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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
11章

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354 「其後」

四件目のレビューを頂きました本当にありがとうございます。

今後も頑張って行きたいと思います!


別視点(色々)

 ウルスラグナ王都の襲撃事件。

 この事件は建国以来最大規模の人災として扱われる事になる。

 事の発端はグノーシス教団と合同で行われる式典――降臨祭の開会の途中。


 突然に街中に魔物の群れが現れた事に端を発する。

 この点は情報が錯綜しており、はっきりとした事は不明だが、少なくとも生存者の大半が外からではなく街の内側からいきなり現れたと証言していた。


 幸か不幸か式典の途中だった為、街中に散っていた騎士団や、教団の聖騎士達がこれの迎撃に当たる。

 魔物の数自体は多かったが、王都に常駐している戦力はそれを凌駕していた。

 苦戦はしていたが、徐々に数を減らしていく魔物。


 この騒動は遠くない内に鎮圧されるだろう。

 誰もがそう思っていた。

 だが、それと同時にグノーシス教団の重要人物の住居――城塞聖堂へと襲撃が発生。


 相手はダーザイン。

 ここ最近、国内で様々な破壊活動を行っている犯罪組織で、狙いは教団の重要人物と思われる。

 どうも避難民に化けて居たらしく、かなり深い場所まで侵入を許してしまったようだ。

 

 戦闘は内部まで広がり、同様に犠牲者も増加の一途を辿っていた。

 最終的には襲って来た構成員を撃退する事に成功はしたが、避難してきた民の半数以上が死亡と言った痛ましい結果に終わる。

 

 教団側にも犠牲者が出たらしく、真偽は定かではないが最高権力者である枢機卿の一人がそれに含まれていたとの報告もあった。

 同時に王城にも襲撃があり、こちらはダーザインではなく魔物の群れだったが、不自然な程統率の取れた動きで暴れまわっており、この襲撃が人為的な物であると考えられる大きな要因となった。


 こちらに関しては被害がはっきりしている。

 近衛騎士団『青槍騎士団』『緑杖騎士団』の全滅。

 特級公官の大半が死亡。


 警護に当たっていた聖騎士達を始め、居合わせたペレルロ枢機卿と彼の護衛を務めていた聖殿騎士の一団と聖堂騎士――コンスタント・ティム・ザカリーの死亡。

 宰相であるアメリア・ヴィルヴェ・カステヘルミ。


 ……そして、ウルスラグナを統べるジェイコブ王の死去。


 魔物の討伐終了後に計上された犠牲者の数は把握しているだけで七千人を超えた。

 王を失った事でこの国は大きく荒れるだろう。 現在、復興を行いつつ原因の究明中ではあるが、不明な事が多すぎるこの事件の真相は恐らく歴史の闇に埋もれてしまうのかもしれない。

 願わくばこの危機を乗り越え、大きく減じた国力を元に戻せる事を切に願う。


 ――ウルスラグナ王国図書館 著者不明 寄贈書『栄光の凋落』より引用



 

 

 ――結構、その調子で続けなさい。


 パトリックからの報告を一通り聞いた私――ファティマは執務机で仕事に戻りながら思索に耽る。

 いくつか想定外が起こりはしたが、いずれも許容範囲。

 襲撃に関しては成功と言って良いでしょう。


 こちらの主要目的であるアメリアの排除、指名手配の解除の二点は片付き、ダーザインとの契約も完全に終了したようです。

 ロートフェルト様は既に王都を離れ、こちらへ帰還途中との事なので安心しても問題なさそうですね。


 ただ、王まで殺してしまうのは想定していましたが、少し面倒です。

 恐らくこの後、国内は大きく割れるでしょう。

 危険を伴いますが好機とも取れます。


 上手く立ち回れればオラトリアムに取って大きな利となるでしょう。

 幸いな事に必要な駒はロートフェルト様が用意して下さりました。

 後は向こうにいるパトリックと併用すれば王都での立ち回りは問題なさそうですね。


 そこで小さく息を吐いて椅子に深くもたれかかりました。

 脳裏でやる事を整理。

 王都ではダーザイン側との情報の擦り合わせと、グノーシスの状況確認、セバティアール家の残党処理と吸収合併の手続き。

  

 こちらでは首途の工房の建築――は完了していましたか――とロートフェルト様からの依頼の伝達。

 資材発注などは下に任せれば問題ありませんね。

 後はライアードの空いた土地の用途の確認と仕込みを終えた近隣領への契約履行に――


 「――忙しいですね」


 いい加減、本格的に仕事の一部を任せられる者の育成に力を入れなければいけませんか……。

 流石に負担がかかり過ぎですね。

 睡眠時間も減っているので美容にもよくない。


 何日寝てなかったかと考えて、時間の無駄ですねと切り捨てます。

 ただ、問題の解決案はやや優先順位を上げておくことにしました。


 ……差し当たって、目の前の書類を片付けるとしましょうか。


 


 「………う……ん」


 最初に感じたのは布団の感触。

 次いで泥のような眠気と倦怠感。

 それに身を任せてもう一度眠ってしまおうかと考える。


 大変魅力的な事だと二度寝を決め込もうとするが――


 「――はっ!?」


 意識を失う直前の事を思い出して思わず跳ね起きる。

 僕――ハイディは思わず首を押さえた。

 確か僕はあの時、アドルフォに首を裂かれて――明らかに致命傷の筈だ。

 

 あれからどうなった?

 なぜ僕は生きている?

 いや、それ以前にここは何処だ?

