360 「帰還」
何とかいけました。
十二章開始。 よろしくお願いします。
高速で流れる風景を俺はぼんやりと眺めていた。
気分は中々晴れやかだ。
王都での後始末やアスピザル達への報告は洗脳したルチャーノとパトリックに押し付けて俺は優雅な一人旅を楽しんでいる。
お陰で移動速度もかなり上がった。
サベージは空中を蹴って地形を無視し、真っ直ぐに目的地を目指す。
今の目的地はオラトリアムだ。
装備類の新調等もやっておきたいし、向こうには首途がいるので奴の謹製装備が手に入る。
一応、注文を付けているが、どんな愉快な防具が手に入るか楽しみだ。
手配も何とかなったようだし、そう遠くない内に国内に触れが行き渡るとの事。
少し時間がかかるのでほとぼりが冷めるまでオラトリアムで時間を潰せばいい。
そんな事を考えていると周囲の景色が見覚えのある物に変わる。
やはり空中を移動できるという点は便利だ。
速い速い。
その速度はアスピザル達と同行していた時の比ではなかった。
サベージも思いっきり動けて気持ちがいいのか、やや上機嫌だ。
お陰でペースも上がってそろそろ目的地が見えて来そうだな。
事前に連絡は入れているので、向こうも受け入れ準備はできているとの事。
オラトリアムに入り、眼下に広がる風景を眺める。
領自体の雰囲気はそこまで変わっていないが、壁の向こうは完全に別物だ。
見覚えのない建物があちこちに建っており、畑ではちょうど昼時なのかゴブリンやオーク達が談笑しながら昼食を取っていた。
門の真上を通過したと同時にサベージが使っていた姿を消す魔法が解除される。
これも事前に聞いていたので驚かない。
空から入って来る者の魔法を強制的に解除する仕掛けがあるらしいので予定通りだ。
それにしてもいつの間にこんな物を仕掛けていたのやら。
どうでもいい事を考えながら屋敷の近くに着地。
少しするとファティマが出迎えに現れた。
背後にはトロールと全身鎧のオークが数匹。
「おかえりなさいませ。 ロートフェルト様」
俺はああと頷いてトロール達に荷物を預ける。
ザ・コアには大人しくするように命じた後、引き渡す。
身軽になった所でファティマと二人で歩く。
「まずはお疲れのようですしお食事になさいますか?」
「あぁ、昼時のようだしそうしよう。 済んだ後は首途の所へ行く。 頼んでいた例の物は――」
「すぐに依頼したので少なくとも形にはなっているかと」
「分かった。 挨拶がてら進捗でも聞くとしよう」
食事を取りながらオラトリアムの現状を終始上機嫌なファティマから聞き、済んだ所で屋敷から出て首途の工房へと向かう。
「流石にあの量の荷物を収めるには専用の施設を用意する必要がありましたので……」
「構わんだろう。 それとも何か問題が?」
「いえ、問題と言うか何と言うか……」
何だ? 妙に歯切れが悪いな。
「何があった?」
「ライリーを始め、一部の改造種達が入り浸っておりまして……」
あの連中に懐かれたのか、一体何をやったのやら……。
それを込みで見に行くとしよう。
少し行くと一際異様な建物が見えて来た。
煉瓦造りで上部には複数の煙突。
その全てがモクモクと盛大に煙を吐き出していた。
大きさは屋敷の三分の一ぐらいか。 他の建物と比較してもでかいな。
入口からはシュリガーラやレブナントが出入りしているのが見える。
中に入るとそこは広い空間になっており、以前首途の工房に居た連中が忙しそうに歩き回っていた。
従業員にドワーフが混ざっているのも謎だったが、馴染んでいる証拠かと好意的に解釈する事にするとしよう。
どうもここは商品の陳列スペースらしい。
それを見て連中が出入りしている理由が良く分かった。
でかいチェーンソーや丸ノコ、懐かしいクラブ・モンスターに似た巨大なペンチが所狭しと並んでおり、レジらしきカウンターでシュリガーラが武器を買い求めているのが見える。
……なるほど。
どうやらここで自作した武器を売っているらしい。
何とも商魂逞しいな。
店舗らしきスペースを抜けて奥へ。
廊下を抜けた先は工房でそこでは首途がクラブ・モンスターらしき物を動かしている所だった。
俺に気付いたのか不意にこちらを向くと慌ててこちらに駆け寄って来る。
