298 「出立」
別視点。
「…取りあえず、だけど情報を集めて来たよ」
場所はシジーロのグノーシス教会にある一室。
時間は昼頃だけど外は暗い。
部屋に居るのはエイデンさんとリリーゼさん。 それと僕――ハイディの三人だ。
話の内容は少し前に出回った手配書についてだ。
書いてあるのは罪人の似顔絵と罪状、捕縛、または殺害した際の懸賞金。
描かれているのは見知った顔だ。
・罪人 ロー。 元冒険者
罪状はオールディア、王都、ムスリム霊山、シジーロにてグノーシス教会に多大な損害を与え、無辜の民を多数手にかけた罪。
その下には分かっている限りでの足取りと懸賞金。
驚きなのが生きて捕らえた場合が殺した時の倍以上なのだ。
リリーゼさんも手配書に目を通して不快そうに眉を吊り上げる。
「……王都とムスリム霊山に関しては知らないから何とも言えないけど、ここの事については完璧にデタラメよね」
「うん。 どう考えても捏造としか言いようがないよ」
「エイデン。 ちゃんと報告書送ったんでしょうね?」
「やったよ…と言うか、そもそもローの事は書いてないから…」
そこだ。
おかしいのはエイデンさんが上に報告していないにも拘わらず、グノーシスがローの事を知っており、犯人扱いしている事だ。 同様に手配されているダーザインの首魁とされるアスピザルなる人物に関しても引っかかる事が多い。
まるで――。
「まるで、圧力をかけてローを捕らえたいって感じね」
似た事を考えていたのかリリーゼさんが思わず呟く。
「うん。 俺も姉さんと同じ意見だ。 正直、ここでの騒ぎとかは二の次で、理由なんて何でもいいから大義名分を作ってこの流れに持って行った感じがする」
二人がここまで言うのには理由がある。
ここ、シジーロでの騒ぎは一応の収束を見せたけど、爪痕は未だに深く残されていた。
魔物の駆除は大方終了し、街の治安は戻ったけど、死者や建物の損壊の把握はまだ完全に出来ておらず、復旧もままならない。
聖騎士達も随分と数を減らしてしまったので、冒険者と共同で建物の復旧や、炊き出しなどを行っているぐらいだ。
手だけじゃない。 資材や食料等、何もかもが足りない。
リリーゼさん達はグノーシスに救援を依頼したが、余裕がないから待てと言うだけで完全に放置。
…それでやった事と言えば関係ないローへ懸賞金をかける事だから二人が怒るのも無理はない。
実際、この街で何が起こったのか僕達は正確に把握した訳ではないけど…。
「そうね。 私もローが絡んでいる可能性は否定しないけど、騒ぎを起こした連中…ダーザインと敵対していると見ているわ。 でも、ここはともかく他の場所の件に関与してるって言うのは無理があると思うけど…」
彼女の言葉に僕は小さく首を振る。
「いえ、少なくとも僕が把握しているだけでもオールディアと王都、それとここに居た事は事実なので…」
当事者であるかは何とも言えないけど、事件の前後に居合わせたのは確かだ。
リリーゼさんは納得したように小さく頷く。
「偶然居合わせたか、彼を狙って騒動が起こったか…。 両方って可能性もあるけど、その場に居たのは恐らく冒険者ギルドで認識票の更新履歴で裏を取ったんでしょうね。 ハイディさんの話だとムスリム霊山にも行った事があるのよね」
僕が頷くのを見て小さく息を吐く。
「…ダーザインが彼を狙っているのは良く分かったわ。 状況だけで見るのならその狙う理由を知った上が先んじて彼を確保したいと思っているって所かしら?」
「言っちゃ悪いけど、俺が見た限りローにそこまでの価値があるようにはとても見えなかったな…」
「そうよねぇ。 あたしから見てもちょっと不愛想なだけで普通に見えたわ。 …まぁ、とんでもなく強いのは確かだろうけど、それだけじゃ執着する理由としては弱い。 ちなみにハイディさんに心当たりは?」
話を振られた僕も必死に記憶を探るけど、少なくとも彼が狙われる理由に心当たりがない。
切っ掛けは恐らくオールディアなんだろうけど…。
そこで彼は何かを見聞きした? もしかして姿を消したのは巻き込まない為?
