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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
11章

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311/1442

310 「予兆」

別視点。

 最近、王都の様子がおかしい。

 はっきりと何かがおかしいと分かっている訳ではないが、嫌な物を感じていた。

 その為、人を使って色々と調べさせては居たのだが――。


 私――パスクワーレは受け取った報告書に目を通す。

 先の当主選抜からそれなりの時間も経ち、妹のアドルフォが勝ち残った事で新体制に移行したが、業務の方は問題なく回っているようだ。


 正直、荒れる物かとも思ったがその手の問題が皆無だった事を考えると、私はまだまだ妹の事を甘く見ていたのかもしれない。

 それにしても全く問題を起こさない所かむしろ業績は上がっている。


 手伝うと言った手前、何か押しつけられる物かとも思ったが、それすらもなかった。

 

 …まったく、大した妹だ。


 私も負けていられないな。

 そう考えて部下からの報告書に目を通す。

 

 軽く目を通した限りではこれと言った問題は起こってはいないようだが、一部は少し騒がしい。

 

 「…理由はこれか」


 ここ最近、世間を騒がせているダーザインの首魁とその仲間が手配されたからだ。

 ダーザイン首魁アスピザル及び、仲間のローという冒険者。

 罪状はグノーシスの大拠点での破壊活動と大量虐殺。


 少し前に話題になったオールディアとウィリードでの事件だろう。

 グノーシスと契約しているので彼等の強さは良く知っている。

 聖殿騎士は上位の冒険者に匹敵する強さを持ち、聖堂騎士に至っては一軍に匹敵するとも言われている教団の剣だ。


 オールディアは教育施設という側面が強いので拠点としての格はそこまでではないと聞いていたが、ムスリム霊山は違う。

 山の頂に存在する天然の要塞とも言えるそれを容易く陥落させるのは並大抵の事ではない。


 …一体どれだけの戦力を送り込んだのか…。


 遠い地で何が起こったのか想像もできなかったので、痛ましい事件としか思えなかった。

 その後、南の果てであるシジーロでも事件を起こしていたらしい。

 流石に南端の都市の情報は伝手がないので集められなかった。


 最初の二ヵ所の事を考えるのならあそこも酷い事になっているのだろう。

 最初に襲われたオールディアはようやく復興が軌道に乗ったが、その後に襲撃を受けたウィリードは未だに復興の目途が立っていないらしい。


 これだけの事をやったのだ。 この二人はただでは済まないだろう。

 流石にここまで大々的に手配された例はそう多くない。

 この国の歴史を紐解いても上位に入る凶悪犯と言う訳だ。


 だが、妙なのはこの賞金だ。

 捕縛と殺害で額が違う。

 ここまであからさまだと流石に上の意図が見えて来る。


 恐らく生きて捕らえ、公開処刑でも行うのだろう。

 そうする事によって民から不安を取り除く。

 分かり易いがいい手ではある。


 お陰であちこち大騒ぎだ。

 賞金は私から見てもちょっと信じられないような額で、これだけあればしばらくは生活に困らないだろう。


 冒険者は依頼を請けるより連中を探すのに注力し、グノーシスは手配書片手に目撃情報を募る始末。

 悪い意味での一躍、時の人と言う訳だ。

 それだけなら他人事と流せるのだが、アドルフォの様子がおかしい。


 どうも狩人を動かしているようだ。

 しかもその動きがおかしい。

 セバティアールが狩人を動かす事態はそう多くない。


 大抵が商売敵の営業妨害や処理、表沙汰にはできない事を行う。

 それが狩人の役目だ。

 最初は最近進出してきたパトリック商会に対する何らかの妨害にでも使うのかと思ったが、どうやら違うようで、明らかに監視や尾行に長けた人間を動員している所を見ると、目的は捕縛か何かだろう。


 狩人を動員してまで捕縛したい相手。

 ここ最近、セバティアール周辺でそこまでするような人物はいない筈だ。

 そうなると――。


 手元の手配書に目を落とす。

 これだろうな。

 何らかの手段で彼等の所在を突き止めて捕縛に動いたと言う事だろう。

 

 今のアドルフォがその手の情報を入手し損ねるとは思えない。

 間違いなく、手配犯たちはこの王都に居る。

 それは確信に近いが、同時に馬鹿なという思いも強い。


 手配を考えるのなら国外へ逃亡する物と思っていたが、何を考えているんだ?

 わざわざ、国の中央――敵地の真ん中に現れるとは正気とは思えない。

 まさか自棄を起こしてここで何かをするつもりなのか?