「おー、おー! 兄ちゃんやないか! ひっさしぶりやな! どうや? 元気やったか?」
クラブ・モンスターを作業台に置くとバシバシと叩いて来る。
「あぁ、お陰様で五体満足だ」
「ちゅう事はザ・コアは役に立ってるみたいやな? それで? 使い心地はどうやった?」
「素晴らしい武器だ。 やはりあんたは天才だな。 後でメンテナンスを頼みたいのと、機能面に関して気になる事がある。 可能であれば改善を頼みたい、それと……」
「分かっとる。 依頼の品ならできとるで? 引き渡したいし積もる話もあるやろうし奥で話そか?」
促されるまま作業場の奥にある。
首途の私室に案内された。
そこで出された茶を啜りながらお互いの近況を話し合う。
「いやー。 ここは最高やな! 頼んだら大抵の物は取り寄せてくれるし、専用の工房は用意してくれるし、兄ちゃんの部下は儂の商品買って行ってくれるし、何より外を大手を振って出歩けるのが最高やな! いやー空気が美味い!」
ここでの生活が随分と気に入ったのが一目で分かる程、上機嫌だった。
首途はいかにここでの生活が快適かを語りながら、部屋の奥から木箱を持って来る。
「ほい、これが注文の品や」
箱を開けると中に入っているのは靴。
形状は登山靴に似ており、足首から上までしっかりと固められる構造をしていた。
「ベースに使う素材は貰ってたからぶっちゃけ楽勝やったわ。 言われた機能はしっかり付けとるで。 じゃあザ・コアについて話聞こか? 兄ちゃんの事やから一通り試したんやろ?」
「あぁ、その上でいくつか改善点があってな。 どうにかできるかの意見を聞きたい」
「ほうほう。 聞かせて貰いましょか」
内容は基本的にザ・コアの使い勝手と改善点に関してだった。
首途は相槌を打ちつつ、メモを取りながら真剣に聞いている。
「――なるほどなるほど。 やっぱり使ってみいひんとその辺は分からんもんやなぁ。 よっしゃ、分かった。 しばらくは居るんやろ? ならそれまでに使えるようにしとくわ。 それはそれとして第二形態の砲撃、今度みせてーや。 ぶっ放すの見てへんからめっちゃ楽しみやわ!」
「今度な」
話が纏まった所で奥の扉が開くと随分と懐かしい顔が出て来た。
「あ? ローじゃねぇか。 生きてたのかよ」
ヴェルテクスだ。
「ヴェル坊、そりゃ笑えんジョークやで、兄ちゃんが簡単に死ぬ訳ないやろうが」
「違いない。 あれに巻き込まれて生きて帰ってるんだ。 ジジイの言う通りか」
相変わらずの厨二病スタイルだったが、両腕に巻き付けていた布がなくなって普通の腕に見えるがあれは魔法で見た目を誤魔化しているな。
「聞いたぜ。 ダーザインの連中のパシリになってテュケのクソ共を殺しまくったんだろ? テュケ相手だったら俺を呼べよ。 あの連中の始末だったらロハでも請けたぞ」
「……呼ぼうとしたが留守にしてたんだろうが」
前々回、要はザ・コアの受け取り時に、アスピザル達が裏切った時に備えてこっそり雇おうと画策していたのだがいなかったので見送ったのだ。
ヴェルテクスは大きく舌打ちして席に着く。
「お前もこっちに来ていたんだな」
「あぁ、お前の玩具の料金回収が出来た以上、別に金に困っている訳じゃないしな。 あいつらの顔を見るのもいい加減うんざりだったし、いい機会だからしばらくはこっちでダラダラやるつもりだ」
「以前に言っていたパーティーメンバーか。 何だ? まだ狙われてたのか?」
ヴェルテクスは部屋の隅にある箱――恐らくは冷蔵庫から酒の瓶を取り出してそのまま、勢いよく煽るとこちらの質問に答える。
「それもあるが連中、裏で碌でもない仕事請けてやがってな、うやむやにしてやったが下手すりゃこっちにもとばっちりが来そうだったから全員切ってやった。 そうしたら逆切れして襲ってきやがったから半殺しにしてこっちに来たって訳だ」
せいせいしたぜとヴェルテクスは上機嫌で笑う。
それを聞いて納得した。
なるほど、ほとぼりを冷ます意味もあったのか。
「ま、こっちの生活も悪くないぜ。 飯も美味いしな」
何だかんだで馴染んでいるようだな。
その後、お互いの話や今後の予定などを簡単に話した後、お暇する事になった。
出る前に試したが靴の威力は中々の物で大変満足のいく物だった。
誤字報告いつもありがとうございます。




