376 「前線」
移動ペースを考えれば期限内に余裕で間に合うので特に急ぐ事はせずに気楽に見て回りながらフォンターナを縦断する。
途中、冒険者ギルドで情報を集めつつプレートの更新を行う。
国境に近づけば近づく程、すれ違う連中が物々しくなっていく。
完全武装した冒険者に始まり、武器を満載した馬車を走らせる商人、行軍する騎士団。
特に冒険者は多い。 ここが稼ぎ所と考えて集まっているのだろう。
その表情には隠しきれない野心が見え隠れしていた。
大方、依頼が済んだ後の皮算用でもしているのだろう。
そんな気楽な物なのかと内心で訝しみながらもサベージを進ませる。
時折、サベージやソッピースを見て驚く奴も居るが、大半はスルー。
一部にはソッピースに熱い視線を注ぐ奴が居るが手を出す奴は居ない。
冒険者にとって信用は重要な要素だ。
下手に揉め事を起して依頼人の心証を下げる真似をする奴はそう居ないが……。
「ンだぁ? よお、兄ちゃん。 面白れぇ魔物を連れてるじゃねーか? ちょっと見せてくれよ?」
――こういう輩も一定以上居る。
場所は国境に一番近い町――名をツオンという。
そこは完全に拠点と化しており、様々な職種の人間があちこちを行き来していた。
中に入る際に番兵に冒険者であると言う事と魔物を使役していると言う事を説明して中に入れて貰う。
――で、入った矢先にこれだ。
人気のない場所を通ろうとした瞬間、即座に取り囲まれた。
ガラの良くなさそうな連中が六人。
首にはプレート。 明暗の差こそあれ全員青だ。
「悪いが断る。 こいつ等は俺以外に気安く触られる事を嫌がるんでな」
小さく嘆息して、断りを入れるが当然ながら不快気にあぁ?と威嚇してくるだけだった。
凄まじく鬱陶しい。
「あ? 折角こっちが快く迎え入れてやったって言うのになんだぁ? その態度はぁ?」
…………?
理解できない? 快く? 何を言ってるんだこの動物は?
意味不明すぎて目の前の人型の生き物が猿か何かに見えて来た。
俺は疲れているのだろうか?
「お前、青の三級だろう? なら一級の俺はお前より格上だ。 格下は格上に従うモンだろうがよぉ」
適当に聞き流しながら連中の装備をよくよく見ると、おや?と首を傾げる。
どう見ても連中の装備は不自然だったからだ。
剣を何本も佩いている奴も居ればコレクションのように首から指輪等の小物をぶら下げている者。
目の前の男も明らかに持ちすぎなぐらいに物を持っていた。
ちらりと近くの建物の陰を見ると何人かの男が倒れており、明らかに身ぐるみを剥がれた後だ。
首から下がっているのは黄色や俺と同じ、青の下級プレート。
なるほどと納得した。 こいつ等は自分達より弱そうな奴や格下をターゲットにしてカツアゲを行っているのか。
……それで、俺もそのお眼鏡に適ったと。
随分と暇な事しているんだな。 まぁ、俺もやるから人の事は言えないけど。
いや、丁度いいか。 餌にでもしよう。
最近、魔力ばかりで固形物を食わせてなかったからな。
そう考えると目の前の連中が親切に迎え入れてくれているのかと思えてくるから不思議だ。
何せわざわざ新鮮な人肉を持って来てくれるんだから感謝するべきかもしれない。
「……それで? その格上の冒険者様が格下の俺に何か?」
「ここらの下級冒険者は俺様が取り仕切ってるのよ。 当然ながら俺より格下のお前も俺の傘下に入って貰う訳だ。 ありがたく思えよ? 俺様が面倒を見てやるんだからな」
「……はぁ」
男は得意げに勝手な事を垂れ流しているがこれは突っ込み待ちなのだろうか。
「さて、ここで格下のお前は俺に世話になる為の手間賃を支払わなければならんってぇ訳だ。 理解したな? したらそこのストリゴップスと地竜、後は荷物を全部出しな」
俺はゆっくりと背のザ・コアを抜いて地面に置く。
勢いを付けなかったから微かに石畳に亀裂が入るだけだった。
男達は突然の俺の行動に訝し気な視線を向ける。
「……話は分かった。 なら格上らしいところを見せて貰おうか? こいつを持ち上げて振り回してみてくれ。 それが出来たら俺の荷物をやってもいい」
