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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
2章

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29/1442

28 「悪魔」

 地響きを立てて鎧が崩れ落ちる。


 …これで7つか。


 俺はマカナを肩で担ぎながら急に動きが悪くなった鎧や犬達を見ていた。

 後ろでハイディとファティマが戦い始めた辺りから動きが悪くなり、後ろから強い風と冷気が流れ込んだ途端にこちらが見えていないかのような挙動を取り始めた。


 理由は不明だがチャンスには変わりはなかった。

 俺は一気に攻める事にする。

 懐に入ってマカナで装甲、本体の順で破壊してそれを7回繰り返した。


 犬が飛びかかる。何もない所に。

 俺は冷静に着地したところをマカナでフルスイング。

 頭が爆散した。


 もう一発。

 中身が潰れる。犬はあと2つか。

 機動力がある奴は厄介だ。早めに潰そう。


 鎧を無視して走る。

 正面から手近な犬を狙う。爪で迎撃してくるが掻い潜って頭部、本体と順に破壊。

 残りも同様にとどめを刺した。


 これで犬は全部か。

 ここまで動きが悪くなるって事は、ファティマが直接操っていたのか?

 ハイディ相手に苦戦して、制御に手が回らないと。


 やるな。正直、本来のロートフェルトに毛が生えた程度の実力と思っていたからそこまで期待してなかったが、かなり善戦しているようだ。

 もしかしたら、俺より手に入れた記憶を上手く使いこなしているって事か?


 …これが生まれ持ったセンスの差か…。


 少し悲しい気持ちになった。

 どちらにしても俺にとっては嬉しい誤算だ。

 残りの鎧も仕留めるか。







 ものの数分で残りの鎧も始末が付いた。

 軽く息を吐いてハイディ達の方へと振り返ると、ハイディが倒れ込んでいるファティマにククリを突き付けていた。


 …あっちも片が付いたか。


 俺が近づくとハイディは横目でこちらを一瞥する。

 

 「そっちも終わったみたいだね。すまない。助けに行けなかった」

 

 視線をファティマから外さないのは警戒しているからか。

 いい判断だ。この女は何をしでかすか分かったものじゃないから油断は禁物だ。

 

 「いや、ファティマを押さえてくれただけでも十分だ」

 「そう言ってくれると助かるよ」


 ファティマは悔し気にハイディを見た後、こちらを見て表情を明るくする。


 「流石です。ロートフェルト様。まさか、全滅させるとは思いませんでした」

 「……この状況で随分と余裕だな」


 配下は全て潰したし本人も押さえている。

 この盤面をどうひっくり返す?

 いや、何を狙っている…。


 ファティマに味方はいない…いや、まだ…。

 思考を断ち切るようにいきなり嫌な気配がする。

 俺はそれを認識するより早く、ハイディを抱きかかえて跳んだ。


 「え? ちょっ、何を!?」


 困惑するハイディを無視して距離を取った。

 ハイディの立っていた場所を見る。

 何が起こったのかそこだけが芝生が無くなり、代わりに砂が堆積していた。


 魔法…か?

 誰が使ったのかは分かっている。

 屋敷に隠れてた奴の事をすっかり忘れていたな。

 魔法が使えたとは初耳だぞ。


 「ズーベルか」


 自分の立っていた場所を凝視していたハイディは軽く目を見開く。

  

 「ズーベル? でも彼に魔法は…」

 

 ファティマはゆっくりと立ち上がり服に付いた砂を軽く払っていた。


 「…まさかコレを使わされる事になるとは思いませんでした」


 指を鳴らす。

 屋敷の入り口が内側から吹き飛んだ。

 中から出てきたのは…どう見てもズーベルじゃなかった。


 …いや、ズーベルかもしれない。

 

 身長は2.5mぐらいか?

 人型に墨を垂らしたような真っ黒の肌。

 表面は爬虫類を思わせるような硬質な見た目。


 背中には蝙蝠に似た羽。

 頭部は…山羊…だよな。立派な角もあるし。

 あれは…悪魔…でいいんだよな?


