381 「相談」
唸りを上げて回転するザ・コアがすれ違い様に象の足を粉砕してその巨体を辺獄の大地に沈める。
地響きと砂煙を上げて行動不能になる象を尻目に俺はサベージを走らせた。
騎乗戦闘と言うのは余りやった事がないので中々新鮮な気持ちになるなと思いながらサベージに指示。
サベージは俺の意図を正確に汲み取り加速。
俺を脅威と認識した騎兵へと方向を変える。
三騎程が長槍片手に突っ込んで来るが、サベージが大きく旋回。
騎兵達も追いかけようとするが横並びが災いして足並みが乱れる。
それで充分だ。
左腕で一番手前の馬の足を薙ぐ。
ほぼ骨なので脆く、簡単に砕けて他を一騎巻き込んで転倒。
残りはサベージが跳躍して上から踏み潰す。
俺とサベージにザ・コアの重量を合わせれば数百キロだ。
頑丈とは言えないアンデッドでは支えきれずに砕け散る。
……何だ。 思ったより脆いな。
当てれば仕留められるので対処はそう難しくない。
それに対処に必要な時間と隙を与えてやれば、他が立て直して勝手に動くだろう。
散り散りになっていた冒険者連中も俺が作った隙を好機と捉えて反撃に転じる者が現れ始めた。
よし、これで奇襲で取られたアドバンテージをある程度は取り返せたか。
騎兵は任せても問題なさそうだし、俺は象を片端から沈めるとしよう。
こちらも当たれば仕留められる上に動きが鈍重なのでいい的でしかない。
俺はサベージに指示を出して象を仕留めるべく動き出した。
ザ・コアで足を一撃するだけで勝手に崩れ落ちて戦闘不能になるので楽な物だ。
動きのいい奴が結構いるので騎兵は任せても問題ないと判断し完全に象だけを狙い討つ。
最後の一騎を仕留めた所で振り返ると、騎兵も全滅していた。
思った以上に連中やるようだな。
……とは言っても、無傷とは行かなかったか。
アンデッドは消滅するが死体は少しかかるようで、あちこちにやられた連中が転がっているのが見える。
全体の二割弱と言った所か?
大雑把だが、死体の数を見ると大きくは外していないとは思うが……。
「ロー!」
呼ばれたので振り返るとシシキンとそのお仲間が駆け寄って来ていた。
無事だったか。 運のいい奴等だな。
一人も欠けてない所をみると良い位置に居たのだろう。
「見てたけど凄かったな! 地竜の動きもそうだが、その武器も凄まじいな!」
「それで? どうかしたのか?」
場所が場所だ。 お喋りしている場合じゃないだろう。
俺は特に取り合わず用件を話せと促すと、シシキンもそれを察したのか表情を引き締める。
「……あぁ、そうだった。 最低限の足並みをそろえようって事になって、これから上位の冒険者達で話し合いをする事になってな」
お前も来ないかと誘われた。
どうした物かと考える。 正直、勝手にやりたいので仕切られるのは鬱陶しいんだがな。
少し悩んだが、付いて行く事にした。
方針ぐらいは聞いておいて損はないか。
ソッピースに空から監視させているので何かあればすぐに分かるだろうし構わんだろう。
「分かった。 行こうか」
シシキンに案内されて向かった先では赤の冒険者パーティーが……ざっと二十程が円になって話し合っていた。
周囲には連中の仲間らしき奴らが周囲の警戒を行っている。
見た所、上位の冒険者をかき集めたといった感じだな。
社交的そうな奴も居れば、そうでもない我の強そうな奴も居た。
話し合いとやらは始まっていたようで何やら盛り上がっている。
「後続が期待できない以上、さっさと動くべきだろうが!」
「いや、流石に本隊が来るだろう。 それまでここで待つべきだ」
「敵の規模も分からんうちに攻めるとか正気か!?」
「そもそもあの街が敵の拠点なのか?」
「いやいや、どう見ても廃墟だろ。 寧ろあそこに陣取ればいいんじゃないか?」
途中からでも分かる。
随分と意見に纏まりがないが、これは大丈夫なのか?
大雑把に分けて、街に行くかここで本隊を待つかの二択と言った所だろう。
数秒しか見てないが時間の無駄の様な気がするな。
そもそも、これは纏まるのか?
