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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
12章

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383/1442

382 「見晒」

 「よし、一度止まろう」


 街まで目算で数キロメートルと言った所でシシキンが全員を止める。

 ぞろぞろと動いていた集団が移動を停止。

 

 「そろそろ街が近い、攻める前に簡単に打ち合わせと偵察の為、斥候を出したい! 誰か経験がある者は居ないか!」


 そう言うとややあってぱらぱらと集団から手が上がる。

 大きく頷いたシシキンは、数人に別れて街の偵察を指示。

 十数人が散って街へと向かって行った。


 「彼等が戻って来るまでにこれからの動きを決めておこう。 意見のある者は居ないか?」

 「……遮蔽物のない荒野。 地形的に工夫の余地がないぞ」


 そう言ったのはさっきシシキンの意見に同意した男だ。

 その点は俺も同意見だな。 加えて連中、いきなり湧いて来るから警戒のしようがない。

 男はぐるりと周囲を見回すと頷く。


 「盾や全身鎧の頑丈な奴を前面に出しての強行突破で良いんじゃないか? 搦め手が使えないのなら何が起こっても対応できるようにするべきだ」

 「ちょっと待って!」


 男の意見を遮るように女が手を上げた。

 

 「そっちの人の意見も分かるけど、あたしは別の手を提案する!」

 

 全員の注目が女に集まる。

 

 「あたしはマシーカ。 赤の三級でパーティー「リーフデ」を率いている」

 「俺はシシキンだ。 よろしくなマシーカ。 それで、君の案って奴を聞かせてくれ」

 

 マシーカは頷くと話を続ける。


 「大事なのは速さよ! 敵が待ち構えているのは目に見えてるんだからゆっくり行ったら良い的じゃない! ここは意表を突く意味でも速攻よ!」


 俺はじゃあ速攻で正面から行けば良いんじゃないかと思ったが口には出さなかった。

 会話に加わる気は無いのでのんびりと推移を見守る事にする。

 正直、話し合いに興味がない上、ここには長居したくはないのでさっさと要件を済ませるべく、全員で突っ込めばいいんじゃないかとぼんやり考えていた。


 「なるほど、そっちの彼――」

 「ラッチマンだ」

 「あぁ、済まない。 ラッチマンの意見とマシーカの意見は真逆と言って良いが幸いにもこの人数だ。 折衷案で行かないか?」

 

 両者とも特に表情を変えずに黙って続けろと促す。

 俺は暇だったので持ち込んだ食料で腹ごしらえをしていた。

 サベージが羨ましそうにしていたので半分分けてやると嬉しそうに食べ始める。


 「斥候の報告待ちだけど、問題が無いようなら人員を分けて攻めるとしよう。 先行と後続でだ」


 シシキンは足元に剣で図を描く。


 「俺達がいるのがここ、街がこことする。 まずは先行組がマシーカの案の通り、街に速攻をかける。 もしあの街が敵に取って重要な拠点であるなら攻められれば多少なりとも混乱するはずだ。 少なくとも奇襲をかける知恵がある以上、組織に近い勢力が居ると俺は睨んでいる」


 混乱するかは別として何かしら指揮を執ってる奴がいるのは間違いないだろう。

 それが何なのか想像もつかんが、ゲームとかでよくあるアンデッドの王的な奴でもいるのだろうか?

 

 「つまり先行組の役目は街の撹乱って事?」

 「あぁ、どちらにせよ魔法で強化するなり、魔法道具で底上げするにしても全員は無理だ。 どうしても足の速さにバラつきが出る。 なら速い奴だけ固めて先に送り出すのが賢い選択だと思うが?」

 「……なるほどね。 それで、残りの遅い連中は後詰めって訳?」

 

 マシーカの言葉にシシキンは大きく頷く。


 「その通りだ。 残りは正面から真っ直ぐ突っ込む。 もし先行組がしくじったならこちらに逃げて合流すればいい」


 ……まぁ、悪い手ではないんじゃないか?


 こう言うのは良く分からんので適当だが、何の障害物もないここじゃ取れる手も多くないしな。

 マシーカは納得したのか小さく頷く。


 「分かった。 皆! 聞いての通りよ! 足に自信のある人は一緒に来てもらうわ!」

 「残りは斥候が戻り次第、攻める予定だ! そのつもりでいてくれ!」


 後は簡単な打ち合わせを済ませ、その場はお開きとなった。

 斥候が戻るまで休憩と言った所だろう。

 

 「ロー」

 

 声をかけられたので振り返るとシシキンとラッチマンが並んでこちらに寄って来た。

 

 「何か用か?」

 「いや、大した用事じゃないが、礼を言って置こうと思ってな」

 「……礼を言われるような事をした覚えはないが?」


 シシキンは否定するように首を振る。

  