 

 まずは自己診断。

 体調に異常はない。 痛みや疲労すらも、ただ酷く空腹だ。

 服装は下着姿だが汚れもない。


 ……一つ凄まじく存在を主張している物があるけどそれは後だ。


 場所は拠点として取った宿の一室。

 脇にある椅子と机に僕の装備一式とアドルフォの短弓が丁寧に並べられていた。

 それが目に入った時点であれが夢ではなかった事が良く分かる。


 破損はそのままだけど、汚れは綺麗に落とされていた。

 明らかに洗浄済みだ。

 訳が分からない。


 窓から外を見ると、何故かあちこちの建物が倒壊しており、人々が忙しなく行き来しているのが見える。

 

 ……一体何が?


 明らかに異常な光景だ。 少なくとも僕が宿を出る時は何もなかったというのに……。

 これではまるで戦の後じゃないか。

 アドルフォと戦って、意識を失って気が付けばこの惨状。


 ……まずは現状の把握を急いだほうがいい。

 

 そもそもあれから何日経った?

 僕はどうしてこんな所にいる?

 混乱しすぎて頭がおかしくなりそうだ。


 不意に風が吹く。 隙間風にしては強いそれに身を震わせる。

 何だと吹いて来た上を向くと何故か天井に大穴が開いていた。

 破片の落ち方などを見ると、明らかに何かがこの部屋に飛び込んだ結果だろう。


 ――何が飛び込んだのかと言うと……怪しいのは……。


 「……明らかにこれだよね……」


 さっきから気にしないようにしていたけど――。


 「これ、何なんだろう」


 何故か手に握られていた剣を見て僕は首を傾げた。 



 

 王都から南下した位置。

 そこに飛ぶ影が一つ。

 飽野だ。 その両手には何故か眼鏡をかけたアーヴァ。 


 彼女は安全を確認した所で高度を落として着地。

 

 「ふー。 ちょっと休憩ね」

 「すまないな使徒アキノ。 随分と無理をさせてしまったようだな」


 アーヴァは別人のように落ち着いた口調で飽野を労い彼女の腕から降りる。

 

 「その様子だと成功したと見ていいのかしら?」

 「あぁ、不思議な気分だが、若返ったとでも前向きにでも考えるさ」


 アーヴァは小さく髪の毛を掻き上げる。

 そのシニカルな表情は王城にいた頃とは似ても似つかない。

 

 「それにしても狩人の人達もよく情報提供に応じてくれたわね! アメリア(・・・・)ちゃん?」

 「肉体交換の魔法<魂移>と言ったか、とても興味深い物だったのでな。 使用するに当たって体質的な物が必要と言う事だった事もあって技術提供に応じてくれたのだろう。 あれだ、私に使える訳がないと高を括っていたのだな」


 アーヴァ――アメリアは腕を組んで不敵な笑みを浮かべる。

 

 「それを補うのが技術と言う物だろう? 魔法の一種である以上、魔法道具との併用で再現できると踏んでいたとも。 正直、保険のつもりだったがまさか使う羽目になるとは思わなかったよ」


 言いながら眼鏡を外して懐に納める。


 「それで? 儀式はどうなったの? 失敗したのは察してるけど……」

 「いや、参ったよ。 結果だけで言うのなら半々といった所だ」

 「半々?」

 「儀式自体は成功したが、制御に失敗した」


 それを聞いて飽野はやや驚いたように身を仰け反らせる。

 

 「え? と言う事は完全に降ろす事に成功したって事?」

 「……何とも言えんが、少なくとも完全に正気を保っていた。 出来れば使役しておきたかったところだが、実に惜しい事をした」

 「アレで発狂しないなんて……やっぱり転生者は儀式への耐性は高いのかしら?」

 「分からん。 だが、彼が普通ではない事だけは確かだ。 個人差と言う事もある。 興味があるといって、自分で試したりはするなよ? 君に抜けられると困るのだが?」

 「やーねー。 やるにしても成功する見込みが出来てからよ!」


 飽野は後ろを振り返る。

 もう見えなくなったが、その視線の先は王都だ。

 アメリアも考えを察したのか苦笑。


 「ウルスラグナで築いた基盤を根こそぎやられるとは、まったく大損だな」

 「そうね! かけた時間を考えると割に合わないにも程があるわ!」

  

 テュケがこの国で根を張る為にかけた時間、使った金銭、そして得た物、技術。

 最後に活動に必要な組織基盤。

 その大半が今回の件で失われてしまった。


 業腹ではあるが、得る物がなかったわけではないので、二人はそこまで悲観していない。

 

 「それで? これからどうするの?」

 「権力どころか肉体まで失ってしまったからな。 しばらくは立て直しに専念するしかない。 オフルマズドまで引き上げる」

 「ま、そうなるかー。 距離があるし、しばらくは二人旅ね!」

 「はは、たまにはこう言うのも悪くないな。 一先ず、手近な街か村で旅支度と行こう」


 二人は小さく笑うとその場を後にした。

誤字報告いつもありがとうございます。


今回で十一章終了となります。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

以前に告知させて頂いた通り、次回から二、三日間隔とさせていただきます。

ストックが溜まり次第、毎日更新に戻すので気長にお待ちいただければ幸いです。


次回からの十二章もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
確かにハイディのほうがあまりにも王道なイケメン(?)主人公ムーブしてるし聖剣がやってくるのも必然といえば必然か。我らが外道(主人公)が聖剣持ってるなんてほとんどギャグだしな
[気になる点] 聖剣はハイディの元へ? ローから情報抜き取ったのか善人センサーでもあるのか今後がどうなるか含めて謎ですね [一言] ハイディの動向をローは根を通じて知れるのか疑問に思ったけどそもそも…
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