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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
12章

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376/1442

375 「名付」

 町を素通りしてしまうと場合によっては密入国と取られかねないので、手前で降りて徒歩で向かう。

 ゾンネンには戻らない。

 あそこの番兵には顔を見られている以上、いきなりサベージ達を連れて行くと怪しまれるかもしれないからだ。


 隣にはサベージ、肩には鳥。

 それを見た番兵は驚きを露わにする。


 サベージは乗り回すから仕方がないが鳥は隠すべきだったか?

 荷物と一緒に鞄に放り込むと言うのも手だったな。

 考え事に集中していた所為で、その辺が疎かになっていた。


 ……まぁ、いいか。


 町長の知識を見る限り話を通していれば魔物を連れても問題ないらしいが……。

 

 「お、おい。 その連れているのは――」

 「ストリゴップスと地竜だ。 俺が使役している。 問題を起こさなければ、連れて町に入れても構わないと聞いていたが?」

 「あ、あぁ、何か身元を証明できる物を見せてくれ」

 

 俺はこれでいいかと言って冒険者プレートを見せる。

 番兵は俺とプレートを見比べると控えを取ってから通してくれた。

 街並みはゾンネンとそう変わらなかったのでそのまま素通りする。


 ここから先は飛んで行くには目立つし、急ぐ理由もないのでのんびりとサベージを進ませる。

 何とも長閑な風景だった。

 大小の川があちこちに流れ、少し離れた所に村が見える。


 水田とそこで育つ水稲という稲とそれを栽培する農家が作業していた。

 水稲は病気や虫の被害を受けやすいので、手入れは欠かせないようで定期的に面倒を見る必要があるらしい。

 

 代わりに味等の評判はいい。

 育成と準備に手間がかかるので仮に奪ったとしてもそれっきりになってしまう。

 その為、外敵に襲われる心配が少なく、隣国と大口の契約を交わしているので恒常的に売れる。


 とは言っても相応の備えはしているので雇われている傭兵団が常に周囲をうろついているのが見える。

 俺は連中を刺激しない程度に近づいて水田に視線を向ける。

 大量の稲が大粒の実りにより垂れているのが見えた。


 その横には用水路に畦。 そして反対側にある排水路が不要となった水を流している。

 この国は基本的に起伏のほとんどない土地なので、かなり力を入れて開拓した結果、国の中央に行けば行くほど魔物の被害が少ない。


 お陰と言うべきか、冒険者の仕事が少ないのでギルドは国の外縁に集中している。

 ただ、全く仕事がないのかと言えばそうでもない。

 野盗の類が強盗を働くケースも多々あるので、そう言った物の退治を依頼されるという事もそれなりにあるようだ。


 再度、水田に視線を向けて風に揺れる稲を見る。

 ちゃんとした米が食えるって言うのは悪くないかもな。

 ウルスラグナにもあるにはあるが、どうも品質が悪いのか余り美味くない。

 

 そちらの製法に関しては知らんがこちら程栽培に力を入れている訳ではないのだろう。

 可能であるならば買い取ってファティマに送りつけたい所だが――まぁ、無理か。

 アープアーバンを挟んで向こう側だ。


 あの地は俺だけなら問題ないが商隊の類が移動するには絶望的に不向きなので、どうしても向こうと物資のやり取りがしたければウルスラグナ南部に中継拠点を築いた上で飛行可能な改造種の配備が必須となる。

 手間を考えるととてもじゃないがやってられんな。


 それに向こうは向こうで色々とゴタ付いているから距離を置いておくに越した事はない。

 聞けばそろそろ内乱に発展するかもしれない程、あちこちで緊張状態が続いているようだ。

 引き続き王家に国を治めさせるか、下克上を狙う領主が国を取るかで腹の探り合いが続いており、ファティマ曰く、切っ掛けさえあれば即座に内乱でしょうとの事。


 ……そこまでして玉座って奴が欲しい奴の思考がまるで理解できんな。


 ジェイコブのやや疲れた顔を見る限り、とてもじゃないが楽しい物とは思えなかった。

 あんな窮屈そうな椅子に好き好んで座りたがる奴の気が知れんな。

 そんな事を考えていると次の町が小さくだが見えて来た。


 


