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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
13章

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412 「乾杯」

別視点。

 ふんふんと鼻歌を歌う男が居た。

 男の名はブティル・ホーコート・サンティアゴ。 彼は上機嫌で秘蔵の酒を煽る。

 ここはサンティアゴ商会本店にある彼の自室だ。


 鬱陶しいエマルエル商会を潰す事が出来、連中の縄張りも奪う事も出来た。

 ブティルにとって外縁部を手に入れる事は悲願といってもいい程に渇望していた事で、それが叶った事で気を良くしており誰も見た事がない程、朗らかな顔をしている。

 外縁の区はフォンターナ王国と近いので食料関係の取引が盛んだ。

 あそこは良質の穀物を生産する大穀倉地帯で、アラブロストルの流通食料の大部分を担っている。


 その為、上手く捌けば莫大な金になり、大きな利益と発展を齎すだろうと確信していた。

 外縁を手に入れる事は国内への流通を中間マージンなしで行うことができる。

 それだけでも充分な旨みだった。

 

 「ふっ、本当に馬鹿な奴等よ。 自分が踊らされているとも気付かずに死ぬ羽目になるとはな」


 今頃、送り出した魔導外骨格に捻り潰されているであろうエマルエル商会の連中を鼻で笑う。

 そう口にしながらも考えている事は別にある。

 戦争についてだ。


 チャリオルトとそう遠くない内に間違いなく事を構える事になる。 仮にならなかったとしてもなるように仕向けるに違いないとブティルは予想していた。

 その為、食料や武器、様々な物の需要が高まるのは間違いない。

 訪れるであろう商機に備えて版図を広げておきたいとブティルは考えていた。


 国の上も同じ考えだったようで、戦いに備え、兵器の調整と運用試験を行いたかったらしい。

 そして試させるのに手頃な相手としてエマルエル、サンティアゴの両商会に話を持って行ったのだ。


 国からすれば商会が減ろうが増えようが関係ない。

 何故なら残った方が空いた場所で商いを始めるからだ。

 加えて相応の戦力を保有しているので、潰し合わせるにはこれ程適当な組織はないだろう。


 アラブロストル=ディモクラティアは多数決と言う名の総意で物事を決める平等の国。

 そう謳ってはいるが実際はしっかりと立場や身分の差は存在する。

 国の中央へ行けば行くほど、身分と生活水準は高まり、逆に外れれば外れるほど低い。


 ブティルはその点をとてもよく理解しており、死んだベンジャミンは与えられた銃杖と新兵器というフレーズに目が眩み、その点を失念していたのだ。

 結局の所、この勝負は性能テストの側面もあるが、魔導外骨格の性能を示すデモンストレーションと言う意味合いが強い。 性能を見せれば侵攻に及び腰の者も乗り気になるだろうからだ。


 エマルエル商会はその生贄に選ばれたというだけの話だった。

 そしてこういった出来事はこの国では珍しくなく、他所の区でも似たような抗争と言う名の結果の分かり切った争いが続いている。


 中央にどれだけ近いかはある意味、身分と権威を示す指針となり得るのだ。

 ブティルは鼻歌を歌いながら、空になったグラスに酒を注ぐ。

 今回の話を快諾したのもその考えに基づいての物だ。


 相手は格下。 そして勝てば相手の商売基盤は自分の物。

 こんなおいしい話を受けないのは馬鹿のやる事だと小さく嘯く。

 国から借り受けたのは魔導外骨格二十体と転移魔石が二十セット。


 前者はともかく後者は扱いにやや難があり、貴重な代物と言う事で借り受けるのに少なくない金額を支払った。

 だが、払った対価に見合う代物だったと彼は思う。


 転移と銘打っているが正確には置換だ。

 対になっている魔石とその周囲の物の場所を入れ替える。

 これにより大掛かりな奇襲に成功したのだ。


 今頃連中はいきなり現れた魔導外骨格の集団に襲われて皆殺しにされているだろう。

 屈強な魔導外骨格に蹂躙されているエマルエル商会の事を考えてブティルは笑みを漏らす。

 それに合わせて肥えた体の肉が揺れる。


 ブティルの考えは概ね正しかった。

 国の中枢に近ければ近い程、技術などの恩恵を受けやすい。

 要は外縁の区には型落ちや一通りの流通を終えた技術や品が流れていると言った形なのだ。

 