俺は地面のザ・コアを指差す。
男は小馬鹿にしたように笑う。
「その偉そうな態度は後で矯正してやるとして、素直なのはいい事だ。 この――金棒?を持ち上げればいいんだな。 お前みたいな格下にできて俺に――」
言いながらザ・コアの柄を掴むがピクリとも動かない。
同時に魔法で周囲の音を消しつつ近くの建物へ寄りかかる。
「ぐぐぐ、重っ!? おい! お前等手伝え!」
男は手下どもを呼び寄せ、持ち上げようとするが六人がかりでやっと僅かに持ち上がる。
そろそろいいか。
――喰っていいぞ。 第三形態だ。
俺がそう命令するとザ・コアが縦に割れて開く。
「な、何だ?」
内部から百足状の触手が大量に噴出。
連中を次々と絡め取って内部に取り込んでいき――起動。
凄まじい悲鳴があがり口に入った連中がミキサーにかけられた果物のように中に詰まった汁を噴き出す。
ザ・コアはそれすら逃がすまいと強引に自らの中に引きずり込んだ。
「な、何だよ! 何なんだよコレはぁぁぁ!」
おや? 活きのいい奴が居るな。
誰かと思えばさっきの格上君じゃないか。
下半身をミキサーにかけられながら口が利けるとは大した物だ。
男は俺を見ると縋るような眼差しを向けて来る。
「おい! 助け、助けろ!」
「早く振り回して見せてくれないか? さっきから待ってるんだが?」
俺がそう言うと男は絶望の表情をした後、何かを言いかけたがそれは叶わなかった。
次の瞬間には完全に内部に引き込まれ、ザ・コア内部でペースト状になった後に攪拌されて消化。
まぁ、ざっとこんな物か。
ザ・コアの腹も多少は満たされたし良しとしよう。
さて、連中の残った荷物をかき集めて――
「あ、あの……助けて頂いて……」
振り返ると体のあちこちを青痣だらけにした連中が物陰から現れた。
女に至っては半裸になっている奴すらいる。
何をされたか推して知るべしか。 俺の先に連中に引っかかった奴等か、そう言えば居たな。
特に興味もないしどうでもいいな。
寄って来る奴等を無視してザ・コアを一瞥して顎で連中を指す。
――食い残しがあるぞ……と。
さて、依頼を請けるのは冒険者ギルドで良いのかな?
懐も多少ではあるが温まったし、少しお高い食事をしてもいいかもしれん。
どうした物かと考えていると、広場に出た。
いつの間にか街の中心近くまで来てしまっていたようだ。
そこはまるで祭りのような有様で――
「突入する決死隊に志願する者は居ないか! 生きて帰れば故郷に錦を飾れるぞ!」
「俺達と共に戦って生き残らないか! 」
「前衛! 頑丈な前衛を募集しています! 待遇などは応相談でーす!」
「魔法使いか魔法付与の遠距離道具を持っている後衛を募集している! 我こそはと言う者は居ないか!」
――と言った感じで仲間や部下の募集を引っ切りなしに行っていた。
それにしても随分と多い。
まぁ、報酬額や危険度を考えれば味方を増やしてリスクを分散したいのだろうな。
突っ込む場所が場所だ。 中の様子がほぼ不明である以上、備えは怠れない……か。
依頼の詳細は冒険者ギルドで聞くとしよう。
それに、あんな客引き紛いの勧誘で碌な奴が引っかかるとは思えないが、よくやる物だと考えながらその場を横切ってギルドへと向かう。
目立つ建物なので探すのはそう難しくなかった。
加えて人の出入りが激しいので探す必要すらないな。
中へ入ると一面依頼の張り紙だらけ。
壁際によって軽く眺めると辺獄の領域絡みの依頼ばかりだった。
正直、他を探すのが難しい位だ。
それでも皆無と言う訳ではなかった。
……関連はしているが。
発生したアンデッドからの町や村の防衛。
前線への物資輸送の護衛等々。
ここまでくるとまごう事なき戦争だな。
依頼の張り紙を眺めながら俺はどう動いた物かと考えながら、差し当たってはプレートの更新でもするかとカウンターへ向かった。
誤字報告いつもありがとうございます。
新しい土地。 右も左も分からない主人公。
そこに現れる親切な人達。 彼等は新しい土地に馴染めない主人公を歓迎し、金銭や食料を分け与える。
ハートフルストーリー。