 「事前に辺獄の事を教えてくれたじゃないか。 あれがなかったら何の心構えもできずに死んでいた。 だから、ありがとう。 助かったよ」


 俺は答えずに肩を竦める。 何だその事か。

 あれはお前の正当な取り分だ。 それに見合う物を貰っている以上、礼を言う事じゃない。

 ラッチマンはさっきから無言だがサベージに熱い視線を注いでいた。


 「……地竜をここまで手懐けるとは見事な物だ」

 「たまたまだ」

 「……そうか。 羨ましいな」


 俺はそうかとだけ答えておく。

 くれてやる気は無いし反応に困るからな。


 「ローは先行組と行くのか?」

 「そのつもりだ」


 あっちの方が小回りが利くし、適当な理由を付ければ単独行動もできるからな。

 アンデッドの殲滅は仕事だからやるが、優先順位はあの街の調査の方が上だ。

 シシキン達には悪いが、適当に戦ったら街に入るつもりなので勝手にやってくれ。


 「それでなんだが、来る前に辺獄の事を教えてくれたローに聞きたい。 あの街についてどう思う?」

 「……どうとは?」

 

 聞き返す。 もうちょっと分かり易く質問してくれないか?

 シシキンも質問の仕方が悪いと思ったのか、バツが悪いと言った表情を浮かべる。


 「いや、何と言うか……敵は本当にアンデッドなのかなと思って……な」

 「少なくとも襲って来た連中は間違いなくアンデッドだったと思うが?」

 「そうじゃない。 連中の裏に居る存在の事だ」


 まぁ、あれだけ統率の取れた動きだ。

 疑うのも当然だろうな。

 その疑問はもっともだが、俺にはその質問に対する答えは持っていない。


 「悪いが見当もつかんな。 ただ、連中を操るか指示を出しているかは何とも言えんが指揮を執っている存在が居るのは間違いないだろう」

 「心当たりもないか?」

 「ないな」


 即答する。

 悪いが知らん物には何とも言えん。 

 

 「そうか……分かった。 ありがとう、余り気の利いた事は言えないけどお互い生き残ろう!」

 

 俺はあぁとだけ言って答える。

 言葉こそ取り繕っているがシシキンの表情には失望の色が濃い。

 内心で小さく鼻を鳴らす。


 余裕がないのは分からんでもないが俺に過度な期待をされても困る。

 まぁ、率先して動く辺り、何が何でも生きて帰ろうとする気概を感じるが、相当に無理をしているのだろうな。

 それこそ表情を取り繕う余裕すらない程に。


 身の丈に合わん事はする物じゃないといいたい所だが結婚が控えているから仲間と生き残ろうと必死なのだろう。

 俺には関係もないしどうでもいい事なので何もしないし言う気もない。

 精々、死なない程度に頑張ると良い。


 さて、それはそうと休憩に入ってからそれなりに時間が経っているが偵察に出た連中、少し遅すぎやしないだろうか?

 

 「……妙だな」

 「どうしたんだ? ラッチマン」


 不意に声を上げたラッチマンにシシキンが反応するが、奴は答えずに視線は町の方角に注がれたままだ。

 それで気付いたのかはっとした表情を浮かべる。 どうやら似たような事を考えていたようだな。


 「そうだな。 いくらなんでも遅すぎる。 そろそろ戻って来る姿が見えてもおかしくないのに……」

 

 シシキンの視線が少し上がる。

 同時にその顔色がみるみるうちに青ざめて行く。

 何だと俺もその視線を追うと空から何かが放物線を描いて飛んで来ていた。


 それも複数。 何だと目を凝らすと――なるほどと納得する。

 確かに明確な意思……いや、敵意を持った奴が間違いなく存在するだろう。

 少し間を空けて連続した衝撃音。


 周囲の連中も落ちて来た物へ注目する。

 それを見た連中の反応は――

 

 「うっ――」


 そう言って嘔吐する者。

 悲鳴を上げる者。

 思わず目を背ける者と反応に差こそあるがそれを直視できる者はそう多くなかった。


 偵察に出ていた連中が木製の十字架に張り付けられた状態で飛んで来たのだ。

 それだけなら問題ないが、連中はこの短時間で手酷い拷問を受けたらしく酷い有様だった。

 顔は原型を留めておらず、パーツは全て取り外されており眼窩は空洞、口も空っぽ。


 腹も裂かれており、色々となかったり飛び出したりしていた。

 これはこれは、何とも酷い有様だ。

 見た所、送り出した連中は全滅したと考えるべきか。


 ……それにしても。


 随分と派手にやったな。

 果たしてくたばった連中にここまでされるような謂れはあったんだろうか?

 明らかにやり口に憎悪や怨念じみた物を感じたからだ。


 必要だから行ったのではなく苦しめたいから痛めつけたといった印象だな。

 そこには明確な悪意と言う名の感情が乗っていた。

 ぐるりと周囲を見ると、シシキンを始め、他の連中が絶句している姿が目に入る。


 ……で? どうするんだ?



誤字報告いつもありがとうございます。

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