384 「廃墟」
街に入ったと同時にアンデッドの容赦のない攻勢に曝される事になった。
流石は敵の拠点だけあって、いくらでも出て来る。
外に居た兵士風の連中やさっき仕留めた剣闘士風のアンデッドが多い。
割合で言うのなら前者が六、後者が二といった感じだ。
残りは農具のような物で武装した村人風だな。
どいつもこいつも半ば以上に朽ち果てているにも拘らずその表情に浮かぶのは、圧倒的とも言える憎悪。
アンデッドは生者を憎むという話は聞いた事があるが、いくら何でもこの憎み方は異常だ。
捕食対象や八つ当たりの相手に向けるそれじゃない。
この街の在り方と関係があるのだろうか?
……まぁいいか。
何故だと少し考えたが正直、そこまでの興味はないので今は棚上げでいいだろう。
何をどう憎んでいるのかは知らんが、今の俺にとっては邪魔な障害物でしかない。
向かって来るアンデッド共をザ・コアで薙ぎ払いつつ、サベージに突破を命じる。
アンデッドは雑魚だが、疲れ知らずのようでしつこく追って来ていた。
廃墟の陰から矢を射かけたり、正面から襲って来たり、罠をしかけてくる奴まで現れるのだから恐れ入る。
さて、色々動き回ったお陰で色々と見えて来る物もあった。
まずは街の構造だ。
奥へ行けば行くほど高い位置になる。 区画ごとに段差を付けて分けているのだろう。
敵の質が下と上とで違っている所を見ると、身分ごとに住居の住み分けを行っていたのかもしれんな。
なら向かう場所は決まった。
最奥だ。 この街は岩山を背負っているので回り込むという真似ができない。
その為、奥に行きたければ正面からの突破以外はあり得ないのだ。
……何とも防衛戦や籠城戦では使い易そうな立地だ。
守り易く、攻め辛い。 だが、サベージの突破力の前には少々の質の向上は問題にならん。
アンデッド共を適当にあしらいつつ次々と強引に突破。
どれぐらい進んだか――周囲を見るとそろそろ街の中頃まで来ただろうか?
そんな事を考えながらもう数えるのも面倒になったアンデッドの群れに<榴弾>を叩き込――
――んだ魔法は割り込んだ何かに跳ね返されて戻って来た。
何!?
返って来た<榴弾>をザ・コアで打ち払う。
何だと跳ね返した奴に視線を向ける。
そこに居たのは鏡の様な全身鎧と盾を持った騎士だった。
装備にほとんど風化が起こっておらず、原型を完全に留めている事にも驚きだが、問題はそこじゃない。
騎士の鎧に付いているエンブレムだ。
削り取られて見辛いが、薄っすらと見える柱と天使の羽がモチーフのそれは明らかにグノーシスのそれだった。 そしてその装備は明らかに当人の為にあつらえたかのような代物だ。
正体はすぐに分かった。
……聖堂騎士だと?
考えるまでもない。 どう見ても聖堂騎士だ。
何故こんな所で聖堂騎士がアンデッドになって襲って来る?
ここの連中が元々の住人と言う事の信憑性が少し薄れたな。
もしかしてここで死んだ連中はアンデッド化して取り込まれると言う事か?
鏡の騎士の背後からぞろぞろと聖殿騎士らしき連中まで現れる。
また面倒な連中が――
正面の聖堂騎士達に意識を向けた所で、不意に近くの建物の壁を突き破って何かが突っ込んで来る。
サベージも気が付かなかったらしく、かなり反応が遅れた。
俺は咄嗟に飛び降りる。 サベージは逃げ切れずに突っ込んで来た何かに吹っ飛ばされる。
ザ・コアを起動して奇襲をかけて来た奴に喰らわせようと振り下ろすが、衝撃を受けて跳ね返り、思わずたたらを踏む。
相手は――――冗談だろ?
大抵の事に驚かない自信はあったが、これは流石に予想外だ。
特徴的な全身鎧に削り取られたグノーシスのエンブレム。
聖堂騎士である事は間違いないが、驚きなのはその中身だ。
兜がないので顔が良く分かる。
動物の犀に似たその風貌は間違いなく転生者――異邦人だ。
転生者までアンデッド化だと!? 一体どうやって?
連中は死亡すれば消滅するのにどうやってアンデッドになるというんだ?