 どこからどう見てもフィクションでよく見る立派な悪魔だった。

 さて、何故あれをズーベルかもと思ったのは、奴の胴体だ。

 腹に一点、黒くない所がある。


 それはズーベルの顔だった。

 要するに悪魔の腹にズーベルの顔が埋まっているのだ。

 ズーベルは苦悶の表情を浮かべている。


 ズーベルは俺の存在を確認すると、縋るような目を向けてきた。


 「…オ…オタ…スケ…ヲヲヲ…」


 か細い声で呻いているのが微かに聞こえる。


 …うわぁ…。

 

 それしか感想が出てこなかった。

 隣のハイディも驚愕の表情を浮かべている。


 「……何だアレは」

 「悪魔ですよ」


 ファティマは余裕の表情でいつの間にか悪魔の横に移動していた。

 いや、見れば解るけど…。


 「悪魔って奴は、噂の域を出ない代物のはずだが?」

 「嫌ですわロートフェルト様。目の前にいるではありませんか。…とは言ってもズーベル程度の触媒では下級悪魔が限界でした。中級も呼べないなんて(カルマ)ですら劣っている…本当に使えない畜生でしたね」


 …ズーベル…自業自得とは言えお前、まだ生きてるのに過去形になってるぞ。


 同情しないがな。

 まぁ、あの様子じゃ死んだようなものか。


 どうでもいいけど悪魔っていたのか…。

 じゃあフライング・ヒューマノイドは居ないのか!? ショックだ…。

 いや、悪魔こそが正体だったのか!?


 都市伝説も正体がわかると複雑な気持ちになるな。

 俺はどうでもいい思考を打ち切って元に戻す。

 

 …にしても、触媒にカルマ?…随分と妙な知識を溜めこんでいるようだな。


 本当に次から次へと嫌になる。

 俺は気ままに冒険者やるはずだったのに気が付けば悪魔と戦う羽目になっている。

 どうしてこうなった。


 「そこの虫は仕留めなさい。ああ、ロートフェルト様は殺さないように。手足の1本ぐらいなら潰して構いません」


 ファティマは少し下がると悪魔に命令を下す。

 表情こそはそのままだが額に汗が滲んでいる。

 ハイディと戦ったのは相当しんどかったらしいな。消耗しているようだ。


 悪魔は息を大きく吸い込んで咆哮。

 音にするならメエエエと聞こえるんだが、すさまじく音程が低いので別の生き物の鳴き声に聞こえる。

 

 「…ぐっ」


 ハイディは耳を塞いで蹲っている。

 凄い音だったな。そんなにきつかったか?

 む? 音が聞こえないぞ。


 しまったな。鼓膜が破れたか。

 こっそり治しておくか。

 

 「…この…私が居るのに…」


 悪魔の後ろでファティマが耳から血を流して蹲っている。

 一番近くに居たから、もろに喰らったな。

 あー。あれは完全にダメだ。耳が使い物にならんだろう。

 

 「う…耳が痛い…」


 隣のハイディは頭を押さえながら立ち上がる。


 「無事か?」

 

 声をかけると苦い笑みを浮かべる。

 

 「何とか…といったところだね。耳が少し聞こえ辛いな」

 「やれるか?」

 「やるよ」


 じゃあ行くか。


 俺はマカナと剣を構えて正面から悪魔に突っ込む。

 マカナで悪魔の脇腹を狙ってスイング。

 悪魔は腕で受ける。当たった腕が爆散した。よしマカナは効くな。


 傷口から得体のしれない黒い液体が地面にぶちまけられる。

 腹のズーベルが悲鳴を上げて表情が更に苦悶に呻く。

 悪魔が俺に視線を向ける。


 俺は咄嗟に後ろに飛ぶ。

 悪魔の目が光ったように見えたので身の危険を感じたんだが…。

 …げ。


 マカナが半ばから砂になって崩れた。

 何て事をしやがる。これ気に入ってたのに…。

 マカナの残りを投げ捨てて剣を両手で構える。


 その間に悪魔の腕は目に見える速度で再生していった。

 俺ほどじゃないが凄い再生力だな。

 …で、こいつはどこを潰せば死ぬんだ?