「…分かりません。 ただ、姿を消した事に何か関係があるのかも…」
「なるほど。 つまり巻き込まない為って事ね。 だとしたら愛されてるじゃない?」
どう反応していいか分からず僕はあははと苦笑い。
エイデンさんの咳払いでリリーゼさんがごめんごめんと言って話を戻す。
「まぁ、ローがどういう理由で狙われてるかは分からないけど、少なくとも国と教団が一緒になって動いているのは分かる。 ここで一つ聞いておきたいんだけど、ハイディさんはどうしたい?」
「…えっと?」
意図が分からずそんな間抜けな事を言ってしまう。
「ローの事、気になるんでしょ? …確かに教団は嘘を吐いている。 でも、言っては悪いけど私達には関係のない事よ? 貴女が動かなくてもローはローで手は打っているだろうし、放置しても問題はないと思う」
…確かに。
彼は強い。
僕は僕なりに強くなったと思うけど、グノーシスと協力してやっと一体仕留める事が出来た魔物を歯牙にもかけないと言う事を考えると、行っても足手纏いになる可能性は高い。
――でも。
「…ちょっと意地が悪い質問だったかな?」
「姉さん。 これってもう聞くまでもないって。 いいから教えようよ」
僅かに俯いていた顔を上げると二人は笑顔。
「多分だけど、今回の件は枢機卿が絡んでいる」
「枢機卿?」
「グノーシスの最高権力者で、国や冒険者ギルドに対しての影響力も強くて、その気になれば冤罪の一つや二つなら簡単に捏造――というか、手配の許可はそこから出ている筈よ。 だから調べたいのなら王都に行く事ね」
…王都…。
リリーゼさんの言う事は正しい。
グノーシス、ウルスラグナ、冒険者ギルド。
手配書を用意した組織の全てが王都に集まっている。
ローを陥れた者達が集っている可能性は高い。
「…どうする…って聞くまでもないか?」
「はい。 僕は王都に向かいます」
迷いはなかった。
どちらにせよ、最終的には王都に戻るつもりではあった。
それが前倒しになっただけの話だ。
リリーゼさん達は笑みを浮かべて大きく頷く。
「よし、話は決まったね。 そうなると思ってちゃーんと今までの報酬やらなんやらは用意しておいたよ。 ほら、エイデンさっさと出しなさい」
「…はいはい」
エイデンさんは苦笑したまま硬貨が入っている袋をいくつか取り出す。
「これが今までの報酬とこの前の戦闘で損耗した装備と魔石の料金、後は俺と姉さんの気持ち」
どう見ても多い。 この状況でこんなに貰う訳には――。
察したのかエイデンさんは苦笑して首を振る。
「あぁ、気にしなくていいよ。 姉さんの給金から引いてるから、誰も損しないし大丈夫」
「ちょっ!? エイデン?」
リリーゼさんに殴られながらエイデンさんは笑顔で袋を差し出す。
迫力に押される形で受け取ってしまった。
でも、急ぐ必要がある以上、路銀は多い方がいい。 今はありがたく使わせて貰おう。
僕はお礼を言って受け取る。
「すぐにでも発つ?」
「明日にでも出発しようかと思います」
動くのなら早い方がいい。
もしかしたらローも王都に向かっているかもしれない。
そう考えるなら急ぐべきだ。
「そう、寂しくなるね」
「色々とありがとうございました」
「こちらこそ世話になった。 良かったらまたシジーロに来てくれ」
「ハイディさんならいつでも歓迎よ?」
翌日、僕は二人に見送られてシジーロを後にした。
目指すは王都。
僕に何ができるか分からないけど…。
やれる事を精一杯やろう。
そう言って一歩を踏み出した。
誤字報告いつもありがとうございます。
今回で十章は終了となります。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
次回から始まる十一章もよろしくお願いします。