 例外は区長。 彼等は国の舵取りをする重要な立場なので国の技術や新兵器の恩恵はいち早く得られる。

 その為、おこぼれに与ろうと彼等に阿る者は多い。

 逆らうと国で生活が難しくなると言った理由もあるが概ね区長には媚びを売っておいた方がいいと言うのはある意味この国では常識なのだ。


 チャリオルトとの戦争が近いという見立ても国の上層部と同じ見解だった。

 ザリタルチュの一件で大量の死者が出たが、新兵器の投入を見送ったお陰で転移魔石や魔導外骨格の詳細な情報はまだ漏れていないだろうからだ。


 あのアンデッド多発地帯はこの国にとっても非常に目障りな物だった。

 何より位置が悪い。 隣国フォンターナとの境界付近に存在し、様々な国の間諜が潜り込み易い立地なのも災いし主戦力を送り込めなかったのだ。

 

 もしも完全にアラブロストル側に存在すれば魔導外骨格の集団を送り込み、周囲の通行を完全に封鎖して蹂躙できたのにと言うのは区長達の共通見解だった。

 だが、それもとある冒険者の活躍によってどうにかなったので彼等は安心してチャリオルトへの備えに注力できる状況に持って行けたのだ。


 ブティルは内心でその冒険者に感謝する。

 あの忌々しいアンデッド共を何とかしてくれたおかげで自分は商機を掴んだと。

 

 「エマルエル商会の間抜けさと、俺の障害を排除してくれた冒険者に乾杯だな」


 そう言ってグラスに注いだ酒を煽る。

 美味い。 値が張るだけあって今まで飲んだ中でも上位に入る程の美味さだ。

 そこでふと考える。 そう言えばその冒険者はどんな奴だったかと。


 酒気で濁った頭でブティルは記憶を掘り返す。

 確か階級は青で……今回の功績を評価して赤まで上がったのだったか……。

 それで――


 不意に建物が縦に揺れる。

 その衝撃でブティルの手からグラスが零れ落ちた。

 下は絨毯だったお陰でグラスは無事だったが、中に入っていた琥珀色の液体はぶちまけられ染みを作る。


 ブティルは怒りに身を震わせる。

 折角、いい気分で酒を飲んでいたのに水を差されたのだ。

 彼の基準で照らし合わせれば死刑にしても文句は言えないレベルの罪状で、肩を怒らせながら大股で歩き、部屋を飛び出す。


 「何事だ!」


 言いながら何が起こったのかを想像する。

 恐らくエマルエル商会を攻めた連中が戻って来たのだろう。

 大方転移に失敗してどこかにぶつかったと言った所かと理由に当たりを付ける。


 誰がそんな下らないミスをしたのだと怒りに任せて衝撃の発生源と思われる場所へ行こうとして――

 

 「――?」

 

 おかしい。 そこで異変に気が付いた。

 部屋の外に控えさせていた護衛が居ない。

 持ち場を離れるなんて聞いていないぞと文句の一つも言ってやろう。 そう考えて廊下を歩く。


 廊下を抜けて吹き抜けになった場所に出る。

 ここからなら正面玄関が良く見えるし、送り出した者達の帰還場所としても機能しておりここから見れば何が起こったのかは一目瞭然だ。


 確かに一目瞭然だった。

 ただし、魔導外骨格が複数残骸となって散らばっているという目を疑うような光景ではあったが。

 壁際を見ると魔導外骨格の上半身が壁にめり込んでいた。 衝撃の原因はあれだろう。

 

 どうやればあのような有様になるのかまるで理解できなかった。

 眼下に広がる光景にブティルの酔いは一気に覚めて、ついでに血の気も引いた。

 

 「な、これは……」


 どうやら戦闘中のようで、生き残っている魔導外骨格は全部で四体。

 ここに配備していたのは十体だった事を考えると、半数以上がやられている計算になる。 

 

 「ば、馬鹿な」


 有り得ない。 一体どうやって破壊したのだ? 彼の脳裏には無数の疑問符が浮かぶ。

 もしや同等の装備を持った者達が襲って来た? それとも国の――

 瞬時に起こり得る可能性を挙げながら襲撃者らしき存在を探し、目を疑った。


 見慣れない男が一人。

 手には奇妙な剣。 柄の先に鉄の切れ端のような物が円環状に浮かんでいる。

 恐らくは魔法道具の類だろうが、どうやって使うのか見当もつかなかった。

 

 この惨状があの男の仕業なのは明らかだが、一体何者だ? それ以前にどうやってここに?

 どこから現れた? 声を上げて状況を確認しようとしたが、ブティルは冷静に現状を確認。

 明らかに劣勢なので、ここで自分の存在を知らせるのは悪手だと考えた彼は身を低くして近くの柱の陰に身を隠す。


 まずは状況を見極めねばと戦闘の状況を注視した。

誤字報告いつもありがとうございます。


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