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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
13章

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401/1442

400 「挟襲」

続き。

 翌日。

 日が昇って少し経ったぐらいで自分は目を覚ましたが、既に出発の準備は整っており、朝食まで用意してくれていた。


 ……何という気配りと心遣い。


 自分の中でローさんへの好感が大きくなった。 正直、囲い込みたいぐらいだ。

 昨日仕留めた魔物の残りを使った物だったが、大変に美味だった。

 料理は得意なのですかと質問したら「知識はそれなりに」と変わった答えが返って来たが、特に気にせずに頂く。


 ここから先は完全に山道だ。

 魔物も出るし気をしっかりと引き締めなければ……。

 内心で気合を入れて立ち上がった。


 道は険しくいくつかの峠を越えなければならないが、サベージが荷物の大半を受け持ってくれているお陰で足取りは軽い。

 こんなにも身軽にこの道を歩いた事が今まであっただろうかと言いたくなるぐらいだ。


 「――少し質問をしても?」


 不意に無言で前を歩いていたローさんが口を開く。

 数日の付き合いだが、彼は自分から発言をする気性ではないと思っていたので少し意外だった。

 周囲を見ると高い位置で見通しが良くなったから多少警戒を緩めても問題なくなったからだろう。

 

 「えぇ、自分に答えられる事であるならですが……」

 「……アラブロストルで変わった物を生産している工場に心当たりはないかな?」


 ……工場?


 少し考えたが咄嗟に答えが出なかった。


 「えっと……?」

 「……もう少し具体的に聞こう。 変わった魔法道具――主に武装を大量生産しているような作業場に心当たりは?」

 

 あぁ、武具などを作成する作業場の事かと納得。

 記憶を手繰って心当たりを口に出す。 特に隠す事でもないので素直に話した。


 「そうですね。 武具や魔法道具関係の物品を取り扱っているのは一区から三区ですね。 他でも取り扱ってはいますが一番充実しているのはその辺でしょう」

 「その中で最も大きい施設は?」

 「……一区だと思います」

 

 あそこには開発だけでなく一番規模の大きい生産施設――国立魔導研究所がある。

 魔導外骨格もあそこで開発された物だし、そう言った分野ではあそこが一番だろう。

  

 「例の外骨格とやらもそこでの開発なのか?」 

 「はい。 その手の事柄ではあそこが一番でしょう」

 

 ローさんはふむと小さく考え込む。

 

 「魔導外骨格とやらが凄いのは分かったがそれだけじゃないんだろう?」

 「そうですね。 アラブロストルは開発や研究に力を入れているので魔法も充実してますよ」

 「なら聞いた事はないか? 空間転移の魔法道具について」

 「空間……転移?」


 ローさんは言葉が足りなかったなと捕捉してくれた。

 どうも異なる場所に一瞬で移動できる魔法道具の事らしい。

 初耳だったのでその存在に驚いた。 そんな便利な物があるのなら是非とも欲しい物だ。


 その反応で察したのかローさんは質問を切り上げた。

 最後に「一区」と呟いたのが少し印象に残ったが、彼は何の目的で旅をしているのだろうか……。


 「その転移の魔法道具に何か思い入れが?」

 「……いや、持っていると便利だと思ったのと、作った連中に少し興味があってな」


 若干濁したような雰囲気はあったが特に気にせずに会話を続けた。

 今度はこちらから質問する番だ。

 

 「ウルスラグナから渡って来たと言う事ですが、何か目的があって旅をしているのですか?」


 単に生計を立てるだけと言うのなら危険なアープアーバンを越える必要がない。

 わざわざ越えて来た事を考えると何かしらの目的があるのだろう。

 さっきの話と関係がある?


 「……目的か。 まぁ、自分探しと言った所かな」

 「自分探し?」 

 「俺自身、今一つ理解できていないのでな。 悪いがそんな言い方しかできない」


 ローさんの言葉は珍しく歯切れが悪い。

 言葉の通り、彼自身にも分かっていないのだろう。

 だがと思う。 自分探しの気ままな旅。


 家というしがらみがある自分には到底真似のできない生き方だ。

 その自由な生き方を素直に羨ましく思った。

 



 山を越え、峠を抜けて目的地までの道程を八割ほど消化した所で不意にローさんが足を止める。

 自分もそれに倣って停止。

 

 ……どうしたんだろう?