 そうなるとまた、騒がしくなるのは目に見えている。


 …少し、身の回りには注意した方が良いのかもしれない。


 これでも選抜の際に警備の重要さは骨身に染みている。

 出費としては痛いが命には代えられない。

 屋敷の周囲には侵入を感知する魔法道具を設置し、警備の聖殿騎士も増やして貰った。


 それも単に増やしただけではなく、実戦経験が豊富な実力のある者達を中心に派遣して貰っているので、前回のようにはいかないだろうと自負している。

 今も屋敷の外と中を守ってくれているので私はこうして安心して書類仕事に精を出す事が出来ると言う訳だ。


 努めて面には出さないようにしていたが、選抜の際に襲われた事を引き摺ってしまい、不安であまり眠れない日々がしばらく続いたほどだった。

 最終的に警備を増強した事によって安心できたのか、ここ最近は比較的安眠できている。


 想像が正しければ、この王都では水面下で大捕り物の真っ最中と言う訳か。

 小さく息を吐いて報告書を机の隅に置く。

 正直、巻き込まれたくはないし、協力を求められたところで役には立てないだろう。


 騒ぎが収まるまでは屋敷に引っ込んでいるとしようか。

 前倒しになった降臨祭までには終わって欲しい物だなと考えながらカップに口を付けようとして――。


 「…空か」


 ポットから追加を入れようとしたがこちらも空。

 いかんな。 集中しているとこの辺りが疎かになる。

 追加を頼もうと引き出しからハンドベルを取り出そうとして手を止める。


 理由は光が漏れているからだ。

 勢いよく引き出しを開く。 小物などが入っているが、その中にある魔石が光を放っている。

 これは外の魔法道具と連動しており、侵入者を感知して光る仕組みになっている。


 目を見開き、別の引き出しから短杖を取り出して席を立つ。

 

 「誰か!?」


 声をかける。


 「どうされましたか?」


 打てば響くと言った速さで、部屋の外に居た聖殿騎士と使用人が入って来た。

 彼等は私が光る魔石を見せると、即座に事情を察した。


 これは警備の聖殿騎士数人にも持たせているので、彼等も察知して動いている筈だ。

 誤作動や、何て事のない問題であってほしい。

 過去の経験から楽観は命に関わると私は知っている。


 「私はどう動けばいい?」

 「こちらに居てください。 下の者達が様子を確認した後、報告に上がって来ると思います」


 使用人はやや緊張した面持ちだったが、事前にこういう事もあるかもと知っていたので小さく頷く。

 

 「念の為に他の者と倉庫にでも避難しておきます」

 「頼む」


 使用人は小さく頷くとそのまま部屋を出て行った。

 その足音が遠ざかった所で、室内に耳が痛い位の静寂が満ちる。

 驚く程に音がしない。


 精々、耳が拾うのは扉の近くに控えている聖殿騎士の微かな息遣い程度だ。

 

 「…音がしない?」

 「……ですね。 賊ではなかったのでしょうか?」


 それから少しの時間が経ったが何も起こらない。

 私は聖殿騎士と顔を見合わせる。


 「少し外の様子を見て来ます。 パスクワーレ殿はここを動かないようにしてください」


 頷きで答える。

 聖殿騎士はそっと物音を立てないように扉を開け――ようとした瞬間に扉を突き抜けて来た黒い何かに貫かれて首から上が宙に舞う。


 「……え?」


 やけにゆっくりと落下した頭部が絨毯に着地して小さな音を立てる。

 それを耳が拾った瞬間にはっと我に返り、咄嗟に短杖を扉に向けた。

 同時に扉がゆっくりと開き、襲撃者が姿を現す。


 それを見た瞬間――思わず息を呑む。

 形こそ人型をしていたが、とてもではないが人とは思えない。

 影絵か何かのようにのっぺりとした人型で何故か手首がなく、そして顔もなかった。


 闇色の頭部は無機質に私の姿を映す。

 襲撃者が手首のない腕を持ちあげると先端からゆっくりと刃の様な物が伸びる。

 聖殿騎士の首を刎ねたのはあれか。


 どうする? どうすればいい?

 努めて顔に出さないようにはしているが、上手く行っておらず突き付けた短杖が微かに震える。

 怖い。 息が荒くなる。


 聖殿騎士を音も立てずに殺して見せた化け物相手に私が敵う訳がない。

 何とか逃げないと。

 襲撃者の正体に関しては考えない。 今はそんな事を考える余裕なんてないからだ。


 考えろ考えろ考えろ。

 出口は一ヶ所。 後ろの窓は頑丈な物に作り直したので簡単には壊れない。

 開けるという動作が必要な以上、論外だ。 恐らく窓枠に手をかけた瞬間に首が飛ぶだろう。


 脇をすり抜けて外に出るしかない。

 どうする? どうやってこいつの注意を逸らす?

 ここに詰めている聖殿騎士の数は多い。 この短時間で全滅させられたとは考えにくい。


 何とか部屋から出さえすれば、他と合流できる。

 

 …やってやる。


 覚悟を決めて魔法を使う。

 <活性>付与魔法の基礎中の基礎。 身体能力を向上させる。

 狙うのは相手が動く瞬間。


 …こい!


 襲撃者が動く素振を見せた瞬間に床に身を投げ出して転がる。

 動くのを見ていたら遅い。 もう命懸けの博打だ。

 真上に風を感じる。 恐らく襲撃者の攻撃が空を切った証だろう。


 賭けに勝った!

 私は即座に立ち上が――れずに何かに足を引っかけてつんのめる。

 何だと視線を落とすと、そこには聖殿騎士の死体。


 それを認識したと同時に頭部に衝撃。

 一拍遅れて視界が真っ二つに割れる。

 自分の頭に何かが起こったと認識。 それが私の感じた最期の物だった。


誤字報告いつもありがとうございます。

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