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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
11章

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320/1442

319 「郷愁」

続き。

 カサイ聖堂騎士の技量はお世辞にも高くはなかった。

 今まで見て来た聖堂騎士達の中でも下から数えた方が早い位で、聖殿騎士にすら劣るかもしれない。

 だが、それを補って余りある身体能力は脅威だ。


 それに加えて――。


 私の斬撃が空を切る。

 カサイ聖堂騎士は後ろに跳んで躱し、同時に姿が煙のように消えた。

 これだ。 この姿を消す能力が思いのほか厄介で、間合いが計り辛い。


 その上、見えなくなると気配が完全に消えるのだ。

 恐らくは鎧の能力で、音、匂いを完全に消しているが、空気の流れで辛うじて動きは掴める。


 お陰でこちらは防戦一方だ。

 だが、来るのが分かっている上に相手が一人。

 その二点を把握できている以上、難敵であっても強敵足り得ない。


 何故なら、姿を消すと言う事は向こうが消さなければ勝てない(・・・・・・・・・・)と思っているからだ。

 恐らく真っ向から戦える気性ではないのだろう。

 

 空気が揺れる。

 身を捻って躱す。 一瞬前まで私の肩のあった場所を何かが薙ぐ。

 間合いが遠い。 剣ではないな。


 …鞭の類か?


 攻撃の軌道が鞭に似ていたので類似の武器と判断。

 消える前に剣を見せびらかしたのは、これを警戒させない為か。

 駆け引きとしては上手い手かもしれないが使い方が甘い。


 こういう物は当たると確信した場面で使う方が効果的だ。

 確かに身体能力は高いが技量と噛み合っていないように感じる。 

 それは視界の端で少年と戦っているトウドウ聖堂騎士も同様だ。


 ――まるで、別の体を使っているような違和感すら感じる。

 

 「…は、とんでもねぇな。 見えてんのかよ?」


 カサイ聖堂騎士の声が聞こえるが無視して声のした方に剣を向ける。

 なるほどと小さく呟きが聞こえたと同時に、空を切る音。

 また鞭か。

 

 後ろに跳んで躱す。 踏み込んでくる気配。

 前に出て来た。 下がり続ける。 空を切る音、恐らく剣による斬撃。

 二撃目で壁が近づいて来たので三撃目は躱さずに剣で打ち払う。


 膂力に差があるので僅かに体勢が崩れる。

 装備と地力の差は大きく、力比べに持ち込まれると不味い。

 四撃目は上段からの振り下ろし。 横に跳んで躱す。


 …おかしい。


 違和感に気が付いた。

 明らかに誘導されている。 しかも私が向かおうとしている北側の通路に。

 加えて、斬撃も狙っている個所は手足や肩だ。


 殺す気がない?

 それとも生け捕りを狙っている?

 内心で訝しむが考えている余裕はない。 躱して廊下に飛び込む。


 追って来る気配。

 そろそろ動きに慣れて来た。 仕掛けてもいいが、相手の意図が分からない。

 このまま斬り捨ててもいいのかと疑問が過ぎる。


 まさかとは思うがこれも油断させるための誘いと言う可能性もなくはない。


 「右の斬撃を繰り出す。 受ける振りをして手前の部屋に入れ」


 少し迷っているとそんな囁きを耳が拾う。

 次の瞬間、予告通り右から斬撃が飛んでくる。

 刹那、迷ったがそのまま受けた。 吹き飛ばされた風を装って部屋へ飛び込む。


 そこは応接室の類なのか簡素な机と椅子があるだけの部屋だった。

 追って飛び込んで来たカサイ聖堂騎士が後ろ手に扉を閉めると姿を現す。

 

 「…ふう。 信じてくれて感謝するぜ」

 

 そう言うと腰の道具入れから魔法道具を取り出して机に置く。

 

 「こいつは部屋の外からの干渉を防ぐ物だ。 まぁ、内緒話専用のアイテムだな」

 「…どう言うつもりですか?」


 私がそう言うとカサイ聖堂騎士は器用に肩を竦める。


 「あんたと取引がしたい。 応じるなら俺の知りうるここの情報を提供しよう」

 

 いきなりの申し出に私は目を見開く。

 侵入者と取引、明らかに背信行為だ。

 異邦人とは言え聖堂騎士がこんな軽々に?


 「そのツラをみりゃぁ何考えているのかはわかる。 まぁ、座れよ」


 そう言うとカサイ聖堂騎士は武器を置いて椅子に座る。

 私も少し迷ったが対面の椅子に腰を下ろす。


 「…取引と言いましたが私に何を求めているのですか?」

 「単純な話だ。 俺の質問にいくつか答えて欲しい」

 「断れば?」

 「まぁ、続きをやるだけだな」

 

 カサイ聖堂騎士は置いた武器を一瞥。

 

 ……。


 「質問の内容は?」

 「話の分かる相手で助かるぜ。 お互い余裕もないしサクサク行こうか? まずはアンタが逃げた理由を知りたい。 俺の知っている情報通りだと、アンタはゲリーべの焼失に一枚噛んでいるって事になっている」