 彼は無言で周囲を確認した後、地図に視線を落とす。

 地形を確認するとこちらを振り返る。

 

 「地図を見てくれないか」

 

 道が分かれている訳でもないのにどうしたんだろうか……。

 自分は訝しみながらも後ろから地図を覗き込む。

 彼が指差しているのは現在地だ。 初めての土地だというのに地形を読むのが上手い。


 「気になるのはこの線だ。 これは以前に言っていた区とやらの境界でいいのか?」

 「そうですね。 今いるのがこの国の外縁にある十六区で、もう少し行くと十一区に入る事になります」

 

 この国は中心に近づけば近づく程、数字が小さくなる。

 中央部――最も深い場所にあるのが一区だ。

 それを囲むように二から五区。 その外縁に六から十二区。


 最後に最も国の外側にある十三から二十で区分けされている。

 

 「それは問題ではないのか?」

 「……と言いますと?」

 

 質問の意図が分からなかったので思わず聞き返す。

 

 「あんたは実家である商会に所属している訳だ。 当然ながら縄張りのような物もあるんだろう? 区によって流儀が違うと聞く。 商売の許可を出している関係で問題は起こらないのかと思ってな」 

 

 ……あぁ、その事か。


 「……確かにローさんの仰る通りです。 ですが、この地図の――この部分を見て頂けませんか」


 自分が地図の一点を指を差す。

 そこでは道がぷっつりと途切れている。

 

 「元々、細い道だったのですが随分前に地滑りで埋まってしまいまして……大荷物を抱えての移動が難しくなってしまったのです。 魔物の出現頻度も高かったため、出入りしていた商会が残らず手を引いてしまったので、自分が行く事にしたんです」


 余り褒められた行為ではないのは自覚している。

 他所の縄張りで行商を行うのは立派な横紙破りだ。

 だが、自分が行かなければあの村は遠からず干上がってしまう。


 聞けば十一区の商会は村に法外な手間賃を提示してこれを払えば行商を行ってもいいと言われており、泣く泣く断ったそうだ。

 確かに金額は法外だったが、危険を考えれば妥当とも取れる金額だったので責める事はとてもじゃないができなかった。


 情けだけでは商売は成り立たない。

 だが、自分なら――十六区からなら比較的ではあるが安全に行き来できる。

 

 「……あぁ、なるほど。 許可を取らずにやっていると」

 「…………えぇ。 一応、話は持ち掛けたのですが、相手にして貰えませんでした」


 縄張りは商人にとっての不文律に近い。

 それを侵している自分の行いは流儀に則って考えれば間違っているのだろう。

 だが……商人と言うのは客が居て初めて成り立つ物だ。


 商品を欲している人が居て自分がそれを提供できると言うのなら行くべきだ。

 商人である前に自分は人だ。 人の流儀だけは破りたくない。

 

 「……それで隠れて行商と。 ……良く分かった。 もう一つ、ここに出入りしている事を知っている者は?」

 「……? 一応、自分と契約している傭兵は知っていますが……」


 出発前に冒険者を雇って向かう旨は手紙で伝えているがそれが一体……?


 「なるほど。 なら事情は直接聞いた方が良さそうだな」

 「ローさんさっきから何を――」


 自分の言葉は不意に聞えた風切り音と彼が瞬時に振り下ろした剣に断ち切られた。

 何をという疑問は瞬時に氷解。

 彼の剣は不意に飛んで来た矢を打ち払っていたからだ。


 少し遅れてぞろぞろと男達が前方と背後から現れた。

 前方はともかく後方から? 一体どうやって……。

 

 「魔法道具か。 随分と手の込んだ真似をする」


 ローさんが小さく呟くのが耳を拾う。

 魔法道具か。 それなら不思議ではないが……あの手の物品はかなりの値の張る代物だ。 

 山賊の類が所持できるような代物――いや、数点なら問題ないだろうがこの数は……。

 

 身なりや装備を見る限り、山賊に見えるが高額な魔法道具は明らかに不釣り合いだ。

 人数は……多い。 前に十人、後ろに五人。

 これだけの人数が使用できる程の魔法道具を使う山賊がいるのなら噂に……いや、それ以前にこんな所にいるのはおかしい。


 それとも偶然の遭遇?

 何処かで何かしらの失敗をしてこの近辺で身を隠し、当座を凌ぐ資金を稼ぐ為に略奪を?

 ぐるぐると思考がから回るが、ローさんが落ち着き払った態度で抜いた剣を肩に担ぐ。

 

 その表情には何故か探るような色が垣間見えた。

 厳しい。 サベージが居るとは言えこっちは二人。

 対する相手は十五人。 数が少ない後ろを狙って何とか突破を――


 「サベージ。 後ろの連中は好きにしていい。 ただ、荷物を汚さないように気を付けろ」

 

 ローさんはやや気だるげな様子で前に出る。

  

 「ローさ――」

 「下がってろ」


 それだけ言うと山賊達へと歩を進めた。

 

誤字報告いつもありがとうございます。


気が付けば400回。

ここまで来れたのは皆さんのお陰です。 ありがとうございました。

今後も私の拙い作品をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 利には利で返すからビジネスパートナーとしてはホント誠実なんですよね 情とか思いとか言い無い限り
[一言] 面白い
[気になる点] 知識はそれなりに… 喰った奴の記憶だなぁ ローといえばローらしい言い方 [一言] サベージ擬きを売れば一儲け出来る?かもですね。 ついでに監視も出来そう
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