「待ってくれ!!」
不意にシシキンが大声を上げ、場が静かになり注目が集まる。
隣のシシキンの婚約者が何をやってるのと肩をバシバシと叩くが、奴は構わず前に出た。
「話を聞いて欲しい! まずは皆の意思を統一する事が大事じゃないのか!」
「それが纏まらんからこうなったんだろうが!」
口々にそうだそうだと言う奴が次々と現れ、引っ込めとか言う奴まで居た。
「それでも! 無理にでも纏めないとここで全員死ぬだろうが! 分からないのか!」
シシキンが被せるように大声を上げて強引に黙らせる。
意外だ。 もう少し弱腰かとも思ったが、流石に冒険者パーティーを纏めているはあるな。
「……それで? わざわざ、声を上げたんだ。 俺達を納得させるだけの意見を言えるのか?」
静かになった所で黙っていた連中が口を開く。
それを見てシシキンが頷く。
「あぁ、まずは状況を整理しよう。 まず俺達はこの地――恐らくは辺獄に閉じ込められた。 ここまではいいな?」
反対意見は出ない。
襲って来た連中がアンデッドである事を考えると疑いようがないからだ。
「ここで考えて欲しいんだ。 俺達がここに引っ張り込まれたのが故意かそうでないかを」
周囲が僅かにどよめく。
察しのいい奴は表情に理解が広がっている。
「ここに来たと同時にアンデッドによる奇襲。 しかもただの動死体ではなく騎兵。 馬らしき辺獄種に跨っている連中は突進用の長槍まで持っていた。 加えてあの巨大な魔獣。 明らかに俺達を始末する事を狙った知性ある動きだ」
「……つまり、この状況は俺達を始末する為の罠だと?」
「あぁ、そう考えると後続が来る事に期待できるか?」
有り得ないな。
来るとしてもここに居る連中が全滅してからだろう。
アンデッド共が任意でここに引っ張り込めると言うのならこの後、本隊は適当な規模に切り取られて順次始末されるだろう。
「つ、つまり、ここは連中の狩場で俺達は放り込まれた獲物だってのか!?」
「その通りだ。 少なくとも俺はそう考えている」
更にどよめきが広がった。
シシキンは構わずに続ける。
「援軍は期待できない。 つまり、俺達は独力でこの状況を何とかしなければならないんだ。 幸いにも最初の奇襲は少ない犠牲で凌ぐ事が出来た。 体力も人数もまだ余裕がある。 ここは攻める時だ! 俺達で街へと攻め込むんだ! あそこが敵の住処である事は間違いない以上、何か――もしかしたら戻れる手段もあるかもしれない。 時間をかけるほど不利になるのは目に見えている。 ここで打って出るべきと俺は思う! 意見に賛成してくれる者は力を貸してほしい」
そう言いきったシシキンは踵を返し、奴の仲間もそれに続く。
「これから向かう。 一緒に来てくれる者は付いて来てくれ」
周囲の連中は顔を見合わせる者、黙って付いて行く者、その場に残る者と反応はまちまちだが、大雑把な方針は決まったようだ。 俺は当然、街に向かうがな。
シシキンの話に乗ったのは全体の六割と言った所か。
残りの四割の内、半数が待つつもりでもう半数が迷っているようでシシキン達に視線を送っていた。
……後は――。
居残り組の一部に死体をチラチラ気にしている奴が居た所を考えると、持ち物を剥ぎ取るつもりの奴が居るな。
内心でやや呆れる。 こんな時に金を優先するとは大した物だ。
興味もないのでそのままスルー。 好きに漁れ。
サベージにさっさと行けと命じて街の方へと足を向ける。
アンデッド共が畳みかけてこない事に引っかかりを覚えるが、動かん事には始まらんしな。
それに――筥崎の言うクリフォトとやらも気になる。
あの街がそうなのか不明だが、どちらにせよ見てみない事には始まらない。
さて、どうなるのやら。
誤字報告いつもありがとうございます。
先程、無事退院できましたが調子が戻るまでは不定期とさせて頂きます。申し訳ありません。
詳しくは活動報告の方に上げていますのでもしよろしければ一読して頂ければ幸いです。
本日より再開しますので今後とも私の拙い作品をよろしくお願いします。




