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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
12章

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389/1442

388 「試斬」

 魔剣ゴラカブ・ゴレブ。

 それがこの剣の名前らしい。

 魔剣とか御大層な名前だが、俺に言わせれば恨み節を垂れ流すだけのうるさい剣だがな。


 まぁ、使えそうだし役に立つなら活用するとしよう。

 握っていると憎悪の思念に混ざってこの剣がどう言う物なのかが何となくだが分かる。

 この剣は人の苦痛等の痛みの感情を好んで喰らう悪趣味な剣だ。


 能力もそれに特化した物で――まぁ、それは今はいいか。

 重要なのはこいつを使えば辺獄の境界を操作して元の場所へ戻る事が可能と言う事だ。

 ただ、問題は他の連中にある。


 他も連れて行くと言う事はこの剣の力を見せる必要があると言う事だ。

 面倒事になるのは目に見えているのでそれは避けたい所だな。

 

 ……というか、それ以前に他の連中はどうなった?


 放置して単騎で斬り込んだのでそれっきりだったな。

 いっそ全滅でもしてくれれば気楽なんだが……。

 <飛行>で空中へ移動。 空から俯瞰すると、何とも元気に戦っている最中だった。


 よくよく見ると、アンデッドと戦り合っている連中に聖騎士や国の騎士や兵士が混ざっている所を見ると、本隊と合流したといった所か。 どうも俺が街で戦っている間に定員割れを起こしたので魔剣が追加を取り込んだようだ。 この剣は本当に余計な事しかしないな。

 ドクンと剣が脈動する。 生者を殺せと思念が流れ込んで来るのをうるさいと内心で吐き捨て無視。


 ……おや?


 全体を俯瞰していると一部で妙な動きをする連中が居た。

 見た所、聖騎士達だ。

 明らかに戦いながら街へ向かおうとしている。


 聖騎士達の姿を認めると剣の脈動が更に激しさを増した。

 何だ? そんなに聖騎士が嫌いなのか?

 事あるごとにどこからともなく後から後から湧いてきて襲って来るし、俺もどちらかといえば嫌いだがな。

 

 ちなみに現在空中に居はするが襲われる心配はない。

 この剣を持っているとこちら側の存在として認識されるようでアンデッド除けにもなるらしい。

 操れるかなとも思ったがそれは無理そうだった。 まぁ、襲われないだけで充分だな。


 ちらりと下を見るとさっきのカマキリとクワガタムシが怒りに身を震わせている。

 同様に髑髏女もカタカタと震えている所を見ると気持ちは同じらしい。

 いつの間にか出て来ていた飛蝗も拳を握っている。


 その反応を見て、思わず首を傾げる。 どう言う事だ?

 連中のそれは憎悪と言うよりは純粋な怒りに近い。

 何となくだが分かる。 奴等は聖騎士共に対して憎しみではなく怒りを抱いている。


 ……グノーシスの連中、この街に何か関係があるのだろうか?

 

 分からんが怒りを燃やしている連中の様子を見る限り、無関係と言う事は有り得んだろう。

 とは言っても現状知りようもないし、機会があれば調べるとしよう。

 さて、考える事はこの後どう動くかだ。


 どうした物かと考える。

 攻めて来ている連中と自身の現状。手に収まった魔剣。

 嘆息。 まぁ、悩むまでもない事か。


 色々あったが結局の所、俺は俺のやりたいようにしか動けん。

 なら、それに従って気楽にやるとしよう。

 <交信>を使用。 サベージとソッピースを呼び戻す。


 ソッピースは直ぐに来たがサベージは少し経ってからややボロボロになって現れた。

 あぁ、そう言えばアンデッド共のど真ん中に置いて来たんだったか。

 そのまま降りてサベージに跨った。


 行先を指示して走らせる。

 まずは街に侵入した聖騎士共から処理するとしよう。

 何か知っているのなら事情も吐かせておきたいしな。


 


 街の外縁まで行くと侵入した聖騎士や聖殿騎士がアンデッド共と戦っているのが見えた。

 辺獄では逃げられる心配がないから堂々と姿を晒せるので気楽だ。

 手近な聖殿騎士に肉薄。 サベージから飛び降りて魔剣を一閃。


 鎧ごとその体を両断した。

 

 ……たいした切れ味だ。

 

 わざと固い部分を狙ったにも拘らず斬った手応えが殆どなかった。

 上等な武器なのだろうと言う事は理解しているが、剣は余り好みじゃないな。 叩き潰した感触がしない。

 第一形態に変えて振り回す。 運用はザ・コアとそう変わらんが、軽くなったせいで振り回しやすくなったな。

 それに――


 接触した聖騎士達を瞬時に血煙へと変える。

 破壊力も跳ね上がっているな。

 この点は悪くない。


 「な、何だ貴様は!」


 誰何するような声が聞えるが無視。

 次はこちらを試すか。 魔剣を第三形態に変形。

 刃が消滅して代わりに黒い靄が円柱を形作る。


 「な、それは一体――」

 

 一人残っていればいいし後は要らん。 さっさと死ね。

 闇色の円柱から無数の闇の百足が噴き出し次々と聖騎士達を絡め取ってはその中に取り込んでいった。

 中からはくぐもった無数の悲鳴が響く。


 何が起こっているかは知らんが痛そうではあるな。

 そうしているとあっという間に聖殿騎士一人を残すのみとなった。

 聖殿騎士はやや怯えた態度で剣を構えていたが腰が引けている。


 体は無傷だが、心の方はぽっきり折れているな。

 まぁ、同僚が瞬く間に皆殺しにされればそんな気持ちにもなるか。

 視線は俺と他のアンデッド共を行ったり来たりしている。


 あぁ、何で襲われないのかが気になるのか?

 教える気は無いが、こっちの知りたい事は教えて貰おうかな。

 無造作に踏み込んで元に戻した魔剣で一閃。


 剣ごと腕を切断する。

 悲鳴を上げる間もなく、左腕(ヒューマン・センチピード)を伸ばして絡め取って拘束。

 兜を毟り取って耳に指を突っ込んで情報を抜き取る。


 ……なるほど。

 

 記憶を読み取って一つ頷く。

 簡単にだが事情は分かった。 何ともコメントし辛い話だな。

 結論だけ先に言ってしまうと、こいつ等はこの街の調査に派遣されたようだ。


 しかも奇妙な事に具体的な指示は一切出されておらず、見た物を細大漏らさず報告せよとだけ言われていたらしい。

 何とも妙な話だ。 さっぱり分からんが、少し分かった事はある。


 こいつ等は捨て駒だ。 少なくとも何か成果を期待されて送り出された訳じゃないと言う事だけは分かる。

 そうでもなければ聖堂騎士が居ない事が不自然だ。

 手持ちの情報だけで推測するのなら、グノーシスはアラブロストルとフォンターナの依頼で派兵する事にはなったが、恐らく行ったら帰って来れないと悟って死んでもいい連中を体のいい生贄としてここに差し向けたのだろう。


 調査に関しては運良く生き残ればという期待ですらない淡い願望を込めてと言った所か?

 要はこいつ等は教団に死んで来いと送り出された憐れな連中と言う訳だ。

 街に入り込んだ聖騎士はまだまだいるが、この様子じゃ碌な情報は持っていないだろうが……。


 ……まぁ、皆殺しにしてから考えるとするか。


 後も閊えているし(・・・・・・・・)さっさと片づけるとしよう。

 サベージに走れと指示を出して次の聖騎士達の下へと向かった。


誤字報告いつもありがとうございます。

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