 その辺どうなんだとカサイ聖堂騎士は付け加えた。

 私は小さく首を振る。


 「あの事件に関与はしていますが、焼失には関わっていません。 私はゲリーべで行われていた教団の行いを妨害しただけです」

 「……何をやっていたか聞いても?」

 「子供を使った人体実験です。 恐らくはかなりの数の子供が命を落とした筈」


 カサイ聖堂騎士は無言。

 兜を被っているのでその表情は窺い知れない。

 

 「もう一点。 ここに来た理由は? 冤罪を晴らしに来たって所か?」

 「枢機卿にあの実験の事を公表させて、教団の行いを糾す為です」

 「………はい? アンタ正気か?」

 

 答えない。

 その必要がないからだ。

 私の本気を悟ったのかカサイ聖堂騎士は小さく唸る。


 「…まぁいい。 それにしても人体実験か、なるほどなるほど。 じゃあ最後にもう一つだ。 何故そうしようと思った? 理由を教えてくれ」

 「自分の為です」

 

 即答する。

 本当はイヴォンを真っ当な道に戻してあげたいという個人的な理由だ。

 彼女の事は目の前の男に言う必要はない。


 カサイ聖堂騎士は納得したのかなるほどと呟くだけだった。


 「良く分かった。 じゃあ今度はそっちの番だ。 あぁ、その前に言っておくが、枢機卿の連中の居場所はここの一番奥から入れる離れにある屋敷の中だ。 最低一人はあそこに居る」


 最も知りたかった事を先に答えられ私は言葉に窮する。 


 「何故、貴方は私と取引なんて真似を?」


 結局、聞きたい事は聞いてしまったのでそんな質問になってしまった。

 カサイ聖堂騎士はやや迷うような素振りを見せたが、重々しい口調で話し始める。


 「…何故ねぇ。 一から十まで言うと俺のつまんねえ身の上話になるからざっくり言うとな、ここの連中はどうにも胡散臭い。 俺や他の連中――アンタ達風に言うエトランゼってのはな、元の場所からここに落ちてきたクチだ。 藤堂や三波の馬鹿は正義マンだから今の生活に満足してるんだろうが俺は違う。 俺は帰りたい(・・・・)。 はっきり言ってこの世界はクソだ。 ネットもねえし、ゲームも漫画もねぇ。そもそも電気もねぇ。 飯も不味い。 それでやる事といやぁ、殺し殺されの準備。 いい加減、頭がおかしくなりそうだ」


 絞り出すようにそう言うとカサイ聖堂騎士は両手で顔の部分を覆う。

 その声には本気の苦悩が滲み出ていた。

 話の一部は理解できなかったが、少なくとも嘘を言っているとは思えない。


 「グノーシスは自分達に協力すれば元の世界に帰る方法を探すと言っていたが、今一つ信じられなかった。 俺達は迂闊に出歩けないし、出歩く事を禁じられている。 だからアンタみたいな教団から抜ける奴に聞きたかったんだ。 グノーシス教団とやらは信じるに値する物かどうかって奴をな。 この辺に居る連中はどいつもこいつもグノーシスサイコーサイコーとかほざくだけで欠片も参考にならねえしよぉ…」


 顔を覆っていた手を放すとカサイ聖堂騎士は答えになったか?と言って来た。

 私は小さく頷く。

 つまり彼は故郷に帰りたい。 その方法を楯に教団への協力を強いられていたと言う事か。


 気の毒だとは思うが私にはどうする事も出来ない。

 無言で席を立つ。


 「ありがとうございました。 カサイ聖堂騎士。 私には何もできませんが貴方が無事に故郷に帰れる事を祈っています」

 「……あぁ、こっちこそありがとな。 吐き出してちょっとすっきりしたわ。 ここはエトランゼの住居も兼ねている。 上には俺の同類がゴロゴロいるから通り抜けるだけにしておけよ。 それに連中は非戦闘員だ。 出来ればそっとしておいてやってくれ」

 

 その場を後にしようとしたが、ふと気になって足を止めた。

 

 「貴方はこれからどうされるつもりですか?」

 「…さぁな。 教団が信用できない事も分かったし、どっかのタイミングで逃げるかね」

  

 まぁ、どこに逃げるんだって話だがなと自嘲する。

 それに私は何も言えなかった。

 カサイ聖堂騎士はさっさと行けと追い払うように手を振る。


 私は一礼してその場を後にした。

 最後に見たカサイ聖堂騎士は椅子に座ったまま俯いている。


 …何故だろうか…。


 その姿が酷く小さく見えた。

誤字報告いつもありがとうございます。


※帰りたいと言うのは割と正常な反応だと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] ダーザインでもグノーシスでも適応できず病む転生者は少なくなかったんやろなぁ 逆にエンジョイ勢はどいつもこいつも大小あれど異常者ばかりよ!
[一言] まぁ、精神壊れるよなぁ…。特に元の世界に満足してる人なら尚更人生をやり直しさせる様な変化は最悪だろう。救いようが無い事に死んでるから行くにしても転移だから姿は異形っていうね。
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