 日も暮れかかっていたので休憩を兼ねて宿を取る事にした。

 厩舎にサベージを放り込んで、適当に食事を済ませ鳥を連れて部屋へ。

 備え付けのテーブルに鳥を乗せる。


 さて、いい加減名前でも付けようかと考えているがどうした物か。

 正直な話、要らないので喰ってしまってもいいのだが、一応は貴重な鳥らしいし偵察でそこそこ役に立ったので処分は少し勿体ないかと思ってしまったのだ。


 名前……名前か……まぁ、適当でいいだろう。

 ソッピースなんてどうだ?

 そんな感じの名前の飛行機があったようななかったような……。


 「ソソソソソソッピピピピピ――」


 俺が聞いてみると鳥は何か口走り始めた。

 あぁ、そう言えばこいつ等喋れたな。

 声帯の辺りと脳を改造してやろう。


 口から指を突っ込んで体内を改造。

 完了と同時に指を引っこ抜く。 脳裏でこいつの構造を反芻して問題ない事を確認。

  

 ……まぁ、こんな所か。


 「何か喋ってみろ」

 

 俺がそう言うと少しの間を置いて鳥が口を開く。


 「ソッピース! 素晴らしい名前! 名前! 気に入った!」

 

 鳥――ソッピースはキンキンとやかましく喋り出したので取りあえず声を抑えるように指示。

 半分ぐらいの音量になった。

 周囲に変に思われない程度に音量が落ちたので取りあえず頷いておく。


 「お前の役目は何だ?」

 「ソッピース! 主人の役に立つ! 目的の手伝い! 手伝い! を! する!」 

 

 何故だろうか? こいつの物言いを聞いているとすさまじく不安になる。

 後でもう一度脳みそを弄って知能を上げておこう。

 

 「ソッピース! 役に立つ! 役立つ!」


 ……うーむ。 見れば見るほど不安になるのは何故だろうか?


 ソッピースの頭をどう弄った物かと悩みながら俺は翌日まで過ごした。



 翌日、早々に宿を後にする。

 正直な話、フォンターナには興味を惹かれる物がない。

 漁った記憶や知識を見る限り、水田ばかりの穀倉地帯だ。


 規模が違うだけで全く同じと言って良い。

 そんな訳で方針としてはさっさと国境へ向かうべきという結論に達した。

 国土もそう広くないので一ヶ月もあれば余裕で縦断できる。


 ……それに。


 今ならちょっとしたイベントに参加できるらしい。

 どうも、大規模な討伐作戦を始めるようで辺獄の領域に侵攻をかける為にフォンターナ、アラブロストルの両国で結構な額の金を突っ込んで準備を行っているようだ。


 国から騎士や兵士、ギルドからは冒険者を広く公募しているようだ。

 もうしばらくの間は募集を続けるようなので、上手く行けば潜り込めるかもしれない。

 元々行くつもりだったので、路銀を稼ぐついでに請けてもいいだろう。


 それにしても辺獄か。

 今度は自分の足で向かう事になるとはな。

 結局、筥崎の話は不明瞭な部分も多く、完全には理解できなかったが口振りから察するに俺はゴミ屑を排除できていると前向きに解釈する事にした。


 それにあの忠告は予言をそのまま吐き出した物ではなく奴自身が考えて捻り出した物だ。

 信憑性という点では薄れるが、どうせ当てのない旅だし騙されたと思って行ってみるのもありだろう。

 俺は前向きにそう考えてアラブロストルへと向かう事にした。


誤字報告いつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 基本ローくん単体だと暴力&バイオレンス!なので 前章まではアルちゃんくんがムードトラブルメーカーしてたんですよね なので今章からはきっとソッピーちゃんが癒し枠よ!
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