 候補として思いつくのは頭か腹のズーベルだろう。

 できればズーベルは記憶を見たいから頭は残したいが…状況的に難しいか。

 いつの間にかハイディが悪魔の後ろに回りこんで膝の裏をククリで切りつけていた。


 腱を狙ったか。一応人型だし、これで体勢が崩れてくれればいいんだが…。

 崩れてくれなかった。

 悪魔は何事もなかったようにハイディに視線を向ける。

 

 「…このっ」


 ハイディは咄嗟に手を翳す。

 何が起こったのかハイディの周囲の芝生が砂になって宙に舞う。

 その隙に俺は後ろから剣を悪魔の後頭部に突きこむ。

 

 剣に固い手応えが伝わり、後頭部から入って頭を貫通する。

 やって…ないな。

 俺は突き刺したまま剣を手放して距離を取る。


 ハイディは俺の意図を察したのか、射線から飛び退く。

 爆発Ⅲを上半身に叩き込んだ。

 どうだ?


 悪魔は上半身から煙を出しながら剣の刺さった頭でゆっくりと俺の方を向く。

 そして再び咆哮。

 同時に俺の方へ飛んでくる。


 そりゃあ羽あるし飛べるよな。

 しかも速い。

 俺は風Ⅲを地面に叩き込んで視界を潰して、身を低くして前に出る。

 

 下を潜って後ろを取るつもりだ。

 砂煙や氷の欠片で視界が効かないが、大雑把な位置は分かる。

 タイミングを合わせて潜ってやろうとしたら、腹に衝撃。


 体が吹っ飛ぶのを感じる。殴られたようだ。

 空中で体勢を立て直し、着地。

 拳を喰らった腹を見る。喰らった個所が砂になっていた。


 予備脳が少しやられたか。急いで直さないと詠唱に支障が出るな。

 ハイディが駆け寄ってくるのが見える。

 俺は咄嗟に傷口に手を翳して隠す。

 

 「大丈夫!? 凄い勢いで吹き飛んでいたけど…」

 「問題ない」

 

 隠しながら傷を修復。治ったところで手を放す。

 防具は砂になったから腹だけ剥き出しという少々みっともない格好になったが、構ってられないか。

 ハイディは俺の体を見ていたが特に傷がないのを確認すると悪魔が居るであろう方に向き直る。

 まだ、砂煙が収まってないから姿が見えない。


 「たぶんだが、掴まれたら終わりだ」

 「僕もそう思う。恐らくだけど、あの妙な攻撃は魔法の類だ」

 「根拠は?」

 

 ハイディは軽く手を上げて指輪を見せる。


 「これで防げた」


 なるほど。

 

 「発動に詠唱している様子がないから自由に使えるようだね」

 「見たところ、遠距離攻撃は発動する前に目が光る」

 「後は触られないようにすればいいって事かな?」

 「だな、来るぞ」


 やや、早口で情報を共有する。

 煙が内側から吹き飛んだ。悪魔は空中で静止していた。

 ゆっくりと首を動かし、俺達を確認すると体を傾けて急降下してくる。


 俺達は左右に散って躱す。

 悪魔は頭から地面に突っ込んだ。

 数m程地面をこすって立ち上がる。


 …何だこいつ?


 「動きがおかしいな」


 少し離れた所に居るハイディが呟くのが聞こえた。

 正直、俺も気になっていた。

 この悪魔、攻撃を受けた相手を闇雲に攻撃しているだけに見える。


 実際、俺を砂にする機会は何度もあった。

 それを逃しているというのは、故意にやってるのでなければそういう仕様(・・)なのか?

 攻撃されたら反撃する?


 …いや、命令がないからか?


 もしかしたらだが、こいつは細かい命令を出さないとまともに動かないのか?

 もしそうなら、指示を出すファティマは…。


 さっきから倒れたまま動いていない。

 見たところ、生きてはいるようだが気を失っているようだ。

 そのまま寝てろ。


 これなら行けるかもしれない。

 勝ち筋が見えてきた。

 

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[良い点] 悪魔くんポケモンみたいで草
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