胴体の中身をやれ! 行けそうやったら取っつかまえろ。 話によれば兄ちゃんに喧嘩売ったテュケとか言うクソボケ共の手下連中や、遠慮はいらん。 最低限の捕虜を残して全員ぶっ殺してまえ! 後、転生者が居たら報告して捕まえろ。 無理なら殺してまえ。 逃がす事は絶対に許さへん」

 

 首途の声に彼の配下達は低く応と応え、隊長を残して全員が施設へと向かっていく。

 

 「こっちの事は心配いらん。 期待しとるで、言うとった褒美も用意しとる。 行ってこい――イフェアス(・・・・・)


 声をかけられた隊長――イフェアス・アル・ヴィング元聖堂騎士は一礼して部下達を追って行った。

 首途はその背中を眩しそうに見つめ空を仰ぐ。

 その胸にあるのはローという恩人への感謝とこれから起こる事への興奮だった。


誤字報告いつもありがとうございます。


グアダルーペ(緑妹)

首途の子供のころの夢は? A.死神な博士。


イフェアス・アル・ヴィング=仲間を逃がす為に愛と勇気で戦った男。 十章参照。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ロマン武器じゃなく怪人作りたかったのか! そら今は理想の職場よなぁ
[良い点] 首途おじちゃまのイカレっぷりが大好き
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