ザ・コアを撃ち返したのはサイが持っていたメイスらしい。
そしてサベージを吹っ飛ばしたのはサイが乗っていた騎獣――こっちもサイだ。
サイがサイに乗って突っ込んで来たのか。
ギャグにしては笑えないな。
追撃をかけてようとしてくるサイに<榴弾>を撃ち込むが、即座に鏡が割り込んで盾で跳ね返す。
同時にサイが前に出て仕掛けて来るのをザ・コアで受ける。
メイスと接触して火花と破片を飛ばす。
……鬱陶しい。
鍔迫り合いをしながらサイの腹に蹴りを入れて相手の体勢を崩す。
鏡は魔法に対しては強いがわざわざサイが前に出ている所を見ると、物理に対してはそこまでじゃないと判断。
ザ・コアで破壊は可能だろう。
なら、前衛であるこいつを沈めれば後は楽だ。
サイは他と同様に憎悪に満ちた視線で声にならない咆哮を上げてメイスを叩きつけようとするが、ザ・コアと再度接触して砕け散った。
最初に圧し合った時点でかなり酷い亀裂が入っていたからな。
次で砕けるのは読めていた。 さて、後は本体を砕くだけだ。
もう一度くたばって、さっさと成仏しろ。
とどめを刺そうとした所で腕に何かが巻き付き、思いっきり引っ張られる。
……今度は何だ?
ボロボロのローブの様な物を纏った連中で腕が触手のようになっており、それが俺の腕に巻き付いていた。
似た格好した連中が人間離れした体の一部を見せながら現れる。
どう見ても悪魔の部位を移植した連中だ。 こちらも見事にアンデッド化している。
ダーザインの部位持ち連中とほぼ同じ仕様か。
立て直したサイが殴りかかろうとするが、中身スカスカで体重が減っているようなゾンビが数人程度で止められるほどやわじゃない。
腕に絡みついていた触手を強引に振りほどき、ザ・コアを突き出す。
際どいタイミングだったが俺の方が少し早く、サイの上半身を粉々に粉砕する。
即座に振り返って<榴弾>を連射。 俺を拘束しようとした連中を消し飛ばす。
後は、鏡持ちと聖殿騎士――
次の相手の処理に入ろうとしたが、不意に足元が輝き始める。
……魔法か。
この手の代物にはいい思い出はないので即座に飛んで範囲外へ離脱。
どう言った物だ? 攻撃系? それとも拘束する類の魔法か?
特に異常はな――待て、何だと?
輝きに触れたアンデッドの残骸が逆再生のように復元されて行く。
さっき仕留めたサイに始まり、悪魔の部位持ちも次々と復活して立ち上がる。
ふざけた事に破損した装備類まで元通りに復元されている。 これは厄介だな。
再生や回復とか言う次元じゃない。 これは物質の復元か。
どう言う仕掛けなのか見当もつかんが、きりがない事がはっきりしている以上、相手にするだけ無駄だな。
俺は早々にこの場に見切りをつけ<飛行>で空中へ。
サベージには自力で切り抜けて追いついてこいと<交信>で伝えて先へ進む。
正直、嫌な予感がしていたので<飛行>の使用は控えていたのだが、それは正しかったようだ。
街のあちこちから鎖の付いた銛の様な物がこちらに向けて飛んで来た。
躱そうとしたが、どう言う仕組みなのか追いかけて来る。
鬱陶しいな。
追尾してくる銛を魔法で片端から撃ち落としつつ先へ進むが、進めば進むほど飛んでくる数が増していく。
流石に捌き切れなくなったので、降下して着地。
そのまま走り出す。
多少ではあるが距離は稼げたのでさっきの鏡とサイはしばらく追っては来れない筈だ。
走りながらザ・コアを一瞥。
いっそ、第二形態で街ごと焼き払うか?
いい手かもしれないが、もしさっきのように街ごと復元されてしまえば打つ手がなくなる。
相変わらず多種多様な装備や能力を持った連中が次々と襲って来るのを捌きながら、どうした物かと考えていた。
襲って来る連中に関しては場当たり的な処置しかとれんが根本的にはどうしたらいいのだろうか。
思考しつつも答えはこの先にあるような気がすると何となく感じていた。
誤字報告いつもありがとうございます。




